Silence 〜聖なる夜の鐘の中で…〜 
 
 サイレンスではなくシランスと読みます
  
  1.メーカー名:Prism Software
  2.ジャンル:アドベンチャー
  3.ストーリー完成度:C
  4.H度:D
  5.攻略難易度:D
  6.オススメ度:C
  7.その他:何の気ナシにこのゲームを選んだが、貴之ゲーだとは気がつかなかった(ちょっと身内ネタ)。
  
  (ストーリー)
   主人公・結城貴之は、学園祭終了後の心地よい倦怠感を感じていた。
   一息ついて翌日、元気よく学校に向かった彼は突然に眩暈に襲われ、病院に運ばれてしまう。
   気がついた貴之は、特に何も無い身体の様子に安堵するが、それもつかの間。
   院長に告げられた彼の病気は、視床下部腫瘍と聴覚神経腫瘍の二つだった。
   このままでは二ヶ月もすれば命の保証は無く、かといって手術をしても、成功の確率は三分の一程度しかないという。
   だが、はっきりと命の危険を自覚できない彼は、心配してくれる義妹を気にしつつも、普段と変わらぬ行動をとるばかりだった。
   病院内を散歩して何人かの女の子や看護婦と知り合いになったり、医者との確執や、女の子達の手伝いなどして過ごす日々が過ぎるのは早く、宣告の日は確実に迫ってきている。
   貴之に手術を受ける決心をさせてくれるのは、はたして誰なのだろう?
  
  
   プレイヤーは貴之となり、彼に関わってくる女の子を相手に選択肢こなしていき、最後に一緒になる女の子を選ぶ、マルチエンディングシステムのアドベンチャーゲーム。
   コマンドやゲームの設定等の細かい部分を極力無くしているため、ゲームの進行は期間が二ヶ月という割に比較的早く感じられ、あまりストレスはないようだ。
   だからといって簡単というわけではなく、「選択肢を間違えると即ゲームオーバー」や「ノーマルエンド」が待っているという、少々厳しい部分もある。
   プレイした感じは、トゥルーエンドに至るためのルートが一本道という構成はどこか懐かしさを感じさせ、同時に程良く簡単すぎというイメージを払拭してくれるので、意外と手応えがある。
   シナリオは、テキストをかっ飛ばせばおそらく10分足らずで終わってしまうほどだが、それをフォローするためテキストが意図的に高速で飛ばせなくしてあり、シナリオを長すぎず短すぎずの適度な長さに調整されている。
   緩やかに進行するシナリオが、その割にだらだらとした煩わしさを感じさせないのはバランスの取り方が優秀な証拠。
   そのバランスは、見かけとは裏腹にメインキャラ6人、サブキャラ2人、隠しキャラ1人、合計9人もの女の子を擁するこのゲームのシナリオをこなす面倒さを上手くごまかしているので、プレイ感覚は至って良好だ。
   9人のシナリオは、主人公の貴之が女の子のために手術を受ける決心をするという結果に統一され、それに至る過程の主なイベントもほぼ全員の女の子が通過する。
   まるで一直線に並んだ各キャラのイベントをピックアップする感じでシナリオが進むため、9本のシナリオと言うよりは、エンディングへ至るための9通りのルートという方が適切な表現かもしれない。
   病院内という限定された空間の中で過ごす二ヶ月という期間は、不必要なところを彼の頭痛・めまいによる行動不能の状態で飛ばす事で、その長さを感じさせる事無くプレイできるようにしている。
   シナリオの内容は、大げさな話がなく比較的あっさりしていて、女の子中心の話ではない。
   前半は女の子の選択、中盤にちょっとした事件をはさみ、後半は女の子アタックするが、必ず最後は貴之が手術に向かうシーンになり、その後のエピローグでは必ず成功し、あくまで彼の一人称で締めくくられる。
   必ずハッピーエンドが待っている(1人疑問あり)ので、シナリオのあっさり感を考えると、彼女たちの印象が少々薄くなりがちなのが難ありかもしれない。
  
  
  結城 亜季
   義理の妹でヒロイン。
   最初の選択肢で分岐だけでルート確定するうえに、他キャラとかぶりまくって最後の方まで特定のイベントがない。
   中盤の事件で、貴之の命を楯に揺さぶられる彼女がもっと書きこめていれば、彼女の魅力は深みが増したことだろう。
   最初から相思相愛のためか意外性はなく、なるべくしてなるという感じのエンディングが待っている。
   初めてのエッチはバイト先の神社で巫女さん姿というのは、ゲンかつぎかそれとも神への冒涜か?
  
