終ノ空 〜ツイノソラ〜
世界の破滅の時に現れるという「終ノ空」。
登場する四人の主人公たちは、果たして何を見、何を知るのか?
そしてそれは、真実か幻なのか…
1.メーカー名:ケロQ
2.ジャンル:ADV
3.ストーリー完成度:悪いけど、久々のE
4.H度:A
5.オススメ度:キャラデザが好きな人もいると思うので、あえてD
6.攻略難易度:E
7.その他:この話の意味がわかった方、頭の悪い俺っちにそれを教えて下さい。
本ッ当、俺っちには理解出来ませんでした。
(ストーリー)
水上行人は、その無骨な外見とは裏腹に読書を好む一高校生。
近々訪れるという世界の終末というものを、馬鹿馬鹿しいと考えつつも、それなりの興味も持っている。
終末が近づく7月、いつもの様に幼なじみの若槻琴美と一緒に登校する行人。
だが学校に行った二人を待っていたのは、クラスメート高島ざくろの自殺の話だった。
落ち込む琴美に、妙な雰囲気のクラスメート。
そんな異常な空気で数日を過ごした時、クラスの中でも目立たない存在だった間宮卓司が、授業中に突然、この世界の終末を説き始めた!
思えば、「ノストラダムスの大予言」の恐怖の大王が降臨する予定であった1999年、このHゲーム業界も終末を題材にした作品がいくつか発売された。
この「終ノ空」も、そんな作品の一つだ。
妙にウケ線の絵柄に、徹底的にシュールな画面雰囲気。
四人もの視点を利用したフォースビューシステム。
結構、期待していたのだが…
あーあ、だまされちゃった。
だが、そんなにお粗末なシロモノなら、わざわざ本評論で取り上げるまでもない。
「選ばれなかったソフト」のコーナーに回してしまえばいいだけの事だ。
ここで取り上げた以上は、それなりに良くなる可能性も秘めている。
それを踏まえた上で、あえて評論…その大半は苦言になるが…をさせてもらおう。
まず、制作者側に考えて欲しい事が「自分の表現したいものを作る」という事と「それをプレイヤーに理解させる」事は、両立していなくてはならない、という事だ。
第一視点である行人と、第二視点の琴美に関してはさしたる問題はないのだが、とにかく理解不能なのが第三視点のざくろと、第四視点の卓司のエピソード、そしてエンディング編ともいうべきファイナルエピソード。
特に、第三視点のざくろのシナリオはヒドい。
このシナリオがあるおかげで、この「終ノ空」という作品は理解不能なものになってしまったと言っても過言ではあるまい。
この「終ノ空」という物語の大元は、ざくろの死からスタートしている。
4シナリオあるうちの時間観点の中で一番過去のエピソードでもある訳だし、そのエピソード内で、既に「終ノ空」という概念(このシナリオ内では「ビッグハザード」と表現されている)は登場している。
だが、このシナリオでのストーリーがあまりに中途半端…というよりは、意味不明すぎるのだ。
それは、このシナリオの中核を担う前世の戦士という設定が分かりづらいからだと思う。
どうも、話の最後に出てくるスパイラルマタイという儀式に対して、恐怖をあらわにして泣き叫ぶざくろ以外の女の子を見ていると、あの前世の戦士というのは狂言まわしにしか俺っちには思えない。
全編通して登場する音無彩名も、これに対しては「ざくろの思いこみみたいなもの」という様な主旨の事を言っている。
しかし、それでは何故亜由美が小沢の死を予言して、なおかつざくろがかつての自分たちの仲間だという事まで見抜けたのか全く理解できない。
もちろん宇佐美や亜由美が、ハナからざくろを巻き込むつもりで小沢を死に追いやった完全な自作自演だったというのならまだ話は分かるのだが、そうすると今度は、何故ざくろが亜由美とシンクロして、彼女の過去を視る事が出来たのかが全然分からなくなってしまう。
前世の戦士という設定が、嘘か誠かという説明が全くなされない。
そして、結局ざくろ達三人は学校の屋上から飛び降り自殺しました、おわり…ではね…
どう贔屓目に解釈しても、設定に矛盾が出てしまうじゃないか。
上でも書いた様に、このシナリオは作品内で最も重要な意味を持っていると俺っちは思う。
ざくろの死がなければ、結局卓司が狂気に取りつかれる事もなかった訳だし、それさえなければ、琴美が事件に巻き込まれる事もない。
そして琴美の件がなければ、行人の身にも何も起きなかったはずだ。
すべてのシナリオの起点となっているはずのざくろシナリオが全く意味不明なのは、この作品の致命的とも言えるマイナスだ。
意味不明と言えば、全てのシナリオに登場する事になる謎のキャラクター音無彩名も理解不能な要素の一つだ。
確かに、ある程度の予測はつく。
俺っち的には「行人の精神的観点がそのまま具現化したもう一つの行人」か、あるいは「琴美の持つ精神的観点、もしくはもう一つの側面の具現化」またはそれの混合体というイメージだ(どちらかと言えば後者かなあ)。
だが、これはあくまでもエンディングを見た時にはじめて抱いた、俺っちの自身の感想。
ストーリー追うだけじゃ、こんなの分かんねーって。
結局、行人とは訳の分からない禅問答をするだけだし、琴美とざくろには全てを知っているそぶりで忠告するだけ、卓司にも意味不明な言葉を投げかけるだけの存在。
これじゃあね。
ここまで書いていてふと気付いたんだけど、上のこんな短い文章内で、一体何回「意味不明」「理解不能」の類の言葉を書いただろう?
