誕生日〜通い妻(自称)日記〜
 めざせ! はっぴーろすとばーじん!

1.メーカー名:jANIS/ivory
2.ジャンル:爆裂耳年増妄想ADV (異議なし!)
3.ストーリー完成度:B
4.H度:C
5.オススメ度:B (長いのがダメな人にはC以下)
6.攻略難易度:D (全イベント攻略を目指すならB)
7.その他:みさおのCV(浅見ちほ)さんって、素で演ってないかい?

(ストーリー)
 間下みさおは、幼なじみのお兄ちゃん・中村浩文(変更可)一筋の女の子。
 心と体の成長に伴い、ただ「好き」なだけでは物足りなくなり、中村と結ばれる日を夢見て通い妻(自称)をしながら、恋のアタックの機会(激しく死語)を窺っている。


 音楽プロデュースにI'veを迎えた本作は、洗練されたシステムに音声リプレイ付きバックログや、BGM・CG・イベント鑑賞といったオマケ機能も充実している。
 また新規導入したシステムの解説に、チュートリアルまで用意した親切設計だ。

 セーブファイルは20×3頁+オートセーブ専用20という豪勢な仕様で、侮れないのがこのオートセーブ機能。
 選択肢通過毎に記録されているのだが、履歴で20箇所分もあるうえ、このオートセーブファイルを通常のセーブエリアにコピーしたり、任意に整理できる「データエディット」機能まである。
 そのセーブデータを利用してナビゲーションプレイも可能になっているのだが、こちらは一度クリアした後のオマケ機能のひとつ。
 具体的には、セーブデータに記されている「選択した経緯」を辿って、リプレイしてくれるものなのだ。
 しかもこの機能はただ眺めるだけでなく、途中で解除した場合はそこから引き継いでプレイし直す事ができるため、オートセーブ機能と併せ大変利用価値が高い。

 これに加え、新しくレーダーチャートが搭載されている。
 中村の好みがどういった方向性にあるか、それに対しみさおがどんな状態であるかを視覚的に表したものである。
 行動結果は即チャートに反映するので、おにいちゃん好みの女の子を目指すみさおの強い味方なのだ。
 だが表示されているのは「みさおから見たお兄ちゃんの好み」に過ぎないため、単純にシナリオクリアを目的とするだけなら、補助的な役割でしか使えないだろう。

 とはいえ、そんな機能であっても完全攻略に際しては大変重宝する。
 というのも、小イベントの発生条件とこのチャートの傾向は密接に関係しており、これによりシナリオの流れも微妙に違ってくる。
 また、みさおは週ごとの出来事を解禁日のネタにしているわけだから、彼女の妄想にも違いが出てくる。
 全イベント&CG100%を目指すなら、レーダーチャートの恩恵は計り知れないだろう。

 シナリオの経緯を重視せず、「エンディング」を見据えての攻略であるならば、このレーダーチャートにはもうひとつの使い道がある。
 中心点から四方に分布する青の領域でみさおの性格的要素を分析表示しているのだが、この領域の分布状態…つまり中村好みに育ったみさおの性格に応じてエンディングが分かれているのだ。
 これを逆手に取って「チャートを平均にを整える」と、面白い事にすべてのエンディングが選択可能な状態になった。
 このエンディングについては後述するが、興味のある方は試してみては如何だろうか。

 もうひとつ、このゲームに搭載された新システムVCCCS(どんな単語の略なのかは、本作の「チュートリアル」を参照して笑ってなー)。
 ロコツに書くのも躊躇われるが、Win98以降のOSで対応となったマウスのホイールを女性器のそれに見立て、みさおのひとりHのお手伝いが出来るのだ。
 しかしこのVCCCSこれ以外の用途が無いうえ、このシステムを利用しなくてもゲームに何ら影響はない
 これは「サービス仕様」と捉えるべきなのだろうが、よくよく考えるとお手伝いしたらひとりHとは言わないでしょうに。(爆)

