Trois 〜トロワ
 3人のヒロインによる、3つの異なるストーリー。
 とりあえずOP見とけ(笑)。

1.メーカー名:Remain
2.ジャンル:ADV
3.ストーリー完成度:C
4.H度:C
5.オススメ度:C
6.攻略難易度:D
7.その他:俺っち、コレでパソゲー数字三部作を全てクリアしたぞ! え? 何の事か分からないって? ヒントは順に英語、ドイツ語、フランス語(笑)。


(ストーリー)
 主人公・蓮沼治樹は、乱暴者の幼なじみ・天沼あおばに「愛情表現」と銘打ったプロレス技をかけられるのに頭を悩ませている以外は、ごく普通の高校生だ。
 あおばと同級生の中川ななりや、かつての後輩で今は近くのレストラン「ロムレ」でバイトをしている宮前みらい、そして妹のはるのらとともに和気藹々な生活を送っている。
 しかし、そんな平和な日々も、ある日唐突に終わりを告げる。
 あおば、ななり、みらいの3人はそれぞれ「特別な力」を宿していたのだ。
 治樹の身辺は急変する事になる…3人の秘密を知ってしまった時から…


 この作品は3人のヒロインを用意し、そこから全く違う展開の「超能力編」「魔女編」「ファンタジー編」3つのシナリオを選んでプレイするという、少し変わったシステムをとっている。
 そして、それぞれがまったくベクトルの違うシナリオを展開しているため、ストーリー的には非常にちぐはぐな印象を受けるのだが、どのシナリオにも共通で登場するキャラクターたちの性格が意外としっかり設定されており、それが各シナリオ共通で一貫されているため、イメージ的には統一されている印象を受けるという、本当に微妙なバランス取りで成立している作品だ。
 傍若無人だが主人公にベタ惚れなあおば、ドジだが一途なななり、いつも謙虚なみらい。
 彼女らの性格は、例えば全滅というとんでもない結末を迎える「魔女編」で彼女らがどういう最後を迎えるかでも良く表れている。
 主人公を救うために、周りの人間を歯牙にもかけず虐殺するあおば。
 やはり主人公を救うために、癒しの力を自己を犠牲にしてまで使ってしまうななり。
 これ以上、人を巻き込みたくない故に自らを氷の柱に封印してしまうみらい。

 こういう性格通りのキャラの動きを、まったく質の違うシナリオで押し通したのは見事だと思う。
 が、反面皆ステロタイプな性格なのが、ちょっと鼻にはつくのだが…あおばはともかくななりとみらいの様なドジ娘や大人しい系のヒロインは、もはや語り尽くされている感があるので、もう少し工夫が欲しかったように思う。
 では、その3人のヒロインが繰り広げるシナリオはというと…


●超能力編
 一言で言えばギャグ編。
 ある日超能力に目覚めてしまった主人公が、世界征服を企むのだが、それを妹である(やはり超能力者)はるのと、その3人の下僕であるあおば・ななり・みらいの3人が阻止するというお話。
 終始ドタバタな展開でストーリーが進んでいくのだが、主人公に超能力が使えることが発覚し、世界征服に乗り出すまでの課程が長いので、実は3つのシナリオの中では一番飽きが来やすいシナリオとも言える。ギャグ編にも関わらず。
 ノリとしては「うる星やつら」「らんま1/2」の様な高橋留美子系のドタバタだと言えば分かりやすいだろうか。
 そこにゲームや漫画のネタなどをふんだんに取り込み、独特で軽快なテンポを維持しているのはなかなか楽しい。
 反面、この手のノリについていけない人は、本当についていけないと思われるので、プレイヤーを選ぶシナリオだとも言えるだろう。
 前半のあおばとのやりとり(「エロゲの主人公の幼なじみは云々」あたり)なんかは俺っち的には結構寒いものもあったのだが、世界征服に乗り出した時に行くことになる秘密基地に置いてあるコンピュータがPC98(でもAI機能付き)だったり、しかもそれが最後主人公を救うために自爆した後、青空をバックに消えていったりという、ああいうセンスは非常に好きなのだが…
 ただ、このシナリオの根本的な弱点として、誰が主人公なのか分からずシナリオとしてのメリハリに欠けているという事がある。
 もちろん、視点は主人公による主観タイプなのだが、はるの率いる正義(?)の超能力軍団に連戦連敗する上、はるの側の視点があまり描かれていないため、シナリオとしては非常に薄っぺらい印象を受けてしまう。まあ、みらいルートで若干フォローはされているが…
 EDもハーレムEDを除けば、主人公と3ヒロインのうちの誰かと結ばれ、しかも内容的にはどれも変化ないという、イマイチな結末しかない。
 ギャグとしてのテンポは悪くなかったのだから、せめてもう少しメリハリ…構成などに気を配って欲しかったものだ。


