元から予定されていた作品群に加え、夏からの延期組が大量に加わり業界にとって激戦区となった九月二十六日。
一部、もっと前々から引き伸ばしてた上にさらに後方へすっ飛んでった例外もありましたが…
そんな中、苦渋の末に私が一本選んだのがこれなんですけど…
これまた良くも悪くもえらいモン拾ったな〜という感じですね。
このゲーム、公式発表している内容にかなりトリックがあるので、それを組んでゲームの根幹に関するネタバレはなるべく避けていきます(それで上手く出来るかどうかはかなり難しいですが)。
それでもメーカーが発表しているストーリーは私的にどうかと思ったのでちょっと自分なりにまとめました。
<基本ストーリー>
主人公、黒須太一(くろすたいち:変更不可)が所属する群青学園の放送部は個々の面子の気持ちが離れ、崩壊の危機に面していた。
太一はその中で部員達同士の繋がりの回復を求め夏の合宿を企画するが、結果は失敗し、全員が暗澹たる気持ちの中で帰路に着く。
だが、世界はある異常事態の中にあった。
そうした世界の状況の中、彼らは普通に学校へ行き、日々を生きようとする。
また部長の宮澄見里(みやすみ みさと)はそんな中、部活と称して屋上で世界に向けてメッセージを送るための放送用アンテナを完成させる作業に没頭していた。
周囲がそして自らも異常である中、太一はその部活を手伝いながら、部員達との繋がりを求めようとするのだが…。
<システム>
セーブ数は100と多いですが、大量に余るでしょう(私は半分も使わなかった)。
既読スキップは優れていて、大体同じところだと思ったら飛ばせます。
ただ個人的には読み返し機能はもっと充実させて欲しかったところ。
ストーリーの関係上、結構前の部分を確認し直したくなるのにログが少なく、スピードも遅い。
前の選択肢に戻る機能もありますが、選択肢が少ないので、こまめにセーブした方がいいですね。
<音楽>
結構、落ち着いた音楽が多いですね。
そのせいか印象に残る物が少ない…。
ただゲームの雰囲気を損なうものはありませんし、一部、盛り上げるものもありました。
ちなみにEDは歌つきですが、これはBGMの中にある曲が元であり(それともその逆?)、歌詞もゲームの内容に添ったもので、こういうのは結構良いですね。
<グラフィック関連>
色彩は明るい感じで、キャラクターは線が細い感じの絵ですが私的には好みです。
最初はこれに引かれて購入した部分が大きいです。
それにしても背景の書き方等、全体的にこのゲームの独特な雰囲気や世界観がそれと分かる前に結構イメージとして伝えている気がします。
これはかなり印象的でした。
エロは…うーん、主人公は結構エロに関して鬼畜に近いタイプで、回数は少なく、内容は濃めですが、まあ期待出来るほどのものではないです。
それにしても、一回の流れの中でやった行為ごとに分けてシーン回想って真似…なんかセコイよ。
<シナリオ>
さて、どうしたものでしょう。
まずこのゲーム、メーカーが発表している内容に関する表向きのスタンスは学園青春ADVといったもので、私もそういう認識でした。
印象は学校の部活動のなかで、色々他人との交流を深めていって〜といった感じ。
だが、激しく違うんです。
このゲーム、まずあらゆる部分が「異常」。
正確には「異常」が潜んでいるといったところでしょうか。
主人公達が置かれている状況、主人公を初めとする登場人物の行動や性格、さらには日常会話の中で度々飛び出るかっとんだギャグセンス等に到るまで、とにかくところどころに「異常」な部分が見受けられます。
作品が扱っているものの一つが、まさしくこの「異常」なのでそれも当たり前なのですが、開始当初はこの「異常」に関する描写や場面が端的にしか出てこず、それも結構唐突に出てくるので、かなり面食らう事になります。
まさしく登場人物と同じく、異常状況の中にポツンと放り込まれたといった感じでしょうか。
もちろん、ゲームが進んでいけば事態も把握できるようにはなりますが、早めに切り替えないと結構引きずるかもしれません。
内容としてはむしろSFに近いかもしれません。
結構それ系の専門用語も出てきます。
次にこのゲームは大きく一つの物語となっています。
他のADVと同じように個別のヒロインがメインであるエピソードを色々進めたりはするのですが、それらの独立した話が密接な繋がりを持ってこのゲームの物語を構築していきます。
