To Heart PlayStation版
 
 実は先日、鷹風虎徹氏主催の飲み会に新潟まで出かけて参加した時の事。  本編発売に先駆けて出た『To Heart』の攻略本を買ってきた鷹羽飛鳥氏は、他のメンツから本を取り上げられ、ふてくされていた。
「うおー! 芹香さんの水着姿だー!」←鷹風虎徹氏
「お! ホントだ。おお、かわいいじゃん!」←後藤夕貴氏
「ええい! お前ら、持ち主を差し置いて……ぶつぶつぶつぶつ」←鷹羽飛鳥氏
 俺っち、まだまだ冷静。
「ははーん? 芹香さんの水着ぐらいでそんなに騒ぎ立ておって、お主らもまだまだヒヨっ子よのう」←ふんぞり返る俺っち。
「おおい成ちん、かわいい智子の追加CGがあるぞー」
にゃにい!」即座に本をふんだくる俺っち。
 ………
 ………
 そこには髪を降ろし、眼鏡を外しておまけにおしゃれな私服で外出している、智子のCGがあった。
 ばぼひゅーん←理性の吹き飛んだ音
「あ、ああ、あああ、飛鳥ちゃん! この本を貸してくれなんて、厚かましい事は言わない。俺っちにくれ!」
 
BAGOOOOOOOOOOOOONN!
 
 次の瞬間、飛鳥氏の必殺拳技「浮嶽」(分からん人は修羅の門を読もう!)が俺っちに炸裂する!
 新潟に出向いてまでぼこしばきにあった梨瀬に、果たして勝機はあるのか!?
 
1.メーカー名:アクアプラス/リーフ
2.ジャンル:ADV
3.ストーリー完成度(全体):C
4.H度:なし
5.オススメ度:客観的視点ならA、主観的にはE、PC版レミィのファンにはZZZ。この点については後述。
6.攻略難易度:D
7.その他:とにかく、怒りのあまり声も出ない。ついに「堕ちて」しまったリーフのゲームに対する制作意識には絶句。
 
 正直な事を言うと、ゲームとしての出来は申し分ない。
 システムはパソコン版から優秀だったものを更に進化させているし、操作性も相変わらず良好。
 ほとんど全てのCGは描き直しているわ、非常に出来の良いミニゲームを満載してるわで、スタッフの気合いが入りまくっているのがヒシヒシと伝わる。
 発売前は賛否両論あった声優さんも、イメージにかなり近いしっかりした人を持ってきているため、違和感はほとんどなかった。
 あえてシステム面での欠点を挙げるならば、ただでさえ長かったパソコン版より、更にテキストを増やした上にしゃべる様になったため、ゲーム進行が更に遅くなってしまった事だが、こんな事に文句をたれるのは、それこそゼイタクというものだろう。
 単なるベタ移植でも良かっただろうにそれを潔しとせず、プレイステーションという土俵で、一般作にも劣らない作品を作ろうという意気込みは大変評価している。
 だが!
 それだけにシナリオをどうにか出来なかったのだろうか。
 ビジュアルノベルとはいえ恋愛SLGの色が強く、それが故にキャラクター色が強かったのは、パソコン版でも同じだった。
 しかし、それでも、パソコン版は共感出来たり、感動出来たりするシナリオがあり、またそこが最も評価されていた部分のはずだ。
 そして、パソコン版のシナリオを書き直そうと考えたのも分かる。
 実際Hシーンを省く事により、シナリオ変更を余儀なくされるものもあっただろうし、各シナリオのポテンシャルにばらつきがあるという欠点は「九拾八式」ライターが言うまでもなく、世間でも囁かれていた事だ。
 そして、それは一部は成功しているものもあるし(例えば、志保や理緒だ)、Hシーン自体をすっぱ抜いても影響を受けなかったものもある。
 しかし、どうしても納得出来なかったシナリオがある。
 そしてそれが原因で、この作品の制作意図を知ってしまった時、俺っちは絶句してしまった。
 それがレミィシナリオだ。
 何なのだ? アレは?
 前半に関しては問題ないが、後半のギャグ的展開はどうにかならなかったのか?
 家族ほとんどが異常性格の持主で、家には地雷がセットしてあるわ、オヤジは常にこちらに銃口を向けているわで、せっかくの前半のいいムードは全て、突然降って沸いたギャグシナリオぺちゃんこにされてしまった
 挙げ句の果てに、主人公自体がとんでもない勘違いをしていたという、想像を絶するポンチな結末。
 何、コレ……!?
 理由は分かる。
 レミィは志保と並んで、この『To Heart』という作品ではお笑い担当の色が強い。
 パソコン版でも、あれだけの感動的なエピソードをやっておきながら、最後にギャグで締めてエンディングという、あからさまなコミックリリーフだった。
 それでもラスト直前の小瓶イベントは、オレっち自身が涙ぐむほどに良いお話だった。
 それを、このプレイステーション版ではまるまるカットして、ご丁寧にも完全なギャグシナリオに塗り替えてくれた。何故?
 『To Heart』は基本的にはシリアスなシナリオで構成されているから、その息抜き用に用意されたという感じがする。
 しかし、どうしてレミィなのだろう?
 レミィにだって、小瓶イベントという素晴らしいシナリオがあったはずなのに……
 答えは簡単な消去法だ
 あかり・マルチ・芹香等の人気キャラを、そんな事でシナリオ変更する訳にはいかない
 葵や智子・琴音は、ギャグになどなる性格ではない。
 新シナリオの綾香や理緒も、新たに書き下ろしになるが故にギャグにしにくい。
 結局一番都合の良いレミィが、他のキャラを引き出させるための生贄にされてしまったのだ。
 だが……
 そんなに、あかりが大切だったのか?
 そんなに、マルチが大事なのか?
 確かに、オレっちはレミィがお気に入りキャラだ。個人的感情が入っていないと言えば嘘になるかもしれない。
 しかし、オレっちの様に小瓶イベントでレミィを気に入った人間の立場はどうなるのだろう。
 もし仮に、こういう処置がパソコン版最不人気キャラだった理緒シナリオにあったとしても、オレっちは怒っただろうね。
 ギャグシナリオを挿入する事によって、作品のバランスをとろうなどという考えは、所詮キャラクター優先のぷーなギャルゲーとレベルが同じだからだ
 パソコン版の評論の時、「リーフに堕落と油断の兆しが見えた」と論じたのは、他ならないこの俺っちなんだけど、いよいよもって、それを見せつけられたのかと思うと、非常に残念だね。

