To Heart 志保編
 
3.ストーリー完成度:B’
4.H度:−
5.オススメ度:A
6.攻略難易度:D
7.その他:志保のこのシナリオのためだけに、PS版が存在すると言っても過言じゃないくらい好き
 
 PS版になって一番良くなったのは、なんと言っても志保だと思う。
 ストーリーそのものが大幅に変わってしまったから、パソコン版との関係で好き嫌いは分かれると思うけど、ただ、志保が浩之のことを好きだったっていう基本的なコンセプトは変わっていないから、後は好みの問題だけなんだよね。
 パソコン版では、あかりに遠慮してあっさり身を引いた志保は、あかりと浩之が変わらぬ付き合いを続けていたことで、自分の判断が正しかったことを確信し、それに満足していた。浩之に対する想い自体は、やっぱり残ってたと思うけどね。
 でもPS版では、あかりと浩之を奪い合うことを選んだ。『WHITE ALBUM』の美咲先輩の展開に、ちょっと近いような気もする。
 『WHITE ALBUM』でシナリオやった原田氏が参加してるから、その影響が出てるのかもしれない。
 それでも原形を留めているのは、やはり、志保の“あかりが浩之を好きなのを知っているから言えない”という基本的なスタンスが変わらないからだと思う。
 そして、もう1つ評価すべきなのは、志保があかりに遠慮し続けていることが、あかりのシナリオでも再三描写されていることだ。
 ケーキを食べに行くイベントなど、あかりと浩之を2人きりにしようとする志保の不器用さは、思わず笑っちゃうほどだ。あんな不器用な志保だからこそ、一旦2人と距離を置かなければならなかったってことに説得力がある。
 あかりに隠れて浩之と付き合い続けながら、志保は、あかりに対する罪悪感にかられて浩之と離れた。
 もし遠く離れて、それでも浩之に対する想いが失われないのなら、もう一度やり直せばいい。
 4年間も離れていたにもかかわらず、志保は浩之への想いを忘れなかった。だから帰ってきた。
 志保がエンディングで言った「できれば色なんか変わんないで、いつまでも覚えていたいわねー」というのは、浩之に対する想いを抱き続けていた志保だから言えることなんだと思う。
 あかりへの義理立てから、浩之とキス止まりで付き合っていた志保が、浩之があかりとそれなりの進展をしている(当然、H済みだろう)ことを承知で、敢えて“それでも、浩之の心の中にも、まだ自分への想いが生きている”ことを信じて帰ってきた。
 あかりと浩之、どっちも大好きで、どっちも裏切れないからこそ、自分の気持ちに整理をつけるために4年もの月日を要した志保のこだわり。
 大切な想いは、時が経っても色褪せることなく、永遠に自分の中で『今』を生き続けている。だから「楽しいじゃない。おやつたっぷりの遠足みたいなもんよ」とさらりと言える。
 「歩いて見せるわよ。…でも、重くなったらあんたも少し持ってね」という言葉には、そんな想いが詰まっているのだ。
 そして、「♪さくらぁのは〜ながぁ、さーきみだれぇ。…覚えてる?」から始まるED『それぞれの未来(あした)へ』が、またいい。
 元々この曲は、シナリオの中で志保が浩之の前で歌っている曲でもある。
 だからこそ、「ああ。むかし流行った歌だな」『ちょうど今の俺達向けの歌だな』と続くんだよね。
 それを志保役の樋口智恵子の歌から、本来の中司雅美に入れ替わるという、凝った使い方。志保のキャラとシナリオ展開、イベントとが一体となった、最高のエンディングだと思う。
 Hシーンを削るに際し、Hがないこと自体に理由を持たせ、声がついているが故に、志保自身が歌う歌からエンディングとなる、PS版の象徴とも言える締め方だと思う。
 しかも他のキャラだと、エンディングは校舎の写真から始まるのに、志保の写真から始まるのだ。
 元々、『それぞれの未来へ』は、“つまらない日常の大切さ”を謳った、鷹羽の“ツボ”な歌詞なのだけど、この展開のお陰ですごく好きになってしまった。
 鷹羽自身キャラとしては志保が嫌いなのだけど、パソコン版の頃からシナリオ的にはすごく好き(お気に入り度3位)だったんだよね。
 しかも今回は、前述のとおり“志保があかりに遠慮している”というのがパソコン版より巧く描写されている。だから、今回もそれなりに良いことを期待して、最後に攻略したんだけど、文句なく今回のイチオシだね。
 まったく違う展開になりながらも、“志保の想い”という一番大事なエッセンスが生きてるから、変更についての違和感がないんだな、これが。
 惜しむらくは、他のシナリオも、せめて半分がこのレベルに達していてくれればってこと。
         
(鷹羽飛鳥)
 
PS:
 欲を言えば、志保役の声優には、もっと歌の上手い人を充てて欲しかったな〜。
…ついでに演技も。
 
 
戻りマース