21〜TwoOne〜

 僕は…みんなを助けられるようになりたい。どんなどんなひとだって助けられる。そんな人に…なりたい…

1.メーカー名:BasiL
2.ジャンル:マルチシナリオADV
3.ストーリー完成度:B
4.H度:C
5.オススメ度:A
6.攻略難易度:A
7.その他:懐かしいタイプのゲームだった。最近こういうのなかったなぁ…。
 
(ストーリー)

 主人公:霧島拓哉は黒伸病院で外科医をしている。
 母が死んだとき誓った“どんな病気も怪我も治せる医者になる”夢。
 努力の末に医者にはなれたものの、現実には救えない患者も多い。
 1年前に入院してきた二見美魚(ふたみ・みお)もその1人だ。
 半年に及ぶ入院の末、遂に病気の正体は分からず、匙を投げる形で退院させた少女。
 その美魚が再び発作を起こして入院してきた。
 そんな苦悩の中、入院中の患者が死体で発見された。
 そして、拓哉の上司である立川医師も…。
 13年前の院長選で現院長の対立候補だった汽京楓(ききょう・かえで)が行方不明になったことと関係があるのか?
 そして、殺された2人が求めていた不老不死の妙薬“人魚の肉”とは…?


 このゲームは、主人公である拓哉が難手術を失敗して患者を死なせたところから始まる。
 “どんな病気も怪我も治せる医者”という理想にはほど遠い自分を見つめ直すところから始まるのだ。
 だが、拓哉は自分では気付いていないが、助けられなかった命以上に助けた命の方が多い。
 まぁ、医者としてこれは当たり前の話で、次々に患者を死なせるようなアブナい医者を飼っておく病院もあるまい。
 事実、拓哉が手術に失敗したこの患者は、“手術しても成功する見込みは少ないが、手術しなければ確実に死ぬ”という状態であり、失敗を恐れて誰もが後込みする中、拓哉が執刀医として名乗りを挙げたという形になっている。
 院長も、患者の家族が拓哉に感謝していたことを伝えている。
 だが、拓哉は「礼なら患者本人の口から聞きたかったです」、つまり助かった患者本人から聞きたかったと言って背を向けてしまう。
 これは高い理想を持つ者なら大抵ぶつかる壁だ。
 果てしなく遠いところにある自分の理想の姿と、現在の自分とを比較して落ち込んでいるわけだが、裏を返せば『俺にはもっと患者を救える力があるはずだ』という気負いがあるのだ。

 このゲームのテーマは、“人として、理想に向かって全力を尽くす”ことの尊さであり、いわば人間賛歌だ。
 全編を彩る謎として登場する“人魚の肉”は、当初“不老不死の妙薬”らしき物として描かれている。
 病院という人の生死の狭間を司る世界にあって、どんな重病人も重傷患者も治し、死者をも蘇らせるのではないかという“何か”の存在が、どれほど魅力的なものかは言うまでもない。
 そのため、“人魚の肉”を金儲けのタネとして欲しがる者、“人魚の肉”を最愛の人を生き返らせるために欲しがる者、“人魚の肉”によって人間でなくなった者などがひしめき合い、そんな中で拓哉は“人魚の肉”を拒絶して人間として病気と闘い続ける決意をして物語は終わる。
 その象徴として描かれているのが、正体不明の病気で死にそうな二見美魚(ふたみ・みお)だ。
 全身の機能が低下し、やがて死に至る謎の病。
 実は“人魚の肉”を守る「一ノ瀬、二見、三原」という3家系のうち、一時代に1人は必ずかかる『人魚病』と呼ばれる呪いで、厳密には病気ではないらしい。
 呪いであるために病原はなく、対症療法しかとれないのだが、拓哉はなんと対症療法を続けて危機を乗り切ってしまう。
 どうやって乗り切ったかが描かれるのは芹のエンディングだけだが、理由が説明されないだけで、ハッピーエンドである限りは誰のシナリオでも起きているイベントなのだ。
 このとき拓哉が思っていたことは、『助けたい』ということであり、そのために足掻き続ける姿こそ、このゲームで描きたかったものなのだろう。

 そして、そのために重要なのが“人魚の肉”という“謎”の描写で、このゲームでは、“人魚の肉”の正体をぼかしながら描く都合上、クリアに順番が付けられている。
 どうもエンディング回想の画面でついている順番がそうらしいが、一ノ瀬木葉(いちのせ・このは)をクリアしないと紅葉・芹(せり)がクリアできない以外は、極端な順位は付けられていないようだ。
 木葉のシナリオで一応の謎解きが終わるので、それが済むまではその先へ進むシナリオである芹や紅葉の内容には触れないようにしているということのようだ。

