うたかな
  言葉は力を宿すもの

1.メーカー名:Prima
2.ジャンル:ノベル型ADV
3.ストーリー完成度:C
4.H度:B
5.攻略難易度:D
6.オススメ度:D(しかとみよファンはB)
7.その他:言霊という日本古来のネタをアレンジしたこの作品、しかとみよ氏のキャラを得て果たしてどんな作品になったのか?


(ストーリー)
 言葉とは、何だろう?
 言葉とは発せられた後どこへ行くのだろう?

 小さい頃から、自分でもよく解らない疑問を持ちつつ、それでも平凡な生活を送る俺・榊信也(主人公・名前変更不可)は、いつもと変わらない道の上で変わった女の子を見た。
 その子は詠うように言葉を紡ぎ、悪しき言葉を浄化しているという。
 名前も聞かずにその子と別れ、いつもと変わらない学園生活に戻ったある日、学園内で理由も無く発生する怪事件が多発していることを聞く。
 そして自分もそれに巻き込まれた時、何かが違っている事に気付いた。
 言葉を発するだけでなく、書かれた文字さえ力をもつ言霊。
 ある日転向してきた、街で見かけた不思議な少女、汀真夜(みぎわ まや)は言霊の事、自分が言霊使いである事、この学園に違和感を感じた事、信也には素質がある事を教えてくれた。
 だからといって災厄を避けられるはずも無く、あらぬところから聞こえてくる謎の声に流されそうになる。
 「それ」は、言霊が永い時をかけ、強力な力を持つ鬼となった「織」だった。
 「織」は、真夜が来た時から本格的に行動を始めていたのだ。
 俺は、「織」を退けることができるのだろうか?


 このゲームは選択肢によって話が分岐し、攻略する女の子が変わるノベル型アドベンチャーゲームだ。
 全画面での文章の表示、Hシーンには表示位置を限定、複数の女の子の攻略など、このタイプのADVに必要なシステムとスタイルをきっちり踏襲しているため、プレイするのにわずらわしさも複雑さも感じない。
 むしろ、これくらい視覚的にも判り易いものも珍しい。
 基本に忠実ということは、プレイヤーへの間口を広げておいてストーリーに集中してもらおうという考え方の現れだ。
 ただ、やりやすさという点においては簡単な分問題無いが、目新しさが無いため、大きな変化を求めるのは難しい。

 そのストーリーは最終的に織を封印することにあり、その間に女の子が絡むという構成になる。
 ノベルだけあって、ゲームは淡々と読み進むことに終始する。
 途中の選択肢はその間隔が長く、どの女の子の話でも最終的な目的と大筋は変わらない。

 関わってくる女の子はヒロインの汀真夜をはじめとして佐久間葵、春日乃ハコ、伊藤由梨、八坂七海の五人。
 この中で直接的に関わっているのは真夜と七海で、ハコは少しだけ関係者で、葵と由梨は潜在的に力があったための被害者だ。
 そのため、話を追っていくと優先順位的なものが感じられてくる。
 それはシナリオの分岐というより、メインの真夜を他のキャラをクリアしていくことによって、多角的に見せようという意図のようだ。


佐久間葵
 信也のクラスメイトで、運動能力に長け、あちこちの部で助っ人として活躍している。
 彼女は、学校内に仕掛けられた言霊の込められた落書きの一つに触れ、信也を誘惑する。
 それはすんでのところで防がれるが、彼女が振り払った織は単独で動き回り、信也を苦しめる。
 最後は真夜の協力により、その元凶となった織を封印する。

 この話の中で、織は分離しても単体で動き回ることが出来ると判る。
 そして言霊使いの素質のあるものに取り憑くことで操り、悪意を持った言葉を放ち、増殖するという。
 言霊を操る術を知らない信也と葵は、葵が織を取り込みなおして自害することで決着をつけるが、一命を取り留める。
 入学当初から深夜に行為を持っていた彼女が、この事件を経てお互いの気持ちを確かめ合う。
 葵にとって喧嘩仲間からの脱却は下手をすれば関係を壊してしまうだけに、勇気のいる行為だったはず。
 それが織によって操られたために、図らずも気持ちを通じる結果になったのは、危険を伴ってしまったが彼女にとってある意味幸運だった。
 真夜は脇役に回り、ラブコメタッチで話はまとまって終わる。