 あと、注意して欲しいと思う点がある。
 おまけ機能として付いている〔ザ・ヘタレまるだし〕の利用についてだが、この機能を使うとCGおよびHイベントのフラグがONになり、閲覧が可能になる。
 使用時の事前説明にあるとおりペナルティーとして「中村の呼称」が「ヘタレ」に変わるのだが、これを元に戻す為にはセーブファイルの”save0.dat”を削除する必要があると書いていた。
 その際呼び名は戻るが、予想外の不具合が起きる可能性があるとも…。
 どの様なものか、検証の為にこの機能を使用した後”save0.dat”を削除した結果、ものの見事に既読スキップ機能が使い物にならなくなった。
 起こる不具合がこれだけに止まるとも思えないし、致命的なトラブルを誘発する危険性もありうる。
 自力での攻略を続けるのなら、使用を控えた方が賢明ではないだろうか。


 さてこのゲームは代表的な作品とは異なり、主人公がヒロインに追いかけられる形でシナリオが進んでいく。
 視点の切り替えはあるのだが、基本的には第三者の主観でみさおを中心とした、日常の光景を綴った仕上がりになっている。
 流れのままに話の牽引役でもある彼女の立場から一風変わったこのゲームを見てみると、これまで同ブランドで製作してきた作品とは明らかに違う試みをしていることが解る。

 その例としては、シナリオ上で選択を要するポイントがあるのは、みさおだけでなく攻略対象(笑)である中村にもあるという点だ。
 これにより「中村好みの女の子」を目指し、彼の心を射止めようと日々画策しているみさおは、中村の選択(考え方)ひとつで右往左往する事となり、結果として一本道に等しいシナリオに変化を与えている。

 一本道に等しいというのも、このシナリオが中村にべた惚れしているみさおの恋物語であるからだが、彼女の友人達の色恋沙汰にも少なからず触れている。
 口が悪くオヤジキャラだが、こと恋愛に関しては開放的で惚れっぽい呉あのみは、幼稚園からの腐れ縁。
 おっとりとした小春日和な性格ながらも、意外と嫉妬深い乃美山可憐は10歳からの親友。
 高校に入ってからの付き合いである寺元織絵は、才女であるが素性も性格も…とにかく謎が多い。
 ここに明るい性格のみさおが加わり、かしましい年頃の娘たちがおりなす恋愛話として、にぎやかに語られているのだ。


 にぎやかというなら登場人物もそうだ。
 本作には、実に沢山の個性あふれるキャラクターが登場する。
 単純に奇抜なだけだったり、奇異…奇行の多い人物も含まれてはいるが、しかしどのキャラクターにもしっかりとした人物像が作られており、みさおの生活の舞台であるこの街を現実たらしめている。

 みさおを育んだこの街…舞台背景だが、自宅から聖クリスチーヌ付属高校までを往復する通学路を中心とした、今時の小学生の行動範囲よりも狭いかもしれない、こじんまりとした作りになっている。
 だが狭いながらに実に細かく設定されていて、それを効果的に利用しているのだ。

 これは同ブランドの名実ともに代表作といえる『とらいあんぐるハート』シリーズ(以降「とらハ」と呼称)でも感じたことなのだが、主人公が生活拠点としている街で暮らしているという現実を大切に描いていると思う。
 この為プレイヤー側としては、街のどこでイベントが発生しても楽に位置関係が把握でき、その分シナリオに集中しやすい。

 だがしっかりと作りこまれているにも関わらず、”みさおとして”自由に行動(移動選択)ができないのが残念だ。
 これは日々繰り返されている消化イベントの通い妻攻勢…もとい夕食の買出しでも同じ。
 通常で選択可能な商店は、八百屋「おやおや」・肉屋「ベティーさんの店」・魚屋「うおばく」の3件のみであり、同商店街にあるコンビニ「ミニトップ」や牛丼「木公屋」、中華料理店「呉」などは対象にされていない。
 特定のイベントでは、これらの店から食材を調達することもあるのに…だ。
 購入の不可はともかくとしても選ぶ事が出来たなら、もっと面白い事になっていたかも知れない。