 というところで、鷹羽のクリア順に眺めてみよう。

(二見真魚シナリオ「生きる人、生かす人」)評価B
 このシナリオでは、美魚の姉:真魚(まお)の『妹を救いたい』という想いに触発された拓哉が奮起するという形で、拓哉が立ち直ることに重点が置かれており、犯人は判明しないまま終わる。
 で、この真魚は大変に妹想いで、美魚を治せるようになるべく医者を目指しているのだが、そんな真魚から見ると、拓哉は病人に対して真正面から治療に当たる誠意溢れる医者であり、『あんな医者になりたい』という目標でもある。
 それ故に拓哉を立ち直らせる原動力足り得たのだが、2つ問題がある。
 1つは、真魚が拓哉を立ち直らせた「私が…心の一片になるから」というセリフは、真魚シナリオ以外でも何度か登場することだ。
 拓哉が真魚に惹かれるきっかけとなる重要なセリフのはずなのに、美魚シナリオでも言われたのでは、ありがたみがなくなってしまう。
 もう1つは、このセリフの後、いきなり屋上でHしてしまうことだ。
 このとき、美魚の症状は相当やばいことになっている。
 なのに、こんなことをしていていいのだろうか?
 せめて時と場所は選んでほしい。

PS 真魚が『Kanon』の舞に似すぎているのはこの際目をつぶろう。


(三原香澄シナリオ「目覚めの向こう側」)評価D
 殺人の実行犯である香澄のシナリオだ。
 生まれる前に人魚病で死んだ兄“霞”に恋い焦がれ、霞を生き返らせるために“人魚の肉”を追い求めている。
 しかし、このシナリオでは事件は解決したように見えて解決していない。
 なぜなら、香澄に“人魚の肉”の存在を教えて犯行をそそのかした人間が誰なのかが分からないままだからだ。
 このシナリオでは、殺人犯として逮捕されたはずの香澄が1年くらい後に新人看護婦として入ってくるという奇想天外なエンディングになっており、人生とは何かという深い感慨を与えてくれる。


(橘 唯奈シナリオ「夢の先・夢への道」)評価C
 立木の恋人だった唯奈は、かつて弟を失っており、救いたかったという想いから医者を目指して挫折したという過去を持つ。
 医者という、誰にでもなれるものではない職業を目指し、医者にはなれなかったものの、医療に携わりたくて看護婦になったのだ。
 そして、その夢は、有能な医者を見付けて夢を託すという形に転化した。
 そのため、過去に数人のめぼしい男と付き合ってきており、実はこのゲーム唯一の非処女である。
 立木に近付いたのもその夢のためなのだが、唯奈自身はそれを『男を利用した』と称している。
 これは彼女の理想に対する潔癖さが言わせているものだと思う。
 結局、立木は医者としての理想など持っておらず、金と地位を求める腹黒い男だということを知った唯奈が幻滅していたところで今回の事件が起こってしまった。
 そんなときに拓哉が医者を目指した理由を聞いて“拓哉こそ夢を託せる医者”とコロッと参ってしまった。
 多分、唯奈は“どんな怪我人も病人も治せる医者”が理想の男性像になってしまったのだ。
 汽京紅葉という有能な女医がいるにもかかわらず、男性医師にしか興味を示していないのは、そういうことだろう。

 このシナリオでは、唯奈の口から『そんな不純な動機で拓哉に近付くな』と怒られたことが語られているが、芹の真意はそれだけではないことが後に分かる。
 このルートでは見ることができないが、芹が唯奈に噛みついているシーンを見ると、芹は『今回の件に拓哉を巻き込まないでください』と言っているのだ。
 『今回の件』とは、“人魚の肉がらみの話”という意味だ。
 芹が何か真相に迫るネタを持っていることは、ここで分かる。
 鷹羽としては、上記の理由から、唯奈が拓哉に惹かれたことに文句はないし、拓哉が唯奈の過去を知って惹かれてもいいと思う。
 ただ、それで失恋することになる芹の反応が見たかった。
 それと、唯奈は胸を刺されて死にかけたのに、意識が戻るなりHしたら、やっぱ普通は死ぬんじゃない?
 特に、おっぱいいじっちゃ駄目よん♪


