GREEN〜秋風のスクリーン〜 メーカー:Jerryfish
MASTER WANDER 様
次世代型エロゲーのひとつのカタチ!?
 
1.メーカー名:Jerryfish
2.ジャンル:ADV
3.ストーリー完成度:
4.H度:
5.オススメ度:
6.攻略難度:
 
(ストーリー)
 主人公は、自主映画制作に情熱を傾ける高校2年生。
 彼の所属する映画部は、学校からの公認を受けているとはいえ、主人公を含め3人の部員しかいない超弱小クラブ。
 しかも、シネマ研究会なる映画制作同好会の台頭により、その存続も危ぶまれていた。
 部費もままならない彼らは、今度の学園祭で上映する自主映画で起死回生を狙う。
 しかし、ライバルのシネマ研究会も出展を予定しており、作品のデキによっては廃部の憂き目にあってしまう。
 崖っぷちに立たされた映画部メンバーは、部長を中心に部の存続をかけ作品の完成を目指すことになる。
 しかし撮影も順調に進んでいたかにみえた矢先、主演女優がシネマ研究会に引き抜かれるという突然のアクシデントで、これ以上撮影を続けることができなくなってしまう。
 結局、イメージ通りの映が撮れなくなった部長も監督を降板してしまい、主人公に後事を託す。
 こうして主人公は、自分の脚本・監督でゼロから映画を撮っていくことになるのであった。

 
 『GREEN〜秋風のスクリーン〜』は、PC98エロゲー最後の大作として話題となった『ラブエスカレーター』のスタッフによる作品である。
 度重なる延期で、商機を逃してしまったのではと心配してしまうが、内容のほうは待った甲斐があったといっても過言ではないほどのクオリティである。
 個人的には、次世代エロゲーの1つの方向性を示した作品として高く買っている(総評参照)。
 作品内容を簡単に説明してしまうと、PSの「やるドラ」シリーズ(PS2でも新作が発売されていますね)が、そのままエロゲーになったと思えば理解が早い。
 特に、「やるドラ」シリーズ第1弾『ダブルキャスト』は大学の映画制作サークルを舞台に繰り広げられるので、内容的にもかなり近い気がする。
 ヒロインキャラが主演女優の代役をさせられるあたりもね。
 まさに、エロゲー版「やるドラ」。
 もっと端的に言えば、インタラクティブ(死語?)エロアニメである。
 
 ゲームシステムはオーソドックスなADV。
 システム全体としてはかなり快適にプレイができるのだが、セーブについては不満が残る。
 ゲーム中に随時セーブができるかと思いきや、ゲーム中の昼休みにセーブしたつもりが、いざロードしてみるとその日の朝にまで戻ってしまうという現象がおきるのだ。
 これではセーブポイントがあらかじめ決まっていたほうが、よほどストレスが溜まらない。
 そうでなくとも画面の切り替えが遅いゲームなのだから、もう一度自分がセーブした箇所まで再プレイをしなくてはならないのは、かなりシンドイ。
 Ctrlキーで、テキストを早送りできるが…。
 
 アニメーションのクオリティについては、近年まれに見るハイクオリティと言ってよい。
 アニメ処理を売りにしたエロゲーでよく使用される、数カット無限ループ型の擬似アニメーションとは一線を画した出来であるといえる。
 セル画アニメほどの繊細な色表現(色数は256色)とはいえないが、デジタルアニメ調のキャラが、とにかく良く動くさまは圧巻。
 最近ではTVアニメでもデジタル化の波がきているので、この手のデジタルアニメに抵抗がない、または慣れている人ならば問題なく楽しめるはず。
 Hシーンはフルアニメーションで展開されるものの、通常のシーンではバストアップキャラによる静止画も併用されている。というか、こちらの方がメインでゲームは進んでいく。
 特定のイベントや映画の撮影シーンではクオリティの高いアニメーションが使用されており、これがゲームを盛り上げる上で欠かせない要素になっている。
 特に、映画撮影シーンでのアニメーション使用は演出として非常に効果的である。
 なぜなら、学園祭の上映会ではこれまでゲーム中に撮影してきたカットを編集して、1本の映画(アニメーション)として観ることできるからである。
 これはプレイヤー自身が、実際に映画を完成させた気分になれるようにとの配慮なのだろう。
 ただ上映会でのアニメーションでも、マウスをクリックしてセリフを送らなければならないのが、演出的に少し疑問。
 これでは、映画を見ているという雰囲気が台無しになってしまう。
 それと、当の映画自体もそれほど面白くないというのも残念だ。
 
