WITH YOU 〜見つめていたい〜
 
私「鷹羽さ〜ん、どーしても菜織シナリオがクリア出来ねーよおぉぉぉ!」
鷹羽飛鳥氏「後藤ちゃん、画面上部の宝玉の点滅、ちゃんと確認して進めてる?」
私「…………な、何? 点滅…って?」
鷹羽氏「選択肢選んだ時、好感度が得られるとアレが点滅するんだけど、気が付かなかったの?」
私(←言われて、立ち上げた)「な、何いいいいいいいいぃ! バ、馬鹿なああぁっ!」
鷹羽氏「さ、頑張ってもう一度最初からやってみようか?」
私「どひいいいいいいいいいいいいいい(泣)」
 ……以上、私・後藤夕貴が本作プレイの折り返し地点で、実際にやりとりした内容。この段階で、すでに真奈美はクリア済み。説明書はちゃんと読みませう。
 それにしても鷹羽氏、あんたやっぱりやってたのね(笑)。
 

1.メーカー名:F&C/カクテルソフト
2.ジャンル:選択肢分岐型ADV
3.ストーリー完成度:菜織編…D/真奈美編…C/総合…D
4.H度:E
5.オススメ度:C。ただし、このタイプのゲームで、あまりに長いプレイ時間を要するものが苦手な方のみ。
 時間と執着が無限に有り余っている人には、D。
6.攻略難易度:説明書は、ちゃんと読みましょう。D。
7.その他:もう随分前のソフトだけど、様々な話題を提供した、ある意味で貴重な一本ではないかと真面目に考える。
 中古プレミアの件、発売後の根強い人気は、93〜94年頃のカクテルを思い出させる周辺状況でしたな。
 (このページの文章は、99年中頃に制作されたものです)
 

 さて、なぜ今更「WITH YOU」なのかというと、実は個人的な着目点があったから。
 各イベントで、私達が「九拾八式降臨」(同人誌・絶版)を販売していると、立ち寄って中を読んでいく人のほとんどが、「WITH YOU」のページを読んでは肩をガックリ落として引いていくのだ。
 ま、全員が全員ではもちろんないけれど、私にとってはとても気にかかる反応だった訳。
 んで、「〜降臨」では鷹風虎徹氏が批評しており、その内容はハッキリ言って酷評だった。
 このゲーム、現在もかなりファンが多いらしいが、そうなると一方向だけの視点だけでは、ともすればこちらが危険な断定をしているとも取られかねない。
 そのため比較的中立的な位置にいると自覚している自分も、批評を試みてみたくなった。
 念のため鷹羽飛鳥氏の意見も、先のついでに訪ねてみたのだが、これがなんとビックリ、ほとんど虎徹氏と同意見であった。
 そしてさらに、梨瀬成にも訪ねたら、吐き捨てるかの様に酷評されてしまった。
 稀代の3大ギャルゲーマーをして、そこまで酷評させうる本作とは、果たしてどんな完成度なのか、いやいやそれ以前に、どうしてそこまで酷い(?)作品に、ここまで固定ファンが付いたのだろうか…?

 だ、だんだん不安になってきたぞ…。
 なんか俺、とんでもない馬鹿な事書いてしまいそうだ…。

 ところが、プレイしてみて驚いた。
 これって、案外シッカリ作られていて、個人的には非常に好感が持てる。

 私は、ゲームの世界観が分かり易く、かつシッカリ確立されているゲームしか評価しないが、これはその点楽々パスしている。
 神奈川県桜木町をモデルとしているらしい街を舞台として、その周辺の商店街や主人公達が通う学校等、とても良く描き込まれていて、空間的な広がりが充分感じられる。
 また、とにかくBGMが良い。
 MIDIで奏でられる曲の数々、キチンと場面に合わせた丁寧な作りが好感がもてるし、最近の「F&C」お得意のピアノソロも、めちゃくちゃいい味を出している。
 5月末日から6月一杯という、いわゆる“梅雨時”が舞台であるのにも関わらず、とてもさわやかな世界を作り出している。もちろん、しょっちゅう雨が降るという演出もちゃんと行っていての話だ。
 その中で活躍する、活気溢れるキャラクターのやりとりは、見ていて実に楽しい。

