Sultan メーカー:Light
アーク 様
<ストーリー>
 昔々、砂漠の中に世界最強と謳われるルキアという王国がありました。
 そして、王都の郊外の町に仲の良い兄弟が暮らしていました。
 兄はレクス、弟はロッタといい、1年前両親を火事でなくしたものの、幼馴染のセラクルカの家に居候させてもらい平凡で幸せな日々を過ごしていました。
 そんなある日レクスとロッタのもとに宰相閣下がやってきてこう告げます「殿下お迎えに上がりました」
 訳も分からず宮殿に連れて行かれた2人は、国王から2人の母が自分の娘であった事を教えられ、レクスは政略結婚までさせられます。
 相手は美しく気立ても良い娘なので、レクスもまんざらでもなさそうです。
 しかし、心の中では故郷においてきたセラクルカの事が気になってしかたがありませんでした。
 そうレクスとセラクルカは恋人同士だったのです。


 本作は、Choirでおなじみのくすくすさんが原画の宮廷を舞台としたADV。
 中盤まではキャラ達のほのぼのとした日常が描かれ、それ以降は隣国との緊迫した情勢や各ヒロインのシナリオに入るという、ファンタジー系のものとしてはオーソドックスな作りになっています。
 さて、タイトルが示すように、本作はイスラム圏が舞台となっています。
 ファンタジーというと大抵ヨーロッパがモデルなので新鮮ですね。
 時代背景からいって舞台のルキア王国はオスマントルコ、隣国のファーブルク帝国はオーストリア=ハプスブルク帝国、同盟国のティル=ハン国はヒヴァ=ハンがモデルとみていいでしょう。
 ただ、後述しますが、イスラム圏が舞台であることで物語そのものが崩壊する危険な要素も含んでいる事も事実です。

 ところで本作のOP、非常に素晴らしいです。
 個人的にナンバーワンの「月陽炎」や「それは舞い散る桜のように」のOPよりは1歩譲るものの、世界観が良く表現されているので必見です。


<システム関連>
 既読スキップ、CG、シーン、音楽鑑賞等中々親切な作りになっています。ただ演出に凝り過ぎたあまりやたらウエイトが掛かったり、場面の移り変わりでスキップが解除されたりと苛々するところもありました。


<シナリオ>
 ヒロインは一応四人いる訳ですが、大まかに分けてみると奥さんであるシーリーン、幼馴染で恋人のセラクルカ、第三の選択肢であるピアナとフェレースというふうになります。
 さて、この状況をみて自分は名作「君が望む永遠」を思い出しました。
 あの話では事故による3年という月日が主人公に昔か今の恋人、どちらを選ぶかの選択肢を迫るのですが、本作では「権力」というものが主人公に選択を迫ります。
 ただ本作、ほのぼのとした世界観が仇になりこういったどろどろした設定を活かしきれてないとも感じました。

シーリーン
 政略結婚によってレクスの妻となった大臣の娘であり、美人で気立ても良いが、家事の腕が壊滅的という、ある意味お約束的なヒロイン。
 プレイしてみて一番出来の良いシナリオでした。
 中盤まではセラクルカの事で頭を悩ませるレクスですが、佳境に入ってからはシーリーン一筋になってますし、彼女への気持ちをはっきりさせたうえで改めて結婚を申し込む所等は、演出的にも抜群の出来でした。
 ただ、王宮までレクスを追いかけてきたセラクルカとの結末が、はっきり描かれていないのが欠点ですね。
 仮にも恋人同士だったのだから、何らかの挿話を入れないとしれ切れトンボのような印象が出てくるんですよ。
 この辺が作品全体を通して詰めが甘いと言わざるを得ない所です。

セラクルカ 
 王宮に料理番としてレクスを追いかけてくる幼馴染。
 彼女のシナリオはある意味攻略泣かせで、彼女が王宮に来るまではシーリ―ンの好感度を上げ一度Hして、その後セラクルカの好感度を上げるという、ある意味男として最低な事をしなければいけません。
 このため、自分は5回もやり直したあげくネットで調べるはめに。
 何もそんな攻略ルートにしなくても、最初からシーリーンルートのようにセラクルカ一筋でEDに到達できるようにすればよかったのにと感じました。
 だって2人は相思相愛で結婚の約束までしてるんですよ?
 このシナリオは前半シーリーン、後半セラクルカと、レクスの心がふらふら揺れるので、こっちは非常に不快でした。
 特に、シーリーンが泣きながら、セラクルカの所に行って欲しいと言う場面では、彼女が可哀想でなりませんでした。

ピアナ
 同盟国ティル=ハンから人質として来た王女で、弟ロッタの婚約者でレクスをお兄ちゃんと慕う。
 シーリーン、セラクルカのいずれも選べなかった、いわゆる「逃げた」シナリオで、もう主人公の情けない事この上ないです。
 シーリーンシナリオと比べてみると、あっちは「劇場版のび太」こっちは「通常版のび太」程の違いがあります。
 なし崩し的にエッチシーンに突入し、それで上手く行かなくなると彼女にやつあたりし、ピアナもピアナで外見どおりのお子様ランチな性格なため、正直この2人は恋愛をしているのか疑問に思えてくるほどです。
 結果として、2人は国を捨てて駆け落ちするわけですが、その前日の北方総督任命の緻密な描写も、ただレクスがいかに大きな責任をすっぽかしてきただけが印象に残りマイナスです。

フェレース
 レクスの師匠でもある宰相ファーブラに飼われている猫耳少女で、ファーブラを一途に慕っている。
 「逃げた」シナリオその2。
 ファーブラしか心を開かない彼女が、どうしてレクスに惹かれていったのかという展開が薄く感じられました。
 しかし、ラストの、レクスの両親を殺したことを告白し、罰を求めてレクスに拳銃で自分を撃たせるシーンは秀逸でした。
 その後の展開も、安直な転生シナリオでなかったのもプラスでした。

ロッタ
 レクスの弟でなんと彼にもシナリオが!!
 正直ショタ系の人でないと結構つらいです。
 幸いHシーンはありませんが、ラストの「僕ね兄上のお嫁さんになりたかったんだ」にはまいりました(おまけにCG入りと来たもんだ)。

ハーレムルート
 上の5人をクリアすると開かれるルートで、サブヒロイン達を妾にしてあんなことやこんなことをといった展開です。
 大抵、こういうシナリオは蛇足的なものなのですが、イスラム圏で王族という事もあり、これが一番らしいといえばらしいシナリオです。
 ただEDのセラクルカの顔が怖いですが(笑)。


<総評>
 佳作以上秀作未満というのが正直な感想ですね。
 それとこの舞台、なんと重婚が認められてるんですね。
 国王のオルハン2世も、以前は4人妻を持っており、しかも周囲がそれを当たり前のことと受け止めている。
 確かに、イスラム圏では認められているものの、恋愛をテーマに、しかもどちらの女性を選ぶかという、どろどろしたものが主題の本作では、はっきりいって邪魔な設定というしかないです。
 それこそ、シーリーンかセラクルカのどちらかなんて迷わず、2人とも妻にすれば良いという身も蓋もない話になるだけですからね。
 もうちょい時代考証の取捨選択をきちんとしてくれればと感じた作品でした。
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