Virgin Snow
 
 奥手の少年が出会った1人の少女…。
 少女との恋は、彼に何をもたらすのか…。
 
1.メーカー名:胡桃
2.ジャンル:マルチエンディングADV
3.ストーリー完成度:C
4.H度:B
5.オススメ度:D
6.攻略難易度:B
7.その他:え〜っと『みゆき』でしょ、『クリィミーマミ』でしょ、…やっぱ元ネタありかね?
 
(ストーリー)
 主人公・飯塚直樹は、男子高校の3年生。
 生まれた時に実の母を、幼い頃に継母をも亡くし、現在は、継母の連れ子で血の繋がらない妹・弥生と、仕事でほとんど家にいない父との3人暮らし。
 学校と予備校を往復する程度の、単調な生活を送っている。
 そんなある日、直樹は1人の少女と出会った…。
 
 
 統一されたストーリーは本当にこれだけで、後は出会った女の子とのストーリーが進む。
 何のことはない、ポイントゲット制のマルチED恋愛ADVだ。
 よくあるタイプではあるが、それなりに話を作り上げようとしている努力が見える。
 
 そういうわけで、いつもと形式をちょっと変えて、各キャラの紹介とシナリオの寸評、個別シナリオ評価いってみようか。
 
(飯塚弥生)評価C
 直樹は、ある日親友の信也との何気ない会話から、自分が妹の弥生を“女”として愛していることに気付いてしまった。
 確実に弥生を傷つけることになるであろう、背徳の狂恋。
 直樹は意を決して、弥生と距離を置くことにした。
 ギクシャクする2人の関係。そして…。
 
 あだち充作「みゆき」を彷彿とさせる内容だ。
 直樹は、弥生自身は血の繋がらない兄妹であることを知らないつもりで、禁断の恋に身を焦がすが、実は弥生はとっくに知っていた。
 兄を愛し、せめて妹としてでも側にいたいと振る舞い続けてきた弥生が、その妹の地位すら危うくなったために本心を告げざるを得なくなる。
 
 あくまで1人よがりに弥生との距離を置こうとする直樹が目について、どうも逼迫感がない。
 直樹は、弥生を天涯孤独にしたくないと言いつつ、弥生を傷つけないために離れるという、自分にとって都合のいい方に逃げている。
 シナリオ中で直樹本人が気付くより先に、プレイヤーの方が気付いてしまうため、直樹がバカにしか見えないのだ。
 
 自分1人しかいない家にいる堪らない寂しさを自分自身味わっておきながら、弥生が同じ思いをすることを思い付きもしないバカさ加減は、見ていて頭が痛い。
 “弥生が天涯孤独になる”ということは、それを味わうことそのもののはずだ。
 それなのに、自分を抑える辛さから逃げたい一心で弥生を置き去りに家を出ようとするなど、即刻打ち首ものだ。
 
 EDでの、2人の絆を目に見える形で築くための「結婚式」は、「え〜っ庭でやったりして、近所の人に気付かれないの?」という疑問の方がインパクトが強かった。
 
 
(相原小雪)
 予備校で見かけた、松葉杖の少女。
 他人を寄せ付けない彼女に、何かとちょっかいを掛けつつ、次第に接近していく直樹。
 彼女は元陸上部で、インターハイを掛けた大会で無理をしたため、足を骨折して失格した。
 そのため母校はインターハイに行けず、いたたまれなくなった小雪は退部したのだった。
 “役に立たなければ見捨てられる”…そんな彼女の強迫観念の正体は…?
 
 
 幼い頃からの経験で、「自分は役に立ち続けなければ誰からも相手にされなくなる」という強迫観念を持っている小雪。
 これは、そんな彼女が直樹との恋愛を通して、人に甘えることを覚える物語だ。
 
 予備校にしか現れないため難易度は最も低いが、会い続けてさえいればほぼ落とせるので、直樹の気まぐれによる悪戯からの接近という基本的スタンスが抜け落ちたままでも攻略できてしまい、話が繋がらなくなることがある。
 
 また長い間培ってきた心の壁なのに、直樹に突き崩されるのが早過ぎて、とても違和感が大きい。
 
 
(神楽舞)E
 ある日直樹が見かけた、骨箱を抱いた少女。
 悲しげな顔がなぜか気になった直樹は、偶然からその少女・舞と知り合い、惹かれ合う。
 元・華族の跡取り娘だという舞との交際は、当然舞の母からの妨害を受けることに。
 そして、舞の命はあと僅かだと言う…。
 
 
 設定に無理がありすぎ。
 いくら元・華族だと言っても、近親相姦で生まれた子にしか家督を継がせないとか、小学校も中学校も行ったことないお嬢様というのも、かなりムチャだと思う。
 兄に少し似ているが故に直樹に興味を持ったと言うが、直樹に対する想いが強まる過程があまりにエキセントリックなため、付いていけない。
 舞が死にそうなのか元気なのか判りにくい演出も相まって、ゲーム中最低のシナリオだった。
 
 
(メルリアーナ)
 異世界から仲間の仇の魔物を追ってやってきた、魔法使いメル。
 本来はこの世界とあまり関わりを持ってはいけないのだが、現世に現れた際、座標を間違えて直樹の上に降って来るという古典的な出会いをしたため、直樹にだけは正体を明かしている。
 興味本位でメルと行動を共にするようになった直樹は、魔物との戦いの場に居合わせることになってしまい…。
 
