雪蛍
 子供から大人へ…

1.メーカー名:TEA TIME
2.ジャンル:アドベンチャー
3.ストーリー完成度:C
4.H度:A
5.攻略難易度:C
6.オススメ度:C
7.その他:育成シミュレーション「めいでん☆ブリーダー」から一転、TEA TIMEが今度は恋愛アドベンチャーを出しました。
 はたしてその出来はいかに…。


(ストーリー)
 医者という家のレールを嫌い、親元を離れて数年。
 それでも、医者となった私・司馬礼二(主人公・名前変更不可)は、患者であり、恋人である命(みこと)を連れ、休暇と療養を兼ねて、再び小さな町の実家に戻って来た。
 まだ汽車の動く片田舎…両親はすでにこの地を離れ、診療所には誰もいないはずだった。
 ところが、そこは幼馴染の萌美(めぐみ)が取り仕切り細々と続いていた。
 彼女の妹のつばさや、休暇中の家事を任せる家政婦のエリカもやってきて、にわかに活気付く家。
 思い出とどたばたで数日が過ぎ、気がつけば町のお祭りが近づいていた。

 その夜、つばさが肝試しに行こうと言い出す。
 そういえば、祭りの頃、この辺りでは蛍が飛んでいたっけか。
 一人で行くのは怖いから、みんなを連れて行きたいのだろう。
 墓場のさらに奥には泉があり、その中を舞う蛍と命。

 しかし、楽しいだけの時間は終わりを告げる…


 3DCGで描かれたキャラが特徴的な、アドベンチャーゲーム。
 システム的には特別なこともなく、セリフの途中に出てくる選択肢を選ぶことによって、攻略できるキャラが変わる。
 どこでもセーブや既読スキップ、おまけも充実しているため、物足りなさは感じないだろう。

 しかし唯一つ、キーボードをまったく受け付けないという、とんでもない問題を抱えている。
 バグではなく、後述するHシーンを堪能するためのものと考えられるが、それ以外に使えなくする理由が見当たらないので、どうにも違和感がある。
 なぜ、用途別に分けなかったか疑問だ…

 CGは、前作「めいでんブリーダー」以上にクオリティーが高くなっている。
 キャラのパターンが増え、シーンによっては口パクもついた。
 前作の、キャラの頭に汗がつくようなアニメ的表現をつけているところもあり、スタッフの遊び心と、経験の積み重ねが見える。

 面白いのはムービーの使い方で、エッチシーンではないところに多用されている。
 どれも一分間も無いが、例えば、降車シーンで命がまともに降りるのに対し、エリカはコケる、といった感じで掛け合わせたりと、各キャラの特徴を表すために使われている。
 特に、萌美の二つ目のムービーは出来がよく、シナリオと併せてより効果的な演出となった。

 そしてこのゲーム最大のウリは、Hシーン。

 ムービーではなく、CGを眺めているだけでもないクリックタッチ式を発展させたそれは、紛れも無く斬新。
 驚くべきことに、ポリゴンのキャラをそのままプレイヤーが動かせるようにしてしまった。
 もっとも、動かすポイントは特定の場所に限られるし、できることも決まっている。
 しかし、あらゆる角度から見ながら行うことはできるし、動きも妙に生々しい。

 とにかく、好きな視点にしてマウスでぐりぐり。
 マウスを動かすスピードで、キャラの動きも変わるため、その感覚が面白い。
 また幼いつばさなどは、さりげなくアバラの浮き具合まで表現したテクスチャの細かさもあり、声とあいまって妙な興奮を覚えてしまう。
 特に、ヒロインの命は、普段着だけでなく、制服・スクール水着・体操着・ゆかた(付属するパーツあり)・パジャマと、あらゆるパターンで魅せてくれる。
 このポリゴンだけでなく、一枚絵のHCGも豊富に用意されているため、それだけでも十分満足できる。

 ただ、問題は多い。
 パソコンの動作環境が、最低ラインをCPUで500Mhz以上というハードルの高さを生み出してしまった。
 しかも、そのぎりぎりの環境下ではカーソルの反応が遅く、クリックタッチ式の時間と手間が、そのまま当てはまってしまう。
 それにムービーのようなクオリティは望めないし、ポリゴン数も少ないから、命のパジャマHの時は特に首から下が別物に見えてしまう。
 また入力待ちの間はその格好をキープしたまま何もいわないので、気持ちマグロに見えないでもない。
 荒い画像だから、敬遠する人もいるだろう。
 これはハードによる問題なだけに、多少早すぎた方式なのかもしれない。

 堪能できるCGの多さに対し、命、萌美、つばさの三人攻略のみというシナリオの少なさが、プレイの手軽さを表している。
 更に、それぞれのシナリオはかなりすっきりしているため、プレイヤーにキャラの感情が伝わりやすくなっている。