 このゲームはクリアするまでに、とにかく時間がかかる。
 先程とらハシリーズを引き合いに出したが、同シリーズの2作目「さざなみ女子寮」はヒロインの頭数が多い上にシナリオも長く、相当なプレイ時間を要した。
 双方の作品を比較しても、本作はこれに引けをとらないだろうと感じられる。

 シナリオは1週間分の話題を「1話」ずつに括ったストーリー形式で、全23話…開始時点から5ヶ月間ものシナリオを消化しなければならない。
 1話1週間といっても、実際には2〜4日分ぐらい日付が飛んだりしているので、シナリオそのもののボリュームは短編の小話程度といえる。
 それにも関わらず、とらハシリーズで最長を誇る「さざなみ女子寮」のルートシナリオ攻略に要する時間と比べうる最大の原因といえるのが、シナリオの所々に挿入されている「ナレーション」とほぼ週1回ある「みさおのひとりH」だ。

 通常会話シーンなどに使用されているテキストウインドゥを利用せず、画面の大半を占める背景やイベントCGを表示する部分を暗転して、ここにシナリオの解説や情報の補完、登場人物のモノローグやみさおのひとりHシーンを載せている。
 事細かな解説の量も半端ではないが、週末の解禁日毎に数画面分づつ表示されるひとリHの文章量は膨大だ。

 ”読む作業”だけに関して言えば、飽きがこないようにユーモアのある会話や適度な場面転換、小イベントの演出などでメリハリを付けているので、さほど苦痛に感じることは無かった。
 これはシナリオライターさんの力量のほどを窺えるものだと素直に認めたいが、ちらほらとみられた「雑学知識に依存した設定の仕方」には難がある。

 これはそのひとつなのだが、シナリオ開始直後に付属高校3年のみさおは、聖クリスチーヌ女子大への推薦入学が決まっている。
 みさお達は校内の隠語でこの女子大を「ジャイ子」、同医大の方を「ジャイアン」と呼んでいたのだが、本編中で一切のフォローがなされていない。
 自前の設定は過剰なほど解説しているのに、この件に関しては「その由来についてみさおは知らない」という一言で片付けるのは、有名所のマンガをウケ狙いで利用しておきながらあまりにも身勝手すぎないだろうか。

 今更解説の必要もないと思うが、いまや国民的名作のひとつであるドラえもんに登場する、漫画家志望の八百屋の娘・ジャイ子(本名)が使っているペンネーム「クリスチーネ・剛田」にひっかけた呼び名だ。
 ゆえに格上の医大を兄貴のあだ名で呼んでいるのだろう。
 あのキャラクターは番組の代名詞としても通用するから「ジャイアン&ジャイ子」=「ドラえもん」は成り立つだろうが、それでも「ジャイ子」=「クリスチーヌ」という公式が通用するとはいえないのだ。
 笑いを取ろうとしたのだろうがシナリオでの使われ方から考えても、ちょっとした遊び心で「解ったら笑ってください」というより、むしろ常識として「知っていて当たり前」みたいに書かれていると思えたのだ。
 この様なものが幾つかあったのだが、読ませるために持ち出したネタなのだから、もう少し配慮がなされるべきだと感じた。


 この物語の柱となっているものは男の痩せ我慢である。
 田舎育ちで古風な考え方しかできない中村の信条とするところだが、これがシナリオを最後まで支えていた。

 7年前、みさおを美大へ連れて行った中村は、彼女がイタズラしてその頭上に落下してきた石膏像から庇い右腕を骨折した。
 自分が目を離して起きてしまった事故の為に、準備室の管理者であった恩師・古久根教授が責任を問われる事が無いよう報告は一切せず、完治するまでの2ヶ月間美大へは顔を出さなかったのだ。
 その結果、教授の課題を提出できなかった中村だったが、事実をひた隠すため沈黙を守りぬいた。
 そして教授の信頼を失い不興をかった彼は美大からも疎遠となり、部屋にこもって自分の絵を追求する生活に身を没していく。
 それだけならまだ良かったのだが、古久根教授は絵画の世界で発言力のある立場の人物だったため、中村の絵はその出来如何に関わらず何度出品しても必ず落選してきた。