 余談だが、操られたときの葵の声はなかなかの迫力があり、一番の見所であったと思う。


伊藤由梨
 歌姫と称される後輩で、葵の知り合い。
 言葉についての話をまじめに聞いてくれる信也に行為を抱く。
 ある時、彼女に迫られる信也は、それが何かに操られてのものだと気づく。
 そして、正気に戻った彼女と協力していったん退けるが、織に彼女の声を封印されてしまう。
 その封印を、真夜のもつ懐剣で破った信也は、由梨の声で再び封印することが出来たのだった。

 ここでは、声のもつ力と封印の決壊、織の封印などが真夜によって説明されている。
 小さい頃に痴漢に教われたことで気まずくなった家庭や、その古傷を利用した織の操り方などが具体的に書かれているため、ショートストーリーとして十分に面白い。
 彼女は歌を歌うことによって人を癒し、自分も癒されたかった。
 前半で「意味が無ければ言葉を発してはいけないの?」というほど声を出すことが好きな由梨が、その声を奪われてしまった事による悲しみが伝わるだろうか?
 声の戻った彼女はコンクールで賞を取り、自信をつけていくことだろう。
 そのエントリーナンバーが18なのは言霊が発動したのだろうか?
 歌姫だけに声が特徴的だったので、エンディングを歌ってくれていると期待したが、そうでなかったのが残念。


春日乃ハコ
 信也の先輩で、生徒会執行部の優等生。
 以前から起こっている、学園の不思議な事件を調べていた。
 彼女は、信也が最初に遭遇した事件の直後に、別の場所で操られた生徒によって陵辱されてしまう。
 原因がわかっているからと明るく振舞う彼女がこっそり泣いているのを見て、信也は俺にもっと力があればと悔しがる。
 その後、言霊の力に覚醒した信也はハコを盾に依代になれと迫る織を退け、その力が暴走しないように修行に出るのだった。

 ハコがこの件に関わることになったのは、彼女が見た夢による。
 それは、あまりにも強力な力を持ったため孤独であった詠姫(うたひめ)の、最初で最後の、そして叶わなかった恋の夢。
 その強い思い故、死ぬ間際に発した言葉が織となった。
 神社の家系で力を持たずに生まれた彼女は、家族に認めてもらうために見えないものを見ようとし、聞けないものを聞こうと努力してきた。
 そんな彼女の純粋な思いを頼るように、同じく力を持たなかった詠姫の姉が見せたのだ。
 ここでは詠姫の封印や、その力の解放を望む織の存在など、本筋に沿った話が展開する。
 詠姫の織と、ハコに憑いていた姉の解合や、姫の織を開放しようとする織との戦いで行われる言霊の言い合いなど、信也の活躍の場は多い。
 しかし、真夜がただの一協力者に過ぎないため、まとまりはあるが小ぢんまりとしている印象がある。
 「ハコ」という名前にコンプレックスを持ち、その名を口にした者を信也いわく「猛獣」のような威圧感で追いかけてきたり、「織を退治するなら正装をしないと」と言って巫女さんの格好をして来たり、何かと特徴的なキャラクターの彼女が魅力的だ。
 彼女の名前の由来は、七人姉妹にかこつけて七草の一つから付けられたと言う。
 日出草というハコベの別名があることを努力家の彼女が知らなかったのは、やはり自分の名前に背を向けていたからだろう。
 しかし、信也にその名前を呼ぶことを許したのは、名前という言葉の中にある意味を感じたからに違いない。

 ただ、名前で悩むというのなら、同じ七草の「ごぎょう」とか「ほとけのざ」を付けられた姉妹の方が、より激しいと思うのは気のせいだろうか?


八坂七海
 ハコと同じ執行部にいる八坂戒の妹で、物言わぬ少女。
 七海と屋上で出会った信也は、彼女を言霊によって襲ってしまう。
 信也は彼女に謝るため学園を探し回るが、不思議とその存在を知るものが少なかった。
 その辛く悲しい理由を知った信也は、彼女を守るために真夜と対峙する事も辞さない。
 そこに割って入る織の攻撃を受けた信也のために、彼女は自らの封印を解き、織に向かっていった。