(二見美魚「産まれてきたのだから」シナリオ)評価D
 病人本人であるせいか、非常に影が薄い。
 自分が“人魚病”であることを知っているため、死を覚悟してはいるが、やはりそれでも死の恐怖に押しつぶされて拓哉に救いを求めている。
 真魚が拓哉を好きなことも知った上で「お姉ちゃんへの裏切りだって分かってるけど」と言いながら、それでも温もりを求めずにはいられない。
 “元々真魚が拓哉を好きだから深入りしないようにしていた想いが暴走した”と思えば、納得できる展開だ。
 しかも、拓哉自身は真魚の想いに気付いていないから、浮気でも裏切りでもない。
 いきなり抱いてしまう展開には軽薄さを感じるけど。

 ただ、拓哉はいいとしても真魚の気持ちはどうなるんだろう?
 美魚が助かったからよしとできるんだろうか?
 どうもそう簡単には割り切れないと思うのだが、真魚に変化は見られない。
 相変わらず医者を目指しているし、ねぇ?


(一ノ瀬木葉シナリオ「限りある永遠を」)評価B
 このシナリオで、初めて真相の一部に触れることができる。
 “人魚の肉”を食べたことで、不老不死になってしまった女。
 周囲の人間とは違う時間を生きるため、いずれ1人になってしまうことが約束されている木葉は、その時の支えとして、“かつて愛し合った男”という思い出を作ることにした。
 このシナリオでは、“人魚の肉”の効能についての説明を中心としているため、謎解きは紅葉のシナリオに任せている。
 逆に言えば、このシナリオの存在意義は“木葉の悲しみを拓哉が知る”ことと“芹シナリオの露払い”でしかない。
 実は、木葉の存在がこのゲームの根本なのだが…。


(汽京紅葉シナリオ「21〜二人で一つの道を〜」)評価A
 事件の真相が全て分かるシナリオであり、解決編でもある。
 人魚病でいつ死ぬかも知れなかった紅葉は、母である楓の復讐の道具として“人魚の肉”を食べさせられ、長い寿命と強い回復力を持ってしまった。
 それだけでも辛かったのに、妹の木葉は、紅葉を1人にしないようにと“人魚の肉”を食べ、不老不死になってしまう。
 紅葉は、木葉を犠牲にしてしまったために自分の使命を放棄できなくなってしまった。
 なぜなら、完全な不老になってしまった木葉は、紅葉が死んだ後も1人で生き続けなければならないからだ。
 木葉をそんな身体にしてしまった責任を感じ続けるため、紅葉は自分の心に負担をかけ続ける道を選んだ。

 紅葉は恐らく、香澄を利用し、立木に“人魚の肉”のことを吹き込んで院長と対立させて自滅させ、残った者を香澄に殺させるつもりだったのだろう。
 そして、香澄をスケープゴートにするつもりだったはずだ。
 そして、自分自身は逃げおおせて『私は極悪人』との自責の念を持ち続けるつもりだったのだ。

 鷹羽は、この手のゲームで犯罪者がのうのうと暮らしているエンディングをとても嫌う。
 にもかかわらずこのシナリオの評価が高いのは、“紅葉は木葉と生き続けることで罪を贖うつもりだから”だ。
 実際のところ、紅葉は心臓を破壊すれば死ねる。
 高橋留美子の『人魚の森』シリーズとは違い、このゲームでは“人魚の肉”を食べた人間の回復力は大したことはないのだ。
 だから紅葉は自殺もできるし、殺人犯として絞首刑で死ぬこともできる。
 だが、それでは木葉が残されてしまう。
 紅葉は木葉への償いのために、自分が生きていられる限り一緒に生きていくことを枷としているのだ。
 シナリオタイトルである『二人で一つの道を』というのは、そういうことだ。
 拓哉のことにしても、愛する男よりはるかに長生きしてしまうから、一歩身を引いて見守ることにする。
 抱かれたことでより想いを強くしながら、それでも付き合わないことを自分への罰として。
 拓哉の気持ちの行き場がないことが問題点なのだが、紅葉には木葉への罪悪感が勝っているからあまり気にならないのだ。


