SinsAbell 〜緋昏し空の遠く〜
 我行かん退魔の道。


1.メーカー名:すたじおみりす
2.ジャンル:3DアクションRPG+AVG
3.ストーリー完成度:C
4.H度:C+
5.オススメ度:B
6.攻略難易度:B〜E(難易度選択可能)
7.その他:多少操作性に癖が有るものの爽快感は有り


(ストーリー)
 400年前、一人の少女が魔女狩りの犠牲となった。
 街中の人々に愛されていた少女は、街中の人々に憎まれる存在になってしまった。
 そして少女は、すべてを呪いこの世を去った。
 少女が死んだ夜、暗黒の炎に包まれ、街はそこに生きる人々諸共この世界から消え去った。
 次の日、焼け落ちた街から一人の少女が助け出される。
 「魔物を狩れ」
 助けられた少女は、己が耳に残るその声を頼りに魔物を狩る魔女となった。

 そして時は流れ、現代。
 少女はアポ=ステイトと名乗り、弟子である当麻聖を一流の退魔師にするために、日々聖と共に魔物を狩り続けていた。
 聖が一流となるまで、決して変わることのない日常。
 だが、それが突然破られる事になる。
 なんの前触れもなく起こった、電車の乗客が突然消えるという事件。
 明らかに魔物が関わったこの事件が切っ掛けとなり、聖とステイトは想像を絶する戦いに巻き込まれる事となった。

 
 このゲームは通常のADVパートと、RPG要素を含んだアクションパートを交互に繰り返しながらストーリーを進行されていく。
 ADVパートは通常のADVと同様のもので、主人公である聖の視点を中心に展開され、時折挟まれる選択肢を選びながら目当てのヒロインを攻略していくものだ。
 アクションパートは、聖かステイトのどちらか(場合によっては固定)を選択して指定エリア内を移動しながら、ステージ内に現れる魔物を倒して進み、最後に控えるボスを倒す事でステージクリアとなる。
 そして、敵を倒して経験値を貯めたり、エリアの各所に置かれているアイテム(武器又は魔法書)を手にいれて、キャラクターをパワーアップさせる事が出来るのだ。

 ちなみにキャラクターのレベルは共用となっているため、聖とステイトどちらか片方しか使っていなくても、もう一方のキャラクターとのレベルに差が付く事はない。
 だが聖は剣、ステイトは魔法書というようにそれぞれ武器(魔法書はサブウェポン)が決められており、それぞれの武器はその使用者しか取得出来ないので、偏った使い方をしていると所持アイテムも偏ってしまうのだ。
 しかし、繰り返してのプレイが可能になっており、一度クリアするとアイテムとレベルを維持したまま最初から始める事が出来るので、一周目で取り逃したアイテムを二周目で楽に回収出来るようになっている。


 肝心の操作性は、慣れるまでにやや難が在るが特別複雑なものではないので、アクションゲームが苦手な人でも慣れれば快適にプレイする事が可能だと思われる。

 敢えて操作に難を付けるのならば、ジャンプが出来ない部分だろう。
 ジャンプというアクションがあれば、操作性にも多彩なバリエーションを加える事が出来る上に、このゲームの肝であるCOMBOシステムにも更なるバリエーションを生み出していた事だろう。
 敵を空中に浮かせる技があるのに、敵への追い討ちが地上技でしか出来ないというのはとてももどかしく思えてしまう。
 格闘ゲームをやっていると、空中に浮いた敵に対して華麗な空中技で追い討ちを掛けたくなってしまうので、是非ともジャンプを操作に組み込んで欲しかったものだ。


 このゲームは操作体系がやや格闘ゲーム的な方向性を持っているので、どうせならばガードという機能も盛り込んで欲しかった
 一応、敵をロックオンした状態であれば、方向キーの操作で前ステップ・側転・バックステップという三種類の回避行動を取る事が出来る。
 だが狭い場所で戦う事が多いために、これらの回避行動が災いして結果的に敵に追い詰められるという事態が多発してしまうのだ。
 各回避行動には、一瞬無敵時間があるのだが追い詰められた状況では、どうしても敵の攻撃を受けてしまうという状況が発生してしまうために、あまり使い勝手が良いようには感じられない。
 しかも、このゲームは画面が切り替わった直後でも、プレイヤーの直ぐ傍(又は死角)に敵が現れることがままあるのだ。
 敵は現れた直後、短いながらも無敵状態で行動するため、突然の不意打ちを防ぐ方法というものが存在しないのである。
 特に電車内での戦闘では、車両移動した直後に敵が現れる上に左右のスペースがないため、タイミングを間違えると確実に敵の攻撃を受けてしまう。
 もしも、ガードがあったならばこれらの状況でダメージを受ける可能性が格段に減るのだ。
 常にプレイヤーに一定の緊張感を与えているのだろうが、不意打ちなどが多いのでその辺が逆にストレスになってしまった。