●ファンタジー編
 一番安心して見ていられたシナリオだ。
 3人のルート、どれに入ってもかなり印象の違う展開が待っているし、総じてハッピーエンドになるため3シナリオの中では一番楽しくプレイさせてもらった。
 特にななりルートはオススメで、ほのぼのした展開から、悲しい出来事、そしてそこから再スタートを切る主人公とななり、というお約束は入っていたけどなかなか出来の良い話で感心した。
 ただ、このポテンシャルが他のシナリオやルートでも見られればねえ…
 これはこの作品全体の弱点とも言えるのだが、特にファンタジー編が顕著なのでここで書かせてもらうが、あおばが風系(飛空等)、ななりが地系(植物とのアプローチや癒し)、みらいが水系(雨など天候左右や氷結等)という不思議な力を持っているという大前提の元、この作品は成り立っている。
 だが、この設定にあまりにおんぶにだっこなのだ、このファンタジー編は。
 もっと端的に言ってしまえば、それに対する伏線張りがあまりにもお粗末すぎる
 特にヒドいのがあおばルート。
 あおばに特別な力(ファンタジー編ではイミナという妖魔が取り憑いているためにあおばは不可思議な力を持っている)があるというのをはるのが見抜くが、それは途中で倒れてしまった時、あおばによって空を飛びながら病院に運ばれた事を、朦朧とした意識の中で覚えていたかららしい。
 もちろん、まるっきり伏線張りがないわけではなく、あおばの靴が玄関に残っていたり、はるのがその事を聞いていたりするのだが、はるのはその次の日あたりにいきなり家に神社から貰ったお札を張って封印を施し、あおばを主人公の家から締め出してしまうのだ。
 これでは、あまりにも唐突すぎる。
 例えば、その間に後半に出てくる神主さん(名前すらないが、一応立ちCGあり)に事情を話すとか、もうちょっと細やかな伏線張りが欲しいのだ。
 そこからは、あおばがイミナに取り憑かれた理由や、実はイミナは主人公やはるのの母親の妹の霊だったとか、それこそ伏線もへったくれもなしに「おいおい、ちょっと待ってくれよ」みたいなエピソードがポンポン飛び出すので、正直かなり頭イタイ。
 そう言えば、はるのはみらいルートでも、みらいの能力の事を「妖怪あめふらし」と言ったり、ななりルートに出てくるサブキャラのあやを一目見て「妖精さんだよ、彼女」と見抜いてしまったり、ほとんど伏線なしで(しかも的確に)彼女らの正体を見破ってしまう。
 先に超能力編や魔女編をやれば、はるのも特殊な力を持つ存在であるのは確かに分かるのだが、このシナリオに関してはそういう記述はどこにも見当たらない
 このシナリオから始めた人間はかなり面食らうことになるだろう。
 全体を通して見ても、はるのがかなりのご都合キャラなのは分かるのだが、ファンタジー編はその色が最も濃く出ているのが残念と言えば残念だ。