 Hシーンのバリエーションはそれなりに豊富で、アングルなどもバンバン変わるので観ていて飽きない。
 感覚的にはエロアニメを観ているのと変わらない。
 どちらかというと、実写のアダルトビデオにインスパイアされた気がする。
 それもそのはず、制作スタッフがインディーズのAVを参考にHシーンの構成を考えたのだそうだ。
 しかしながら、わりと濃い内容のHシーンとは裏腹に、シナリオ上での主人公の「性」に対するスタンスはとても純情かつ淡白。
 しかも、本編では「セックスは愛し合う者同士がするものだ」などと青臭いセリフを吐く主人公が、いざHシーンとなるとAV男優に豹変するのはいただけない。
 シナリオとの整合性など、完全に無視した暴れようである。
 「アンタ、チープな自主制作映画作るより、ヒロインの水野真琴を主演女優にしたAVを撮影したほうがいいんじゃないの?」とツッコミを入れたくなるほどだ。
 そのわりには、真琴以外とHすると即ゲームオーバー(バッドエンドともいう)になるなど妙に律儀。
 この辺が、エロゲーのストーリー展開の限界なのだろうか?  
 
さてシナリオについてだが、基本的には主人公が、さまざまな困難や葛藤を乗り越えて映画制作に打ちこむというもの。
 一昔前の青臭い青春ドラマをベースに、セリフまわしを今風にアレンジしたというのが率直な感想である。
 主人公とヒロインがラブラブになるまでのストーリー展開には、やや難(特に、最初のHシーンに入る直前のシナリオが多少なし崩しな感じがする)があるものの、わりと自然に表現されているほうではないだろうか。
 伏線などもよく練りこまれているが、なにせ古臭い青春ドラマをモチーフにしているので、なんとなく先が読めてしまうのはご愛嬌。
 個人的には、映画のラストシーン撮影時のエピソードがなかなか綺麗にまとまっていて好印象。
 また、この作品は映画制作をテーマにしているので、当然映画制作の現場をリアルに表現することにかなり力を入れている。
 脚本を書き、どういったアングルでカメラを回し、どんな音楽を挿入するかなど、映画が徐々に出来あがっていく様子が非常に細かく描かれているのだ。
 この辺は、制作者の意気込みが感じられて興味深い。
 カメラのアングルや音楽挿入などの選択をプレイヤーにさせるあたりは、ストーリーを盛り上げる上でも、非常に効果的である。
 ただし、カメラアングルや音楽には特定の正解があり、最終的にはそれしか選べないが…。
 それと、声優の演技レベルが非常に高いというのもこのゲームの特徴。
 ヒロインの水野真琴が、まったくの素人から女優としての才能を開花させていく場面などはシナリオを読むだけではなんてこともないのだが、ここに声優の演技が重なると、とても活き活きしたシーンになるから不思議だ。
 最初は棒読みであった真琴の演技が、主人公の演技指導によってみるみる向上していく様子は、実力ある声優さんでないと表現できないはず。
 その意味でも、このゲームの声優の質は凡百のコンシューマーギャルゲー以上であるといえそうだ。
 それでも、演技指導前と指導後のセリフの調子が一緒に聞こえてしまう自分の音感には、少々嫌気がさしたが…。
 