  
  工藤 茅春
   貴之担当の看護婦。
   おっちょこちょいがウリ? のようで、「注射針神経射ち」や「動脈止血し忘れ」などの豪快な失敗の数々は「シティーハンター」に出ていた看護婦さんを思い起こさせる。
  
   貴之が父と同じ病気のため最初から気になっていたようで、はやる気持ちが空回りしての失敗(天然アリ)らしいが、ダイレクトに女の子の好みを聞くあたり、はなから年下趣味なのではないかと思われるふしがある。
   エッチシーンが泡いっぱいのお風呂場なのだが、ソープじゃあるまいし、病院でそんな風呂というのはやりすぎ。
   また、シナリオに関係ない「私の本当の姿を知ったら…」という意味不明の言葉を途中で残し、トゥルーエンドになってしまう。
   何かと思ったら、彼女は佐江子のシナリオで奴隷になっていた。
   選択肢の幅を持たせれば、後述の千秋と重なる設定がキャラ的にうまく機能していたかもしれないし、違和感のないシナリオになっただろうに。
  
  
  工藤 千秋
   茅春の妹で、亜希の友達。
   天然が入っていて子供っぽい彼女はボランティアを手伝いに病院へ顔を出し、そこで見かけた貴之に一目惚れをする。
   茅春と千秋の父親が病気の症状を隠していたため、約束を守らずに死んでしまったことから極端にウソを嫌う。
   焼き芋を焼いたり、貴之に食べ物をねだったりの子供っぽい動作は特徴として悪くないが、結局「死ぬ」ことと「約束を守れる?」に固執するだけで彼の病気の重さを理解していないようだし、貴之の病気の進行がプレイヤーに伝わらないから、その後の幸せがシナリオとかけ離れているように見えてしまう。
   貴之に教会での芝居の衣装を最初に見せようと努力する一途な所や、彼女のそれまでの生活など表現できていたら、もっと違った感じになったはず。
  
  
  井上 さやか
   入院している女の子その1。
   妙に主人公に突っかかると思ったら自分も重い病気を抱えていて、彼は彼女自身の苛立ちに対する当て馬だった。
   ネコをこっそり近くの教会で飼っていたり、咲智の数少ない友達だったり、女の子と間違うほどの可愛い弟がいたりで、茅春とは違う角度からゲームに影響を与えている。
   彼女の責任感の強さを感じさせる反面、自分が手術する事は怖がっているという、一番現実味を帯びているキャラだが、弟との掛け合いや、家族の描写などの見えない部分が本当に見えないまんまなので、もったいないシナリオとなってしまっている。
   エッチシーンはあるが、その直後に彼女が死んでしまうオチが付く。
   「エッチなし」は、はたしてこの手のゲームプレイヤーにとってどう受け取られるのだろうか? キャラが薄いだけに今一つで、試作品のように見えるシナリオになってしまっていて残念。
   
  
  赤木 咲智
   入院している女の子その2。
   精神面に原因を持ち、身体の外界に対する抵抗力が生成されず長期入院している。
   自分の王子様を欲し、貴之の「口からでまかせ」を頼りに、彼に心を開いていく。
  
   シナリオの分岐によって中盤の事件は亜希から彼女になるが、王子様に魔法を掛けるといわれてイタズラされるのは亜希のセリフが入れ替わっただけで、やっていることは同じ。
   助けに入った貴之にそれを見られたことがショックで自殺しようとしたり、意志薄弱な所や妄想がちな姿は確かに病人らしいがどう見ても病院違いなので、もしかしたら彼女を出すために病院の設定が大がかりになったのかもしれない。
  
