すめらぎの巫女たち
善悪って何だろう…

1.メーカー名:D.O
2.ジャンル:シミュレーション+アドベンチャー
3.ストーリー完成度:C
4.H度:D
5.攻略難易度:D
6.オススメ度:C
7.その他:あかほりさとる氏の持ち込んだ「らいむいろ戦記譚」が出る前に「エロサクラ」と言われていたらしい。
 ただの真似か、それとも実は別物なのか、興味があるのでやってみた。
 さて…。

(ストーリー)
 時は大正。
 しがない生活を送る主人公・北川大介(名前変更不可)は、黒羽沙夜と名乗る亜人間の女性から、実は千年前に亜人間達を率いて神に戦いを挑み敗れた、邪神の生まれ変りだと告げられた。
 大介はいまひとつピンとこないが、このままでは神に仕え亜人間を狩る巫女・封魔の連中に見つけられ、始末されるというので、自覚がないながらも邪神として協力をすることになった。
 沙夜の助力により、徐々に大介の元に集う亜人間の仲間達。
 相手は千年の溝の深さを持ち、神の名において亜人間を駆逐する、操り人形のような封魔の巫女。
 出来れば避けたい戦いを重ね、望まないながらも大介は次第に封魔を追い詰めていった。
 戦いの中で、人間として生きることは出来ないかと悩む大介。
 そこへ介入してくる海外の巫女達。
 外来の巫女達は邪神・大介に手を妬く封魔に助力するという名目でやって来たという。
 だがその真の目的は、邪神と封魔の戦いに決着をつけるフリをして、日本に神を降ろす際の膨大なエネルギーを利用する、帝都壊滅だった。
 大介が邪神としてすべきことは何か? 神の思惑はどうなのか?
  一つ一つ犠牲を払いながら、決戦は近づく。


  プレイヤーは大介となり、彼の元に集まる女性達を相手にアドベンチャーパートをこなし、封魔が襲ってくるシミュレーションパートををこなす。
 目的は封魔との戦いから、その背後にいる神との戦いまで、全七話をクリアして、大介の味方(ユニット)となる九人の女の子とエンディングを迎えること。

 正直に言って、シミュレーション、アドベンチャー共に目新しいものはない。

 アドベンチャーはフラグ立てなどの要素はなく、逢いたい女の子を選び、更にそこでの選択肢を選ぶことで好感度を上げるだけ。
 攻略できる女の子は封魔側4人(光、香、みこと、憂希)、亜人間4人(沙夜、くらき、闇姫、紅蓮花)、そして普通の人間の夢見の全部で9人。
 しかし、攻略といっても、特にストーリーが分岐することはなく、話が進む間にイベントが置かれているだけなので、誰かを集中的に選んでも、女の子との展開は変化しない。
 一定の好感度があれば後は、最後の戦いの前に、目的の女の子の部屋を訪ねるだけでいいという手軽さだ。
 また、ストーリーそのものは、邪神の使徒を増やしていくか、亜人間だけで進めていくか、どちらともつかない状態でいるかで邪神、真実、人間の三つルートに分かれるが、神を倒すという一貫した目的は変わらない。
 神と戦うまでに使徒を何人大介が抱えているかによって、アプローチのしかたが変わるだけ。
 ただし、封魔の神に対する疑問、亜人間と人間との和解、女の子の攻略といった要素は真実ルートをクリアした時のみだけ有効となるので、他のルートで話を進めても派生エンドにしかならない。

 女の子の話に拠らないストーリーを、三つの視点からのアプローチで進める構成は、クリアするのが比較的簡単。
 手強さはあまり感じないので、CG集めに多少苦労する程度だろう。

