ドリームキャスト ファーストKiss☆物語U〜あなたがいるから〜 メーカー:ブロッコリー
流竜馬 様
 かつて次世代機合戦で真っ先に敗北した「PC-FX」から生まれたものの、内容の良さ、アニメーションを多用したムービーの数々などが話題を呼んで大ヒットとなり、PSへの移植も実現した「ファーストKiss☆物語」が、前作を作ったヒューネックスと、ブロッコリーの後押しによって4年越しの続編を迎えることになりました。
 今回はこの「U」についてのレビューを行います。
 初回限定版には、前作「ファーストKiss☆物語」のDC版がついているため、未経験者はぜひともやっておくことをお勧めします。(理由は後述)


<ストーリー>
 主人公・本郷路魁斗(ほんごうじ・かいと)は父・景清から本郷路グループの筆頭になるような執拗な教育を受けてきた。
 大学までは遊んでいてもいいが、卒業後すぐに会社を継げというのだ。
 父の有無を言わせぬやり方に反発を覚えた魁斗は、もっと世の中を知り、自分の可能性に挑戦し、自立したいという思いから、単身本郷路家から家出した。
 最新式のモバイル端末を抱えて向かった先は、5年前に数ヶ月間住んでいた思い出深い町「秋月町」(前作と同じ町です)であった。
  が、無計画かつ先立つもの―金―をろくに持ち合わせていなかった魁斗は空腹のあまり、町の公園「秋月アクアパーク」で行き倒れてしまう…。
 そこで知り合った女の子達のおかげで餓死を免れた魁斗は、「本郷路」の名を隠して「渡瀬魁斗(変更可能です。)」として、この公園で自立を目的としたテント暮らしを始める事となった。
  果たしてこれから彼に待ち受ける運命は一体!?

<キャラ紹介>
本郷路 魁斗(ほんごうじ・かいと)
 本郷路家の長男で、性格は昔の漫画やアニメの「行き当たりばったりな熱血主人公」そのものである。
 普段はバカだが、いざという時には脅威の運動能力や閃きを発揮できる。
 実は本郷路景清の実子ではなく、彼の亡き親友の息子なのだが、彼はそのことを覚えていない。

本郷路 美紗(ほんごうじ・みさ)
 明るく冗談好きで、ナイスバディな魁斗の姉だが、根は真面目。
 魁斗が実弟でないことは知っており、しかも恋愛感情まで抱いていることを認識しているため、それを秘めることには苦労している。

織田桐 姫乃(おだぎり・ひめの)
 前作の主人公達が通っていた「微風高校」の1年生で、4年前からデビューしているアイドルだが、未だにブレイクしていない。
 しかし、人気アイドルを目指して、地道に頑張る健気な少女である。

小早川 蘭(こばやかわ・らん)
 超高校級ランナーで、性格はかなり直情的な活発少女。
 練習中に、”財布を忘れてダッシュ中”の魁斗に抜かれたショックから、彼をライバル視するようになる。
 ちなみに姫乃とは同じ微風高校の先輩兼親友である。

菱村 菜々美(ひしむら・ななみ)
 おっとり、のんびりしているように見えて実はかなり芯の強い少女。
 実は、本郷路家以上の財閥「菱村家」の令嬢なのだが、魁斗同様わけありで家出しており、公園でダンボールハウスによる野宿生活をしている。

石川 夕美(いしかわ・ゆうみ)
 近くの名門女子校に通う超天才少女で、その正体は義賊「パープルキャッツ」である。
 しかし、恋愛経験および知識は皆無のため、魁斗によくからかわれている。

ミキ
 天真爛漫のようでいて、知能犯な面を持っている、おしゃまな小学生の女の子。
 不思議な力を持っており、今でもその力で悩んでいる。

アイコ
 彼女からの突然のメールがきっかけで魁斗と知り合った謎のメル友少女。

風間 剛(かざま・つよし)
 魁斗の親友。
 普段は冷めていてストイックだが、内面は主人公に劣らず熱い。
 そして、可愛いものや甘いものに目がないという意外な一面もある。

