セパレイトブルー
 自転車を題材にした青春ストーリー。
 それは、それぞれの青…セパレイトブルー

1.メーカー名:SURVIVE
2.ジャンル:ADV
3.ストーリー完成度:C
4.H度:C
5.オススメ度:C、自転車好きにはDです。
6.攻略難易度:D
7.その他:実は自転車好きである俺っち。とりあえずSNOWを蹴ってコチラを先にプレイさせて頂きました♪

(ストーリー)
 主人公・三菱十字は親の仕事の都合で東京を離れ、とある田舎町・三鳩谷に転校してきた。
 東京の高校を離れるのはイヤだったが、反面、三鳩谷の景色が気に入っていたりもした。
 まだ東京にいる頃、バイトして貯めた大枚をはたいて購入したロードレーサーでその自然の中を思い切り走ることが出来るからだ。
 そんなある日、十字は同じクラスの女の子・石橋つばめがとてつもない急坂を自転車で下ってくる所を目撃してしまう。
 自転車という共通の趣味を持っていることを知った二人はすっかり意気投合したが、ここで彼はつばめにとあるお願いをされることになった。
 毎年、三鳩谷にある小斑鳩湖(こいかるこ)で開かれるロードレース大会「ヴェルタ・ア・コイカル」に参加するためにメンバーが4人必要なため、つばめの所属する自転車部に入部して欲しいというのである。
 正直、レースには興味はなかった十字だったが、つばめの必死の説得によって彼はまずは見学という名目で自転車部の扉を叩くことになった…


 自転車を題材にしたADVであり、Hゲームの世界では数多くの作品を手がけた八宝備仁氏が原画の作品ということで、期待を込めて購入した。  そして、その内容は成る程、自転車の知識がある者ならば「ニヤリ」としてしまうもののオンパレードだった。

 とにかく、まず最初に笑わせてもらったのが登場人物のほとんど全員が何かしら自転車の名前にちなんだものであるということだ。
 ざっと俺っちが分かっただけでも…
・石橋つばめ→自転車メーカーのブリヂストンつばめ自転車。後者は現存せず。
・丸石音菜→自転車メーカーの丸石サイクル
・角田氷和子→自転車メーカーのツノダ
・修善寺千早→日本サイクルスポーツセンターが静岡県修善寺にあります。
・松下ナル→現在のパナソニックサイクル。昔はナショナルブランドだったのよね(当然松下電器の子会社)。
・鶴戸ふらん→ツール・ド・フランスのもじり。姉の美粋(みすい)は元ネタ分からず…
・宮田次郎→自転車メーカーのミヤタジロ・デ・イタリア(イタリア版のツール・ド・フランスの事)のもじり。
・島野悟→自転車パーツの雄、シマノ。釣具でも有名。
・宿野檸檬→大阪の有名自転車店・宿野輪天堂とアメリカの昔の名選手グレッグ=レモン氏。
 主人公のデフォルトネームですら戦後間もない頃、三菱が開発したフレームを十字型に組んだ画期的な自転車「三菱十字号」から名付けたのであろう、三菱十字君だ。
 まったく、よくぞここまで…と感心するやら呆れるやらだが、こういう統一性を持っている名前というのは、俺っちはわりと好きな方なのでなかなかしゃれが利いていて楽しめた。
 また作中に登場する自転車が主人公の乗るロードレーサーがレックのカーボンロードだったりするし(元ネタはカーボンロードレーサーの有名ブランドLOOK)、音菜のゴロナゴとフェレーロのコラボレートバイクGF-2COLNAGOとフェラーリの共同開発であるCFシリーズだ(最新作CF-3は100万円だってさぁ…はあぁ…)。
 こういう表面的な部分は確かに自転車オタク心をくすぐるのだが…ここから先は後述しようかと思う。

