DCからPS2に移植されたKIDオリジナル「My Merry May」
自分はDC持ってないので今回が初体験なんですが。
……なんつーか、スゲェ。
えっと、コンシュマーギャルゲーなんですが、 内容は、下手なエロゲーなど裸足で逃げ出す鬱ゲーです。
<ストーリー>
全寮制の高校に通う主人公・恭介は、毎日毎日何も変わらない日々を過ごしていた。
ある日突然、海外に在住する家族から、人の形をした生命体が入った装置が送られてきた。
恭介は理想の女の子を創り出そうと、その装置を起動させる。
しかし、生まれてきたのは意のままにならない赤子同然の女の子。
見た目は同世代の美少女なのに、幼児のような言動で恭介を振り回す。
人工生命体(レプリス)。
レゥとの奇妙な共同生活はこれからどうなってしまうのか?
<システム>
DCで発売された際、最高峰とまで言われたシステムを継承してるので操作性は文句無し。
個人的には、旧システムと新システムの選択まで出来るのはスゲーなと。
さすがは痒いところに手が届くシステム。
<演出>
「まいめりーまい劇場」この言葉が一番的を得てるんじゃないかな。
画面スクロールでキャラ配置を見せる演出の多様立ち絵をアップにすることで、レゥが抱きついてくる場面を見せたりとキャラ立ち絵がこれでもかという位に動くし。
表情や、服装のバリエーションも含めると立ち絵が一キャラにつき140あるっていうし…
あとオートスキップの際に、縮小画面で落書きキャラが登場し、本編と同じ立ち絵演出を見せる本物の「まいめりーまい劇場」もあります。
<シナリオ>
恭介が生み出した人工生命体レゥ。
本来は、人の命令を忠実に実行する存在だったはずが、バグによって赤子同然で誕生し、はからずも彼女は恭介を中心とする周囲との関係の中で考え、学習し、成長していくことになります。
リースエンドの存在を考えると、これはまさに天恵だったのでしょう。
「なにか面白いこと無い」が口癖の甘ったれた高校生だった恭介は彼女を保護する義務を負ったことで、人によって成長していきます。
本作の主題は、子供から大人に変わる高校生の成長物語で、共通ルートはレゥに引っ掻き回されつつ恭介が成長していく様が描かれています。
○レゥ
リース編への派生をもつ彼女のシナリオの裏テーマは「人の作ったモノに心は宿るのか」
彼女はバクによって、赤子同然の存在として生まれ落ちますが、同時に、人の命令を忠実に実行する道具としての楔から解き放たれることにもなりました。
その代償として、通常のレプリスの持つ存在意義・レーゾンデートルを持たなければ、彼女は崩壊することになります。
彼女と結ばれないB&リースエンドでは、多分組織崩壊を起こしてるんだろうなと思います。
○リース
恭平が連れてきた、バグのない完璧なレプリス。
絶対に逆らわず、暖かく、理知的で包み込んでくれる母性を内包している。
元々は、恭介が作ろうとしていたのは彼女の方。
つまり、恭介の幼稚な願望の具現化した姿とでも言いますか。
メイド服着込んでる辺りも、最高に都合のいい存在としての暗喩なんだろうな。
リースエンドは怖いというか、気持ち悪いです。
都合のいい女に心奪われ、引きこもり、全ての現実から逃避する恭介。
思わず未読スキップ使いそうになっちゃったよ。
○榛名ひとえ
主人公の幼なじみ。
分娩室からのお付き合いで、互いに知らないことは殆どないという関係。
まぁ前半、彼女は「想い続ける幼なじみ」と思わせるんですが、彼女の想う相手は主人公の兄である恭平。
鬱シナリオじゃないんですが、恭平を想うひとえと応援しつつ、恭平に嫉妬する恭介の心理描写が丁寧で見てて気持ちよかったです。
○吾妻 もとみ
主人公の親友である亮の彼女。
この時点で、鬱確定な部分はあります。
引っ込み思案な性格と、自分から告白した弱みを負い続ける彼女は、自分で自分を追い込み、関係がギクシャクしていきます。
縁日のシーンで、早口に喋り続ける彼女の不自然さが自然で逆に怖かったです。
そして、破局。
原因は、自棄になった彼女が、ゆきずりの男と寝てしまったこと。
コンシューマーでここまでやるかなぁ……。