 この作品、攻略対象となるヒロインがたった2人しかいない訳だが、だからといって、それ以外のサブキャラクターの描写がいい加減かというと、そんな事もない。
 美亜子に冴子の凸凹コンビの掛け合いに、主人公・正樹の妹である乃絵美の失恋を巡るエピソードなど、決して出しゃばらない範囲で演出が効いている。
 これだけやっているのであれば、菜織や真奈美以外にもファンがいるというのも、頷ける。
 それでは、ヒロイン2人がその分悪いか…というと、それがまたそうでもないのだ。
 正樹に対して、常に強気で接している菜織なんかは、性格自体は異なるものの「To Heart」の神岸あかり的な位置にいる存在で、実際に、正樹の部活動への参加と、大会への熱意を高める重要な役割を果たしている。弁当は作らないけどね。
 これは、ストーリーが真奈美側に傾いていても同様だ。

 一方、真奈美は“おとなしいタイプの優等生”型を地で行ってるタイプで、事件に巻き込まれる形のストーリーで埋没してしまった感もあるが、いたってまともな性質だ。
 ちょっと理想の幼なじみ入っていて苦笑だが、キャラクターとしては立っている。
 あまり料理がうまくないのに、一生懸命正樹のために弁当を作ってくる所なんかは、それなりにポイントを稼いでいる。
 なるほど、決して突出した特徴があるわけではないのだが、個性をちゃんと表現した、愛らしい人物達ではないか。
 その他のポイントについても、及第点は稼いでいる。
 むやみに長くならないプレイ時間、もちろんこれはヒロインの数が、近年稀にみるほど少ないという理由からだが。
 また、攻略難易度も比較的低めである。
 私のように何も説明を受けないでプレイしていても、ある程度はなんとかなる。
 またヒロインを2人に絞ったお陰で、描き込みが緻密になっているのもポイントが高い。
 好き嫌いは別として、プレイ後の印象は、結構深く残っている人もおられるのではないだろうか?

 さて、それでは「このゲーム、やっぱり良いゲームなんじゃないか! 以前の批評は偏った意見だったのか?」…というと、そういうわけではない
 このゲーム、肝心のストーリーが不味いのだ。
 このバランスの悪さは、鷹風虎徹氏の意見を裏付ける物であった。
 絶対に、“ONE”に次ぐ程のストーリー完成度ではないという事は、先に断言するぞ。
 昨年度は、少なくとも一般的には、そういう評価だったらしいが…。
 まず、メインとなる真奈美のシナリオだ。
 驚いた事に、これはホラーサスペンス調のストーリーで、私の予想を良い意味で裏切ってくれたのだが、ホラーというには抽象的すぎて、サスペンスというには、盛り上がりと説得力に欠ける。

 そもそも、ミャンマーから転校してきた、かつての幼なじみというのも、ちょっと破天荒過ぎる設定であろう(個人的には好きだけど。スカンジナビア半島でもいいぞ)。
 また真奈美が持っていたペンダントと、ミャンマー展の展示物・縁切りの宝玉が一つになってしまって、絆を守護する宝玉になったというくだりも、実にいい加減なオチだ。
 この件は、盗難事件という事から始まっていた筈なのに、どうも物語の終盤になると、その肝心な部分はどこかに置き去りにされてしまっている様だ。
 結果、事件の当事者達が勝手に自己完結してしまい、警察をはじめとする盗難調査に関わった人々は、事件が解決している事実も知らずに、元々存在しない犯人を追い求め続けるハメになる。
 盗難にあった宝玉が変形してしまったため、完全な形で納得させられる解決策はありえないが、持ち主のみちる先生は事情を把握している訳だから、せめて一時的にでも宝玉を回収して、盗難被害届けを取り下げれば良かったのだ。
 保険金詐欺を疑われていたのならば、それが唯一、完全に近い解決法だった筈。
 まして、真奈美がたった1ケ月でミャンマーに戻らなければならなくなったのも、元々はこの盗難事件がきっかけになっていた筈なのだ。
 そこまで重大なポイントを、ラストではぐらかすエンディングは、まるでマルチの記憶がDVDで蘇ってしまってプーになったアレに似た印象を受けてしまった。
 これでは、後藤田刑事が可哀想ってもんだ。でも、なんで今更徹夜なんかしなくちゃいけないんだろ…?

 もう一方の菜織編だって、誉められたものでは決してない。
 さらっと流してみればそれなりにカタルシスを感じる展開だが、根本的にストーリーが皆無のため、実はダラダラした演出の連続である事に、途中で気付いてしまう。
 いわゆる、イベント間の連続性がないという奴だね。
 真奈美ではちゃんとストーリーベースがあったのに、なぜこちらでは存在しないのか…その理由は、あくまでメインヒロインは真奈美だからである。
 分岐型ADVのため、どうしても本筋の物語から派生して分裂変化していく展開が生まれるのだが、本作はその位置に菜織シナリオがある。
 全5章プラスアルファの物語中、3章あたりまでの展開が共通なのがその証拠。
 しかし、だからといってこの演出はヒドイ。