爺や(じいや)
 本名は小林藤兵衛(こばやし・とうべえ)。
 本郷路家の執事で、魁斗を実の孫のように思っている。

織倉 香奈(おりくら・かな)
 前作のメインヒロインで、今では魁斗や剛や美紗と同じ大学に通っている。
 現在彼氏持ち(前作主人公・水沢芳彦の可能性大)。

織倉 真奈美(おりくら・まなみ)
 前作にも登場した香奈の妹で、前作同様明るく無邪気である。

織倉 弥生(おりくら・やよい)
 香奈・真奈美の母親で、相変わらず「波紋使いか!?」と思うほど若くて美しい(笑)。
 ちなみに、実年齢は40歳である(汗)。

杉崎 由希子(すぎさき・ゆきこ)
 前作一番のお気に入りキャラで、明るく他人思いな蘭のスポーツコーチ。
 ちなみに彼女も彼氏持ちらしい(前作主人公の親友・橘綾乃の可能性大)。

蒼月 ひより(そうげつ・ひより)
 前作で無事に死の病を克服した美少女。
  かっての儚げな面影は今はなく、秋月総合病院でボランティアとして働いている。

森村 恭子(もりむら・きょうこ)
 かっては先輩のイジメやコーチの厳しい言葉に苦労していたものの、前作主人公・水沢芳彦の励ましによって頑張り、今やテレビや舞台で活躍するトップスターである。
 そして、織田桐姫乃のよき先輩でもあり、彼女を陰日向から励ましている。

橘 香澄(たちばな かすみ)
 前作の喫茶店「チェリーポット」店長・橘美里さんの妹で、前作の香澄シナリオ以降、姉からこの店を任されているようだ。

津上 陸(つがみ・りく)
 人気バンド「PKO」のリーダーで、男と女で態度が全然違うのが困り者。
 姫乃に気があり、熱烈アプローチ中だが結果は芳しくない。

氷川 海(ひかわ・かい)
 「PKO」メンバーで、常に穏やかで優しい「PKOの良心」である。

葦原 空(あしはら・くう)
 「PKO」メンバーで、常にケンカ腰の口調だが根は優しい。
  実は姫乃が好きである。


<内容紹介>
 今回も前作同様、「MAP移動後、そこで出会ったキャラとの会話(時にはメール)」を4月末から積み重ねて好感度を上げ、運命の分岐点となる「7月21日」に一番好きな女の子を決め、その子の個別シナリオに突入します(好感度不足だと行けません)。
  選択肢は「引っ掛け」的なものはなく、常に前向きor相手を思いやった選択さえ選んでいれば大丈夫です。
  そして、無事にハッピーエンド(ファーストキス達成)を迎えられれば、ムービーとキャラ個別ED曲によるEDが拝めます。

<各シナリオ評価>
織田桐姫乃シナリオ
 芸能界の荒波にもまれ続け、落ち込みがちな彼女を魁斗が懸命に励まし、支え、彼女がアイドルとして成功していくだけでなく、お互いの恋も多くの障害を乗り越えて見事に成就させた「個人的ベストシナリオ」です。
 特に大きかったのは「共通のトラブル(後述します)」が発生しなかったことで、これのおかげで最後まで大満足してEDを迎えられました。
 ただ…欠点ではないのですが、このシナリオで魁斗の恋敵として登場する人気歌手「津上 陸」には心底ムカつき、正直言って殺意まで覚えました。
 彼はこのシナリオでは「共通のトラブル(姫乃の場合)に対するフォロー」をしたため許せるのですが、他のシナリオではそれを一切やってないため、彼女はアイドルの夢を諦め、引退してしまうのです…。
 魁斗を「ストーカー」「お前では彼女を幸せにできない」とか、言いたい放題言っといて、自分のせいで、彼女にトラブルが発生したら何のフォローもせず、責任をとろうともしなかった。
 こいつははっきり言って「男として最低のクズ野郎」ですよ…(激怒)
 しかも、このシナリオで、他の芸能界の人達(星河マネージャー、森村さんなど)が、「いいひと度」全開だっただけに、彼の酷さが余計鼻につきました…。

小早川蘭シナリオ
 魁斗との短距離走対決や、日常でのふれあいを重ねていくにつれ、彼女に恋心が芽生える。
 それから、走ることに集中できなくなっていった彼女が、様々なすれ違いや葛藤を重ね、最終的に迷いを吹っ切り、恋でも走ることでも成功を収める爽やかなシナリオで、「共通のトラブル」によって自分のシナリオ以外ではアイドルを引退してしまう姫乃ちゃんが、彼女の姿を見て立ち直る(復帰を予感させる)というのも良かったです。

菱村菜々美シナリオ
 母が貧しかった祖父母を捨てて、金持ちの菱村家に走ったと思い、憎悪していた彼女が誤解を解いて母親と和解するシナリオ。
 彼女自身のキャラクターは良かったのですが、どうもシナリオ自体が「安直」すぎたのが残念でした…。
 元々、彼女が母親に事の真相を問いただしていれば何の問題もなかった話です(汗)。