 シミュレーションはどうかというと、純粋にユニットの能力勝負なので、こちらもかなり簡単。
 行動は、1ターンにつき行動力が続く限り何回でも動けるため自由度が高い。
 ユニットごとの性能はバリエーションが豊富で飽きないし、最大でも6人までしか参加できないため、1ステージ毎が20分とかからず、無駄な時間を取られることもない。
 また、特定のキャラがは敵・味方とも、倒された場合は相手側のユニットに組み込まれるので、意図的に全員敵に回すという遊びも出来る。
 こうしたさまざまな調整はプレイヤーに委ねられるため、遊び易さに関しては及第点だろう。
 ただ、基本的に大介は封魔にとってラスボスのような存在のため、ユニットとしての能力がかなり高く、なかなかピンチに陥らず、戦略を練る楽しみは乏しい。
 それに、レベルアップという概念がないため、誰かを徹底的に鍛えるなどのこだわりを持つことが出来ない。
 新しい技を覚える事もなければ、「サクラ大戦」のような合体技もない。
 好感度の目安 となっているキャラのランクは、本当にエンディングを見るための目安にしかなっていないので、成長の楽しみも感じられない。
 なにより、一度クリアした戦闘は2回目以降飛ばせる(キャラのランクは付加される)ので、シミュレーションパートの存在意義すら曖昧になってくる。
 戦闘自体、ゴリ押しでもなんとかなるから、成長型シミュレーションを望む人にはかなり物足りないだろう。
 良くも悪くもギャルゲーを遊ぶためのシミュレーションゲームだ。

 このゲームのシナリオは一般的に見る善悪を逆にすることによって勧善懲悪からの脱却を狙っている。
 一本道のストーリーを通してあるのは「神が必ず正義で邪神は悪者なのか」という疑問。
 大介の立場はコミックで例えるなら「黄門☆地獄変」や「BASTERD」の様な「望まない形で始まり、与えられた状態に抗う」主人公達に近い。
 大介は邪神として覚醒してから封魔の巫女達との戦闘を繰り返す。
 操り人形のごとく「亜人間」という理由だけでそれを殺そうとする巫女達に対し、大介は彼女達の「神」に対する疑問を抱く。
 
 亜人間の一人、紅蓮花のイベントが象徴的だ。
 枯れる寸前だった花の精・紅蓮花は、自分を救ってくれた前園老人を介護して暮らしていた。
 特別な感情を持って接しているわけではなかったが、襲うことも取り憑くこともなく、世間では老人の娘として通していたほどだ。
 しかし、封魔は紅蓮花が人間ではない「気」を発していると判ると、何も悪いことをしていないのに、スカウトしに来た大介一行と共に滅ぼそうとし、彼女をかくまっていた前園老人も人間の裏切り者として始末しようとした。
 老人をかばう大介の説得に、更迭されていた封魔の幹部・みことは「神の命じるままに」と耳を貸そうとしない。
 結局戦闘になり、大介は攻めてきた封魔を退け、紅蓮花を仲間にする。

 人間と亜人間を守ろうとする邪神と神の意にそぐわぬ者を有無を言わさず排除しようとする神。
 神に仕える巫女・封魔と邪神に集う亜人間。
 大介は封魔の巫女達と問答する。

亜人間は人間を襲う、だから殺さなければならない」「じゃあ人間が人間を殺すのだから同じようにみんな殺さなければいけないんじゃないか?

 大介は「神の意志」を実行せんと「帝都に真の平和を」の合言葉を繰り返す封魔を、やむを得ず倒し続ける。
 その彼のやるせない気持ちや悲しみは、夢見が話の端々で代弁をしているが、それだけではなく、自身のイベントなどで表現できれば、より深みのある話になっただろう。

 亜人間を蟻と呼び、人間を生贄と言う考えや、他人を利用する神の攻撃は、RPGに例えるならゲームの最後に控える大魔王とか悪者のそれだ。
 大介は逆に、そこから人々を開放する勇者となる。
 このゲームには、「何が善で何が悪かを判断するのは自分自身だ」という主張が込められている。