この辺の手法は見事。
まあ、穴も結構あったりはしましたが。
以上の事を踏まえつつ、個別にキャラ紹介しながらレビューをしていきます。
<黒須太一>
主人公。
頭の84%がエロイことに支配されていており、スキンシップがわりに女の子にセクハラをかます男。
そうして他者に対して積極的に絡もうとする一方、どこか他人に対して冷めた視点を持っていて、時折異常な反応や行動を見せる。
ちなみに美形(という設定なんだけど、何故かそう見えなかったのは私だけ?)だが、容姿に対して強いコンプレックスを抱えている。
そうした性格は全て彼の過去に起因しているのだが…
この主人公かなり、いや、もの凄くアクが強いです。
そして完全にこの話の核となっています。
その事から彼に感情移入できるかが、このゲームを楽しめるかどうかを大きく左右する事になるでしょう。
また、このゲームのヒロイン達は多くが彼との関係性という面が中心に置かれているように感じました。
紹介していきますと…(以下、人物関係について多少ネタバレ)
<宮澄見里>
放送部の部長。
かなりのんびりとした性格と口調でで、抜けているところもあるが、年長者らしく基本的にはしっかりした人である。
今は屋上でのアンテナ作りに没頭しているが…
うーん、アンテナを作ってた人という以上の印象が少ない。
彼女は入学時に自主的に一人になっていた太一を放送部に引き入れたという背景があって、太一にとっては憧れの人という感じなのですが、彼女の関係の話では単にその気持ちをぶつける以上の進展がほとんど無いんですよね。
一応、太一の友人で放送部の一員である島友貴(しまともき)がある理由から彼女を警戒しているといった事がそこに絡んでくるのですが、それもストーリーの真の大筋からは大して関係が無い事なので、どうにも彼女や友貴のキャラをしっかり立たせることにはなっていないです。
元から脇役の友貴はともかく、何というか彼女は単なる脇役として見れば充分なキャラなんですが(と言うよりこのゲームのキャラはある意味全員そうみるべきかも)、ヒロインの一人としてはこのゲームで一番割りを食った人かもしれません。
<桐原冬子(きりはら とうこ)>
お嬢様。
常に周囲と壁を作って、他人を寄せ付けないようにしているが、太一が積極的にアプローチをするとカッとなった態度で本来の高飛車な性格で対応する。
思いっきり世間と感覚ズレしている。
彼女の場合、ストーリー自体はこのゲームの中では思いっきり普通のギャルゲー風に進みますね。
そのためか別段書く事は無いのですが、ストーリー自体はギャグ的な部分も一番笑えて、結構楽しめました。
彼女も太一と過去に学園で色々あったりしていますが、これは上手く彼女との一要素として機能していた感じです。
<佐倉霧(さくら きり>
<山辺美希(やまべ みき)>
主人公の後輩の仲の良い二人組みで通称、FLOWERS.
霧は美希とは仲良く話すが、他人に対しての態度はつっけんどんで、特に太一に敵意を感じており、言動も攻撃的となっているが、
美希は明るく良くしゃべり、一見は普通の女の子なのだが…
二人まとめての紹介にしましたが、この二人のストーリーは別々のものになっています。
霧は異常に義憤が強く、さらに過去のある出来事がきっかけで太一に対して攻撃を仕掛けてきます。
そこへどう接していくのかが軸なのですが、過去の出来事が主人公の陰惨な過去に起因していることが分かったことで、あっさり折れるのが私的には?でした。
確かに秘められた事実には相当重いものがあるので、霧が主人公に心を傾ける過程には無理の無いものもあるかもしれませんが、その後の主人公の反応などが、肝心の彼自身の歪んだ部分に向けられていないので、ちょっと嫌でしたね。
一方で美希はこの話のヒロインとしては唯一主人公との過去との関連性が薄く、彼女の話でのポイントはこの世界の秘密、そして彼女の意外な強さの原因といったところですね。
話の展開は中々でしたけど、私は先が読めちゃったのが残念でした。
<支倉曜子(はぜくら ようこ)>
感情のこもらないしゃべり方をし、ほとんど常人離れした運動能力を持ち、普段は影にいて、あまり人前に姿をださない。
太一とは古くからの付き合いで、そこから彼の姉のようにして育った。
ある意味、メインヒロインかな?