あと、事情を知らない主人公が「浮気したのか?」と亮を問いつめた時「あれは不可抗力だったんだ」と亮が切れるシーンはなんか良かったです。
○杵築 たえ
大学三年生で、寮母代理のおねーさん。
気さくな性格で、年齢不相応の包容力を持つ、しかし、酒癖悪し。
シナリオの流れは、彼女に母性をみた恭介が徐々に惹かれていくというまったりした内容ですが、彼女とくっつく際にレゥにきちんとフォローを入れていたのは良かったです。
○結城みさお
13才の中学生。
なんか、「最年少キャラに奇抜なシナリオを持ってくる」KID最年少の法則がほぼお約束化してますね。
常にMDの音楽を聞き、周囲の音から自らを隔絶しようとするダウナー系美少女です。
中盤まではレゥと友達になり、徐々に明るくなっていく様子を描いていきますが、レゥがレプリスだと知った時に彼女は思いっきり拒絶。
彼女の父親はレプリス研究者で、レプリスを殺してしまった罪悪感からレプリスを恐怖し拒絶しているのです。
恭介は、なんとか彼女との和解を試みますが、その課程でレゥの存在をないがしろにしてしまい、レゥはその存在意義を失ってしまいます。
このシナリオの白眉はラストです。
兄の恭平は、機能停止仕掛けたレゥを再生可能だと言ってアメリカに連れていきます。
そして、三週間後レゥの日本に帰還……
なんつーか、うげっと思わせるラストでした。
――どうでもいいが、中学生との同衾はスレスレだよな。
なんつーか、丁寧に作られたシナリオでした。
ギャルゲーのお約束を踏襲しながら、それを踏み越えた展開といいますか、キャラ一人一人がきちんと自分の意志を持って行動してる感じが好印象です。
シナリオの随所には世界観に関する謎が散りばめられています。
特に、恭平・恭介兄弟の出生の秘密なんかは最もたるものじゃないかな。
あと、特徴的というはひとえシナリオ以外は、エロを挿入しても全く違和感のないシナリオ展開も特徴的。
出来はいいです。
キャラを極端に記号化してないのに、きちんと立ってます。
あと、これはライターさんの、考え方にもよるんでしょうが、わがままを言ったり困らせたりする人間性はとても良いものだというスタンスに立ってます。
だからね、何一つわがままを言わないリースエンドの末路がああなんだろうなと。
多分企画段階で「ちょ○っツ」似の話は出たと思いますよ。
でも、ちぃに比べてレゥは、とにかく主人公を困らせる為に居るので(特に前半)、とにかく表情が豊かで、感情表現がストレートで見てて楽しいです。
つーか、幼いキャラではなく純粋に子供なんですよ。
だからこそ、レゥを保護することで主人公が成長していく。
あと、目立たない部分ですが、作中のシナリオテキストは劇の台本と同じノリ。
つまり、声が付くことを前提として書かれてます。
声によってキャラの感情の微妙なニュアンスの表現まで行ってるんです。
だから、音声テキストの非表示なんて機能を盛り込めるわけで。
なんでも、シナリオの長井さんが無理言って演技指導やって、セリフの部分部分についてのチェックを入れたようです。
ひとえ役の、木村まどかがゴットヴォイスなどと揶揄されながら、同時に、あれ以外は考えられないと言われてる理由はそれなんだろうな。
とあるシナリオではマルチ(「To Heart」)エンドの否定ともとれるエンディングが有りました。
これは、マルチがアンドロイドでレゥは人工生命体だという違いにも起因するんですが。
あと、リースは、マルチに対するセリオと同じ位置づけなんですが、作られたモノに心奪われることの怖さが描写されててよかったです。
まぁ、完全にバッド一直線なのがかわいそうではありますが(リースがね)。
自分はひとえシナリオの評価高いんですけどね、レプリスの参入度は低いです。
ですが、子供と大人の狭間にある、主人公とひとえの心理の流れが描かれているから、成長をテーマにした作品の流れからははずれていない。
PS2での続編発表が決まりました。
しかし、今度の続編のテキスト量が400字詰め5000枚って話ですが……
声の収録時間も、かつて無いほどの作業量になったらしい。
まぁ、あの容量で逐一演技指導していったら、そうなるんでしょうが。 |