  
  蒲池 華子
   お忍びで入院した、「君野絆」というトップアイドル。
   彼女はラブソングでトップの座を手にしたのに、自分では恋愛をしたことがないジレンマから歌えなくなってしまう。
   しかし、日本一のアイドルなのに、その存在を知らなかった貴之の、知ってもちやほやせず普通に接する態度に恋心を覚え、再び歌を取り戻す。
   病院という舞台が余り意味を持たず、ドラマチックな話を出したくて用意されたキャラに見える。
   歌手としてありたいのに、そのためにアイドルではない自分を見てくれる人が欲しいという矛盾はテーマとして興味深いが、華子から「君野絆」になった過程や、半分が彼女から派生するサブキャラの由香里とかぶるので、説得力に欠けるものとなっている。
   何より、彼女に歌わせていないのがよくない。
   せっかくボイスを使わないのだから、OP・EDに使われている歌を全て彼女が歌っていることにしてしまえば、うまい演出として印象深くなっただろう。
   彼女のシナリオにも茅春と同じく意味不明な伏線があり、しかもそれは後述のゆかりのものであるため、華子にとって余計な物でしかなく幻滅。
   これも、選択肢にゆとりが欲しかった。
  
  
  吉川 由香里
   サブキャラその1。
   華子のマネージャーで、体を張って彼女を男の手から守っている。
   男嫌いに見えるが、実は自分がアイドルだった過去の経験から、恋に臆病になっているだけだった。
   貴之が華子のポスターにデジャヴを感じる前振りは、追っかけから華子を守っていた由香里の過去を知る数少ない内の一人である事の強調となっている。
   いわば由香里の追っかけのような存在であった貴之とくっついてしまう辺りに、華子のシナリオ以上のひねりが感じられ、よりドラマチックに見える。
   これではまるで、由香里の方がメインキャラのよう。
   この場合、華子は由香里と貴之のかけあいから恋を理解して歌えるようになる。
   考えてみれば、由香里が華子から男を遠ざけていたのだから、華子の歌えなくなった原因は由香里のせいと言えなくもない。
  
   メインキャラになれなかったのは、マニュアルにあった「貴之より10も上」という年齢設定のせいだろうか。
   華子の時も思った事だが、由香里もシナリオにひっかけて、OP・EDのうちのどれか一曲だけ歌っていたなら、更にいいシナリオとして印象に残っただろう。
  
  
  南原 佐江子
   サブキャラその2。
   病院の先生で、貴之を見る目は妖しく、彼の考えを見透かすように思わせぶりなセリフを投げかける。
   佐江子はその態度に違わず、茅春を調教するご主人様として、このゲーム唯一のいやらしさを担当するキャラ。
   若くして(といっても年齢不詳)台頭してきた故に男尊女卑に対するコンプレックスを持ち、それが女王様的な態度をとらせているのだと貴之に指摘される。
   サブキャラ相手だと妙に心理戦に強くなる貴之が気になるがそれはおいといて、そこで佐江子が素直になってしまうと由香里とかぶるため、彼女を墜としめるか持ち上げるかの両極端の二択を持たせ、唯一二通りのエンディングパターンを持つキャラとなった(エンディング後のCGは同じでテキストが異なる)。 
  
   このシナリオは、貴之が彼女に対し「虐めてもらいたい」か「虐めてあげたい」という目的を以って手術を受けようと決心するため、「愛の力」ではなく「欲望の力」で進むという、ゲーム内でも異彩を放っているものだ。
   他キャラに比べて異質な彼女のシナリオは「お決まりの恋愛だけでは面白くないから、エッチな話を盛り込もう」という、制作者側の意図がありありと見える。
   他のキャラも奴隷になったり、色々なCGがあったならと、シナリオよりもビジュアル面の方が残念でならない。
  
  
  綾小路 螢(けい)
   隠しキャラの幽霊。
   このシナリオに入るためには、彼女が現れる選択肢を選んで進んでいく必要があるため、一度死ななければならない。
   その上で最初から始めると、彼女のシナリオに入る選択肢が現れる。
   螢は、病院が創設した頃(約百年前)に亡くなって、地縛霊となった女の子。
   彼女を見た貴之は、1人で過ごしてきた彼女の寂しさをなくしてあげようと、自ら取り憑かれにいく。
   このシナリオは彼女の魂と一緒に成仏したいために「死を望む」という、生とは違う愛の形が異彩を放って面白い。
   周りの人は治したいのにそれを拒否して死のうとする貴之には、他のシナリオでの強さも「死を怖れない」「死を受け入れている」などの悟りもない。
   昔似たような話を何かで見た事があるが、その場合は恋のライバルが「彼を思うなら殺さないで」という必死の説得で幽霊が成仏するという結末を迎えていた。
   一方このシナリオでは、自分のために死のうとする貴之を生かすため、とり憑いた螢が貴之を突き放す。
   結果貴之は生き延びるが、彼女と永遠に離れてしまうという、唯一別れを演出するシナリオという点でも他のキャラより印象深い。
  
