僕と、僕らの夏 完全版 メーカー:light
ファイン 様
<基本ストーリー>
 ダムの底へと沈む、ある集落。
 古積 恭生(こせき たかお 変更可、ただし変更前なら声付きで呼ばれる)は幼い頃、何度も都会から遊びに来たこの場所を三年ぶりに訪れた。
 一方、この集落に住む市村 貴理(いちむら きり)はその恭生の訪れを心待ちにしていた。
 再会する懐かしい顔と新しい顔、そんな中で恭生は子供の頃に貴理と一緒に何かを埋めた事を思い出す。
 恭生と、貴理と、そして彼らと関わる者たちとの、この集落での最後の夏が始まる。


<内容紹介>
 このゲームはCD-ROMからDVDに移しての再発売モノですが、完全版を称するとおり、単なる焼き直しではありません。
 元のCD-ROM版を再現したPC版、ドリームキャストに移植されたものを再現したDC版、さらにその二つのシナリオの良い部分を統合し、追加シナリオを入れた、SPECIAL MERGE版(以下SM版、って、なんかやらしい…)の三つのモードが収録されています。

 なお、このメーカー独特のシナリオを自分で作れるおまけモードからCD版でプレーヤーが作ったシナリオを搭載した「アナザーストーリーモード」なんてのもありますが本編に関係ないのでここでは割愛します。


<システム>
 基本的なものは一通りそろってますね。
 私はCD版の方も少しプレイしましたが、これはボリュームの割には既読スキップなし、セーブ数はわずか十個と悪夢のようなものでした。
 なお、上に挙げた三つのモードは基本的にシステムは共通しています。
 さすがにこのシステムまで忠実に再現するわけにはいかなかったんでしょう。
 ただ、残念なのは既読スキップが既読文章そのものではなくルート変更によって判別している事。
 細かい部分がかなり違っているので、しょうがないかもしれませんが、このせいで結構同じ文章を読まされます。


<サウンド関連>
 これは良いです。
 たまに耳に障った時もありましたが、ゲームの雰囲気にあっていてなかなか心に残りました。
 多分、音楽それだけではあんまり心に残らなかったかもしれません。
 さらに良かったのが歌。
 EDに一曲だけですが、非常に作品の世界観にあっています。
 一箇所だけフルバージョンで流れるEDのところでは結構グッときました
 なお、DC版にはOP曲もありますが、その…曲そのものは結構良いんですけど、一緒に流れているアニメーションムービーが最悪の出来で…おかけで印象があまり良くない。
 そういえばED曲も、一緒に流れる背景はどのEDでも同じなのに、何故か未読もスキップできるようにしてCTRLキーを押しっぱなしにしてないと飛ばせないので、何十回も聞く羽目になりました、トホホ。
 
<CG、グラフィック関連>
 三つもバージョンがあるだけあって、キャラ数に比べれば枚数はかなりありますね。
 絵柄は私は好みですが、そうでない人もいるかな?
 ただ、作品の雰囲気には合わせており、祭りの浴衣でのCG等は結構幻想的です。
 エロは…DCに移植されてるところから察してください(苦笑)。
 まあ、各キャラ一つ二つってとこですが、DC版とのCGの違いを楽しむのも結構いいですね。
 個人的にはパンチラを上手く隠しているようにしてる別々のCGがツボでした。


<シナリオ>
 このゲームはちょっと変わったスタンスを取ってます。
 ゲームの進行にあわせて途中から別のルートが加わり、そこでは別のキャラクターの視点からストーリーを追っていく事になるというもの。
 それによって、キャラクターの心情や個性が顕著に現れているのがこの作品の特徴です。
よってシナリオは、それに合わせて各キャラクターと一緒に紹介していきます(以下、ゲーム内容に関するネタバレあり)。

○古積 恭生
 一応の主人公。
 性格は優しくて普通だが、かなり鈍感なところがあり、貴理の気持ちも、また貴理にたいする自分の気持ちも村にきた当初ははっきり気づいていない。

