[鈴がうたう日]
    a story of Angelic Girl, arrived the SunnyField.
 
 初回限定はトランプかあ。何か、もったいなくて使えねえなあ。
 出来ればマウスパッドが良かったなあ、なんてな。
 
1.メーカー名:Tactics
2.ジャンル:ADV
3.ストーリー完成度:B
4.H度:C
5.オススメ度:B、「Kanon」をやった事のある人にはC
6.攻略難易度:B
7.その他:さりげに音楽が素晴らしい! ほぼ同時期発売された「Kanon」も素晴らしかったが、この作品もレベルが高く、唸らせられたぞ!
 
 
 いやー正直言って、かなり良い出来だった。
 個人的には凄く気に入っているし、シナリオも泣かせるので、それなりに俺っちのツボにはまっている。
 7.「その他」のところでも触れているけどBGMも出色の出来で、場面場面の挿入の仕方も申し分なく、演出面を盛り上げるのに一役買っている。
 ただ……何というのか……一言で言うと、これは「悲運」の作品だ。
 もう、運が悪かった、としか言いようがない。そして、それが何故かというと
ONE、いや、KEYのスタッフの陰は、やはり大きすぎた
 という事だ。
 もはや周知の事実だが、名作「ONE」を作り上げたスタッフは、新ブランドKEYへその殆どが移籍してしまい、この[鈴がうたう日]の出た一週間後に、鳴り物入りで登場した「Kanon」がブレイクしたばかりだ(同時期に「コミックパーティー」も発売されたため、大ブレイクには至らなかった様だが)。
 そして悲しいかな、タクティクスというメーカーは、非常に微妙な、ある意味アンバランスな立場に立たされてしまった。
 確かに、以前から「MOON.」という作品が実はさりげに面白いらしいよ、といった情報は流れており、俗に言う「注目株」のメーカーだった事は事実だった。
 だがこのメーカーの名前を一躍スターダムにのしあげたのは、やはり「ONE」だったはずだし、ユーザー側も、それでイメージを固定化させた。
 しかし、その「ONE」の続編にあたる位置づけの「Kanon」は、結局「ONE」のイメージのメーカーであるはずのタクティクスからは発売されない事になってしまった。
 タクティクスは大きな二択に迫られたと言っていい。
 すなわち、「ONE」で築き上げたイメージを引き継ぐのか、それとも今までのイメージを払拭して、新しく生まれ変わるのかを。
 この作品をやってみればすぐに解る事だが、結局タクティクスは前者を選んだ。
 そしてこの選択をした段階で、この作品が不幸になる根幹があった。
 分が悪い…あまりにも分が悪い勝負だったのだ。
 「ONE」のイメージを引き継ぐという事は、「ONE」を越える作品を次回作で輩出しなければならないという事だし、同時にKEYが出す次回作をも上回らなくてはならないという事だったのだから。
 そして客観的に見て、この賭けはどうやら失敗だった様だ。
 「Kanon」のネームバリューが高かったせいもある(あれだけ、各雑誌で取り上げられりゃあね)。
 そして、それが期待を裏切らない出来だったせいでもある。
 だが、それ以上の大問題点がある。
 似ているのだ。[鈴がうたう日]と「Kanon」は。
 いや、もっと正確に言うと両作品のメインヒロイン、「すず」と「あゆ」の設定が、あまりにも似通っているのだ。しかも、シャレにならんレベルで。
 この二人の共通点は「話の中心人物(もしくは、シナリオライターがその様に設定をしている)である」「ヒロインは夢現(ゆめうつつ)の様な存在」「眠り姫」とあまりに多い。
 しかしこのヒロインの描き方は、双方とも申し分ないと言っていい。
 どちらが劣っている、とかそういう事を言うつもりは全くない。
 ただ、両作品ともにメインヒロインを中心に話を組み上げているものだから、その評価は作品全体に及んでしまう。
 すなわち、作品全体が「Kanon」と比較されてしまうのだ。
 そして、そういう観点で見た場合、やはり「Kanon」の方に軍配が上がらざるをえない。
 だからと言って、シナリオが決して悪い訳ではない。いや、むしろ高レベルだと言っていい。
 例えば、ヒロインのすずの描き方は「Kanon」のヒロインあゆとはアプローチの仕方が違う。
 あゆが、「眠り姫になった原因」を中心にその存在を描いているのに対し、すずは「すずとはどういった存在なのか?」という事を中心に物語が進む。
 すずが眠り姫になった原因は「病気である」といった事しか解らないのだが、彼女がひっそりと眠る「太陽の国」といった設定を持ち出し、「眠り姫のすず」をプレイヤーに見せる事により、彼女が幻の様な存在だったという事を知らしめるシーンは、素晴らしい演出だった。
 正直に言うと「“Kanon”のあゆにこういう演出があったなら……」と悔やまれる程だ。
 他にも幼い頃、実はすずに会っていた七海や、過去にトラウマを持つ蛍など、サブヒロインのシナリオも非常に質が高く、なかなかに泣かせるシナリオ展開は秀逸だ。
 だが、まずい点もある。それはシナリオの構成だ。
 サターンにも移植され、大ヒットとなった「この世の果てで恋を唄う少女YU−NO」を覚えている方は多いと思うが、あの作品は大きく分けて三部構成になっており、オープニングのADV部分→A.D.M.Sの宝玉編→異世界編のADV部分という風に区切りがされていたのだが、この[鈴がうたう日]も前半と後半が選択肢のないADVパート、中盤が街や予備校などをうろついて、女の子の好感度を上げるパートと、非常に似た構成となっている。
 ところが困った事に、話が急展開する最も旨味のある部分を、全て後半に持ってきているため、プレイヤーは今までとのギャップにかなり違和感を感じてしまうのだ。
 雑誌の記事に書いてあった事なのだが、この作品のテーマは「日常生活の大切さ」なのだそうだ。
 中盤パートは、確かにそれをシナリオで上手に引き出している。
 しかし、後半の部分にそれが活きているのは、正直言えばすずのシナリオだけだ。
 七海が幼い頃、実は結構ヒドいイジメにあっていて孤独だった時に、慰めてくれた存在がすずだったとか、蛍は実は主人公の初体験の相手(お互いに)だったとか、そういう重要な伏線も情報も、いきなり後半でどばっと判明してしまう。
 そしてここらへんの事は、中盤パートでは一切触れられない。
 中盤パートで好感度が上がれば、別に暴露しても構わないであろう部分まで隠すのは、勘弁して欲しかったものだ。
 そう言えば、主人公の父親が医者で、本人も医者を目指しているという設定も前半〜中盤では一切語られない。
 ここら辺は、むしろ最初のうちに明かしておけば、何故主人公が紫に頭が上がらないかとかも、容易に理解出来たはずなのだが。
 「日常生活の大切さ」という「ONE」の時のテーマを継承したかったのは良く解るが、すずとの同居生活を平々凡々と語るだけでは、一歩足りない。
 例えば「ONE」で例の夢のシーンとか一切なしで、後半で「永遠の世界」の話が急に浮上しても、プレイヤーはついていけないでしょ?
 ただ、すずのシナリオはメインヒロインだけに良く書き込まれており、演出としても申し分ない。
 この作品を最後までプレイすれば、サブタイトルにもなっている「a story of Angelic Girl, arrived the SunnyField.」すなわち「太陽の国より来たる、天使の様な無邪気な少女の物語」の意味を知る事になるだろう。
 また、特にエンディングの演出は素晴らしく、なかなかに感動させてもらった。
 結構ツラい事を書いたが、実際のトコロは、これだけのレベルの作品にはそうそうお目にはかかれまい。
 あと一つだけ苦言を呈するなら、誤字脱字の多さは、マジで勘弁して欲しい。
 ハッキリ言うと、俺っちが最近やった作品の中でもワースト3に入る。
 こういう細やかなトコロにも気を配る事は大切だと思うのだが。
 