   そこから一転、十数年後に螢の生まれ変わりと出逢うエピローグは、別れから出会いというこれも他のキャラにはないパターンが一線を画しており、一番ロマンチックで感動させてくれる。
   個人的に一番好きな話だが、しかし、螢の生まれ変わった時の名前が同じなのはともかく、彼女が成仏したときと同じ格好で現れることや、出会い方があっさりし過ぎであること、そして実年齢差が約20歳ある(正確には描かれていないが貴之は30過ぎ、螢は10歳位)とか、おそらくそのせいでエッチシーンが無いと思われる等、もう一歩ここを何とかという個所が目立ち、少々稚拙に見えてしまうのが残念。
  
  
   なんとなく、サブキャラクターに力が入っているように見えてしまうのはなぜだろう?
   それはメインの女の子に対し、サブキャラの「番外」という位置づけが、皮肉にもメインに一ひねり加えたシナリオを形成してしまったために他ならない。
  
   由香里は、華子という光に隠れた影をピックアップした。
   佐江子は、内在する本音を、純愛に対して偏愛という形にした。
   螢に至っては、必ず手術が成功するというストーリー上の設定を、ゲームオーバーという形で否定している。
   メインキャラと自分と足して二倍の厚みを持つことになったのだから、インパクトは強くなって当然だ。
   私的にはメインキャラ以上と考えているので、プレイするときにはメインキャラ数人だけで終わらずにちゃんとサブキャラまでクリアして欲しい。
   CGはキャラの多さ故か、気持ち少な目なのが残念。
   エッチは佐江子がらみのものがなかなかいやらしくがんばっているが、ソレなしでクリアするキャラまでいるほどなので、全体的には至ってソフトな印象がある。
   エッチ方面よりもキャラ萌えな人向けに作られているようだが、千秋や茅春はそのキャラクター性が重要なだけに、一枚の絵よりも個々の仕草、会話時のキャラグラフィックも見せるべきだった。
  
  
   さて問題だが……。
   まずはシナリオが薄いというか、キャラクター性が希薄。
   ゲームスタイルはあっさり味だから、シナリオが薄めなのは仕方ないと思える部分もあるし、あくまで主人公の視点で進むのだから、女の子達が浮き彫りになりにくいのも解る。
   しかし、例えばヒロインであるはずの亜希は、エッチ以外のイベント全てが他キャラを攻略していく際に必ずかぶるものしかなく、キャラクターを掘り下げているとは思えない。
   咲智は王子様にこだわるばかりで、なぜそうなったかは不明のまま。
   精神不安定の人は、みんな王子様を求める人ばかりという認識が制作者にあるとは思いたくないが、彼女にとって心の拠り所が王子様でなければならなかった理由があるはずなので、それを説明して欲しかった。
   さやかはネコの話や弟を出すことで強調されてはいるが、それでも病気を患う前後の話(まさか生まれながらに持っていたわけではあるまい)が無いため、どこか盛り上がりに欠ける。
   茅春と千秋は姉妹だけに共通の過去をうまく使い分けたが、それでも主人公に会うまでの人生で、2人に何も起こっていないはずがない。
   特に千秋は親なし(母はいるかもしれないが不明)でからかわれているはず。
   なのに、何故純真とも言えるくらい素直に育つことが出来たのか? 
  
   華子は、個人のキャラクターに頼らないアイドルという設定から個人的な情報が少ないのはともかく、さっきも書いた通り、どうせならエンディングを歌わせてみるとか考えなかったのだろうか?
   このゲームはボイスが使われていないのだから、エンディングロールでボーカル人を「君野絆」に書き直せばいいだろうに、実際に歌っている人を立てるためか、華子のアイドルとしての行動を一つも表現しないままで終わっている。
   ゲームバランスを崩す危険をはらむためシナリオを長くすることは得策ではないとは思うが、もう一工夫あっても良かったのではないだろうか。 
   彼女たちについてもう1、2行加えるだけでも、彼女たちへの印象は違ったものとなるだろう。
  