(榊 芹シナリオ「21〜二つに一つ〜」)評価A
 事件は全く解決しないが、こちらがメインシナリオだろう。
 医者を目指した拓哉の原点からずっと側で支え続けたパートナーである芹の想いが中心になったシナリオだ。
 だが、それだけでは謎の解明には役に立たないし(現に香澄は捕まっていない)、拓哉の奮闘が盛り上がらないため、“人魚の肉”の3家系の裏話という形で“拓哉に人魚の肉を使う資格があること”を物語の中心とした。

 実は、芹は数年前に“人魚の肉”の存在と効能を知っており、その在処さえ知っていた。
 拓哉の母は、自分の死によって息子が医者を目指すこと、そして芹がそれを支えるべく看護婦になることを見抜いて芹の父に託していたのだ。
 芹としては、拓哉が医者として揺るぎない自信を持つまで内緒にしておくつもりだったのだろうが、“人魚の肉”絡みの事件に拓哉が巻き込まれてしまったため、やむを得ず披露する形になる。
 “人魚の肉”という餌をちらつかせておいて、それでも人間として足掻くことを拓哉が選び、芹がそれに付いていくという形で、拓哉の成長物語になっているのだ。
 “自分の無力さへの失望から始まった物語”は、「助けたい、そう思った人を助けた。助けられた」という実感を伴った信念を生んで1つの区切りを付けた。
 「ばーか。人を治すのは人に決まってるだろ」という言葉は、その信念の表れだ。

 ただし、拓哉が“人魚の肉”の不完全さを知った上で『“人魚の肉”を使わない』道を選んだのでは物語が成立しないため、4家系の話では、不老不死になった妻の精神が分裂したというような話は登場しない。
 また、芹に『ボクは拓哉がどちらの道を選んでもついていくつもりだけどね』という告白をさせることで、芹を“人であり続けることを選んだ特典”にもしなかった。
 あくまで拓哉が自ら選んだことなのだ。

美魚の手術で、止まった心臓を電気ショックで動かし、血圧が低下すれば昇圧剤で上げるという対症療法で危機を乗り切ったことについて、紅葉が感慨深げにしているのが嬉しい。
 紅葉と木の葉が“人魚の肉”によって人間でなくなっていることに拓哉は気付いているからだ。
 『二つに一つ』という選択肢、つまり 『化け物にしてでも助けるか』『人間として力不足で死なせるか』という二者択一の問題に、『人として努力して助ける』という第三の選択肢を作ったことこそ、紅葉や木葉が再三言っていた“前に向かって生きていける”のが人間の力ということを端的に示しているからだ。
 『21』というゲームタイトルを冠したシナリオが2つあっても、やはり『二者択一』を意味する芹のシナリオの方がメインシナリオなのだろう。


 さて、このゲームで重要なキーワードとなっている“人魚の肉”についてまとめてみよう。
 “人魚の肉”とは、実は『人間の肉』だ。
 遙か昔、美しく回復力の強い身体を持った女が、男達に襲われて(多分陵辱されて)殺された。
 そして、男達はその女を『人魚』と称してその肉を食べたのだが、その後、男達には女の特質だった強い生命力が宿った。
 そして、“人魚の肉”とは、“人魚の肉”の肉を食って自分も人魚になった人間の肉なのだ。
 “人魚の肉”を食った人間は、2つのパターンに別れる。
 1つは、回復力が強くなり、老化速度が落ちるという正の効果を受ける者、もう1つは老化が止まる代わりに精神に影響を受ける者だ。
 前者が紅葉であり、後者が木葉だ。
 これは体質によるものらしいが、木葉の場合、本来の人格のほかに分裂した別の人格が生まれてしまった。
 この点については、上記のとおり、芹の話の中では触れられていないため、木葉の場合が特殊なのか通常は分裂してしまうのかがはっきりとしない。
 まぁ、木葉が特別だったとしても“人魚の肉”は副作用の恐れのある薬ということになるのだが。

 拓哉の目的が“真犯人の発見・処罰”ではなく、“苦しんでいる病人・怪我人を助けたい”というベクトルで動いているため、事件が解決しなくてもエンディングとなってしまうが、これはこれでいいような気がする。