○市村 貴理
 集落に住む女の子。
 父親がダム建設のために村を訪れた人間であることから、集落にきた当時は友達がいなかったが、都会からきた恭生と仲良くなったことで救われ、恭生にとっても最も仲の良い友達であった。
 恭生よりは自分の気持ちに気づいている。
 
 ゲーム開始当初始まる正ルート(SM版タイトルはin the height of summer)はこの二人の視点が交互に入れ替わる形で物語は進みます。
 一応、体裁こそ恭生が主人公で名前変更もできますが、選択肢には貴理の行動を左右するものも多いため、実質上この物語の主人公は恭生と貴理です。

 最初に作られたPC版の正ルートでは選択肢によって主に三つにストーリーが分岐しますが、この二人はお互いを気にしているのがゲーム開始当初からほとんど明らかだし、物語も二人の思いを中心にして進むので、この二人が様々な葛藤を乗り越えてくっつくというストーリーが一番しっくりします。

 ただ、その際の結ばれた二人のラブラブバカップルぶりたるや凄まじく、「お前らそのままダムの底に沈んどけ!!」と思うほど。
 エロシーンのないDC版でも全然変わらないのだから凄い。

 一方で別の分岐は別のヒロインの名前で分岐させられてるようですが、私的には恭生失恋ルート、貴理失恋ルートと分けたほうがしっくりします。
 というのも、どちらのルートも片方の気持ちが別の所へ動き、最後は振られた方の視点で幕が閉じるので、本来好きあってたはずのものが離れていくことになる辛さが良く現れているわけです。
 決してラブラブルートに内容的には劣りませんが、エピローグ的な話にも採用されていることからやはりラブラブがベストエンドといえます。

○小川 冬子(おがわ とうこ)
 小さい頃女ながら、ガキ大将として名を馳せ、恭生や貴理たちとも良く遊んでいた。
 しかし家庭に複雑な事情を抱えており、本人は集落に対して複雑な心境のまま去り、そして戻ってきた。
 ひょんな事から恭生と再会した彼女はすっかり大人の女性に見えるようになっていたが…。
 正ルート全分岐終了後に現れる裏ルート(SM版タイトルはblue marbles)の主人公。
 彼女の場合、ラブラブルートと恭生失恋ルートとを見ていくことになります。

 彼女のルートで正ルートで残った謎、しっくりしなかった部分、正ルートプレイ中にいれたツッコミ(笑)などが補完されます。
 正ルートでは、一見かき乱しそうなキャラに見えて優しいお姉さんのようだった彼女が本当はどういう思いでいたのかが良くわかり、彼女の視点を加える事で本編の内容も深まります。

○倉林 有夏(くらばやし ありか)
 貴理の後輩。
 両親が離婚しており、母親が経済的な理由からダムに賛成したために集落でイジメを受け、その際に彼女を庇ってくれた貴理の事をしたっており、単なる先輩以上の感情を秘めている。
 そのため貴理が好意を寄せている恭生を快く思っていなかったが、実際であった後は複雑な思いが芽生えていく。
 性格は子供っぽいところがある反面、考え方や行動は大人びており、結構積極的な側面も持っている。
 そのため正ルートでは、客観的には自覚症状なしで迫る恐怖の横恋慕女と化しており、ラブラブルート以外では恭生か貴理が彼女の毒牙にかけられてしまいます。

 なおDC版以降では貴理失恋ルートの最中で、また二人の気持ちが元に戻り、有夏が取り残される、というルートが加わります(私はこれを有夏失恋ルートと名づけました)。
 PC版ではあまり納得のいかなかった、バッドエンドルートに進んだものを上手く利用したものでこれは良い追加でした。

○原 英輝
 集落に昔から住んでいて、恭生や貴理とも昔馴染みという、いわゆる良き友人タイプ。
 有夏に好意を寄せているが、過去彼女をいじめた事のある負い目からそれを言い出せないでいる。
 この二人はPC版とDC版では脇役で、最後にでてくるエピローグ部分で出番が大きくあるだけでしたが、SM版で加わったa side roleでは彼らの視点で物語(ラブラブルート、貴理失恋、有夏失恋ルート)を見ることが出来ます。
 こうした追加は視点を重視するこのゲームならではで、非常に好感がもてたんですが、これには多大な問題が…。
 詳しくは総評にて。