・命
 礼二が主治医の患者で、退院間際に付き合うようになる。
 最初から恋人と言い切っているため、厳密には攻略ではない。
 もともと、礼二の実家に来た目的が、退院後の療養のため、「一夏の経験」のような勢いに任せたものとならず、改めてお互いの気持ちを確認することが目的の話。

 そのため彼女と付き合う前の話や、萌美のからみ、命とつばさが友達となって遊ぶことなど、礼二と彼女周辺の話に終始してしまい、彼女自身は礼二が望むときにHの相手をするための相手にしかなっていない。
 しかし、礼二のために料理を作るところや、雨宿りの時に「ずっと一緒に」と、懇願するところなどに彼女のひたむきさが伺える。

 彼女のシナリオは、少女から大人の恋への変化。
 病院の憧れの先生と付き合うようになり、彼の過去を知る人たちと出会うことで、誰にも渡したくない欲を持つようになる。
 「蛍雪」というタイトルは、蛍のように儚く、雪のように淡い、ともすれば崩壊しかねない命の、その純粋さに掛け合わされたものだ。

 ハッピーエンドと、ノーマルエンドに向かうためのイベントが違うため、それを一緒に併せたほうがより深みを増したのでは? と思えてしまうのが残念。


・萌美(めぐみ)
 礼二の幼馴染で、当時両想いだったひと。
 長い間連絡を取らなかった彼が、ふらっと戻ってきたと思えば彼女が一緒。
 一応、事前の連絡が入っていたといっても心中穏やかではない。
 そのため、命にさりげない意地悪をしたり、彼女のいないところで礼二に本音を漏らしそうになる。
 後半、その想いが嫉妬となって命を苦しめたことに負い目を感じるが、それでも「あなたと居たいの」と譲ることは無かった。

 礼二にとって唯の幼馴染ではなく、そのため二人の過去を振り返るシーンが多い。
 高校時代のどたばたや、勢いに任せてセックスをしてしまうこと、礼二が親父と口論になって上京を決めることなど、そのすべてがプレイヤーを、イコール礼二とさせていく。

 そして、思い出の中に入る、萌美のムービーが彼女の思いの強さをよりいっそう引き立たせる。
 前半の、ちょっと冷たい態度が実は嫉妬半分嬉しさ半分で、そこにもまた何年も礼二を待っていたひたむきさがあった。
 礼二の強さと、実は強いようで弱かった萌美の心。
 医者である親父が嫌いで飛び出したのに、戻ってきてみれば医者になっている礼二の現状。
 そんな、昔と今の葛藤がよくかかれている大人の同士の話で、そのラストは恐らく意図的に、命に対して後味の悪いものとなっている。

 また、このシナリオで大人になりきれなかった命は、礼二との関係が崩れたことに錯乱し、思いあまってリストカットまでしてしまう。
 こちらの方が、命自身のシナリオよりも、より彼女の繊細さが強く表現されている。

 このゲームの中では、礼二の過去、命の繊細さ、大人と子供の恋愛観が感じられる、一番いいシナリオ。


・つばさ
 萌美の年の離れた妹。
 幼稚園の頃から礼二が好きだったが、帰ってきた彼を見たら、隣に女の子が居た。
 それでも、命と友達になってしまうところに、彼女の幼さを感じさせる。
 嫉妬という感覚は、スカートめくりや髪の毛を引っ張るという、男の子張りの態度に変化し、まさにやんちゃな子供。

 しかし、蛍狩りの時に子供っぽいつばさを気にかける礼二に嫉妬した命が、彼女の前で強引に礼二に迫ったのを見てその感情をあらわにし、感受性対感受性という構図ができあがる。

 思いは、礼二が町を出ることすら教えてもらえなかったことと、知らない間に萌美では無く別の人選んだことの二重の置いてきぼりを食ったつばさの方が強かった。
 その結果、翌日の彼女の曰く「いたずら」は、命の生命にかかわる、町を上げての大騒動を引き起こし、そこに子供の恐ろしさを垣間見せる。
 それに気おされたのか、エンディングで命は疎遠になっていき、「これから礼二の一番になる」と言うつばさの言葉で締めくくられる。
 礼二の恋愛対象を明確にせず、「これから」を連想させるための話。

 彼女のノートに走り書きされた、「自らの名前のように自由な翼を持ちたい」という自作の詩が、終始騒がしい彼女と対照的で感情へのメリハリをつけている。


 彼女達の性格とシナリオは、それぞれに現在(命)、過去(萌美)、未来(つばさ)を現している。
 その階層の差が、片田舎という閉じた世界で、主人公を含め6人しかいないキャラをかぶらせることなく、かつ独立しないきれいな構図を組み上げている。
 狭い範囲の話だけに、相互に影響しあって、個々の事情も把握しやすい。

