天藍の夏 〜てんらんのなつ〜
 
 
1.メーカー名:U−MeSOFT
2.ジャンル:ADV
3.ストーリー完成度:C
4.H度:B
5.オススメ度:C
6.攻略難易度:D
7.その他:パズルゲーム「夏の蔵」がアツい!
  しかし、「倉庫番」が死ぬほど苦手な俺っちには、結構キッツいなあ。
 
(ストーリー)
 主人公・薬院海里は、温泉で有名な朱矛(あかむ)という田舎町出身の大学生で、今は東京で一人暮らしをしている。
 しかし、せっかく楽しい夏休みをエンジョイしようとしていた矢先、朱矛で温泉宿をやっている実家から、帰還命令が下った。
 それというのも、父親がダンプと相討ち(!)になり入院してしまったため、宿の手伝いをしなければならなくなったからだ。
 半年ぶりの故郷の駅に降り立ち、海里は呟く。
「本当に何にも変わってないな」
 町の様子も、風景も、人も……そして、
 まるで、彼を見下ろすが如く、青く澄み切った天藍の空も……
 
 
 という訳で、今回はU−MeSOFTの開発チーム(それとも外注かな?)の一つ「ボルボ本部長」の作品「天藍の夏」をば。
 思い起こしてみれば、ここの作品をやるのは二回目で、かつての「九拾八式降臨」の選ばれなかったソフトのコーナーにて「いまじねいしょんLOVE」を取り上げている。
 んで、その時の「いまじねいしょんLOVE」に対する俺っちの寸評は要約すればこんなものだった。
「出来の悪いピアキャロ2」
 酷評だと言っていい。
 その当時、俺っちは本評論として取り上げた「ピアキャロ2」に対して、さんざん罵詈雑言を浴びせかけたのだ。
 そして、それを下回っていると判断したのだから、普通に考えれば「いまじねいしょんLOVE」はとんでもないクソゲーだったという事になる。
 ところが、ところがである。
 そんな作品を作ったスタッフの次回作を、俺っちは何故か、手にしていた。
 それは、例えば前回と同じく原画のまるごと林檎さんの絵が好きだったせいもあるし、センスのいいタイトル(「天藍の夏」)に魅力を感じたからでもある。
 だが、それ以上に前作の「いまじねいしょんLOVE」に、それなりの魅力を感じていたというのが本音だろう。
 確かに総合的な…特にストーリー面での出来は悪かったものの、イメクラを経営するパートの斬新な試みや、操作性の充実など、次回に期待させる何かがあったのだ。
 客観的に見れば、失敗作。
 でも、個人的には好き、というヤツ。
 俗に言う贔屓目、というヤツだ。
 
 しかし、俺っちのその多少贔屓目が入った視点から見ても、今回も失敗作だと言わざるを得ない。
 
 まず、最初に気になったのがイベントが起きるタイミング。
 特定のイベントが起きる日に数日のブランクがあるのだが、一回そのイベントをこなしてしまうと、当然だが何も起こらないため、かなり無駄に次のイベントまで時間を飛ばさなくてはならない。
 数日のブランクを作って、後の祭り状態を防ぎ、難易度を下げようとしているユーザーフレンドリィさは、大いに評価したいトコロだが、この間が本当に暇になってしまうのは勘弁してほしい。
 特にこれは物語の後半に行くほど顕著で、おのおののヒロインのルートに一回入ってしまうと、他のキャラが殆ど登場しなくなってしまうので、なおさらだ。

 この作品での主人公は一日に三回の行動が可能なのだが、イベントが全く起こらない状態がこれで三日も続けば流石にダレる。
 実は、このイベントの起こるタイミングに幅があるというのは「いまじねいしょんLOVE」でも使われていた手法なのだが、こちらは毎日夜のパートでの売り上げ結果を見るというのがあったため、それ程退屈せずに済んだ。
 このテンポの悪さが、まずかなりのマイナス。
 
 次に、ライターの文章力。
 正直、そんなに力量のない人とは思えない。
 例えば櫛原沙葉シナリオでの、茜が披露する「妖怪の定義」などは、非常に読みごたえがあって面白かったし、キャラクターそれぞれの基本設定だって悪くはない。
 ただ、わざとなのだろうか……妙に文章をあっさりと書きすぎている様に思えるのだ。
 確かに、くどい文章というのは読みにくいし、とっつきが悪くなるというのは否めないのだが、これはもうちょっとどうにかならなかったのかなあ……。
 正直、前半はそれ程気にならないのだが、一通りのキャラが顔を出し、さあこれからが本番というトコロにきて、急に文章が簡潔になり始める
 これは、上で述べた暇な時間が多くなる事との相乗効果も含めて、かなり頭の痛い大問題点だと思う。
 特に、後半のお祭りに行く日は、Hシーン手前のクライマックスだ。
 ところが、この日の昼間の祭りの準備のシーンなど
今日は祭りの日
 みんなが忙しそうに準備をしている
 んで、夜
 と、何とたった三行で語られてしまい、夜のお祭りのシーンに場面転換するという、あっさりぶり。
「んで、夜」じゃねえつうの。
 こういう、特にストーリー指向のHゲームというのは、キャラクターやその世界観などへの感情移入がキモとなる。
 そしてそれを形作っていくのは、やはりその作品の持つシナリオ=文章が担うところが多いと思うのだ。
 意識して長い文章を書くというのがシンドい作業だという事は、俺っちとて百も承知だが、ここまであっさりしすぎているのも問題アリだと思うゾ。
 
