TWIN WAY 一瞬の時の中で…

 「人は人、自分は自分でしょう」
 ネット友達の言葉が、迷いを断ってくれた。
 誰も認めてくれなくても、自分とあの人は知っている。
 
1.メーカー名:Studio e・go!
2.ジャンル:マルチエンディング恋愛ADV
3.ストーリー完成度:D
4.H度:B
5.オススメ度:D
6.攻略難易度:E
7.その他:グラフィックは綺麗なんだ、グラフィックは。
 
(ストーリー)
 主人公:高田僚は、南津学園2年で空手部員。
 この空手部は、文武両道の兄:高田俊郎が創設した部であり、僚は常に兄と比較されることでしか認識されなかった。
 「あの高田の弟」というレッテルを貼られたままでいることに耐えられず、空手部を辞めようと思った僚だったが、メール友達のホラ男爵から、「人は人、自分は自分でしょう」と言われ、思いとどまった。
 そして、対抗試合が近付いたある日…。
 
 この作品は、各シナリオ毎に違う顔を持っている。
 基本となるのは、7月に行われる北天高校との対抗試合での惜敗と9月の代表決定戦での雪辱戦だが、美希・かすみ・綾乃のシナリオでは、途中からストーリーがかなり変わってしまうため、9月の決定戦が出てこない。
 僚の視点が、空手以外に向いてしまうためだ。
 ただ、僚のキャラクターが一貫したものであるため、空手以上の目的ができただけとも言え、さして気にはならない。
 元々僚が欲していたのは「高田の弟」ではない自分を見てくれる人なので、そういう人が現れれば、それでいいとも言えるのだ。
 それでは、いつものとおり寸評から。
 
(葵久美シナリオ)評価B’
 1人暮らしをしている僚の食生活を心配して、弁当を作ってくれるようになった幼なじみの久美。
 しかし対抗試合の前日、久美が俊郎と一緒に仲良く買い物をしている姿を見てしまった僚は、気付いてしまった久美への想いや、俊郎に対する劣等感から集中力を欠き、試合にボロ負けしてしまった。
 久美が俊郎から僚の好物を聞いて弁当を作っていたことを知った僚は、久美に告白し、付き合うようになる。
 僚は俊郎への劣等感をなくすため、9月の決定戦で、北天の選手を5人抜きすることを決意した。
 
 久美と俊郎の仲を疑った時に、俊郎に対するどうしようもない劣等感に気付いた僚が、兄を超えたと感じるために選んだ道が「兄が果たせなかった、(判定勝ちを含まない)北天5人抜き」であるというのは、少々大人げない。
 名門北天の選手5人に一本或いは優勢勝ちを収めるというのは、どだい無理難題に属することであり、それが出来なければ兄を超えられないというのであれば、その可能性はほとんどないからだ。
 だからこそ、なしえた時の喜びは大きいとも言えるが、それにしても失敗した時のフォローのきかなさを考えると、無茶と言うしかない。
 ただ、僚が空手を始めた理由“どんなヤツからも久美を守り抜くため”は、このシナリオでしか語られないので、シナリオとしての重要度は高い。
 僚は、俊郎の存在とは無関係に空手を始めたのだ。
 まあ久美は、最初から好き好き光線出しまくりだし、僚もそれをある程度受け入れているので、付き合うことに一番違和感がないシナリオだった。
 幼なじみ、食事を作ってくれる、初H失敗と、なんだかどこかで見たことのあるような展開から、アレとは違う物語に仕立てたことは褒めてつかわす。
 
(濱中絵里香シナリオ)評価C
 転校してきた絵里香は、ネット友達のホラ男爵だった。
 ある日、友人の藤本が絵里香に告白しているのを見た僚は、嫉妬している自分に気付く。
 そしてまた絵里香も…。
 