(総評)
 前作「ONE」のスタッフが、新ブランドKEYに殆ど移籍してしまい、かなりの痛手を被ったであろう、「新生」タクティクスの第一弾となった当作品。
 実際、「あの」スタッフが消えてしまった事もあって、多方面から疑問視や心配や不安の声が聞こえてきたものだが、俺っち個人としては杞憂に終わったと言っていいと思う。
 なかなかどうして、レベルの高いシナリオライターさんを発掘してきたものだ。
 それだけに、次回作は構成力等にもっと力を注いで欲しい。
 原画の絵描きさんの絵も癖が強く、一般受けはしないだろうが、プレイ中はさほど違和感は感じなかった。
 かわいいデフォルメミニCGなどが、功を奏しているのだろう。
 BGMは文句なしだし、シナリオの質自体は高かったのだから、あとは基本をしっかりすれば、更に高レベルの作品が出来るはずだ。
 あと、最後に特筆しておきたいのが、広告展開の上手さ。
 各雑誌にのっていた広告は、非常に興味をそそられるレイアウトで好感が持てた。
 シンプルな白地に、「何か」を期待させるメッセージ、バックにサブヒロインをあしらい、メインヒロインのすずを中心に持ってくるイメージイラストは良好である。
  
(梨瀬成)
 
 
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