   そして病院。
   創立は百年を越え、敷地内には公園や教会まで持っていて、建物の中にはプールやテニスコートにレーニングルーム、華子が利用していたVIPルームやスタジオまでもがあるとんでもない病院。
   なのに何故か医者が三人、看護婦一人(茅春のみ)患者四人(貴之含む)しか出てこない。
   サナトリウムならまだしも、これではまるで特別病棟に隔離された患者ではないか。
   大きい病院は広いから他の人と会わない、なんて事はない。
   むしろ大きいからこそ、人が多くやってくるのだ。
   「(茅春)診察患者に入院患者、そしてお見舞いの人達であふれてるでしょ」
   どこに患者があふれているというのか?
   人一人見せないで納得させられるわけがないではないか。
   病院よりも女の子達を優先したい気持ちはわかるが、その他大勢のいない病院はかえって不気味でしかない。
   一個のキャラクターは出てこなくても、せめて他の患者が歩いている背景を描いたり、外来の人を描くべきではなかったか?
   これでは、背景で手抜きをしているといわれても文句は言えない。
   病院が舞台の割に、あまりに病院を無視しているので残念だ。
  
   更に、貴之は元気すぎ。
   貴之が抱える脳腫瘍は二つ。
   視床下部腫瘍は視力障害や記憶障害を起こし、聴覚神経腫瘍は耳鳴りや眩暈を起こすという。
   貴之はそれらを薬で押さえることによって、しばしの間命の猶予を与えられている。
   このゲームは貴之が行動することによってシナリオが進行するため、白血病や癌、骨折にウイルスなど、疲弊によって外観が変わるものや、他人に影響を及ぼしてしまうものは使えない。
   まして動けない怪我は、貴之を行動的にするにはナンセンスなので、基本的に行動を阻害されない脳腫瘍を患うという選択は正しいと思う。
   だから、貴之はろくな自覚症状も無いままに女の子と話を進められるのだ。
   しかし、脳腫瘍はそんな甘いものではないはず。
   確かに脳溢血ほど突発的に死なないだろうし、体が若いから、多少の無茶もそれなりに対応するのだろう。
   しかし薬で押さえているとはいえ、彼は話の最初で「検査の結果が出るのが早いか悪化するのが早いか」と告げられているほど危険な状態の患者。
   ということは、彼には行動の制限がかかっていなければならない。
   病院内で焼き芋のような予定外の食べ物の摂取や、プール等の脳への血流が著しく変化する運動、あまつさえHなどの行為はやっていいはずが無いのに、それを、手術が直前に迫っている危険な時にさせるなんてとんでもない。
  
   更に貴之は、病気が進行しているにもかかわらず眩暈・頭痛以外の症状がない。
   意識が朦朧としている時もあるが、基本的に意識のある部分は全部覚えている様だ。
   でも、病気が悪くなっていくのなら、いろいろな症状が出ることで彼の行動は制限されていくはずではないのか? 
   その途切れ途切れの意識の中で、傍らにいる女の子に無事に戻ると約束をするから感動が生まれるのであって、ほとんど元気のいいままで約束をしても、感動半減だ。
  
   その他、脇役キャラが弱すぎ
   貴之の執刀医であることを利用して、言うことを聞かないと奴の手術を失敗してやるぞと、亜希や咲智にせまる西条は、女の子にいたずらするだけのただの変態オヤジでしかない。
   彼女達を助けるためには即座に飛び出すことになり、いたずらは中断されて終り話が進む。
   当然躊躇してしまえばゲームオーバーになる。
   どうせゲームオーバーになるのなら、きっちりやることをやってからゲームオーバーにすれば、西条の変態が狂気や凶行として強調され、もしかしたら他にも手篭めにされた女の子がいるかもしれないという想像も働かせることが出来ただろう。
   また、そのシーンが出てこないキャラを選んだルートなら、貴之の知らない所で数日に渡りいたずらを受け続けているシーンを入れて欲しかった。
   どちらにせよ未遂で終ってしまっては、彼はただの変態兄ちゃんでしかないし、何より期待しているプレイヤーの気持ちを大幅に裏切っている。
   スタイルが純愛だからそうしたシーンを作らなかった、というのではなく、純愛だからこそ「シーンは用意してあるけど選ばせない」という形にすべきだ。
   本来なら選ぶはずのない選択肢を、バッドエンドになるとわかっていてあえて選ぶ背徳感、そんなシーンを選んでたまるかと言う充足感。
   プレイヤーを引きこむのは感情の揺さぶりなのだから、片側だけでは不完全。
  