 このゲーム、今までのカクテルソフトのゲームと同様に突如として訪れるゲームオーバーがある。
 しかも、数カ所に散りばめられているため、最後まで気が抜けないのだ。
 どうやら菜織編のほうが真奈美編よりも、ゲームオーバーになる選択の幅があるように感じられる。
 まぁ分岐型ADVに、好感度ポイント制のシステムを導入したために発生したものだが、菜織の場合、ここまで話が盛り上がっているのに、どうしてここで終わってしまわなければならないんだ? という問題点が山積みになっている。
 そこまで順調にポイントを稼いでいた筈なのに(宝玉の点滅確認しながらのプレイ)、第5章のラストのラスト選択ひとつ間違えただけで、バッドエンド突入である。これだけは、マジで勘弁して欲しかった。
 それまで稼いで来たポイントは何の意味があったのか、疑ってしまいたくなる。
 もちろん同じ事は真奈美編でもいえるのだが、無理矢理なバッドエンドを廃して誰ともくっつかないエンディングを交えて全3本のエンディングパターンという構成にした方が良かったのでは…?
 とにかく私、真奈美の見送りを拒絶する菜織を、正樹が無理矢理引っ張って連れ出したら、唐突に菜織が離れていきました…などという展開は、断固として認める事が出来ない
 正樹に対する思いが膨らみ過ぎたために、真奈美に会わせる顔がなくなったのなら、どうしてその後正樹から離れてしまうのか?
 純情な乙女の微妙な気持ち? 馬鹿言っちゃいけないよ。
 その前にプレイヤーを納得させろよな! 勝手に自己完結こいてんじゃねーよ。 
 以上の理由から、私、菜織と菜織編が大っ嫌いです
 この意見に不満の方、ちゃんとバッドエンド体験してますか?
 全体を通して見て、気が付いたのはメリハリのない展開ばかりという事。
 とにかく、ここだけでかなりの大損こいている印象だ。
 良い所は多いし、これだけのキャラクターの個性があれば(さらに加えて、受け線の絵柄でもあるし)、ファンが多く付くのも納得出来る。
 しかし、もう少し引き締めてくれれば…というのが、正直な気持ちである。

 結論。
 真奈美編、演出力不足。菜織編、演出ムラだらけ&ストーリー皆無
 足して割れば丁度良かったかもしれないが、所詮は、どっちもどっち!

 最後にひとつだけ。
 なんか、セリフ回しがやたらダサいね、コレ。やたら浮き世離れした真奈美の台詞に、とても高校生とは思えないへんな口調の柴崎君。君達に10点!
 

(総評)
 実は私、先行の三人ほど、このゲームに対する印象は悪くないのだ。
 それどころか、結構気に入ってたりもする。
 残念ながらストーリーを追う楽しみは皆無と判断したが、とにかく舞台背景と各人物の生活描写、そして素晴らしいBGM、これだけでも、愛するべきポイントである。
 以前、私はぷちの「冬虫夏草」の批評を担当したんだけど、あれに似た感想を抱いている。重要な佳作…って、とこかな。
 ただし、そんな個人的意見とは裏腹に、厳しい現実を書かねばならないのもまた事実。
 結局は、プレイヤーの属性というか、どこにウェイトを置いてゲームを見るかによって、印象が様々に変わる作品であったと勝手に結論を出してみたいが、そんなに間違った意見ではないと思うぞ。
 とはいえ、あの唐突&急激なプレミアだけは、どうしても納得いかない。
 最近、プレイヤーの嗜好が平坦となり、全体的水準が下がっているという意見を耳にする。
 求める物の基準はそれを購入する人次第で自由なんだけど、かなりうわべだけの力に左右されやすい傾向が目立ってきているのは悲しい気がする。
 何人、こういったゲームを隅々までプレイ出来たのか、また、その結果心から楽しめたのか、はなはだ疑問ではある。

 なお、このゲームをプレイした人のほとんどが気が付いたと思うが、明らかに、コンシューマ移植を前提に作られている。
 実際、なんとセガサターンに移植され、PSにも(TOYBOXごと)移植されたわけだが、その影響というか、Hシーンの存在が実に笑える扱いを受けていたのには、爆笑させていただいた。
 だって、全部最終章以降なんだもんね!
 先にパンツ降ろして準備していたプレイヤーさん、お疲れ様でした!!!?
    
(後藤夕貴)

 
PS.音楽モードは、すべてMDにダビングして聴いています。
 特に、ピアノソロの“愛って後悔しない事なのね”は絶品だと思ってます。    
 
 
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