○和多田 恵
 集落に住む小さな女の子。
 有夏の弟、和典と仲良しである。
  パッケージにも姿がありますが、残念なから(笑)攻略は不可能でメインキャラではありません。
 一応DC版では彼女のストーリーが少しありますがやはり余計だったのか、SM版ではカットされてました。

 なお、ここでは書ききれませんでしたが、この子供達のほかにも主人公が泊まりこむ家の昔からの知り合いのおじいさんや冬子が泊まる旅館のおばさんなど、魅力的な脇役も多く、また彼らの全てに声が入っているのも大きなポイントですね。


<総評>
 非常に基本のしっかりしたソフトです。
 各キャラクターからの視点で物語が覗けるというスタンスを取りつつ、それぞれキャラクターの心情描写や背景書きなどもしっかりとしているため、感情移入もしやすいです。
 いわば青春群像劇というのがこの物語の基本と思われますが、しっかりそれを書ききったといえましょう。
 
 ただ、問題がないわけではありません。
 まず正ルート、裏ルートともに分岐が発生する際の動機付けが不鮮明です。
 展開の変化の仕方が一部をのぞいて選択肢と無関係な部分が多く、それぞれに好感度フラグが設定されているようですが、良くわからないものも多く、さらにバッドエンドへの派生も多いので、難易度は意外と高いです。
 
 またSM版で追加された部分に問題があります。
 正ルート(in the height of summer)制覇後に追加部分であるa side roleが出現し、そこでは三つのルートがあるのですが、なんとこれの分岐条件は劇中にはなく、その前に正ルートでどのEDを向かえていたかで変わるというもの(何故か前に見たEDルートとこのルートが一致してないものもあります)。
 し・か・も、一回これを見た後で、また最初からやるとまた別な裏ルート(blue marbles)の方がいきなり始まるため、そのことにますます気づきにくいです。
 更に、そのことにちゃんと気づいて全ルート制覇した後、ようやく見れるエピローグ部分にもPC版からもう一ルートが追加されてますが、何故かそれはエピローグを一度見た後で、さらにもう一回それを見た後にまたエピローグを選択(一度それぞれのルートを見ると最初に選択できるようになります)しないと出てきません
 にゃんじゃ、そりゃ。

 a side roleのシナリオ本体にも問題があって、一番大きいのが「物語の重要な部分が何の理由もなく変化している」点です。
 有夏が貴理に告げるある話の内容が、片方では「弟が目撃した」ことになっているのに、もう片方では何故か「とっさについた嘘」ということになってます。
 じゃあ片方では弟は何してたのよ?
 こうした部分が最初からあった設定かどうかは解りませんが、何故か裏ルートの方ではあった主人公の声が入ってない(声優の都合か?)など、一部に作りこみの甘い部分があり、ちょっとやっつけ仕事という印象が…
 
 それから、これは贅沢な不満ですが、全てのルートで別々の視点から見れないことですね。
 さすがにキツイでしょうが、やっぱりこれだけやると他のルートでも他のキャラが何やってたのか気になる。

 とはいえ、その他の部分はしっかりと作りこんでおり、充分良作といえる出来です。
 確かにストーリーに目新しい部分はなく、ラブラブルートのオチなどはこのソフトの文句を見ただけで三秒で予測できたりするなどあっさり目な部分もありますが、それまでの過程が良く書き込まれているので気になりません。
 各キャラクターも際立った特徴があるわけではないのに、実に魅力的に書けています。
 結構やり込む体力も要りますが、この作品の雰囲気をみて引かれたという人なら買って損は無いでしょう。

 余談ですが、九拾八式工房内でこのメーカーの他の作品のレビュー見ると、見事に地雷評価ばっか!!(苦笑)。
 よって、このメーカーだからと敬遠している人がいたらやってみる事を勧めます。
 多分、一線を画していますから。

 最後に一つ。
 仮にも受験生を名乗る連中が酒のがぶ飲みは良くないよ
戻りマース