 真夜が表のヒロインなら、七海は影のヒロインといえる。
 この話では真夜の話の裏、汀の家を逃げた織がどうなっていたかを語る。
 封印とは、ハコが夢で見た詠姫の残した織の事。
 汀に封印されていたのもその織だ。
 小さい頃にそれが取り憑いてしまったため、彼女は話せないのではなく話してはいけないという運命を背負ってしまった。
 背負ったものの大きさ故に、自分を知るものが多いと与える影響は計り知れないから、自分が存在していることを知られてはいけない。
 小さい頃から言霊使いだった七海が、そうしなければならないと知った時の気持ちはいかなものだったろうか。
 そのまま気づかれずに一生を過ごすかもしれなかった所へ、偶然にも強い力を持って自分を見つけてしまった信也に思いを寄せてしまったため、封印が弱まった。
 このままでは織が開放されてしまうため、それならば自らが依代となり、完全に消えてしまえばいいとその封印を解く。
 消えるとは死ぬことではなく、周囲から完全に認識されなくなるということ。
 生きているのに、その場にいるのに誰も彼女の存在を認めなくなってしまう。
 それが人にとってどんなに恐ろしいことかを実感できれば、詠姫の力の強力さも想像がつく。
 最終的に信也たちに襲い掛かる織を倒しはしたものの、彼女の中に残る根本は消えることはなかった。

 しかし、読姫は本当に悪だったのか?
 ハコの話から推し量る以外、それが語られることはない。
 彼女は、信也の「お前の言葉は俺がすべて受け止める」という詠姫の思い人と同じセリフに、好きな人のために消えることを思いとどまる。
 それは、詠姫も望んでいた結果のはずだ。

 しかし、彼女には別のエンドが存在し、こちらでは好きな人に迷惑はかけられないと、自らが望んで消えてしまう。
 それは信也すらその存在に気がつかず、消える直前に背負っていたはずの彼女の重ささえ知覚できない徹底的な消滅。
 七海の状態は、真夜のシナリオでは確認されていないため、ある意味このゲームは、このエンディングをもって完結するといっていいだろう。
 

汀真夜
 代々言霊使いの家系で、織を消しながら放浪する少女。
 しかし本来の目的は、八年前に家を焼き飛び出してしまった織を探し出し封印することにあった。
 言葉の力、織の存在、人を操ること、ゲーム内の基本的な説明はすべてこの話の中にある。
 学園に網を張る織は、信也に真夜を襲わせ、結界を張って亡き者にしようとする。
 辛くも立ち直った信也のおかげでその織を消滅させ、これで終わりかと思われたが、倒した織は本体ではなかった。
 言霊の使い過ぎで眠る信也は、ハコ先輩と同じ詠姫の夢を見て七海が本体だと気づく。
 しかし、その前に立ちはだかったのは七海の兄である戒だった。
 彼もまた織に操られ、そこに取り憑いていた織こそが汀の家に火を放った張本人だった。

 七海の話とあわせる事で詠姫のことや、汀のことが浮き彫りになる。
 信也の言霊に目覚める所や、真夜の表の顔と言霊使いとしての顔の変化など、ヒロインの話だけあって一番事細かに書かれている。
 人は言葉によって影響を受ける。
 真夜もまた、家が焼けたときに誓った「復讐」という言葉に縛られていた。
 そして事がすんだ後、信也と意思を通わせたのに彼女は彼の元を去ってしまう。
 それは、発せられた言葉が消えていくような感じを思わせる。
 発した言葉はいつか思い人の所へ届くと彼は信じ、真夜を追いかけることを誓う。
 「汀」という文字が波打ち際を表すだけに、消え行く言葉、との掛け合いとして言霊使いの名前になっているのはなかなかうまい。
 彼女は学園生活でみんなと話す時と、言霊を使う時の様子が変わる。
 それは、余計な感情を抑えることで力を抑え、周りへの影響を避けるためだ。
 言霊使いは、本人が望んでしまうと、相手の意思に関係なくそれを叶えてしまう。
 しかし、自分より強いものには通じないため、真夜は信也に対し感情的になれた。
 言葉の自由を得る事がどんなに嬉しい事か。
 普段何の気なしに使っている言葉や感情が、自由に使えることはとてもありがたいことだと気づかせてくれる話だ

 彼女にも、もうひとつのエンドが用意されている。
 こちらでは、去り行く彼女に信也が追いつき、二人で行こうと誓い合う。
 信也は七海の時と同様、言葉のすべてを受け止めてやると言う。

 七海は最初に残り、真夜は最初にいなくなった。
 真夜が残ると、七海は消えた。
 まるで、信也を中心にお互いを気遣いあっているようで、とことん裏と表を連想させる。
 真夜には詠姫のような力は無いが、姫の望んだ結果が得られるならどちらでもかまわないのかもしれない。
 一見ゲームの造りとして両方をつけるのはご都合主義的のようだが、それは詠姫の織の力が働いた結果といえよう。