   途中から出てくる患者の翼は妙に貴之につっかかってくるから、貴之が翼に手篭めにされるバッドエンドがあるのかとか、佐江子シナリオで茅春と共に奴隷になっているのか、等と期待したが、結局何も無し。
   ヤオイまでいかなくても「To Heartの雅志エンド」のような、いかにもな見せ方だってある。
  
   更にさやかの弟・晶は、男性プレイヤーより女性プレイヤー受けを狙ったかのような可愛さをもっているだけに、彼に危ない世界を手ほどきする貴之と翼の妄想を出してみても面白い。
  
   サブキャラはゲームに味付けをする役回りを持つため、それなりの個性と動きが必要とされる。
   自分のこれまでプレイしたものだと「あしたの雪之丞」のせりなの幼馴染二人や「グリーングリーン」の天神、一番星などが主人公にしっかり絡んできていい味を出していた。
   このゲームは攻略できる女の子以外ほとんどキャラクターがいないだけに、いい顔を見せに出てくるだけというのが実にもったいない。
   上記の問題は無理難題を押し付けているわけでも、あげあしを取っているわけでもない。
   良くなる要素がいっぱいあるだけに、残念だということ。
   
   注意すべき部分の多さをバランスの良さがカバーしているので、手の加え方次第で移植あるいは次回作への期待ができる、過渡期を思わせる作品だ。
  
  
  
  (総評)
   発売が200年.5月という、だいぶ前のソフトを取り上げてしまった。
   一身上の都合で新作周辺のものをチェックできなかったので、以前に手に入れておいて延ばし延ばしにしていたゲームをプレイしようと思っただけで、特に深い意味はない。
  
   結構問題点をだらだらと挙げているが、ひどい出来かというとそうでもなく、プレイした感想は「意外といいかも」だった。
  
   一番のポイントはOP・EDの歌以外ボイスが入っていないこと。
   最近はキャラがしゃべってあたりまえだが、声が出るということはキャライメージを固定することだから、そういう意味では万人に受け入れられるものにならなくなる。
   最初から考慮していたのか、歌の方に力を入れすぎてキャラボイスまで手が回らなかったのか本当のところは不明だが、そのおかげで自分の好きな声を想像することがかえって新鮮さを感じさせる。
   とはいえ、キャラクターが薄いのはフォローできず、一般的には「可愛いだけでプレイヤーを釣れると思うな」的な厳しい評価になってしまうと思われる。
   
   ところでこのゲーム、貴之と女の子の年齢差がやけに離れている。
   亜希と千秋とさちと螢は年下、さやかと華子は恐らく同い年、茅春とさえことゆかりは年上となる。
   絵柄と正確な年齢をテキストに出さないせいでピンとこないが、最年少は螢の約10歳(もちろんHなし)で、最年長は年齢の予測が出来ることから由香里の約28歳という、実に高低20歳前後の差。
   特に年上は声がないことが有利に働き、可愛いという言葉が同い年以下の女の子達よりしっくりくるため、何かこだわりがあるように思えてならない。
   でも何度も言うように、そのキャラクター性がついて行っていないから、個々の深みへはまることが出来ない。
   女の子達の背景をプレイヤーが想像するのは勝手だが、基礎がないから製作者の意図を無視してしまうことになり本末転倒。
   したがって、イメージの幅を広げるための手助けとしてキャラの厚みが欲しかった。
   H無しシナリオに意表を突かれたが、無しでも平気だと言う自信か、それとも移植をするための雛型か、意図したところが見えないのは微妙なところ。
   とにかく情報量の少なさは、色々プレイヤーにイメージさせるという点で面白いが、少なくしたのか本気で足りなかっただけなのか、真意は不明なので明確にしてもらいたい。
   今度はもうワンランク上の位置でプレイヤーのイメージを喚起させる作品が出てきてくれことを期待したい。
  
   そうそう、特に触れていなかったけど、歌はかなり良い。
   OPやトゥルーエンドの曲も悪くはないけど、特にノーマルエンドの曲「Alone and Joy」は聞いてて気持ちいい。
   音楽センスのない自分が言うのもなんだが、このメーカーの曲のセンスはいいかもしれない。
   でも、五月発売なのにクリスマス周辺のストーリーかぁ…苦労したんだろうね。
  
  
(Mr.BOO)