〇宮内レミィ編/ストーリー完成度:
 
 実は私、ここを書く事にすごい躊躇がある。
 理由は、またまた他のライターと正反対のコメントを書いてしまいそうだからである。
 まるで、喧嘩を売っているかの様に…。
 今回、この「To Heart」の評論執筆は、私が一番遅かった。
 しかし編集作業の都合上、他人の原稿にも目を通さなくてはならない。
 結果、鷹羽氏との意見の食い違いを強調した批評なんかを、書いてしまう結果に至っている。
 このレミイ編も、私が実際にプレイするまでさんざんな噂を聞いた。
 梨瀬氏の原稿からは、溢れんばかりの(本シナリオへの)怒りの念が伝わってくる。
 いわばPS版最大の暗黒面…最悪の改訂シナリオであるという意見を、その他の方面からも含め散々吹き込まれたのだ。
 そのため私は山盛りの先入観を以てこのシナリオプレイに挑むという、実際にはあんまりやっちゃいけない姿勢で取り組んだのだ。
 
 …だけどさ、これってそんなに悪いのか?
 
 あまりに今回の自分の批評に自信が持てないため、その不安感から他の担当者の原稿を読み返した。
 なるほど、彼等が言っているのも真実だ。
 ただし、それはレミィというキャラクターへの印象がシナリオそのものへの印象とダブっているからの意見でもあると思う。

 確かに私自身、WIN95版ではレミィが初攻略のキャラだったし、あのHシーンの間際で、『Eternal Love』が神業の如きナイスタイミングで流れた事に激しい感動を覚えたものだ。
 実際総合評価はともかくとして、ひとつの場面についてはアレが最強であると現在も思っている。
 しかし、あの場面はあまりに重要過ぎた
 移植に当たって削らなくてはならない部分のウェイトが、レミィ編の場合あまりにデカ過ぎたのだ。
 結果、実はそこに至るまでの物語の流れがすべてHシーンで完全集束されているという事実にスタッフも気付いたのだろう。
 そのため、イモヅル式に全体の流れの変更も余儀なくされてしまった。
 …経過は、そんなものだろうと予想するし、半ば確信に至っている。

 恐らく、昔浩之と一緒に遊んだという想い出と迷子を巡るエピソードを残したのは、スタッフの苦肉の策だったのだろう。
 あれがなくては、そもそもレミィが浩之を好きになった理由そのものがなくなってしまうからだ。
 ただし先の理由から、小瓶のエピソードまでは持っていく事は出来ない。
 あっても良かったとは思うが、多分そんな所だったのだろう。
 そこからレミィという存在を浩之と深く結びつけるためには、もっとライトな、それでいて確実性の高いイベントを配する必要があった。
 彼氏を自宅に招き、家族に紹介するという、ごく普通のやりとりを行わせるというものだ。
 家族が、皆おかしな特徴を持っているというのは、確かに賛否両論が分かれる。
 だが、私個人としてはあれでいいと思っている。
 なぜならば、アレはいわば笑いのつかみであり、宮内家の中でのやりとりそのものは完全に物語の流れからの遊離が許されているからなのだ。
 確かに、自宅に地雷を仕掛け、ライフルを発砲する父親というのは難があるが、あそこで家族キャラ達を立たせたい、明るい家庭である事を強調したいという意向があった事を認めてやりたい。
 終盤が近く、ごく限られた展開内でまったくの新登場キャラクターを立たせる方法としては、“そいつに極端な事をさせる”というのが最もポピュラーだ。
 その選択がすべて合っていたかはともかくとして、アレのお陰でレミィの家族はプレイヤーに覚えられる事となる。良い悪い含めて。
 キャラ立ちとしては、これで成功なのだ。
 宮内家の中での浩之の視点を表現する際に、家族の描写と印象は重要だ。
 おかげで、レミィの生きる環境把握を我々は容易に出来た。
 彼等がああいう性格であったお陰で、その家の娘の彼氏(と、この場合言い切ってもいいだろう)という立場で招かれる事となった浩之の不安な心情は一瞬で解消された。
 もし彼等がまったくのノーマルで、形式ばった性格の人間達であったなら、我々は浩之を通じてめちゃくちゃ居心地の悪さを体感させられる結果となっただろう。
 そして、その方がもっと評価が辛くなると思うのだ。
 さらに最後のパーティに志保・あかり・雅史を招いた事で、浩之自身以外からの、レミィの家の印象を側面から表す事にも成功している。
 実際、終盤にミッキーから「もっと早く会えていればよかったのに…」といった内容の言葉が漏れるが、それは私も同感だった。
 行為はともかく、実に愛すべき人物達ではあった。

 レミィシナリオを受け容れられる人達の大半は、恐らくこういった部分への同調が可能だったからなのだろう。
 ただし、レミィ自体の印象が希薄になってしまったのは、否めない事実だね。

 では、私が感じた問題点は何処なのか?
 エンディングで、どうしてレミィだけが日本に残れたのか、説明が全くない所だ。

 あれだけ、明るく爽やかな想いのやりとりがあったのだから、ハッキリした告白がなかったとしても遠く離れたって二人は大丈夫だと思う。いや、思えてならない。
 無理矢理のハッピーエンドという気がして、オチだけは納得がいかないのだ。
 浩之の勘違いなんていらなかったんじゃないか?
 どうして志保みたいに、一時期離ればなれになったが数年後再会するというオチに出来なかったのだろうか?
 志保編エンディングでは、レミィはシッカリ旅立ってしまっているんだから、この疑問は益々膨らむ。

 もうひとつは、レミィという人物描写全体。
 これは、実はWIN95版から抱いていた事なのだが、“日本人の抱く、勘違いしまくったアメリカン像”というものがさらに強調されてしまった事だ。
 元々、彼女がハーフに見えないという指摘はあった。
 本作でも、実は日本人なのは母親の方でしたという意外なオチが付いてくる。
 生まれた子供がすべて金髪で、しかも日本人らしさが微塵もない事から、父親のDNAの影響力と家庭内の権威は大きい事が解る。
 しかし、それではなぜ姓が宮内なのか?
 そもそも、なぜ素直に留学生にしなかったのか? …という疑問がわいてくる。
 キャラクター構築自体がおかしくなってくるのだ。
 ロボットを学校に通わせるという突飛な発想が許される「ToHeart」の世界観の中で、外人留学生がいる事なぞ、普通の普通だろうと思うのだが。
 これは、母親に和服を着せただけで解決する問題ではないよ。

 レミィは、後半どうも狂言回しに使われてしまった印象がある。
 いくら浩之とデートを繰り返しても、いまいち真剣味が足りないためなのか、後半でのインパクトが薄れてしまったのがイタイ。
 もっともそれは、個性ある家族のせいでもあるのだが。
 彼女からの、もっと熱いアプローチがあれば、このシナリオは他の問題点やインパクトを突き破る事が出来ただろうに。

 私は、彼女と彼女の家族を巡る展開には文句はない。
 しかし、それらがバランスよくなりたっていなかった事の方が、もっと残念なのだ。
 
(後藤夕貴)


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