 ところが、こういう問題点を差し引いても全然足りない、重要問題点がこの作品にはある。
 それは、
 この作品には、主軸が存在しない
 という事なのだ。
 しかも主軸に成り得る要素が、作品内に多分にあるにも関わらず、だ。
 それは、例えばメインヒロイン夏生が幼い頃主人公と交わした約束でも良かっただろうし、あるいはやたらと色々な伝承が残る朱矛という土地の因縁でも良かっただろうし、はたまた河童(!)でも良かったはずだ。
 なんでもいいから、各シナリオ共通で存在する根本的な設定が欲しい。
 ここ近年の洗練された作品群には、必ずそれが存在する。
ONE」の永遠の世界しかり、「コミックパーティー」のコミパという設定しかり、「加奈」「Rainy Blue」等の肉親や恋人の死というハードルだったりする。
 ここでこれらの作品の真似をしろ、などと言うつもりは毛頭ないが、こういう強力な一本の主軸が作品を締まったものにし、深みを与えてきた事は実証済みだ。
 この「天藍の夏」の場合、主人公の海里が故郷である朱矛に帰ってきたというのがそもそもの主軸なのかもしれないが、これはどちらかと言えば、単なる状況設定でしかない。
 決められた主軸がない上、各シナリオに厚みがなく、またそれが故にシナリオがバラバラに展開されてしまい、空中分解してしまっている。
 そして何より悔やまれるのが、非常に魅力的な舞台である朱矛を、それのせいで台無しにしてしまっている点だ。
 数々の伝説や伝承が残るこの土地は、実に様々な物語を秘めた典型的な田舎の温泉町として上手に描かれている。
 ところが、これらの物語はみなヒロイン一人一人のシナリオに、一個ずつ割り当てられているだけに過ぎないのだ。
 朱矛城での悲劇は夏生シナリオでしか描かれないし、河童は稚葉シナリオでしか出ないし、ヒイロカネの伝説は茜シナリオでしか登場しない。
 何というのか……全員のシナリオが「To Heart」の葵シナリオの様に、完全独立型となってしまっている。
 そして、それが故に朱矛といういい舞台をあつらえたにも関わらず、これを活かしきれず、作品全体を締まらない中途半端なモノにしてしまったのが、最大の弱点だ。
 
 何だか、あまり誉めていないが、この作品には唯一と言っていい美点がある。
 それは声優が上手だという点だ。
 もっと正確に言うならば、本当に適材適所にいい人を持ってきている。
 ヒロイン格の女の子から、どう見ても「めぞ○一刻」に出てくる五代君のおばあちゃんにしか見えないババアやら、主人公の親友といったどうでもいい脇役まで、きっちりイメージ通りの声優さんを起用している。
 元来、俺っちはHゲームの声の有無は、さほど気にしてはいない。
 どちらかと言えばキャラと声のイメージがあってない時が怖いので、否定的な方だと言っていいし、かつて「Natural」の冒頭の「おにいちゃん! 私、ずっと前からおにいちゃんの事…」のセリフを聞いた瞬間、右クリックを押し音声をオフにしてしまった過去を持つほど、甘ったる〜い声が大嫌いなクチなのだ。
 しかし、この作品に限っては音声有りの楽しさを存分に満喫させてもらった。
 たかだかHゲームの声ごときで、と侮る事なかれ。
 自然体で喋っていながらもどこかプロの声優としての上手さを感じさせる声は、キャラクターイメージとしっかりマッチしていて、各々の個性を把握するのに一役買っている。
 矢加部茜櫛原沙葉犬塚風音役の人は本当に上手い。
 特に真桜シナリオで、茜に主人公がからかわれる時の、某喪黒さん口調の「どおおぉぉんんんっ!」は本当に笑わしてもらいました。
 声にエコーまでしっかりかけてやがんだもんなあ(笑)。
 
 
(総評)
 評価はやはり、結構ツラい。
 オススメ度にCはつけたけど、正直人に勧められるかと言われれば、ちょっと考えちゃうレベルだ。
 ここら辺、贔屓目って事で(苦笑)。
 ただ、比較的お気楽にゲームを進められる点や、相変わらずの操作性の良さは十分なプラスポイント。
 また、最近流行のあざとく泣かせるタイプの物語ではなく、それでいてほのぼののんびり系の話なので、ハードな作品に疲れた人には向いているとも思う。
 
 結局、なんだかんだ言っても雰囲気とかは気に入っているんだよな。
 次に、ここのスタッフの作品が出れば、モノにもよるけどやはり購入してしまうだろう。
 だからこそ、三度目の正直に期待したいトコロだ。
 
 
(梨瀬成)

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