 使い魔のコットンの方が態度でかかったりして、結構マヌケ。
 現世にあまり関わってはいけない理由がイマイチはっきりしていないため、なんだか説得力に欠ける。
 
 ただし、たった1人で孤独を噛みしめていたメルにとって、直樹の存在が何者にも代え難い存在だったことは伝わってくる。
 メルが魔力を使い果たしたため、コットンが消えてしまった点もナイス。
 ただし、シナリオにメリハリがないのが欠点。
 
 とにもかくにも観覧車が一周する間にHしてしまうのは、どうかと思うが。
 
 
(新見悠)A’
 転校していった幼なじみで、現在はアイドル・響として活躍する悠。
 響の存在自体を知らなかった直樹に自分のCDをプレゼントして、後で正体を明かして驚かそうとしたはずが、色々なすれ違いが原因で、直樹は響の正体に気付かないまま、偶像である響を1人の女の子として意識し始めてしまう。
 だがそれは、悠にとっては自分自身が恋のライバルということでもあった…。
 
 『魔法の天使クリィミーマミ』での優とマミの様な関係を、自分で勝手に作り上げてしまった悠の苦悩の物語。
 “悠”としてでなくても、直樹の側にいたいという悠の決意が悲しい。
 ただし、直樹はそもそも響の中に悠の影を見て惹かれているので、悠の苦悩は1人相撲の感がある。
 悠にとって直樹は初恋の相手であり、思い続けていた相手でもあった。
 最初から直樹にラブラブ光線出しまくりだし、ラブコメ一直線なシナリオだ。
 プロローグで言われているとおり、直樹はこの手のことに超奥手なので、悠がモーションを必死に掛けても気付いてやれない。
 ただ、悠は飾らない直樹の優しさと誠実さに改めて恋をしているので、直樹の鈍さはプラスに働いている。
 
 恐らく演出として意識してそうしたのだろうが、直樹が、自分が悠と響を混同していることに気付かないでモノローグをしているため、プレイヤーが「何言ってんだ、コイツ?」と思ってしまう。
 ところが、そのうち直樹自身が「違う、あれは悠じゃない。響だ!」と気付いてくれるため、「おお、これは演出だったのか」ということになる。
 この手の文章中のうっかりミスは結構多いから、途中でプレイヤーがミスだと思うことも多いはずだ。
 それを覚悟した上でこうしているというのは、プレイヤーを信じていると言うか、「通じるはずだ」という自信を持ってやっているということに他ならない。
 
 ただ、探偵が悠と響の関係を知った上で行動しているはずなのに妙な言い回しをするせいで、探偵が何を言っているのか判らないという印象を受けるのは失敗だった。
 
 
 このように、悠のシナリオを筆頭に各シナリオのテーマは、そこそこいいものばかりだ。
 それなのに評価を落とさざるを得ないのは、それぞれ突っ込み方が浅いからだ。
 小雪と直樹との心のふれあい、メルの直樹を見る眼差し、舞の直樹に対する想いなど、陳腐でもいいからきちんと描いてさえいれば、総合評価はBくらいにはなっただろう。
 
 あと、極端な「ら」抜き言葉はちょっと違和感があった。
 
(総評)
 困ったことにこのゲーム、シナリオ的な問題とは別にシステム的な問題も多い
 
 まずBGM。
 暗いシーンが続いてる最中でも、日付が変わる時には明るい『散歩道』が流れる。
 そしてその後、再び暗い曲が流れるのだ。おいおい…。
 
 また、フラグ立ての条件が甘い。
 迂闊に他のシナリオを進ませてしまうと、他のシナリオ攻略に必須なイベントすら他キャライベントに食われてしまい、本来の攻略キャラは絶対に解けなくなる。
 具体的に言うと、悠攻略の最中にうっかり弥生のシナリオが少し進んでしまい、悠攻略のために必要な、喫茶店での響との出会いイベントが起こるはずの「Gakusei Street」に行っても、信也に「弥生に彼氏がいるじゃないか」と言われるイベントが起きてしまい、悠攻略はそこで止まってしまう、という現象が起きるのだ。
 
 言っておくが、これだけなら騒ぎはしない。
 問題は、この『信也から云々』のイベントが、それ以降毎日続くということだ。
 毎日同じところで信也と出会い、家で勉強して弥生との仲をからかわれるというイベントが、ゲームオーバーになるまで5日間続く。
 そして、弥生シナリオのバッドエンドに直行するのだ。
 せめて悠のバッドエンドにまからないか?
 
 特定のキャラとの出会いを求めて駆けずり回るタイプのゲームで、これはないだろう。
 これのお陰で、攻略キャラ以外が登場すると、大変心臓に悪いことになる。
 そういう日も元々あるにもかかわらず、だ。
 勘弁してくれ
 
 このストレスが意外に大きくて、総合評価を1ランク下げたのは間違いない。
 シナリオもシステムも、今一歩練りが足りなかった。
 
 あ、そうそう、タイトルの『Virgin Snow』ってのは、それぞれエンディングに初雪が降るからなんだわ。
 
(鷹羽飛鳥)


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