 いい忘れたが、このゲームはマルチエンディングではなく、ヒロインと主人公を中心とした一本道シナリオ。
 ヒロイン以外のサブキャラ・シネマ研究会に引き抜かれた女優の藤原由紀恵と、映画部の後輩桜井茜の2人等とセックスすると、即ゲームオーバー=バッドエンドに突入してしまう。
 このゲームでゲームオーバーになるということは、映画が未完成に終わるということ。
 一本道シナリオなのでそうせざるを得ないのだろうが、この辺がシナリオの整合性に大きな影を投げかけている。
 ゲームオーバーのパターンとしては、誘惑に負けた主人公が真琴以外のサブキャラとセックスし、結果的に映画制作を断念するというもの。
 しかし、この物語の主人公は映画制作に情熱を傾ける実直な好人物として描かれているので、上記のアクシデント(?)がそのまま映画制作の情熱を失ってしまう理由になるのは唐突すぎる。
 その辺はシナリオライターも判っているようで、「ポートレート」という映画の制作期間が約1ヶ月しかないので、その期間になにかアクシデントが起こると、映画制作が中止=ゲームオーバーになるという状況をうまく作り出している。
 つまり、サブキャラとのHを選ぶと映画の撮影をすっぽかしたり、真琴との関係がギクシャクして、これ以上撮影を続けられない状況になるのだ。

 このゲームの主題はあくまで映画(最終ボス)を完成させる(倒す)こと、それ以外のエンディングが、ゲームとして成り立たないのは当然である。
 これはゲーム性とシナリオの矛盾点を、うまく融合させた好例といえそうだ。
 またバッドエンドの際に、主人公が敗北した相手(藤原由紀恵や桜井茜のことね)から「また映画を作ればいいじゃないか」というようなセリフを言われることで、今回の「ポートレート」は完成しなかったが、主人公の映画にかける情熱は失われていないことをフォローしてもいるのだ。
 とはいえ、シナリオ全体としてはもう少し「ひねり」が欲しかった気もする。
 その「ひねり」について自分なりに考えてみたので、以下に記したいと思う。
 それは主人公たちが学園祭に出展する「ポートレート」という作品内容と、ゲーム本編とのリンクをもっと深くしたほうが良かったということ。
 「ポートレート」は、自殺を考えていた少女が少年の幽霊との心の交流で、生きる希望が芽生えるという良くある話。
 この物語が本編での主人公たちの悩みと切実にリンクしていれば、もっと違う印象を持てたはずだ。
 このリンクを明確にしなかったせいで、映画も本編のストーリーも中途半端なものに感じてしまう。
 確かに、ヒロインの真琴は弁護士の父が死亡し、それ以来弟の面倒をみるようになった境遇だ。
 彼女が父の死から立ち直る際のエピソードが、主人公の映画のシナリオに間接的なアドバイスを与えてはいるが、そこまでのシナリオの盛り上がり方がいささか唐突かつ切実さがない。
 要するにこのゲーム、平和(ボケ)すぎるのである。
 主人公も真琴も映画制作をしている以外は、どこにでもいるフツーの高校生。
 ゲーム全編に流れるのは、そのフツーの高校生のあまりに淡々とした日常生活と、使い古された学園ラブコメのノリ。
 こうした生活がゲーム本編でも延々と続くので、上記の真琴のエピソードと「ポートレート」との関係がぼやけてしまうのだ。
 プレイヤーとしては、もっと刺激が欲しいと思ってしまうのである。たとえば、真琴がライバルのシネマ研究会のヤツらに襲われるとか、事故で怪我をするとか。
 そうすれば、ストーリー全体に緊迫感や切実さが出てきて、それが「ポートレート」という映画のスパイスになりえたのだ。
 せめて真琴の性格を、「本来は明るい娘だが、父の死を経験することで陰のある少女になった」ことにして、主人公との交流で次第に心を開いていくというようなストーリーにすれば、少しは雰囲気も変わったかもしれない。
 まあ、「ネーちゃんのパンツ売ってやろうか」なんていうアクの強い弟がでてくるあたりは、別の意味で雰囲気ブチ壊しなのだが…。
 要するに、映画制作の題材として「ポートレート」を選んだ位置付けがわからないのだ。
 幸せな坊ちゃん譲ちゃんが、悲劇を作って悦に浸っている感じなのだ。
 皮肉を言えば、映画をつくる過程に起こる青春ドラマがメインならば、ライバルのシネマ研究会のような映画で良かったはずだ。
 主人公たちの制作する映画と本編のストーリーが噛み合わないなら、この際映画の内容など関係ないのではないだろうか?
 シネマ研究会のSFもののほうが、CG映像とかも気合が入っていたしね。
 まあ、泣ける映画と泣ける本編シナリオで相乗効果を狙ったところなのだろうが、それがストーリーとして結実していたかは疑問が残ってしまう。
 

