〇来栖川綾香編／ストーリー完成度：Ｄ
サブキャラクターでありながら、かなりの人気を博した芹香の妹。
実は、てっきり双子の妹だと勘違いしていた私。
よく見ると全然そんな表記なかったね。反省反省。
無難なストーリーではあるけれど、どこか“付け足し”感が抜けない。
WIN95版の理緒シナリオ程の酷さではないが、位置づけとしては同様だろう。
話そのものに破綻がなかったり、ヒロイン側の心情が語られていたりでそれなりの密度は感じられる…が、どーにも私みたいに“そのキャラクターに先入観を持ってしまっているプレイヤー”を改革させてしまえる程のインパクトがない。
すなわち、これは別に恋愛談集である「To Herat」の一シナリオである必然性がない事に繋がる。
格闘技という世界に生き、トップクラスの実力を得ている自信からの仕草は、キャラクターの個性だから良いだろう。
ただし同タイプの葵のシナリオが彼女自身の成長物語という重要なカタルシスを持っていた分、こちらはかなり弱い。
まったく別のジャンルの中で生きる綾香…という図式でも、良かったのではないだろうか？
彼女がどういう人物なのかは、葵編で、しかも嫌味タップリで紹介されている。
綾香編でまでそれを延長させる必然性はないと思う。
シナリオライターの格闘技好きは解ったが、いくら葵編で書き足りなかったとはいえそのウンチクをこっちにまで持ってこられても困る。
お陰で、このシナリオは単なる『綾香の格闘技指南コーナー』と化している。
エンディングまでに、告白の類の行動が一切ないというのはまぁいい。
問題なのは単にラーメン一緒に食って終わり…っていう奴ね。
ありゃあ、どーかねぇ……（疑）。
こんなのなら、例えば“たまたま誰かとの練習試合で不覚を取り、落ち込み気味だった綾香を浩之が対戦を申し込むという形で慰める…”という図式でも良かったのではないか？
自分を天才と称するのは、嫌味ではあるけれどもそれだけの実績を出しているのだから良い。
しかし“呑み込みが良く何でもすぐにこなしてしまう天賦の才能を持つ”という部分を、ひたすら自慢されても困る。
このために、ただでさえ葵編で悪かった印象、さらに輪を掛けて悪化してしまった。
全然、可愛らしさがないんだからね。
主人公が全く付け入る隙がないってのも、「To
Heart」らしくないものだ。
どうやらキャラメイキングに携わった人達は、綾香というキャラクターが自分達が考えている以上に“嫌味の要素”を持っているという事に最後まで気付かなかった様だ。
綾香が空手を始めたきっかけのエピソードそのものは、充分納得出来たのだけどねぇ。
彼女のシナリオ発生の経緯にも、疑問点がある。
プレイに独特のクセを持つ人間にとって、彼女のシナリオに辿り着くのはかなり至難の業だ。
ここで「えっ？ 綾香シナリオに行くのってそんなに難しかったっけ？」…という人もいるだろう。
実際、結構難易度は低いと思われがちではあるが、そんな事はない。
私に言わせれば琴音に次ぐ難しさだった。
一人のキャラクター攻略を目指す場合、他のキャラクターとの接触を拒む…というプレイスタイルの私は、３回目以降の綾香出現を迎えられず、約一週間もハマり続けた。
結果、鷹羽飛鳥氏にそこまで辿り着いてもらうという協力を頼んだが、ここで鷹羽氏自身も辿り着けないという事態が発生！
結局「あかりと共に勉強する」というイベントをこなしていなくてはならない…という条件があった事に気付かなかっただけなのだが…。
綾香編の最大の問題点はここだ。
「ToHeart」というゲームは、全体的に難易度が低めに設定されている。
目的の女の子との接触を繰り返していれば、だいたいエンディングに辿り着く。
結果、それぞれの物語を純粋に味わえる訳だ。
琴音という強烈な例外はいるが。
しかし綾香の場合、とんでもない引っ掛けがある。
姉の芹香に会えるだけ会っておかなくてはならず、好感度も、可能な限り最大に稼がなくてはならない。
あかりとの勉強会をクリア後、芹香へのテスト成績報告で“バッチリ”を選ばなくては駄目なのだ。
そうでなくては、すでに出現している綾香との続きに至れない。
…どうして、綾香攻略なのに、芹香の好感度がそこまで必要になってくるのか？
これだけは、納得する事が出来ない。
そもそも、あかりみたいに“発生イベントがズレてしまうから”という理由で智子とも絡んでおかなくては…というのも、もう解ってはいるけれど納得するには至っていない。
しかしこの場合、あかりの好感度に関係している事なのだから重要ではあるのだ。
だがこの芹香の場合、明らかに綾香との関連はない。
いくら二人の好みが似ているからといって、それだけの言葉で納得させようなんてのは愚の骨頂という奴だ。
完全に芹香側の条件を満たさなくては綾香出現にすら至らないとか、芹香自身の行動が綾香を引っぱり出すきっかけになる様な独自イベントが配置されているなら、そういう事として納得は出来た。
とりあえず出すだけ出しておいて、浩之に絡ませるだけ絡ませて、実際の攻略の重点は綾香ではなく、全然別の（芹香、もだ！）女の子とのポイント稼ぎにあった…では、イジワルとしか感じられない。
そもそも、「To Heart」ってそういうゲームじゃないだろうに。
４月11日の出会いに二つのバージョンがある事には、結局何の意味もなかったっちゅーんかい！
意味も説得力もなく、浩之にベタベタ接触してくるというスターティングにも疑問があるが、それを上回る問題点だろう。
私と同じプレイ姿勢の人なら、恐らく100年たっても綾香攻略は出来まい。
実際、鷹羽氏にはそう言われた。
だが、これはそういった問題ではない筈だ。
さんざん書いたが、実は一つだけ本編で気に入っている部分がある。
何回目かの試合で、浩之がセリオに声をかけた時の「マルチは元気か？」という質問に、無言の返答をよこす所ね。
セリオが試験期間延長になったというくだりは、彼女の性能から充分納得出来る。
だが、同じ頃マルチは多分もう…。
そういうシナリオには直接関係ない部分へのアプローチが表現されていたのには、唸らされたよ。さすがだね。
…でも、誉められる所がそこぐらいってのも、困ったもんだなー…。
綾香は、初めから浩之を好きになる存在として形作られたと言える。
そのため、彼女が浩之を少しずつ好きになっていく過程が存在しないし、唐突に急接近してしまう事になる。
ひいては、それがとてつもない違和感を産んでいるのだ。
この辺りの描写にもう少し力を注いでくれていれば、また印象も変わっただろうに…。
こんな感じなので私、綾香が最も嫌いなキャラになってしまいました。
うーん、どうしてこんな奴に、あんなにファンが多いんだろう…
…理解に苦しむ。
（後藤夕貴）
