To Heart プレイステーション版
 
 あ゛あ゛あ゛あ゛…やっぱり、やる事になってしまったのね、このゲームの批評も…
 
3.ストーリー完成度:総合平均は、C。 4.H度:なに、智子シナリオだけ“C”を付けたいって…?
5.オススメ度:やはり、これはどう考えてもAでしょ。
6.攻略難易度:全体的に低いのだが、極端な例外がいるので、総合でC。
7.その他:leafが、最大限の力を振り絞って制作した、新生「To Heart」。
 細かい事は置いといて、コンシューマー恋愛ゲームとしては、現在最高峰クラスの完成度と言っても、ほぼ間違いではないでしょ。

 
 ここでは、全体の評価をしてみたい。
 大幅なストーリー変更が加えられているため、例えWIN95版との比較批評だとしてもかなりの文章量になってしまう。
 そのため、キャラクター別シナリオ評価は『To Heart・PS版〜シナリオ(鷹羽or後藤)』という形で別添えにさせていただいた。
 正直に言って鷹羽飛鳥氏のやり方をパクった物なので、くれぐれも彼の原稿と混合しないようによろしくお願います。
 …ややこしくてゴメン。
 
 さてプレステ移植に当たって、leafが長い製作期間とありったけの力を注ぎ込んだ果てにようやく登場した本作。
 WIN95版とは別の作品といってもいいくらいの変更要素があり、それらがまた実に楽しい。
 移植化にあたり、単にH描写を除いただけという、安直なものが跋扈する様になって久しいが、それについては、本作はもっとも理想的な形態を取る事に成功している。
 まぁ、新しいソフトを開発するのと同じくらいか、もしくはそれ以上の手間と時間かけたのだから当然なのかもしれないが。
 ともあれ、結果としては期待を遙かに上回る出来になったと言い切れる。
 シナリオ内で登場し、しかも挿入に違和感がなく、それ単体としての内容も濃いミニゲームとか、WIN95版で評価の低かったシナリオの徹底改修とか(理緒とかね。すべてがすべてうまくいってないのが残念だが)、デッサンに難のあったCGのリニューアル(全部描き直しだって?)、細かい、それでいて印象的なエピソードの追加等々、良点と言える改良点が、「すみませんでした」というくらいてんこ盛りになっている。
 移植版としても当然なのだが、単体の作品としてのグレードとしてもとても高レベル。
  「東鳩」執筆の際に感じた難点が、かなり薄まってしまった。

 私個人として、最も奨められる恋愛ゲームとなってしまった。
 …やっぱ、怖いわleafって…。

 全体を改めて見てみると、いくつか興味深いものがある。
 例えば、声優起用によるイメージの変化だ。
 現在も、どのキャラの誰の声は合わないとか合ってるとかいう意見が交わされているが、全体としてはベストキャスティングだったと思う。

 さりげなく、置鮎(ぬーべー)龍太郎や、山崎(パワージョー)たくみ根谷(キューティハニー)美智子などの大御所がチョイ役で出演していたり、久川(セーラーマーキュリー)氷上(ウェディングピーチ)恭子がメインヒロインの一人を演じてたりと、なかなかに唸らされる(良くも悪くも)。
 その他にしてもかなりハマり度数が高く、特にあかりや志保、マルチや芹香などの注目株に至っては、ほぼ問題ないだろう。
 またこのキャスティングが、そのままTV版にも起用されていたというのも面白い話だ。
 残念ながら、あのオープニングの名曲『Brand New Heart』が『Feeling Heart』という音楽に造詣の深い人達に酷評されまくったむごい曲に差し替えられてしまったが、その分、エンディングは『それぞれの未来(あした)へ』という名曲に変わり、WIN95版以上にラストを盛り上げてくれた。
 また志保編の様なバリエーションもあり、深く印象に残るものとなった。
 珍しく、WIN95版経験者にも自信を持ってお奨め出来る移植作だ。
 残念ながら、逆を辿るとWIN95版が「質の悪い同人ソフト」並に感じられてしまうが(実際こういう評価を私は聞いた)、つまりはそれだけのものという事になる。