ゲーム当初はその存在すらはっきりせず、かなり謎な人物のように思えますが、ゲームが進んでくると、徐々にその性格や立場は分かってきます。
個人的には結構お気に入りだったり。
最初はとにかく意味不明の存在ですが、実は結構感情豊かで、それの表への出し方が他人と違うといった感じです。
そして彼女は常に太一の理解者であろうとします。
この場合、本当に相手を理解しているのかは別ですが、常に太一に対してのみ色々な表情を見せる彼女は結構微笑ましく見えました。
彼女の場合のストーリーも、太一と彼女との過去が中心ですね。
ただ、彼女と太一は学園以前からのもっと深い部分、いわば太一の人間性のきっかけの面にまで関わってくるのですが、やっぱりオチのつけ方が納得いかない。
まあ彼女の話を進めたのは最後の方なので半ば諦めてはいましたが。
それにしてもマニュアルでの彼女の説明は何かおかしい。
(自称)姉的存在とかはともかく、(自称)婚約者ってそんな風に言う描写あったか?
それに、いちいち「自称」してるとか付けると、なんだか別のイメージを持たせる感じなんだけど…。
以上な感じのヒロイン達ですが、ちょっと、どのヒロインも太一に引っ張られすぎな感がしましたね。
基本的には、どのヒロインも性格などはきっちり描かれていますが、どうにも太一を受け入れる為に存在しているキャラ達という感が強くなって、個々の動きの魅力には一つ欠けているように感じました。
その他のキャラとしては、放送部の一員で主人公の友人の一人で、金持ちながら結構破天荒で陽気な性格の<桜庭浩(さくらば ひろし)>、時折、話に現れては主人公と明るく会話し、彼を引っ張っていこうとする謎の少女<七香>、主人公の隣人で彼と親しく話す<堂島遊紗(どうじま ゆさ)>などがいます。
この中では、桜庭が結構いい味出してますね。
ちなみに彼とのストーリーっぽいものも少しあります(え?)。
七香は重要な役割も担ってますが、ストーリーの鍵という存在というよりは、やっぱり単なる牽引役という感じ。
遊紗は、はっきり脇役と捕らえた方がいいですね。
EDとかにもうちょっと出番が欲しかった感じですが。
ちなみに七香も遊紗もしっかり規定に触れますよ〜。
遊紗は中等部一年とはっきり出ますからね〜。
期待せぬよう(爆)。
<総評>
非常にレベルの高い作品だった、とは思います。
物語の構成力、独特のセリフ回しや作品描写の仕方、作品の中に隠された事実によって意表を突く力などは際立ってはいました。
ただ話の性質は、全体的にかなり負のベクトルに強くいっていて、陰惨な描写も結構あります。
そこからそれを一気にプラスに持って行くというものではなく、中庸に引き戻して何かを感じさせるといったところでしょうか。
ゆえに鬱ゲーというわけではないのですが、爽快感のようなものは得られませんね。
私的にEDはやっぱりこれではこういう終わらせ方しかないのね〜、といった思いでした。
一方で、このゲームは非常にテーマ性が強いです。
端的にこのゲームのテーマを述べるなら「他人のいる世界」で「生きていく事」でしょうか。
このゲームの登場人物達にはそれが上手くできないもの達が多く、主人公太一はその筆頭として描かれています。
そして太一はこのゲームの中でそのことに対して様々な主張をしていくのですが…。
そうしたものが、プレイしているその人の心の琴線に触れるか?
これが、このゲームをどう判断するかの分かれ目でしょう。
私はちょっと「うーん…」となってしまいました。
まあそれは個人の信条の問題となってきますが、一つだけ言うならこの作品はかなり一方的な面が強いのではないか?という事です。
ストーリーが太一の人間性やそれに関連する過去の面で引っ張られるあまり、全てが彼の中で自己完結してしまっている感が強かったんですね。
それゆえ、テーマに対してもうちょっと多角的に取り組むことが出来ておらず、そのことが鼻についてしまったかなあと思います。
また、この世界の謎に対する部分も、プレーヤーの推測や補完に依存しすぎてる点が多かったのでやっぱり減点。
もうちょっと、ちゃんと説明すべきところがはっきりしてないので、深く考えたりするとその辺が気になってしまいます。
そういったところが何とかなっていれば、私的には超傑作になり得たかもしれないのに、とちょっと残念に思いますね。
ただ調べてみるとこのゲーム、絶賛の嵐なんですよねー。
よって、贅沢すぎる注文なのかなーとも思いました。
最後に余談ですが、このゲームを終えた時、何故か「真・仮面ライダー」のED曲が浮かんできました。
何となく、あの歌の内容とこのゲームのイメージが重なってしまって。
もちろんこのゲームと真ライダーの内容とは全然違うんですけど。
一応、付記しておきます。
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