 
 世界観設定は、現実世界をベースにファンタジー的な要素を加えたものだが、無駄に破綻した部分がなく上手くまとめられていた。

 魔物の犠牲になって死んだ人間を、魔物という存在が一般的に認知されていない社会においてどうやって死亡扱いにするのかという部分にも説得力が感じられた。
 魔物の存在は一般人には感知できないので、犠牲者は皆一様に行方不明か不慮の事故で死亡した事になってしまう。
 こうする事で、無駄な不安などを社会に蔓延させないようにしているのだ。
 そのため、魔物に対する警察の対応の仕方は主に情報規制と現場検証のみになってしまい、直接的な対応は専門機関である退魔教会に一任しているのだ。

 更に、警察のエールに対する対応も考えられている。
 敵である魔物の集団エールは、表向きは世界的にも有名なデザイナー集団としての地位を確立しているために、警察が表立って排除できないのだ。
 そのため、警察は魔物と分かっていながらも、エールのメンバーを護衛しなければならないというジレンマを抱えている。
 このような細かい部分でも、しっかりとした描写を挟む事で世界観に充分な説得力を持たせているのだ。


 シナリオは二通りに分かれており、旧校舎のボス戦での勝敗によって以降のルートが決定付けられる。
 ボスに負けることで通常ルート、勝つことで退魔教会側がメインとなる裏ルートとなっている。
 それぞれのルートでは難易度も異なり、攻略可能なヒロインも異なるのだ。
 以下それぞれのルート毎に評価してみたいと思う。


(通常ルート)
 聖の成長とステイトの失われた過去をメインに据えつつ、聖木を巡るエール集団との戦いをメインに描かれている。
 基本的な展開はシリアスなのだが、各所に程好く挟まれた笑いの要素のおかげで、無駄な重苦しさが感じられない。 
 主人公の聖の性格も軽いために熱血的な部分は少ないが、締めるべき部分ではキッチリと締めているので、シナリオの雰囲気を損なう事はない。
 アクションシーンを挟んではいるものの、シナリオはテンポ良く進んでいくので自然と先が追いたくなってくる。
 
 登場するキャラクター達もしっかりと自分の性格というものを持っており、その性格を生かした役割をとることでキャラクターが地に足の着いたものになっている。
 これは実は重要な事で、意外性やその場のノリでそのキャラクターが本来とらないような行動を無理矢理とらせていると、結果的に変な不都合を招く事になってしまう事があるのだ。
 キャラクターの扱いも上手く捻られており、当初ボスと思われたソルシエールが実はイグラードの操り人形で、イグラートが真のボスと思わせる展開で進めておきながら、本当はイグラートがソルシエールの操り人形というように展開が二転三転するのだ。
 唐突な意外性を感じさせない演出は見事としか言いようがない。
 
 通常ルートでは、ステイトがシナリオの中心にいるので、彼女以外のヒロインを攻略していても結局はメインとなってしまう
 そのために他のヒロインが煽りを食らってしまい、全体を通してもイマイチ影が薄くなってしまうといった弊害が発生してしまった。
 これでは、不動のヒロインとしてステイトを位置付ける事は出来ても、他のヒロインの存在意義がなくなってしまう。
 しかも、他のヒロインのエンディングでは、ステイトは自分自身を犠牲にする事でソルシエールを倒してしまうのだ。
 結果、聖は最終決戦でステイトを失った悲しみに暮れる事になってしまい、他のヒロインがそれを支えるという展開になってしまった。
 これでは、ほとんど一本道と言っても差し支えがない気がしてしまう。
 もう少し各ヒロイン毎に見せ場を作ったりして、各ヒロインが聖に対して抱いている思いを掘り下げて描写して欲しかったところだ。

 全体的に問題はないのだが、ステイトのラストで一つだけ気になる部分がある。
 ステイトは、400年前にイグラードが行った聖木を作り出す儀式のせいで、魔物の力を吸収する事で若さを保つ不老の魔女となってしまった。
 そして、最終決戦で聖木の力を使いソルシエールの力を吸収することで、ソルシエールを倒す事に成功した。
 その際にステイトは「新たに生まれ変わった」と発言しているのだが、これはステイトの不老の呪いが失われたと判断しても良いのだろうか?
 しかし、エンディングでは数年経過しても外見の変わっていないステイトが登場している。
 ステイトの外見はどう考えても15〜16歳くらいなので、呪いが解けたのならばそれなりに成長していなければならないのだが、その痕跡が全く見られないのだ。
 これでは、何をもってステイトは生まれ変わったっと言ったのかが判断できない。
 せめて、そのへんの描写がされていればステイトのエンディングもより完全なものになったと思われるので、非常に残念だ。