 
(総評)
 とにかく「こみっくパーティー」のせいで、かなりリーフのイメージが悪くなっているところに、このPS版『To Heart』は、俺っちにとっては決定打だった。
 余談ついでに「こみっくパーティー」についても少し触れておこうか。
 この際「Piaキャロ」という過去の作品の先入観は置いておくにしても、今までのリーフの色を全く残していない作品を発表するとは、どういう了見なのか?
 新天地とでも言いたいのだろうか? 一歩間違えばPiaキャロ3」にも見える作品を。
 だけど、俺っちが腹を立てたのはそんな事じゃあない。というのも、何故にリーフがわざわざ「Piaキャロ」のスタッフを引っ張り込んだのかという事。
 はっきり言って、リーフというブランドネーム「Piaキャロスタッフ」というネームバリューを融合させて、より多くの儲けを叩きだそうとしている様にしか思えない。
 その証拠にリーフ会報のみならず、各雑誌でも「原画・スタッフは、あのPiaキャロの人」と宣伝しまくった始末だ。
 それならそれで結構だけど、これが、かつて「雫」「痕」と新しいゲーム作りに意欲的にとりくんできたリーフの姿なのだろうか? と思うと、とても信じられない。
 と、まあそんなこんなで、ここ最近不自然な態度が目についていたリーフなのだが、それをPS版『To Heart』でまざまざと見せつけられるとは思いもよらなかった。
 とにかく、あのレミィのシナリオは許せない。いや、正確にはレミィのシナリオではなく「レミィを生贄に捧げた事」が許せないのだ。
 だが、少なくとも俺っちの友人(ちなみにパソコン版ももちろんプレイ済)は違う見解だった。
 要するに「まあ、(レミィシナリオは)あんなもんじゃないの?」程度の捉え方だったのだ。
 だったら、そういう意見の輩にはこう聞きたいね。
 「じゃあ、あかりやマルチのシナリオが、パソコン版から全部書き直されていて、ギャグシナリオだったら、納得出来るか?」と。
 大半の人間は納得しないだろうね。納得するなら単なる阿呆だ。
 しかし、PS版は実際その「阿呆」を、レミィシナリオで冒してしまっている。
 それともあかり・マルチと、レミィはキャラクター的に格が違うんですかね?
 もしそうだと言うのならパソコン版のレミィシナリオの後半で、感動しまくってもらい泣きまでしてしまった俺っちは、シナリオ変更を決行したリーフから見ればあの程度のシナリオで泣く単なるお馬鹿さんなんですかね?

 だったら、馬鹿の気安さで言わせてもらうぜ。
 駄作だよ! はっきり言って!

 以前の本「九拾八式別冊・東鳩」でも書いた事だけど、リーフのビジュアルノベルシリーズの魅力は、あくまでも非凡なストーリー展開と物語性なのであって、キャラクターの魅力というのは、その副産物でしかなかったはずだ。
 しかし、今回のレミィというキャラを(ギャグシナリオという形で)生贄に捧げたという行為は、結局PS版『To Heart』を、単なるキャラゲームとしてしかメーカーが捉えていない事を暴露する結果になった。
 まあ、それで売れればいいのだろう。それでいくらでも儲かればいいのだろう。
 悪いとは言わない、俺っちが理想論を掲げているだけなのかもしれない。
 でも、俺っちは今、本当にこう思っている。
 こんなリーフの姿を見たくはなかった、と。 
    
(梨瀬成)

 
 
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