雪語り
  雪山と雪女ですか…ベタッちゃ〜ベタですね。

 1.メーカー名:Tarte
 2.ジャンル:ADV
 3.ストーリー完成度:E
 4.H度:D
 5.オススメ度:D
 6.攻略難易度:E
 7.その他:シナリオ本気で薄いです。

(ストーリー)
 主人公「新見孝志」は私立の学園に通う二年生。
 成績は中の上。模範的生徒ではないけれど、これと言った問題児でもないごく普通の生徒。
 主人公が通う学園には、毎年冬休みになるとスキー教室が行われている。
 しかも学園の伝説では、このスキー場に縁結びの効果があるとされ、ちょっとした人気を誇るイベントになっているのだった。
 ところが今年はいつも利用している旅館が、改装工事のために使用できず、急遽別の場所で開催されるのだった。
 縁結びの噂をアテにしていた生徒たちはそのまま参加を取りやめてしまい、スキー教室は定員割れの危機を迎えてしまう。
 今回の責任者でもある担任「青柳千歳」が、なんとかスキー教室を実行しようと奮闘する中、主人公は悪友「益子哲也」の強引な誘いもあって、渋々ながらも参加を承諾するのだった。
 その雪山に、思いがけない出来事が待ち受けていることも知らずに…



 このゲームは、前半の学校パートと後半のスキー教室パートの2パートに分けられており、前半の学校パートで攻略対象となるヒロインを選び、後半のスキー教室パートで各ヒロインがメインのシナリオに入る。
 ゲームシステム自体はオーソドックスなタイプの恋愛ADVで、特別目立つような新システム等は無い。
 そしてゲーム全体を通して「ほのぼの系」な雰囲気が漂っているので、特別ストレスを感じる事無くプレイ出来るようになっている。
 立ちCGが表示されるキャラクターは6人(男1人に女5人)と少ないが、その誰もが親しみ易いキャラクターなのは特筆すべき点だ。

 …とまあ、このように書けばオーソドックスな恋愛ADVというだけのゲームだが、実際にはとてもではないが合格点を付ける事ができるゲームではない。
 一言で言ってしまうと単純な作業ゲーでしかないのだ。
 世間には沢山ヒロインが居てもシナリオが薄いゲームもあるが、このゲームはヒロインが4人しか居ないのにシナリオが薄いゲームであるために、ゲーム全体を通して明らかなボリューム不足感が漂っている。
 例えヒロインが少なくともそれを補えるような重厚なシナリオを用意しておけば良いのだが、このゲームはヒロイン毎のシナリオ変化が乏しくシナリオ終盤の展開も全ヒロインほぼ同一な事も影響して単調なシナリオに拍車を掛けているのだ。
 そしてシナリオの単調さを助長している要因として、このゲームがプレイヤーに見せようとしている作品のテーマというものがゲーム全般を通して明確に描かれていないのである。
 ハッキリ言って、製作者側がプレイヤーにゲーム全般を通して何を感じて欲しいのか全く伝わってこない。
 もしも「雪女とのラブロマンス」がテーマだとしても、シナリオの展開が悪いせいでそれが全く伝わってこないのだ。
 そもそも、シナリオの流れが決まっているのに一本筋が通っていないため、本来シナリオの中心として機能せねばならないはずの雪女という存在がどうでもいい存在にまで成り下ってしまっているのは明らかな失敗としか思えない。
 この事は、シナリオライターが何を主軸にシナリオを展開させたいのかプレイヤーに伝わっていないために起こるもので、シナリオの練り方が足りない事を明確にしてしまっているのだ。
 本作は、雪女という存在をメインにして他のキャラクターがそれに絡んで来るシナリオにしたいのか、それとも雪女もヒロインの一人としてシナリオ展開させたいのか、その辺りの描写が非常に曖昧になっている。
 更に、本来ならば「雪女」という存在と供にストーリーの重要な位置を占めるはずの孝志の幼少時代の失われた記憶の扱いが、取って付けたようないい加減なものとしか思えないような扱いになっているのだ。
 普通は記憶に何等かの障害を持ったキャラクターというものは、その事に対して疑問を持ちなんとかしてそれを解明しようとするものだが、このゲームの主人公である孝志は幼少時に雪女の少女(紫苑)に出会ったせいでその記憶を消されてしまいその時の記憶を失ってしまうが、孝志自身は記憶欠如という事柄をあまり重要視しておらず今の自分を形成している一つの要因として前向きに受け入れているのだ。
 だが、この事がこの設定の意味自体を薄くしてしまった。
 記憶欠如を意識していないという事で、別にそういう設定を付加しなくてもストーリー上問題が発生しないという問題を引き起こしてしまう危険性を内包してしまった。
 そして孝志もその例に漏れず、記憶欠如という設定を持て余してしまった。
 本来は序盤にて触れられなければならない筈の孝志の記憶欠如は、序盤では一切触れられず後半のスキー教室パートに入って本格的に触れられる程度のレベルとなっているのだ。
 これでは孝志の記憶欠如という設定は、存在する必要性を失ってしまう。
 そのため、終盤で孝志が幼年期の記憶を取り戻しても設定自体の扱いがぞんざいなせいで、プレイヤーは孝志が記憶を取り戻した事に対して特別な感慨が沸いてこないといった事態を引き起こしてしまった。
 このゲームのストーリー上、孝志は記憶を失わなければならないのだが、これならば記憶を失わせなくても良いのではないかと思えてくる。
 つまり、記憶欠如という設定を用いなくてもストーリー的には不都合がなく、紫苑との出会いを覚えている展開の方が良いように思えてくるのは、明らかな設定ミスと言わざるを得ないのだ。