 
(総評)
 面白いゲームだった。そして、懐かしい匂いのするゲームだった。
 DOSゲームの傑作『野々村病院の人々』や『猟奇の檻』を彷彿とさせる限定空間内での愛憎劇と、移動した先で仕入れた情報の違いによる条件分岐システムを採用している。
 最近の恋愛系ゲームにありがちな“会い続けて好感度の上がるセリフを選ぶ”システムではなく、“いつ、誰に会い、何を聞いたか”による情報量の違いにより、その後の流れが変化していくシステムだ。
 このシステムは情報の制御が難しいが、1つのストーリーラインで全ての女の子に絡む物語を描くことができる。
 また、各キャラクターについて、『信頼』『平常』『疑惑』の3つの心理状態が選べ、その状態に応じてテキストが変わるなど、プレイヤーの疑惑が主人公の疑惑に直結するというシステムを取っているのも興味深い。

 システム面でも、フローチャートの形で表示できるため、今現在どういうルートを進んでいるのか分かりやすく、しかも■で表される分岐点では、選択肢の左側が下、右側が上のチャートに進む対応になっているため、それさえ気付けば好きなルートに進むことができる。
 実は、◆で表示される分岐点がこのゲームのキモなのだ。
 ここに至るまでにどんな情報を持っているか、或いはどのキャラに対してどういう印象を持っているかが分岐のポイントであり、それに応じた分岐をすることになるのだが、それがこのゲームを単なる恋シュミでなくしている。
 残念ながら、『信頼』『疑惑』などのパラメータは、時々しか威力を発揮できないため、あまり意味をなしていないが、これをもう少し工夫すれば、面白いものが作れそうな気がする。

 ただ、恋シュミ的なシステムでない故の弊害も少しある。
 拓哉が寄ってきた女の子と自動的にくっついてしまうため、ダボハゼ的な印象が強いのもその1つだ。
 達也に最初から恋愛感情を持っているのは、芹・紅葉・真魚の3人で、残る木葉・香澄・唯奈・美魚は、この事件での出来事が原因で拓哉を好きになっている。
 特に木葉・香澄は、今回初めて会ったのであり、当然拓哉が何らかの感情を持っていたことはありえない。
 話の流れ上、拓哉は芹が側にいることもあって、過去に女の子と付き合った経験はないらしい。
 芹や紅葉に好意を寄せられていることに気付いていなかったようだし、そうとう奥手でもあるだろう。
 そうなると、いきなり迫られて暴走し、そのままはまってしまっただけとも思える。
 ほかの部分でまじめにものを考えている拓哉だからこそ、この流されているかのような印象はまずいのではなかろうか。
 それとも、こういうのもリアリティなのかなぁ?

 それと、失恋した側の描写が全くないのもマイナスだろう。
 美魚シナリオで、真魚は美魚に拓哉を横取りされたようなものなのに、何も反応していないわけだが、こんな言語道断なパターン以外にも十分問題がある。
 芹はほとんど公認カップル並の存在で、物語冒頭で告白(冗談にしてしまったが)までありながら、おまけの狭川翠シナリオ以外ではふられた悲しみらしきものを見せない。
 特に、唯奈に奪われたときには相当なショックがあるはずなのに、全く描かれない。
 確かに物語のどこに入れても流れを寸断しかねないのだが、さりげなくその点に触れるとかしてほしかったなぁ。

 それ以外については、あまり問題のないゲームだったと思う。
 たまに会ったことのある人を「初めて会った」などというようなミスがあるのだが、情報量の分岐の割には少ないし。
 OPもいいできだ。
 思わせぶりなセリフが次々と表示されるOPは興味を煽ってくれるし、EDもしっとりとした曲調でうまくゲームをまとめてくれる。
 EDについては、イントロが1分もあるのと歌詞が本編とリンクしないことに不満はあるが、概ねいいできだ。

 あと、鷹羽的には、キャラクターの名前の大部分が木の名前からつけてあるという拘りも好きだ。
 しかも名字と名前両方が木という強者も1人ではない。
 違う字を充てているのもあるが、柿谷、立木、橘、榊、芹、汽京(桔梗)、楓、紅葉、木葉、志樹(四木)、という具合だ。

 シナリオ的には相当にバランスが悪い。
 木葉・紅葉・芹以外ではストーリーにヒロインがうまく噛んでいなかったり、描写不足のままハッピーエンドになっていたりするし、Hシーンも唐突だ。
 けれど、それは、恋シュミ系の“全員平等にヒロイン”というシステムでないせいだ。
 事件を中心に物語が展開する以上、事件の核心に触れられないキャラは深くからめないのだ。
 若干ストーリーが独善に走ったきらいもあるが、鷹羽的にはこういう大上段なテーマの持っていきかたは大好きだ。
 いいゲームだよ、うん。

(鷹羽飛鳥)

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