それ程までにこの作品は分かりづらく、故にのめりこめない。
ここまで理解不能だと、想像力とかそういうものが入り込む余地なんかはないと思うんだけど…ってイカン、また「理解不能」っていう表現使っちった!
と、とにかくそういう事!
なーんか、某エヴァソゲリオソの悪影響をモロ受けしている様な気がしてならないんだが。
想像の余地を残して余韻に浸れる話と、なんでもかんでも謎にしてボヤかすだけで終わってしまう話っていうのは、全然違うんだってば!
さて、何か言い足りない様な気もするが、ストーリーの文句はこれぐらいにして他の欠点なども。
まず、どうしようもない欠点として、システムまわりの使いにくさがある。
これは、画面表示の切り替えのマズさが原因だ。
この作品はセリフの部分が下のウインドウに表示され、情景描写や心理描写等は画面にマスクをかけて少し薄暗い画面にした後、ヴィジュアルノベル形式でテキストを表示するという形式を取っている。
だが、この画面切り替えが異常に遅く、クリックで切り替えを早くは出来るのだが、レスポンスが非常に悪い。
これが頻繁に行われる上、下手にクリック連打しようものなら画面が切り替わった瞬間にメッセージを数行飛ばしてしまいかねない。
一応メッセージスキップがあるにはあるのだが、画面切り替えの場所はこれの影響を全く受けないし、大体、右クリックでもう一回オプションメニューを表示しモード切替しないとオフに出来ないという、とんでもないシロモノだ。
おまけに、起動時やCG画面の読み込みも長い。
かつて、あまり注目されなかったシステムまわりの問題をリーフのヴィジュアルノベルシリーズが大幅に改善し、他のメーカーも多くがこれに追随した。
今では程度の差こそあれ、このシステムの問題というのはかなり洗練されてきていると言っていいと思う。
そしてそれに慣れ親しんだユーザーが、こういう不備(とあえて言い切ろう)のある作品をやれば、やはりあまりいい印象は持たないだろう。
それを度外視出来るほど、突出した何かを持っていた作品ではないんだからさ。
さて、最後に絵の事についても、触れておこうか。
あえて絵がぷーだとか、そういう事を言うつもりはさらさらないんだけど、えーと、確か原画の人は三人だっけ?
あまりにもタイプの違う絵柄が、同一作品に混在するのはちょっとねー。
確かに、原画が数人いる作品っていうのは多々ある。
だけど、もしそうならばある程度の工夫が必要だと思うんだよね。
例えば「Piaキャロ1」は原画マンが四人もいるんだけど、みな似た様な絵柄だという事もあってそんなに違和感がないし、アリスソフトのRPGなんかはメイン以外の原画の人は、モンスターデザインだったりとか、そういう努力を怠ってはいない。
まあ、何にせよ細やかな配慮に気を配る事が、今後の課題だろうね。
(総評)
はっきり言って酷評だ。
元来俺っちの評論する時の姿勢というのは、はっきり言って甘目なのだが、3.ストーリー完成度で“E”つけたのって、本当に久しぶりじゃないかな?
テーマは何となく分かるんだよね。
確か、古代中国の思想家荘周の著書「荘子」の中にこんなのがあったと記憶している。
荘周が野原で気持ちよく昼寝している時、彼は一匹の蝶となり、何の邪魔もなく楽しく空を飛んでいた。
やがて荘周は目が覚めるのだが、そこで彼はこう考える。
「私が蝶になった夢を見ていたのか、それとも蝶が私になった夢を見ているのか。誰がそれを知りうる事が出来るのか?」と……
要するに、どこまでが現実でどこまでが幻(夢)なのか、そんな事は誰にも分からない事なのではないか? というテーマを、この「終ノ空」は語りかったのだろう。
例え終末がやってこないで、これからも今まで通りの平穏な日々が続いていたとしても、実は世界はとっくに滅びていて、我々は幻の世界の上で過ごしているだけなのかもしれないんだよ、という物語を描きたかったのだろう。
しかし、それを語るには余りにも説明不足が過ぎた。
練ればちゃんとした奥深いストーリーに成り得たかもしれないと思うと、非常に残念だ。
ただ、シナリオライターの方はそれなりに見識が深そうだし、この作品を作る段階でかなりの文献を読みあさったのだろうなあ、という事も匂ってはきた。
何より、テーマを持って作品づくりを行った努力は買ってあげたい。
次回作に向けて、更なる精進を望みたいと思う。
(梨瀬成)