●魔女編
 完全に悲劇系の話で、実はシナリオ自体は一本道。
 1つのルートを解くたびにEDに入り、そこから最初の選択肢が増えてルートが派生する仕組みになっている。選択肢は一番最初に現れるだけなので、難易度は最も低いといえるだろう。
 さて、この魔女編なのだが、前の2つのシナリオとはがらりと雰囲気が変わり、死人は続出だわ、陵辱シーンはあるわで、どうもイマイチピンとこない。
 だが、それにもましてピンとこない原因は、このシナリオは果たして何が語りたかったのか? というテーマが全然見えてこない点だろう。
 魔女の能力を持って生まれてきた故の悲しさ? 次第に追いつめられていく恐怖? それとも単に苛烈なHシーンが描きたかっただけ?
 どんなお題目を持っていようが構わないが、もし何かしらのテーマを以てこのシナリオに臨んだというのなら、明らかに失敗作だろうね。
 理由は簡単で、キーパーソンの描き方の失敗。
 はっきり言ってしまえば、この魔女編のキーパーソンは魔女狩りの時代から生き残り、主人公と3人のヒロインをどんどんハメていくベルナール・ギーだ。
 だが、このギー、ちょこちょこ伏線で出ては来るものの、立ちCGが出てきて(苦笑)正体を明かすのが、何と4つ目にして最後のルートであるはるのルート! そして、その段階で主人公も含めてヒロイン達は皆殺され、4つ目のルートであるはるのルートでもはるのと相打ちになってEDって…
 要するにこのシナリオを要約すると
 みらいの魔女の能力「氷結」の能力が発覚し、世間から追われた挙げ句、みらいは自決→ギーの陰謀により死にかけた主人公を救うためななり消滅→あおばと主人公がやはりギーに追いつめられ死亡(空から落下したのだから助かるまい)→そして最後ははるのとギーが相打ち=登場人物全滅でED。
 ここまで分岐はなく、当然マルチEDでもない。
 何が語りたかったねん。
 結局、ギー一人の陰謀によって主人公らが全滅という事態を招く話にも関わらず、そのギーが何故、狂気に走ったのかなどの理由もはるのルートでどばっと判明してしまうと言う、非常にお粗末な展開になってしまっているのだ。
 魔女の能力が使えると言うだけで、理由もなしに殺される主人公達というシナリオを見ても、何の感慨もわかないよ。
 ピカレスクロマンのつもり? もしそうだとしたら笑い話にもならないレベルですな。


 この様に、まったく質の違うシナリオがオムニバス形式で提示されており、非常に評価の難しい作品だと言わざるをえない。
 単なるオムニバス(最近だったら「426」あたりがそれか)だったら、単純にその個々のシナリオもしくは作品を評価すればよいだけなのだが、舞台や登場人物が共通という手法を使っているこの作品では、それすらままならない。
 ただ、非常に残念でならないのが、この共通項を含んだ3つのシナリオを何とか統合できなかったのかな、と言う事だ。
 実は俺っちはこの作品、超能力編→魔女編→ファンタジー編の順でクリアしていったのだが、魔女編のあまりのスゴい終わり方に、「ひょっとして、3シナリオ解き終わった後も何かあるのかも」と思っていた。
 まあ、結論から言えば取るに足らないおまけシナリオが3つ追加されただけで、そんな期待は見事に裏切られたわけだが、せっかく共通項が存在するという設定を持ち出したのだから何とか工夫できなかったのかなあ、と感じたのだ。
 過去に「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」「Air」などで、この「共通項を活かす」手法が使われていたわけだが、この「Trois」でも3人のヒロインに特殊な力が備わっているという設定があったのだから、決して3つの世界(シナリオ)を統合するという事は不可能ではなかったと思う。
 せっかくいい設定持っていながら、単純なオムニバス形式の作品にとどめて中途半端な作品にしてしまったのが、この「Trois」最大の弱点だ。