 ただ、思い出と現在が入り混じるから時間の流れが把握しづらい部分があるし、現在進行形で変化に乏しい命と感情の起伏が激しいつばさが微妙に足を引っ張っている感じはする。

 しかし、それを差し引いても、バランスのいい出来ではないだろうか。
 シナリオをまとめた上で、3DCGとポリゴンを導入したらアドベンチャーはこうなるでしょう、そんな感じのこもった手習いという印象のゲームだ。


(総評)
 今回の評論は、良い点悪い点を連続して書いてみた。

 「めいでん」に引き続き、漫画タッチの3DCG作品。
 背景の写実性に反しているため、相変わらず、人形劇的な見た目をしているが、それでも、音声、ムービーシーン、Hムービー、CG枚数など1.2ギガを十分に使っているゲームだと思う。  なんといってもポリゴンHがすばらしい。
 マシンパワーが上がれば、というより、推奨環境の下限を見ないで作ればもっとリアルなものが出来上がるだろう事が残念。

 あらゆる角度から見る…見られる。

 かつて、「闘神伝」で「カメラワーク自由自在」の裏技が発表された時、エリスやソフィアを眺めた記憶はないだろうか?
 その時でも十分にムフフだったのが、今度はHシーンそのもので堪能できるのだから、たまらない。
 とにかく、CGワークは大した物だと思う。
 川の流れや花火、蛍の群れが通常の会話の後ろでさりげなくアニメーションしているのもポイントが高い。

 マシンの最低ラインにはかなり譲歩したのではないだろうか?
 ポリゴンの少なさにはスタッフの苦労(悔しさ?)がにじみ出ている気さえする。

 ゲーム中に出てくる女の子は、先の三人を含めて計五人。
 バイプレイヤーの彼女達は、実にいい味を出していた。

深山澪(みやま みお)
 礼二の勤める病院の看護婦で、H大好きな人。
 命と礼二の仲介人でもある。
 快楽主義者のため、周囲の話題には敏感で、命とは仲がいいのにも半ば玩具扱いしていたり、若い先生との常時は日常茶飯事で、礼二にも粉をかけていた。
 しかし反面、鈍感な礼二の後押しをしたり、派閥争いの情報を彼に流し忠告もする。

 そんな、自由奔放に不良看護婦をする彼女は、礼二にとって気兼ね無く会話のできる数少ない存在だったろう事を考えると、彼にとっての彼女の比重は、実はかなり大きい。
 シナリオの作り方如何では、完全に命を食うキャラになったはずだ。
 そうしなかったのは、彼女のどこにも属さない自由さをより象徴的に顕わしたかったからかもしれない。
 個人的に一番のお気に入り。


エリカ
 実家に滞在する際に、家事全般を任せるために雇われた家政婦。
 澪の紹介だけあって、真夏の日差しでも常にメイド服を着用したり、よく転んだりの、だいぶ天然が入っている人。
 常に“ぽやぽや”な表情の彼女は、礼二だけでは手におえない状況を軽くあしらい、場を和やかにしてしまう。

 しかも、ボケているだけではない。

 例えば、彼女が転んだ時にはだけたスカートを礼二が凝視している事に気がつき、わざとそのままの姿勢で雲を眺め、のんびり話をする。
 また、偶然着替えを見られても慌てることなく礼二と会話をこなし、最後に軽く注意を促す。

 そんな、実は洞察力に優れていそうな部分を垣間見せる所に、彼女の魅力を感じる。
 彼女が動き始めれば、存在感が圧倒的なため、簡単に他キャラを食ってしまったに違いない。

 彼女達に負けないのは、キャラの立ったシナリオを持つ萌美だけだ。

 そう考えるとこのゲーム、実はロリ系のゲームに見えて、ずいぶんと大人向けの要素が含まれているのがわかる。

 命やつばさは子供と言っても、年齢的には15・6(確定させてない)。
 多くのギャルげータイプのHゲーから見れば、16やそこらは当たり前の年齢だから、ロリゲーと考えること自体、逆におかしいのだ。

 学生同士が織り成す青春ドラマではない、いわば大人の視点からの少女達(一名除く…笑)の心の葛藤を堪能して欲しい。

 …あ、年齢の離れた年下の女の子を相手にするからロリコンっていうんだっけ?
 でも、「ガラスの仮面」のマヤと真澄(年齢差11)の関係を思えば同じ位だし、気にすることも無いか。


余談:
 つばさの髪型と、命の髪が短い時の髪型はCCさくらと同じようだけど、スタッフに何かこだわりでもあるのだろうか?
 もし、あの髪型を「子供」を表す記号と捉えているのなら、他の記号も取り入れないと「またさくら似のキャラだ」と一笑に臥されるかもしれないので、考え直したほうがいいだろう。

 何より、俺の(?) さくらが侮辱されてるようで非常ーーーに悲しい。
(編集:それが本音かぁっ!!)


(Mr.BOO)


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