石川夕美(義賊・パープルキャッツ)シナリオ
 軽薄なマスコミの記事で、傷心しているだけでなく、警察(&美紗)の大掛かりな作戦で最大の危機に陥った彼女を魁斗の作戦と行動で心身共に助けるシナリオです。
 コミカル&シリアス展開の絡め具合が良く、魁斗の人間的成長ぶりが最も良かっただけあって、結構お気に入りのシナリオです。

ミキシナリオ
 「己の不安定な超能力で起こる、トラブルに悩む少女」のシナリオで、ここではあえて解説(ネタバレ)はやめておきます。
なぜなら…
 このシナリオは「前作の蒼月ひよりシナリオを、やっているかいないかで評価が激変する」
 からです。もし経験者なら、前作との絡め具合の絶妙さに驚嘆しますよ…。

アイコ(本名・初音みずほ)シナリオ
 たまたま知り合ったメル友が「ネット回線を利用した電脳世界に生きる病院の寝たきり少女」だったという某アニメ的設定の少女との恋物語。
 現実世界でも電脳世界でも生きることを諦めた彼女に、魁斗の熱血節で生きる勇気を与えるシナリオです。
  シナリオは短いものの、前作キャラが 多数登場する展開はかなり見ごたえがありました。

本郷路美紗シナリオ
 2周目以降でないと突入できないシナリオで、そうするだけあって、他のシナリオではあまり触れられない魁斗の過去が全て判明します。
 そして、美紗姉ちゃんの葛藤、魁斗の頑張り、他の女の子達や剛の支えなど、全体的に手堅くまとまっており、できれば「姫乃シナリオ共々後回しにしておきたい」シナリオでした。


<最終評価>
 ストーリー、音楽、前作との見事な調和…どれも思う存分楽しめたのですが、手放しでは誉められない点がありました。
  それは…

(1)共通のトラブル。
 アドベンチャー形式のギャルゲーの場合、女の子達にトラブルが発生するのは普通は個別の展開になってからですが、何とこの作品は「共通シナリオで発生します」。

・津上陸に迫られた所のハプニング写真を撮られたことが原因でマスコミに狙われ傷心する(姫乃)。
・姫乃の「大会に集中させるための別れさせ作戦」が仇となって傷心する(蘭)。
・当主の居ぬ間に独走した菱村家執行部の連中によって、家に強引に連れ戻される(菜々美)。
・軽薄なマスコミの手の平を返したようなパープルキャッツ叩きに傷心する(夕美)。
・生命の危機に瀕する(アイコ)。
・魁斗の実父の死に、父が関わっていた事を知り、傷心する(美紗)。

 個別シナリオに入ってしまえば、基本的にその子一人のトラブル解決に専念してしまうため、他の女の子は悪く言えば「放ったらかし」状態なのです。
 トラブルは回避可能なものから、結局自分で解決してしまうものまで様々ですが、この事態があるために、各キャラとのハッピーエンドを迎えても人によっては「魁斗! 喜んでいる場合じゃないだろ! 他の子も助けろ!!」と思ってしまうでしょうね(汗)。

(2)主人公・魁斗のイマイチさ。
 設定からして、特撮「未来戦隊タイムレンジャー」の主人公「浅見竜也」を彷彿とさせる今回の主人公・魁斗は、一言で言えば「熱血バカ」で、個別シナリオでは前作の主人公「水沢芳彦」に決してひけをとらない「幾多のトラブルにめげない頑張り」や、「惚れた女への一途さ」を持っている好漢です。
 …が、序盤の彼はバカ度が強調されており、人によっては呆れ果てるかもしれません。
  それに、何より問題だったのはシナリオによっては「恋愛に入れ込み過ぎて、本来の目的であるはずの“自立”が忘却の彼方に追いやられている」ことなのです。
 おかげで、熱血節全開で結構いい出来だったアイコシナリオなどは、画龍点睛を欠くものになってしまいましたからね…
  これで最後まで一貫した姿勢を貫いてくれれば、もっと魁斗の評価は高かったのですが…(残念)

 以上の2点です。これがあるために僕的に前作よりは低い評価になってしまいましたが、それでもこれは十分「良作」といえる内容です。
 限定版なら、前作も楽しめるだけに、買う価値は十分にありますよ。

PS:
 この作品には特撮・アニメネタが結構あります
 それらを探すのもこの作品のミソですよ(核爆)。
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