(退魔教会ルート)
 裏ルートにあたるこのシナリオでは、基本的な部分では通常ルートと同じ流れなのだが、聖が退魔教会という組織の在り方とそこに所属する者達に触れる事で、未だ明確でない自分の未来に対して自分なりの答えを出す部分がシナリオの中心となる。
 旧校舎の戦いで聖がバルガルに敗北しないことで、通常ルートでの聖の転機となる挫折という要素が使えない代わりに、本来は前面に出す必要のない退魔教会という組織を敢えて前面に出す事で、今まで知らなかった実力主義の世界を聖が知り、彼自身に自分の将来を考えさせるという展開を自然に組み込む事に成功している。
 そして、通常ルートで発生した「ステイトが常にメインにいるために他のヒロインの影が薄くなる」と言う問題も、こちらのルートではキチンと解決しているのだ。
 通常ルートでは、ステイト以外のヒロインは戦う力を持っておらず、どうしても戦いに絡ませる事が難しくなってしまうが、退魔教会ルートのヒロインであるノインとエルフは、聖と同じく退魔師なので聖と共に戦いの場に居ても全く違和感を感じないのである。
 このため、通常ルート以上にヒロインの存在感が感じられるようになった。

 キャラクターの見せ方と言う点では通常ルートよりも勝っているのだが、その反面こちらのルートはシナリオの前提を覆すほどの大問題を抱える事になってしまった。
 それは、敵であるソルシエールの目的である。
 ソルシエールの目的は聖木を手に入れる事なので、日本にやって来た目的は当麻家が所持する聖木を手に入れるためなのである。
 通常ルートでは、それがシナリオ中で触れられているのだが、退魔教会ルートではなんと聖木自体が登場しないのだ。
 本来はステイトの秘密と共に、シナリオの中核をなすべきはずの聖木が登場しない事で、プレイヤーが敵の目的を知る事が出来ないという事態を発生させてしまう。
 確かに、一度クリアしないとこちらのルートにやってくる事は困難なので、通常ルートで敵の目的を理解する事は出来るのだが、それで良いのだろうか?
 同じ事件を別の視点から追っているのならば、真相を解明出来ないという事も納得できるのだが、このシナリオはそういう訳ではないので、あまりに不自然にしか感じられない。
 これでは、退魔教会ルートでソルシエールは明確な目的も持たずに、ただ自分の部下を失うために日本にやって来たとしか思えないのだ。


 表と裏ではそれぞのシナリオの長所と短所がハッキリしており、それに付随する形で発生してしまう問題も展開上どうしようもないものばかりとなっている。
 表ではどうしてもシナリオの中心にステイトが来なければならないので他のヒロインの影が薄くなるが、裏ではステイトをシナリオの中心にする必要はないので他のヒロインを前面に出すことが出来るといった具合だ。
 つまり、それぞれの長所と短所が表と裏では入れ替わってしまうのだ。
 結局は、一つのシナリオで表と裏の長所を合わせるのは不可能だったので、別々の展開を用意する事で、長所を長所として短所を短所として生かしたのだ。
 もしもこれが見事にまとめていたのならば、筆者は最大級の賛辞を送っていただろう。


(総評)
 良い点と悪い点のそれぞれが目立ってしまったが、ゲームの作りはしっかりしているので充分に合格点を与えても良いゲームだ。
 シナリオの持つ牽引力も高いので、終盤までプレイヤーをぐいぐいと引っ張って行く点も充分評価できる。
 アクション部分も難易度調整が出来るので、アクションゲームが得意な人や苦手な人でも安心してプレイする事ができる。

 ただ、アクションシーンでの行動がもう少しシナリオに影響を及ぼしてくれたらと思ってしまった。
 その後の展開に関係在るシーンは、旧校舎と道場でのリングとの戦いしかないのはちょっと寂しく感じてしまう。
 ヒロインに関しては、全員キャラクターが充分立っており行動理念等も十分伝わってくるのだが、表ルートのヒロインはステイトの所為で影が薄いのでもう少しスポットを当てても良かったのではないだろうか?
 せっかく繰り返しプレイが可能なように作られているのだから、何度もプレイしたくなるようなシナリオにして欲しかったものだ。

 あと、Hシーンが魔物絡みな展開なのにそれほど濃くないのは、好き嫌いが別れるところだと思われる。
 Hシーンは、もう少し濃くても良かったのではないだろうか。
 これは個人的に残念なところなのだが、病院での戦闘直前までは生理的な部分も含めての恐怖を煽る描写が実に上手くされていたのだが、ストーリーが進行していくに連れてその描写が薄くなっていくのだ。
 確かに主人公が状況に慣れてきたのならば、そのような描写に気を使う必要はなくなるのだろうが、序盤の描写が秀逸だっただけに非常に残念でならない。

 他に類を見ないジャンルながら、スタッフの努力が伺える作品なのでやってみても損はないと思われる。
 充分万人にお勧めできるゲームだ。

(乾電池)



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