 
 問題は細かい。
 例えば、ゲームの最初から沙夜が言っていた「純潔を奪って使徒にする」という設定。
 邪神に処女を奪われたら使徒になるはずなのに、決戦前に攻略対象となる封魔側の巫女の処女を奪っても使徒にならないのはなぜだろう?
 夢見も使徒にはならないが、彼女の場合は幼馴染として大介の傍に長くいたため、彼の気に対する耐性が出来ていたという理由があった。
 しかし、他の巫女は捕虜になるまで大介に会ったことがないため、「大介は自分の意思で使徒にする・しないを選択できる」とでもしない限り、最初の設定と矛盾してしまう。
 封魔の設定も曖昧。
 「巫女は神と婚姻を結ぶことで封魔となる」という表現から、生来特殊能力を持っている者が神との契約で封魔の巫女になれるらしい。
 一応、封魔という組織の門を叩いて巫女になるわけではなく、能力を持っているいくつかの一族がまとまって組織されているらしい。
 親子という概念もキャラの会話からあるらしいと判断できるので、どうも封魔となれるのは処女の間だけらしい。
 だから総領の光は自ら処女を神器で貫いてしまったため、自分で「もう封魔ではない」と言っているのだが、光はその後も能力が残っていた。
 同じく、神との決戦の前に大介とHする封魔の女の子も能力は残る。
 つまり、処女は封魔の肩書きをもらう条件でしかなく、何の差別化も図られていない。
 神聖さを演出したかったのなら、更に何かあっても良かったのではないだろうか。
 あるいは大介=邪神が使徒に出来る女の子の条件をつけたかったから、判り易い手段として用いられたのだろうか。
 ただの巫女と、封魔の巫女の能力に差異や問題がないのなら、あまりに極端な設定だ。

 
 他にも、立ち絵のCGは眉一つ動かさず、テキスト枠の中に出る表情に任せるばかり。
 Hシーンは最終決戦前以外、CG一枚でテキスト任せになっている。
 OPムービーは立ち絵のあるキャラを総動員してアップにしたりフェードアウトさせたりして一見にぎやかに見せているだけ。
 などなど突っ込みを入れたらきりが無い。

 「簡単ながら、ストーリーは意外と面白いゲーム」だったが、アラが見え隠れするのが残念。


(総評)
 最初に「サクラ大戦」と比べたのは誰だろう?
 確かに決戦を目前にして大介と女の子一人を残して順次死んでいく所や、実は昔に野に下った女神がいたとか、1話毎に話が進む構成など、似たところはあるけれど、演出などが地味なのも手伝って、BOO的にはあまり似た印象は受けなかった。
 ただ、「ナンチャッテ大正」だからこそ注意しなければならないのに、妙に現代っぽい言葉とおかしな言葉回しが混在し、不必要な所で気になる部分が多かったように思う
 「サクラ大戦」と比べると、シミュレーション部分では負けているものの、シナリオはこちらの方が面白い
 勧善懲悪、単純明快をやめ、善と悪のありかたを逆説的に表現することで王道に対して一石を投じるような姿勢には感心させてもらった。
 例えば「デビルマン」(アニメ版)のように仲間を裏切るのではなく、あくまで「悪とされる側は果たして本当に悪なのか?」という疑問への、一つの回答と言える。
 しかし、キャラへの突っ込みが甘く、結果として目先が珍しいだけの作品となってしまったように思う。
 人間・封魔・亜人間のそれぞれに重要なキャラを立てたのまでは良かったが、亜人間の沙夜以外がおろそかになってしまったことがゲームとしての完成度を欠いてしまった原因だろう。
 出来ることなら、攻略キャラ一人に一話を使ってイベントを用意して欲しかった。
 とにかく、シナリオだけが突出して設定や戦闘がついて来ていない感じを受ける。 
 エンディングから見ても続編が作られるとは思えないので、同タイプのゲームを出すのであれば、今度はシミュレーション部分にも力を入れて欲しい。
 そうすれば本当に「サクラ大戦」より優秀なゲームが完成するのではないだろうか。
 でも、D.Oの他のシミュレーションって言ったら「妖獣戦記」シリーズしかないや…
 新シリーズ求む!

 …ってレビューを3月に入ってから書き上げたら、2/7にCG・シナリオが加筆・修正された「すめらぎの巫女たち特別版」が発売されていたことが判明。
 気がつきませんでした。
 7777本限定だそうなので店頭で見つからず、当分プレイできそうに無いけど、もし手に入ったら改めてレビューしたいと思う。
 ああっ、追加シナリオが気になるぅ〜。

(Mr.BOO)


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