 こうして天性の素質と才能を持ちながらも、画家としての将来を閉ざされた状態になった中村だが、そんな現実さえ独りで受け止め、誰も責めようとはしなかった。
 シナリオ終盤でこの「真実」を知ったとき、当時わずか10歳だったみさおが歳の離れた彼をなぜこんなにも慕ったのか、少しだけ理解できたような気がした。

 そんなみさおを追ったシナリオだから、本懐とするところは中村と結ばれる以外の何でもないのだが、こんな一本道のシナリオであってもバッドエンドは存在する。
 大雑把にいうと、中村の心がみさおから離れるか、もしくはみさおの貞操が他の男に奪われるか…。

 朴訥で頑固者の中村は、自分の考えを曲げてまで人と合わせる事はしたがらない。
 ゆえに口出ししすぎて疎ましがられたり、隙をつかれて画商の的小夜子(いくはさよこ)に寝取られた結末が、バッドエンドであることは納得が出来た。
 では、みさおの方はどうだろう。
 取り立てて美人というわけでもないが快活で人当たりも良く、気さくで飾り気のない、いつも自然体でいられる女の子。
 そんなみさおは、クラスの男子のみならず、多くの男達に想いをよせられている。
 当然実力行使に踏み切ろうと、チャンスを狙っている者も少なくない。
 この中には担任の「フィジカルエリート」軸丸も含まれているわけだから、常にみさおのみさおがぴぃ〜んちっ!な状態なのだ。
 本懐が遂げられなければ即バッドエンドになるのは早計だとしかいいようもないのだが、こればかりは当事者であるみさおがその事実をどう受け止めるのか…なのだから、これ以上引きずるのは酷というものだろう。
 しかしここまで物語を見てきた側として、せめて中村とはどうなったのかぐらいは書いて欲しかったと思うのだが。


 先に何度も述べたが、本作は「みさおを中心」とした物語だ。
 主人公はあくまで中村なのだが、『主役』はみさおだといっていい。
 初回プレイでは、みさおの視点から捉えられる範囲だけでシナリオは進行しているのだが、無事エンディングを迎えたのち最初からプレイしなおすと、みさおの行動中に中村達が『その時何をしていたか(考えていたか)』というシーンが追加されていた。

 みさおの目標が中村ただ一人と定められた本作において、辿り着くエンディングはともかくとしても、派生シナリオは作りづらい。
 またシナリオも各話毎に完結せず23話全体でひとつの話であることからして、1話毎の内容の整合性を保つためには劇的な変化を付けづらいだろう。
 そうでないと、そのイベント翌週のタイトルまで変わりかねないからだ。
 そこで2回目のプレイではシーンの追加という工夫をし、小イベントでの微妙な流れの変化を助ける形でゲームをやり込める様につくったみたいだ。
 さらに2回目も無事クリアすると、3回目には初回プレイと同じ[みさおONLYモード]と、みさお関連以外のイベントも含んだ[フルセットモード]の選択が可能となる。

 だが、このフルセットモードのまとまり具合を考えると、先の見解は逆に考えた方がいいのかもしれない。
 中村が主人公といいながらもみさおを中心として進行するシナリオで、最初から他方面で起こる別キャラのイベントまで細かく出されていたら、こんがらがって誰の話なのか解らなくなっていた事だろう。
 おそらくシナリオの原文は小説のように場面を切り替えながら書かれていたのだろう、そこから必要に合わせて削り出したのがみさおONLYモードだと、そう見たほうがより自然に解釈できる。
 これに関しては判断材料が乏しいためこれ以上憶測しても無意味なのだが、そうだとしても結果的には良い方向へ仕上がっていると評したい。