 問題点と考えられるのは、いずれもほとんどショートストーリーに近いレベルだという事。

 真夜以外の四人の話は、先に挙げたように真夜の話を取り囲むような構成を取った上で、個々の話に逸れていくようなスタイルを取っている。
 そのため、真夜の追いかける織の扱いがぞんざいな上、真夜はいつのまにか去っていくので、まるで「彼女の寄った街で起こった言霊による事件と恋愛話」という程度の印象になってしまい、一本のストーリーとしては非常に弱い。
 だから、女の子以外の情報を集めた上でメインである真夜の話を最初にクリアしてしまうと、他シナリオをプレイした時に物足りなさを感じてしまう。
 かろうじて七海とハコが詠姫に関わるので話に深みが出てくるが、それでも発端のお家騒動に触れないし、真夜も通りすがりの言霊使いなので、あくまでサブストーリーにしか見えない。
 本筋が真夜一人だというのなら、彼女の話をベースに章立てにまとめた方がよかったかもしれない。
 その方が、一つ一つ明かされていく出来事をスムーズに組み込めただろう。

 そして、ゲーム期間の短さ。

 このゲームの中で流れている時間は非常に短く、プロローグで信也と真夜が出会ってから事が解決するまでわずか四日しかない。
 その中での恋愛は、葵と真夜以外があまりに唐突ではないか?
 葵は以前から信也の事が好きだったから問題は無いし、真夜は自分の言葉を気にしなくていいという安心感と、信也の方から声をかけたことにより、お互いの関係がマッチしたと納得できる。
 七海も、自分をはっきり認識できる力の持ち主という、真夜に近い設定があるからまだ良いが、ハコと由梨はそれまで信也と何の関わりも持ってないので、わずか一日二日で恋愛を成就したことになる。
 ありえないとは言わないが、前記した物足りなさが手伝っている分、どうしても釈然としないのだ。

 更に、プレイ時間の短さが拍車をかける。

 音声をちゃんと聞いているなら三時間ほどかかるかもしれないが、マウスの連打で約50分もないだろう。
 選択肢が少ないこと、ゲーム内の日数が短いため引き伸ばすのが難しい事などが加味され、「もう終わったの?」という感覚すら覚える。
 これだけ短いと、ゲーム中の女の子達の恋愛が実感できなくて当然だ。
 無駄に長くするのはゲームを貶める事にしかならないが、このゲームの場合は全キャラを真夜のストーリーに乗せた上でせめて一週間以上の期間と、四時間ほどのプレイ時間で遊べるものであってほしかった。


 読み易くはあった。
 しかし、それを重視したため、個々が切れ切れになってしまったように思える。
 簡略化されすぎた事が問題となってしまった感のあるゲームだ



(総評)
 タイトルの「うたかな」とは、詠いは叶うという意味があるのだろう。
 言霊信仰を幅広く解釈したのだろうこのゲームは、和風のファンタジー色が強く出ている。

 ただ、言霊のありようには異論を唱える人もいるかもしれない。
 個人的に私は言霊を信じる方だが、意識して使えるわけでもないし、その知識すら疎い。
 しかし、例えば「後何分かかるか」とか「何時に起きよう」というのも自己暗示型の言霊と言えなくはないだろうか?
 自分が言葉を発することで、通常以上の効果を得る。
 極端な形を出せば「影技〜シャドウスキル」の武技言語や、「OBORO」全般に見られる漢字に置き換えられた神、「修羅の門」の不破との試合の最中に繰り出した「連」などがそれに当たると言えるだろう。
 そうした人の行動と関連の深いものは、やはり興味を引かれるものがあると思う。

 簡単な割に、なんとなく引かれる言霊というネタ。
 惜しむらくはそれを使いこなす魅力的なキャラクターがいなかった事か。
 真夜は、洗練されていたが使いこなす力がなく、多くの言葉を使う割に効果がないという、言霊能力者としては屈辱的な地位しか与えられてはいないし、主人公の信也は力は強いが目覚めたばかりでストレートな物言いしか出来ない。
 七海は強力な言霊使いだったのに、封印という役割をもらったために終盤にわずかにその片鱗をみせるだけ。
 このゲームの中では、最も力の強い言霊の力を持つ者は「詠い手」呼ばれ、恐らくは信也がそうなるというスタッフの思惑があったのだろうが、やはりゲーム中にそれを披露できなければひきつける力として弱いと言わざるを得ない。
 シナリオにもう少し厚みがあったらと思ってしまう。

 いろいろ足りない所もあるが、それでも久しぶりに見るしかとみよ氏のキャラクターが魅力的でいいなぁと再認識させられたから、それだけでもこのゲームをプレイした価値があると思う。


(Mr.BOO)


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