 ラブコメ。
 この一言に尽きる。
 2人がお互いの正体(メール友達)に気付いて何でも話せる相手になったことから、くっついてしまうことは、すごく納得できる。
 ただ、転校がちなせいで友達をあまり作らない絵里香が、僚と付き合った後にまた転校することになったのだから、それをこそメインテーマにすべきだったんじゃないだろうか。
 ぬるま湯の日々が1ヶ月以上続いた後、最後の1週間くらいの間で一気に引越の話が出てくるものだから、唐突すぎる感が否めない。
 転校するはずが取りやめてしまったというのも、御都合すぎる。
 もう1つ欠点を挙げると、絵里香の引越が発表された後、藤本の反応の描写が一定されてない。
 目の前で聞いてたはずなのに、「何故教えてくれなかった」はないだろう。
 君が話を聞いてないのが悪いんだよと言うしかない。
 とてもこのシナリオ専用に書かれたものとは思えない流れなので、調整不足だったのだろう。
 
(高峯綾乃シナリオ)評価D
 空手部の後輩:中山佐由美の従姉妹の綾乃の、どこか儚げな様子に惹かれた僚は、綾乃とその両親に頼まれ、1人で避暑に行く綾乃に同行することになった。
 そのままなし崩しに結ばれた2人だったが、実は綾乃は再生不良性貧血で、骨髄移植を受けなければ、2学期いっぱい持たないだろうと宣告されていた。
 僚はドナーを募りまくったが、結局僚自身が適合し、その骨髄を移植された綾乃は元気になった。
 
 あ…。
 内容全部書いちゃった…
 内容、これだけ。
 ホントに。
 僚が適合するだろうことは、骨髄移植云々を言い出した時から分かり切っていたし、何のひねりもない。
 佐由美と綾乃の漫才が面白かったくらいで、他に見るところなし。
 対抗試合も関係なかった。
 
(中山佐由美シナリオ)評価D(ただしオチを除けばA’)
 空手部の後輩:佐由美は、“高田俊郎の弟”僚と練習をする内、僚が強くなるために努力を重ねていることを知った。
 しかし対抗試合で好成績を挙げた僚に、顧問から掛けられた言葉は「だが、兄貴にはまだ及ばないな」だった。
 また、他校の生徒からも「あの高田の弟」という形でマークされていた。
 怒る佐由美に向かって僚は言う。
 「でも、俺が努力していることは俺自身が知っている」と。
 そんな僚に佐由美は惹かれていったが、従姉妹で親友の綾乃も、僚を好きなことを知っているために…。
 
 佐由美が徐々に僚に惹かれていくのを、丁寧に描いている。
 好きになる過程を描くという点から言えば、このゲーム中最高のシナリオだ。
 佐由美自身が当初は僚のことを「高田俊郎の弟」として見ていたのが、やがて僚自身の並々ならぬ努力を知って、僚を「高田の弟」と見る人に怒りを感じるようになる。
 かつての自分と重ね合わせての怒りでもあるのだけど、その葛藤から、「俺が努力していることは俺自身が知っている」と超然としている僚に惹かれたのも、すごく納得できる。
 そして僚と付き合うようになってから、綾乃を裏切ってしまったことを悔やむ。
 だからといって、僚と別れることなどできない。
 元気のない自分を心配してくれる綾乃に平手打ちをしてしまった翌日、綾乃は体調を崩して入院してしまった。
 ますます落ち込む佐由美…。
 
 ここまでは、このゲーム最高のシナリオだった。
 しかし、惜しむらくはラストがまずい
 綾乃が僚を好きだというのが、佐由美の勘違いなのは構わない。
 佐由美にとっては真実だったのだから。
 しかしラストシーンで、僚の手を取って元気に走り回る綾乃はいただけない。
 エンディングは9月、すなわち綾乃シナリオでは綾乃の病状がかなり悪化して入院していた時期だ。
 しかし、このシナリオでは僚はドナー登録をしていない。
 僚の代わりのドナーが見付かるくらいなら、綾乃はさっさと直っていただろう。
 骨髄移植をしていない以上、綾乃は助からないはずなのだ。
 これは、僚が誰と付き合うかという違いだけで設定が変わったという、鷹羽が最も嫌うパターンだ。
 この1シーンのためだけに、評価が暴落してしまったのは悲しい。
 