 だが手放しに誉めてばかりもいられないのだ。
 初回でみさおの視野に収まる範囲に絞った演出とした為、彼女に直接関わりの無い人物達が絡んだ出来事は、すべて2回目にまわされている。
 このため初回においては、必要以上に細かく描写された人物達の中にあって、さして重要な役を担っているわけでもないのに、必要最小限の情報しか開示されていない人物が不明確な行動を取り、しかもプレイヤーがその結末を知る事なくシナリオが終わるという、ちょっと笑えない現象が起こっていた。
 これは先に述べた「原文から削り出した可能性」の弊害だと考えられるが、はっきり言ってその人物たちの登場を含めた演出部分を一緒に削ってしまっても、初回のシナリオに一切の不都合はない。
 乱暴な言い方だが、みさおの行動を追うだけなら、蛇足以外の何でも無いからだ。


(総評)
 全体としてのボリューム感は申し分ないのだが、必要以上にぜい肉を付けているとも思われる。
 シナリオの流れや引き込み方は悪くないのだから、もう少し整理してあればより高く評価できたのではないだろうか。

 立ち絵の誤表示がかなり多く、致命的ではないもののテキストの誤字も多い。
 また明らかな間違いもある。
 みさおが考えるものに、「初潮で妊娠が理想的」とあった。
 女になると同時にオンナになって、その結果母親になる…それが理想だと。
 だがそこまでの話の流れから考えると、「初体験で妊娠したい」という希望を述べるのが正解だ。
 そのうえで、「しかし理想だと思うのは、初潮をむかえる時に妊娠する事だった」とするべきだろう。
 だいたい17歳のみさおが今更初潮とかいいだしたら、「あの時ヤっておけばよかった」って過去形の表現にしかならない。
 何せ彼女が中村の存在を強く意識しはじめたのが、まさに初潮をむかえた日なのだから。
 もっとも、彼を「運命の人」だと自覚したのは、もう少しだけ後の話になるのだけれど…。

 もう一つダメ出しをするが、テキストとしての描写は完璧なのに、なぜか同じ立ち絵を使い回ししている呉と漠田の婆ちゃんズはいただけない。
 この老姉妹は双子ゆえによく似た性格である事は解るのだが、中華料理店と魚屋の大女将が同じ格好でそれぞれの店内を闊歩している姿は相当違和感がある。
 この二人が並んで立つ場面などは、婆ちゃんの分身にしか見えない。
 もう少し何とか出来なかったのだろうか…。
 秀逸さの中に点在する造りの甘さが、作品全体の輝きを鈍らせていると思うと、非常に残念でならない。


 『このモデルは、描き手を愛している』
 時に残酷すぎると思えるほど緻密な描写力で被写体を捉える中村の才能は、みさおの内側からにじみ出る愛情すらも、その筆で写し取っていた。
 この感動的な終幕のために長丁場をこなしてきたのかと思うと、実に感慨深いものがある。

 このシーンに入る直前に各エンディングに分岐していたわけだが、冒頭で述べたとおり、各エンディングとレーダーチャートの分布状態は関連している。
 レーダーチャートは縦横の軸が交差する表の中心を基点として、
 上方向が「自立心が強く、自発的に行動する子」。
 下方向が「聞き分けがよく、自制心がある子」。
 右方向が「古風で奥ゆかしく、物を大切にする子」。
 左方向が「現代的で進歩的、前を向いて進む子」に振り分けられている。
 この表の右上・右下・左上・左下の各領域に、ふたつずつ…計8つのエンディングが用意されていた。
 もし複数の領域が同ポイントとなった場合、ここでふたりは更なる行動選択を求められ、それぞれのエンディングに分岐していく仕掛けになっている。