 以下はヒロイン毎のシナリオ評価。

(高荷朔夜)
 孝志と似た過去を体験し、それに捕われた者と捕われなかった者という違いを描写したかったのだろうが、朔夜自身がクールな性格をしている為その部分が余り明確になっていない。
 そのため、人との関わりを持つ事に気後れしている人物の描写としては不適切な描写としか言いようが無い。
 物語全体に対しての孝志の記憶欠如という設定は、余り重要な意味を持ったものではないが、朔夜に関しては充分な意味を持ってくる。
 そのため孝志の記憶欠如という設定は、朔夜との接点を持たせるためだけに存在している設定としか思えないのだ。


(新倉明日香)
 母親が雪女の呪いを受けた為に、その呪いを解く為雪女を退治しようとしていた。
 この手のゲームに一人は居そうなぶっ飛んだキャラである。
 実際に孝志と明日香の出会いのシーンでは、孝志が空から降りて来たと勝手に思い込みいきなり孝志に木刀で襲い掛かっているほどのぶっ飛び具合を見せている。
 似たようなヒロインしか居ないこのゲームでは、逆に他のヒロインを上回る程の存在感をアピールする事に成功したのは純粋に誉める部分だと思う。。
 だが、雪女という要素が絡まない前半部分にあって、木刀を標準装備しているキャラクターというのは明らかに異常だ。
 前半の学校パートでは、一切の超常現象的な要素が絡まない、完全に常識的世界観が構築されているいわば完成された世界なのである。
 それなのに、木刀を携帯し尚且つ振り回すようなキャラクターが存在しては、明らかにその世界観から浮いているとしか思えない。
 シナリオライターが後半の展開に無理無く絡ませたいからそうしたかったのかもしれないが、それならば他にやり方があるはずだ。
 例えば、前半で明日香が雪女と対決しようとしている事に触れるようなセリフやシチュエーションを用意して、スキー教室パートで木刀を持たせるような展開にさせれば学校パートでの非日常的な違和感は無くなるのではないかと思われる。
 そして、後半の展開にも前半同様に違和感を感じる部分があるのだ。
 シナリオラストにて、明日香の母親の呪いを解くために孝志が紫苑に木刀で一撃加える場面があるが、どう考えてもシナリオのフォローが足りないせいで違和感を感じるのだ
 まず明日香の母親が呪いを受けた経緯だが、姫神山にスキー場を建設した際に行った工事の過程にて故意ではなく事故なのだが、多くの雪女達が犠牲となって死んでしまった。
 その際に雪女達が自分の命と引き換えに、事故とはいえ人間に殺された山の生物達や同朋の恨みを晴らすために工事関係者達に呪いを掛けたのだ。
 如何に故意ではなかったとはいえ、工事を施工した側である明日香の母親達に非が在るのだが、呪いを掛けた雪女達もやりすぎだったのではと思えてくる。
 しかし、やられたらやり返すのは不毛としか言いようが無いが、雪女に人間の価値観を押し付けるのは無意味といえるし、先に雪女達に被害を与えたのが人間側であるため、この点に関しては善悪の判断は出来ない。
 そして、孝志が紫苑から真相を聞かされたときには、既に紫苑以外の雪女はほとんど居なくなっており、いわば紫苑は孤独な状態になっていた。
 そのため紫苑に他の雪女が持っていたであろう力が集中しており、意識してではないにしろ紫苑が呪いの維持を行っているのだ。
 だから紫苑を斬る事により、紫苑の力が弱められ呪いの維持が出来なくなり、明日香の母親に掛けられた呪いが解けるのである。
 しかし、紫苑は直接的には呪いを掛けていないし、あくまでも被害者側であるはずなのだが、他の仲間が居ないために仲間が掛けた呪いの報いを受ける事になってしまった。
 このため紫苑には全く落ち度が無いのに、全責任を取らされた形でシナリオが纏められているのだ。
 これでは紫苑がとても哀れとしか思えない。
 せめて明日香が母親に事の真相を話すくらいの描写がないと紫苑が報われないのだが、エンディングではその辺の事は一切触れられていないのだ。