 ビジュアル関係に目を向けると、やはり最初に目に付くのが、何とも言えない微妙なOPだろう。超能力編のバ○ル2世ばりのメロディ、ファンタジー編の少しケルティックが入ったフレーズ、更にピアノを主軸にした魔女編の旋律。これらが1つのOPに詰まっているという、よくよく考えてみるとものすごい曲だが、ムービーが雰囲気よく作られている上、曲のつなぎ方、特にファンタジー編から魔女編へのピアノのつなぎ方が絶妙で、違和感はさほど感じない。
 しかし、つくづく超能力編部分の歌詞はスゴい。
 なんたって「さーいたまけーんに隠されたー、ちょーのーりょく少女、はるの2世ー」だもんね。実際、俺っちがこの作品やってみようと思った理由が、いつだかの雑誌の付録で付いていた「2001年美少女ゲーム主題歌集百選」で、コレ聴いてしまったからだし、秋葉原で新品1800円で(…苦笑)売っていたから思わず、ね。
 しかし、コレじゃ、埼玉県民敵に回しているようなモノだって(笑)。
 しかも、よく見りゃ、OPで出てくる大きなビルはどう見ても、大宮のソニックシティだし、超能力編EDのスタッフロールのトコロでは「大宮市廃止記念作品」(!)とか出るし…あげくにここの会社の住所、さいたま市じゃん(爆)。
 まあ、そういう事を抜きにしても、実はこの作品、さりげに音楽のレベルが高い。
 OPも含めて4曲もあるボーカル曲はどれもレベルが高く、特にファンタジー編のEDテーマ「SUMMER TIME WALTZ」は出色の出来。ななりルートにしか雰囲気があってないのが、ちょっといかんともしがたいが…
 他にも通常シーンの曲なども丁寧且つキレイにまとめてあり、非常に高感触。各ヒロインごとのテーマ曲は若干インパクト不足だったように思うがはるののテーマ曲「スパイな10歳」などは彼女のお子ちゃまな雰囲気を良く現しており、なかなか。
 ただ、絵に関しては正直、かなりのインパクト不足を感じた。
 大きなお目目に独特な髪型のヒロイン達は、かわいい絵柄だとは思うが、全員どこかで見たような感じのキャラばかりで、かなり二番煎じっぽい感じを受ける。
 また、立ち絵やイベントCGなどでもそうだが、女キャラ以外のキャラが、なんじゃいこりゃ、みたいなヘタレ絵なのは閉口。
 最大の悪役のはずのギーのCGなんか、あーた…(泣笑)
 典型的な女の子しか書けませんパターンの人だなあ、ここの原画の人。
 それならそれで工夫のしようもあると思うんだけど、特にイベントCGでコレをやられると、周りにいる人物の中でヒロインだけがぽつりと浮いているという、最悪の絵面となってしまう。
 例を挙げれば魔女編のみらいが人を殺してしまうイベントのCGなんかがソレね。
 逆に背景なんかはリアルな感じが出てていい感じ。
 多分、写真を撮ってそのあとに加工したモノだと思うけど「埼玉県らしさ」がにじみ出てるCGはなかなか良い。思わず「ああ、あるある、こういう風景」とか言いたくなっちゃうぐらいだ。

 こうやって個々のレベルとしては誉められる部分もあるんだけどねえ…


(総評)
 …非常に中途半端な作品だ。
 上で3.ストーリー完成度、4.H度、5.オススメ度、全てにCをつけたが、本当に良い部分も悪い部分も混在しているため、これ以上の評価を下せないのが現状。
 典型的な佳作だろう。
 散発的な部分をもっと整合性の取れたものにし、シナリオ関係をもっと丁寧に作りこめば、更にいい作品に仕上がったかもしれないことを考えると、本当に惜しい。
 せっかくの高レベルの音楽や良い設定があったのだから、もったいない話だ。
 最後にシステムが使いやすかった点を評価しておこう。
 セーブした場面が表示されるセーブ&ロード(これは以前やった「coda」にも採用されていたね)や、既読スキップも使いやすく、快適にゲームをやる環境は申し分ない。
 こういう基本はしっかり押さえているようなので、これからも頑張って欲しい次第である。

 最後にツッコミ。
 作中、何回か「賢明な判断だ」等に使われる「賢明」が全て「懸命」になっていたのはワザと? コレ、作中全てのこの単語がこれで統一されていたため、誤植じゃなくて勘違いしているように見受けられたんだけど…
 また、ファンタジー編のみらいの能力、「みらいの感情によって雨が降ったり天候が変わってしまう」というのは元ネタは「風の大陸」のアウル=トバティーエだよね?
 …イヤ、別にいいんだけどね。ちょっと突っ込んでみたかっただけ。


(梨瀬成)


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