 誕生日を迎え大人になった自分を抱いて欲しいと懇願するみさおの想いを受けいれるか、それとも最後まで痩せ我慢を貫くか…。
 プレイヤーが中村として最後の決断をするわけだが、ここでみさおを受けいれなくともバッドエンドにはならない。
 こちらは、結果的に中村に振られたみさおの精神的自立を描いたものとなっており、みさおは「長年の片想い」に終止符を打つ事になる。
 また、みさおを受けいれバリエーション違いのえちぃシーンを堪能した後のエンディングは、ひとつを除き「みさおにとってのTrueEnd」といえる。
 夢をあきらめた中村にとっては、幸せであれどすべてが満たされた結果とは言い切れないからだが。


 各エンディングを手短に説明すると…

 < みさおを抱く >
 ・ 想いが通じ愛を確かめ合ったふたり。
 恋焦がれるだけでは決して知る事ができなかった、大人になる…オンナになるとはどういう事かを理解したみさおは、愛する男をその心に絡め取り、したたかに美しく微笑んだ。

 ・ みさおは中村の元へ嫁いだ。
 彼は絵の道を捨てサラリーマンとなり、みさおの両親から買い取った自宅で、愛する妻子と共にある幸せを実感していた。
 「これで良かったんだ」と、自分を納得させながら…。

 ・ ”成功への片道切符”を放棄し、みさおを選んだ中村。
 彼は間下家に下宿して、最初の一歩からまた自分の夢に近づきつつある。
 幸せを得るために中村は相当の犠牲を払った。
 しかし、道が閉ざされたわけではない、回り道さえすればいいのだから。

 ・ 間下家に婿入りした浩文は、妻の両親が勤める出版社のデザイナーになった。
 油絵を描かなくなった彼だが、それでも時々何も描かれていないカンバスの前に座り、ただぼおっと眺めるている姿をみかける。
 みさおは何も云わず、ただやさしく見守り続ける。
 彼の夢が、安らかな眠りに就くその時まで。

 < みさおを抱かない >
 ・ 予想通りの答えを聞き、静かに部屋を後にしたみさおは、翌朝体ひとつで彼の前に現れた。
 パスポートも当面の生活費もあり、そして好みの女の子がいて、他に何も要らないだろうと云って。
 こうして、「ふたりの旅」は続いていく…。

 ・ 中村が去った部屋に通い続けるみさおは、気がふれたように「お兄ちゃんが居るごっこ」をしていた。
 彼が帰るまで掃除を続けよう。
 もうすぐこのアパートは取り壊されるけど、心の中にはこの部屋は何時までもあるのだから。
 みさおの「心の空き室」が埋まる日は来るのだろうか。

 ・ 帰宅したみさおは部屋で夜通し泣いた。
 夜が明けても、世界は彼がいた日々と何も変わる事がなかった。
 卒業……したから。
 みさおは心のページに、中村への別れを刻んだ。
 もし再び出会えたとき、素敵な恋が出来たらいいと思いながら。

 ・ 中村の居なくなった部屋で、泣き続けたみさお。
 朝を迎えても何も変わる事がない、自分さえも。
 その現実を受け止めたみさおは庭に躍り出て、半日遅れの別れの言葉を叫んだ。
 世界中で一番好き『だった』と。


 これらのエンディングは、中村(プレイヤー)がみさおをどう育ててきたかの結果のうえに成り立つものであり、ゆえにそれまでの経緯を含めた所で語られるべきだろう。

 7年間待ちつづけたみさおが、彼を引き止めるシーンは、とても痛々しいものがあった。
 しかし、中村の才能も夢も…すべてを理解し、価値観を共有してきたみさおなのだ。
 保証も何も無い旅立ちだけど、彼を信じてついて行こうと決めたエンディングは、もっともこのふたりらしい結末だと、そう思えた。

 とはいえこの作品を…中村とみさおの関係をどう捉えたか、それによって同じエンディングでも違って見えるのではないだろうか。
 だから思う、どれがTrueEndであるかは、プレイヤー次第だと。
 ここまでみさおの恋が、素敵な現実になるように導いてきた、貴方次第だと…。



(あおきゆいな)



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