(総評)
 『GREEN〜秋風のスクリーン〜』の総評を一言でいうと、コンシューマー版エロゲーと言える。
 もちろん、これは移植という意味ではない。
 エロゲーがそのままコンシューマー向けのクオリティで作られたら、こんな感じかなということである。
 むろん、コンシューマーゲームでパソコンの18禁ゲームのような過激な表現が解禁になることは恐らくないが、もし現役のコンシューマーゲーム機(過去に3DOやPC-FX、セガサターンで表現的にはヌルイものの18禁ソフトが発売されていたが)で「本格的」なエロゲーが発売されるならば、これくらいのクオリティ、特にシナリオや映像表現等は保ってくるんだろうなと思う。

 18禁ゲームをコンシューマーゲームにする必要があるのかという反論があるかもしれないが、とかくPC版エロゲーは1枚絵にテキストといった安直なものが多く、システム的にも粗が目立つものが多い。
 それになんと言っても、18禁唯一の牙城である性描写にしても、なぜ18禁でだすのか判らないものが流行している始末(某Kとか)である。
 それでなくとも、定価\7,000〜8,000もするPCゲームでクソゲーをつかまされた時の腹立たしさは、コンシューマー以上だと思う。
 しかも、エロゲーにはその率が高い。

 そんな中、このようなクオリティの高いソフトが出てきてくれることは、エロゲー業界に警鐘を鳴らすとともに、次世代エロゲーの方向性を指し示す好例ともなるのではなかろうか?
 私がメイン評論のなかで『GREEN』と「やるドラ」を並べて紹介したわけは、実はここにあるのだ。
 厳密に言えば「やるドラ」と『GREEN』は、ゲーム的にそれほど似ているわけではないし、「やるドラ」自体も、それほど面白いゲームというわけではない。

 それではなぜ、ここでわざわざ「やるドラ」をあげたのかというと、ひとえにソ○ーがエロゲーを作ったら、きっとこのように豪華なゲームになるのではないかと思ったからだ。
 きっちりと、エロゲーエロゲーしたクオリティの高い作品を世に出してくれることだろう。
 某ゲームのように、ムービーだけがキレイならいいのかという指摘もあるが、時代の変遷とともに、エロゲーも進化するべきところは進化すべきである。

 まあ、エロゲーメーカーは資金がないので、その辺がネックになることは否めないが…。
 いずれにせよ、このゲームがエロゲー全体のクオリティの底上げをした点は高く評価できると思う。
 それだけ『GREEN』はエロゲーとしてシナリオ、システム、グラフィック(特にアニメーション)、どれをとっても高いレベルに達しているのだ。

 このトータルバランスの点では、このままコンシューマー機に出しても恥ずかしくないレベルである。
 名作と呼ぶには何かが欠けている気はするが、21世紀に発売されるであろうエロゲーのひな型となる、記念碑的佳作と呼ぶことはできると思う。
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