(海老原睦月)
 幼い頃から孝志の一番近くに居たといういわば幼馴染なヒロイン。
 紫苑にメインヒロインとしての座を奪われているが、シナリオ展開的には実は一番ヒロインしているキャラクターなのだ。
 だが、後半で何の脈絡も無く唐突に行方不明になり孝志が探しに出て一緒に遭難する事になるが、余りにも唐突な為に思わず閉口してしまうような展開になってしまった。
 もう少し、序盤から中盤に掛けて終盤に対するなんらかの布石的な展開でもあればまだ納得できたのだが、そんなものが無いため完全にプレイヤーを置いてきぼりにしている展開なので、イマイチ感動は薄くなってしまったのは残念としか言いようが無い。


(来生紫苑)
 雪女であり、孝志の初恋の相手、そして記憶を奪った張本人。
 前半の学校パートでは一切現れず、後半のスキー教室パートでやっと登場となっているのだ。
 ゲーム的にはメインヒロインだが、扱いが最も悲惨なキャラクターとなってしまった。
 なんと紫苑はメインヒロインでありながら、バットエンド用ヒロインという側面も持っているのだった。
 理由は実に簡単で、他のヒロインの攻略に失敗したら強制的にどんな選択肢を選んでも紫苑とのEDを迎えてしまうのだ。
 このため普通に紫苑シナリオに向かえば問題ないのだが、選択肢ミスで向かった日にはとてもではないが感動もクソもない展開となってしまう。
 これでは、ハッピーエンドなのにバットエンドとしてしか見る事が出来ないのだ。
 どうせならバットエンドとして、紫苑に関する記憶を失うエンディングとかを用意しておいて欲しかったものだ。
 そうすれば、紫苑のエンディングに対して素直に感情移入できるのだが。


(総評)
 いろいろ不満をぶちまけはしたが、ストーリー上の細かい点を無視できるのならばプレイ時間も短いので手軽に遊べるゲームに分類される。
 しかし、内容が薄いため全キャラクリアしても達成感はあまり得られないのは残念だ。
 全キャラ通してストーリー展開がほぼ同じというのは、プレイヤーを舐めているとしか言いようが無い。
 一本道なら一本道としっかり筋道立ててシナリオ展開させていれば、まだ納得できたのだが。
 キャラクターは充分魅力的なので、せめてそれを活かす事が出来るようなシナリオだったならば良質なゲームとなっていたのでその辺りが残念無念。
 典型的な駄目ゲーのスタイルと言える辺りがなんともアレで涙を誘ってしまう…別に泣いてはいないが。

 あと、この手のゲームでは珍しく先生が攻略出来ないというのは、人によっては評価が分かれるだろう。
 攻略出来ない先生の声優が、あの長崎みなみ氏なのは製作陣にどういう意図があったのか、筆者には全く計り知れない。
 個人的には、攻略出来ない先生に声があるのはどうかと思うが。

 しかしこの学校は、何故三年生が登場しないんだろうか?

(乾電池)


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