 ただし、変更要素すべてが良点につながっている訳ではない。
 WIN95版にはなく、PS版オリジナルの問題点も当然いくつか存在している。
 まぁハード的な問題(「型番によってはやたらハングる」「DISK交換がめんどい…仕方ねーって」など)は置いといて、まずは、せっかくleaf特有のグッドポイント“連打の影響を受けない選択肢”を継承しているというのに、放課後の移動画面にだけはそれが適用されていないという問題だ。
 これは、マジでプレイに大影響を来す。
 ほとんどは、間違った所に向かっても選択肢次第でまた移動を再会出来るのだが、例外がところどころにあるため取り返しのつかない事にもなりかねない。
 実際、私もこれでいくつも被害を受けた。
 ただこれは、R1ボタンでの一斉スキップという機能では完全フォローされているので、どうしようもない問題点では決してない。
 だが、初プレイまたはそういったオプションを使用しないプレイヤーにとっては、困った問題である事には変わらない。
 まあ…浩之の行き先に誰がスタンバっているかを解りやすくしたから発生した、あまり強く責めたくはない欠点なんだよね。
 さらに、ボタンを押すタイミングによって発せられるボイスがなくなってしまったりというのが多い事。
 せっかくのボイスが、無駄になってしまっている。
 これはひょっとしたらハードのせいなのかも知れないが、ボイス付きのゲームというのは、その声のためにプレイ時間が比較的長くなる傾向がある。
 ただでさえそういうのがあるのだから、聞けるものはちゃんと聞ける様にして欲しい…というのが本音だね。

 …ただ、目立った難点はそんな程度に過ぎないのだ。
 シナリオ上の疑問点・問題点を別にすると、意外に欠点が見あたらない。
 セーブデータが、1プロックにつき10カ所くらい保存出来たり、こっちが恐縮するくらいに便利な機能があったりと、むしろ良点の印象の方が強い。
 あとは、実際にプレイした人の個別の判断によるのではないか。
 

(総評)
 キャラクターを大切にして、シナリオをはじめとした全体の構成を見直して、可能な限りの改良を試みた本作。
 その影には、コミケや同人誌などでの「To Heart」人気の真髄を見極めたスタッフの苦労があったのだろう。
 そのため、プレイヤーのツボを突くポイントが、さらに増殖しているのだ。こういうのを、研究する姿勢というのか。

 …「To Heart」WIN95版が発売されてしばらく後から、leafの評価は下がり始めている。
 もちろん、これは全体的な人気とは別の事である。
 正確には、そのスタイルが疑問視され始めたというべきか。
 だが実際には「To Heart」モドキを制作し続ける事はなく、「WHITE ALBUM」などの新境地への挑戦を試みていた。
 「こみっくパーティ」でプレイヤーの意見が完全に真っ二つに分かれた事から、アンチleaf派は爆発的に増加した(私もその一人)。
 まるで、過去に名作を連発していたメーカーが衰退期に向かい始める経過の様だ。
 そういう事はこれまでにも星の数ほどあり、恐らくこれを読んでいる方の中にも思い当たるものがいくつかある事と思う。
 実際の人気はともかくとしても、leafが危険な位置に立たされているというのは紛れもない事実だと考えている。
 残念な事に本作「To Heart・PS版」が、その片棒を担いでいたのではないか…という意見も存在する。
 「雫」「痕」などの、現在のleafの人気の基礎を作った名作の生みの親達は、leafを離れていった人達を別にしても、もうほとんど新作の制作に関わっていないという。
 実際「こみっくパーティ」は、カクテルソフト「PIAキャロットへようこそ!2」のスタッフを巻き込んで制作させたものだ。
 その中枢には、leafらしさは微塵も感じられない。
 その間、メインの大阪スタッフ達が「To Heart・PS版」に全力を注いでいた訳だが、一番必要だった人達の力を分け与えられなかったパソコン版作品達は、もの凄い勢いで失速を始め、地に落ちてしまった。
 これは、非常に残念な事だ。

 良く聞く話で、「大阪のメインスタッフが再び取り組んだ新作が欲しい」という意見を聞いた。
 そしてそういう人達のほぼすべてが、アンチ「WHITE ALBUM」「こみっくパーティ」派なのだ。
 もう一度、我々の心を本気でときめかせた作品を提供して欲しいと切に願うのだ。
 そして同時に、それが叶えられなかった時は現在のleaf人気のバケの皮がはがれる時でもあるのだ…。
 ただ本作をみれば、決してleaf全体にその力がなくなってしまったという訳ではない事が理解出来る。それもまた、確かな事実だと思う。
 具体的な製作内情も知らないで勝手ばかり言って恐縮だが、実際の状況はともかく、ファンの認識は先に記した通りなのだ。
 それを、leafの方々に伝えたい。
   
(後藤夕貴)

 
PS.ちなみに本作、当初は“サターン用ソフト”として発売される予定だったという。
 しかし、話を持ち込んだ時のセガ側の担当者が、leafも「To Heart」も何も知らない人であったらしく、無下に断ってしまったらしい
 結果、PSになったという事だが、ある意味これは正解の結果だったと言えよう。
 なお、その担当者はさらに上の人に、怒濤の如き説教を喰らったという話だ。

PS-2.この原稿を書いてから約2年後の現在、「leaf」の状況はさらに複雑化している傾向があり、すでに「ToHeart」の主要スタッフはほとんど残っていないとか。
 色々な意味で、今後どうなるのかが心配な様子である。
 「誰彼」「うたわれるもの」「PEACE」…全然話題になってないもんねえ。


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