Silver Moon
 
 機械的な天才製造工場を抜け出し、やっと手にした人間らしい生活。しかし、残された時間はあとわずかだった。
 
1.メーカー名:R.A.N-software
2.ジャンル:ADV
3.ストーリー完成度:C’
4.H度:C
5.オススメ度:B’
6.攻略難易度:D
7.その他:OP,ED共にフルコーラス版と1コーラス版がCD-DAで入っているのが嬉しい。
 
(ストーリー)
 身よりのない子供を集め、あらゆる方面のエリートを生み出す教育機関GEO。
 だがそこで行われるのは、教育とは名ばかりの機械と薬物を使った非人道的刷り込みだった。
 自由な世界を求めて度々GEOを抜け出していた日吉亮は、外の世界で知り合った真上やよいの勧めで、最短記録でGEOの全課程を修了し、その後普通の高校に通うようになった。
 しかしGEOでも抜きん出た実力者だった亮は、学校生活でもやはり浮いていた。
 そして、ある日突然V.Aと名乗る謎の女に「あなたは、15日後の午後零時に死ぬ」と宣告された。
 その数日後から亮の身体の中で夜毎蠢く「奴」、そしてすさまじい苦痛。これは一体…。
 
 良くも悪くも、GEOという異常な組織を認知できるかどうかで、このゲームに対する態度はガラリと変わるだろう。
 だからこそ、あまりにも異様なGEOの教育法を、亮の夢と回想の形で見せているのだ。
 GEOがあったればこそ、勉強も運動も格闘もピアノも天才的なくせに、対人関係において無能な“日吉亮”という人間が存在しうる。
 また一方では、しょっちゅう脱走してはやよいに会いに行っていたという亮の行動が、幼い頃から隔離されて生きてきたはずの亮を、さほど浮世離れしていない存在にしている。
 はっきり言って、亮はスーパーマンだ。
 知識と技能だけなら、世界のトップレベルなのだから、高校で出会う程度の人間など問題にならないレベルと言える。
 しかし、能力的には全ての面で亮に劣るやよいに対し、亮はある種の憧れを持っている。
 やよいのひたむきな努力、明るさなど、GEOではついぞ見ることのできなかったものをやよいは持っている。亮にはそれがまぶしいのだ。
 それは例えば、どのシナリオでも何度も繰り返される亮のピアノについての悩みだ。
 亮はピアノに心情を込めて弾くことができずに悩んでいる。
 技術はGEOで叩き込まれたが、心を込めることはできなかった。
 少なくとも亮はそう思っている。実は、そう思えることこそが、亮が“人の心”を持っているという何よりの証なのだが。
 自分が不具(カタワ)者だと理解できるだけの精神の柔軟性がある。
 鷹羽は、そういう難儀な主人公を設定するためにこそ、GEOなどという面倒な設定をつけたのだと思う。
 対するヒロイン達も、なかなかに個性派揃いだ。特に、松ヶ丘忍はおいしい。
 一見するとお子様なお騒がせキャラに見えるが、実は4人のヒロインの中で一番大人だったりする。
 幼くして父を殺してしまい、その罪を被った母は未だに服役中だというのに、そんなことはおくびにも出さず、ひたすら明るい。
 自分の立場とかそういうものがちゃんと分かった上で、周りに特におじーちゃんに心配かけないように、敢えて明るいキャラクターでやっているのだ。
 また、両親に何もしてやれなかったという負い目がある分、困っている人を放っておけない。
 また何気にタバコを吸っていたり、男性経験がある割に男の影を感じさせなかったりと、なかなか奥の深いキャラでもある。
 この辺り、悪く取れば描写が薄いということにもなるのだが、“昔の彼氏”ネタは芥川巴のシナリオでもやっているので、敢えて重複を避けてサラリと流しているのだろう。
 どの娘のシナリオでも、他の女の子の出番がちゃんとあるというのも評価できる。
 欲を言えば、忍のシナリオだけは忍の手で銀のナイフを亮の胸に刺して欲しかった。…父親を刺した時のように。
 忍がこのトラウマを乗り越えてくれれば、もっとエンディングは感動的だと思う。
 ただ、V.Aの扱いは、もう少し何とかならなかったんだろうか。
 そもそも「V.A」なんて呼びにくい名前で名乗るなんて、『イニシャルです』と言わんばかりじゃないか。
 ネタをばらしてしまうと、彼女の名は「ヴァネッサ・アミティッジ」、GEOの母体であるアミティッジ財団の創始者にして、『闇の眷属』の管理者だ。
 彼女らの一族は、ある程度の年齢になると破壊衝動が芽生える。
 押さえきれずに死ぬ者もいれば、破壊衝動の虜となる者もいる。ヴァネッサは、破壊衝動に操られて暴走した同族を殺す役目を持っていた。
 恋人でもあるキャンベルと共に作り上げた情報網アミティッジ財団だったが、部下の裏切りによってキャンベルは捕らえられてしまう。
 キャンベルの細胞を利用した人体実験機関がGEOであり、自殺したキャンベルの細胞から生み出されたクローンが亮だったというわけだ。
 もっとも、亮の細胞は不安定で長生きできないことが分かっており、クローン計画そのものは失敗に終わっている。
 亮の命があと15日というのは、つまり破壊衝動の暴走が起こるまでの時間であり、不安定な亮の細胞は、それに耐えられないことがはっきりしているのだ。
 しかし、ここで問題が出る。
 クローンである亮を生み出すには相当の苦労があったはずだ。
 いくら亮の細胞が不安定なものであっても、人間でない生物のクローンなのだから、「GEOから外に出たい」などと言い出したら、普通は良くても軟禁、下手すれば殺されてしまう。
 どのみち死人が続出しているGEOなのだから、もともと秘密裏に戸籍を買っただけの亮を殺すことなど、造作もないことの筈なのだ。
 GEOから解放し、あまつさえ資金援助までしてやるなんて、GEOの上層部は何を考えていたのだろう?
 もう一つ、V.Aと融合することで生き延びた亮は、同時に永遠の命と暴走した同族を狩るという使命を受け継いでしまったわけで、当然せっかく結ばれたヒロインとは、いずれ必ず死に別れることになる。
 それなのに、その点について突っ込んだ描写がなされていないのは片手落ちだ。
 V.Aが疲れ切っていたように、1人で永遠を生きるということは辛いことなのだから、その点何か描写が欲しい。
 高橋留美子の「人魚の森」シリーズ見りゃわかるでしょ?
 とんでもない業なんだよ?
 単純にハッピーエンドを気取ってちゃダメだよ。
   
(鷹羽飛鳥)
 
PS:
 忍の胸のボタンが忍と同じ表情をしているのは、なかなか笑える。
 どうせならプレゼントの制服は、忍バージョンで作ったら面白かったのに。
 
 
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