(三村かすみシナリオ)評価C
 ひょんなことから、恐ろしくケンカの強いかすみと知り合った僚は、何度か顔を合わせているうちに仲良くなった。
 北天の不良達から狙われ続けるかすみだが、15人がかりでもかすみはものともしない。
 ある日、刃物がらみのケンカからかすり傷を負ったかすみを叱った事から、僚はやがてかすみと付き合うことになった。
 だが、北天の不良が人質を取ってかすみを呼び出したため…。
 
 このシナリオも、対抗試合が関係ない。
 しかも、僚を遙かに上回る強さを持ったかすみがヒロインなので、僚は終始弱い印象を受ける。
 かすみ以上に強く、全て見透かした上で見守っているかすみの父ちゃんなど魅力的なキャラクターもいるのに、シナリオとしての評価は可もなく不可もなくといったところ。
 大乱闘をやらかして退学&停学になったかすみと僚を救うための方策が、“喧嘩が部活”という喧嘩部(正式名:バーリトゥード格闘術研究会)の設立というとんでもない力業なのが笑える。
 らしくていいと言えばいいんだが。
 
(北小路美希シナリオ)評価B’
 留学から帰ってきた中学時代の同級生で、北小路財閥のお嬢様:美希と付き合い始めた僚は、美希を巡って彼女の父と戦い、なすすべもなく破れてしまった。
 自分に勝てれば美希との交際を認めてやると言う父親に勝つため、俊郎に特訓して貰う僚。
 そして…。
 
 CGモードの順番などを見ると、どうやら美希がメインヒロインらしい。
 実際、タイトルである『TWIN WAY』にまつわる内容は、ここしかない。
 美希が僚に告白した時の「自分の道は自分で決めたい。そして…その道は、いつも僚君のすぐとなりにあって欲しいの」という言葉が、このゲームを体現するものだろう。
 演出的にかなりエキセントリックな感は否めないが、好きな娘を守れるだけの力が欲しいという僚の想いは、かつて久美を守るために空手を始めた動機と一致するものであり、“空手の試合”などというレベルを超えた自分自身の戦いを描いたシナリオと言えるし、勝つまでは美希と会わないという筋の通し方も好感が持てる。
 美希の父との勝負も、一本取ったら勝ちなどというものではなく、動けなくなるか「まいった」と言った方の負けというものだ。
 美希の父は、僚の根性と真剣さに負けを認めてやったのだ。
 まあ、勝った途端に僚と同棲すると言い出す美希の突拍子なさなど頭の痛い部分も多かったが、なかなか良かったと言っていいだろう。
 
 
 このように、どのシナリオを取っても薄っぺらいのが特徴だ。
 何故かと言えば、ヒロインが僚を好きになる過程は描けているのに、僚がヒロインを好きになる過程が描けていないからだ。
 告白してきたヒロインにいとも簡単にOKを出して、後はH三昧というのは、やはり薄すぎるだろう。
 俊郎に対する僚の一方的な劣等感を、どのように払拭していくが重要だったろうに、それをおろそかにしてしまったのが敗因だった。
 
 
(総論)
 システム的には、異様に親切と言える。
 学校のどこに行けば誰がいるか判るように、女の子がアイコン表示されている(PS版のTo Heartと同じだね)し、毎回そこに行ってさえいれば必ず解けるし、選択肢による好感度の上下といったものもまったくない。
 一歩間違えばデジコミ以外の何者でもない…と言うより、どこがデジコミでないのか聞きたいくらいなのだが、好感度によって表示が変わる女の子のアイコンが可愛いので許す。
 OPもなかなか良かったし、声優も邪魔にならないレベルだった。
 でも、CGの8割近くがHシーンで占められているのは、かなりつまらない。
 それがまた、服を着てる着てないという違いも1枚に数えられているため、CGコンプリートを目指すと、Hシーンばかり繰り返すという「作業」をせざるを得ない。
 一応、Hシーン鑑賞モードでもCGの回収が出来るが、そうなるとますますCG枚数をHシーンに頼った意味がない。
 キャラの顔は全部同じだし、デッサンは狂いまくってるし、どうしよう、これ?


(鷹羽飛鳥)
 
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