 次に評価したいのが背景等の描き方なのだが、これが実に田舎の雰囲気を出していていい感じだ。
 まるでどこかの田舎町に旅の末にたどり着いた、という雰囲気が素晴らしい。
 もちろん、このゲームの土台はロードレースだし、主人公が一時の安らぎを得るために旅に出る話という訳でもないのは百も承知だが、あえて言おう。
 自転車とは旅にこそ似合う乗り物なのだ。
 普段の生活から離れ、異郷の地へと己の足だけを頼りに進むことが出来る。
 山の合間の静かな湖とその湖畔の道。
 青い草木がトンネルの様に生い茂る街道。
 本筋の街道をちょっとはずれれば、鬱蒼とした森の中に小さな峠道の入り口。
 峠を登りきれば、そこから見える海と陸地とのコントラストに唸る…
 この作品の舞台である三鳩谷の町はその雰囲気を見事に表現しているのだ。
 実はこの作品一番の美点ではないかな、と俺っちは思っている。

 シナリオに関しては良くも悪くも、三鳩谷学園自転車部の当座の目標「ヴェルタ・ア・コイカル」に出場することが中心プロットなのだが、コレが活きているのはメインヒロインであるつばめシナリオだけであり、あとは単なるおまけぐらいにしかなってないのが若干、バランスが悪いと感じてしまう。
 もっとも攻略ヒロイン中、自転車部員はつばめと音菜だけなので、当たり前と言えば当たり前なのだが…
 それ以上に大問題なのがとにかくシナリオ自体がとても平坦でやっていて飽きが来ることだろう。
 この作品のもう一つのテーマ、青春ラブコメと言えば確かに聞こえはいいが、はっきり言ってしまえばありがちレベルのシナリオを、八宝備仁氏の絵で無理矢理整合性を持たせた様にしか見えないのだ。
 クラスに馴染まない転校生の氷和子の世話を焼くシナリオや、自転車の知識がないのに自転車部の顧問である事にギャップを感じている美粋のシナリオなど、ベタベタもココまでいくともはや失笑モノ。
 加えて、この作品の全体的な弱点とも言えるのだが、とにかくゲーム期間が長い事この上ない。
 せめて、その期間がキャラクターとの密度の高い会話で構成されていて、バリエーション豊富ならば我慢もできるのだが、実際のトコロは約1ヶ月半の期間中には特に何があるわけでもない日常を描く場面が多々あり、結構なストレスになる。
 既読メッセージスキップが使いやすいので、ファーストプレイをクリアすれば、かなりスピーディーにはなるのだが…

 またシナリオと言えば勘弁して欲しかったのが、やたらと自転車関係の漫画作品のパクリが登場することだろう。
 例えば、つばめシナリオの流れがそうだ。
 これはどう見たって、曽田正人先生の作品「シャカリキ!」そのまんまだ。
 つばめが自転車を乗る上で特に好きなのが「化粧坂(けわいざか)」と呼ばれるかなり急勾配の峠道を登坂することなのだが、この設定自体が「シャカリキ!」の主人公・野々村輝(ののむらてる)と全く同じである。
 また、目標の大会に向けての練習中に落車し足に怪我をしてしまうものの、その後に上半身をトレーニングして鍛える事で、復活後その大会に見事優勝するのも、展開が全く同じ。
 「シャカリキ!」を読んでいる俺っちから見たら、これ以上何を言わんや、の心境である。
 それならそれで、「シャカリキ!」並みのアツい展開があったのならばまだしも、最後のクライマックスのレース「ベルタ・ア・コイカル」のシーンはほとんどレースの描写がなくあっけなく終わってしまう
 仮にも、自転車がテーマでましてやロードレースがメインシナリオの作品であるならば、このレースのシーンはもっと細かく描写してくれたってバチは当たるまい。
 現に今例示した「シャカリキ!」では最後のレース「ツール・ド・沖縄」のレースシーンにワイド版の単行本全7巻のうち、まるまる2冊を割いている。
 自転車というテーマ故に、マニアックになりすぎることを避けたのは想像に難くないが、前述した冗長な日常シーンの末にたどり着いたクライマックスが、ほとんど読み応えなしでは正直やっていられない。
 また、音菜シナリオの音菜が最初から主人公に好意を寄せていた理由「過去にチェーンが外れた自転車を主人公が直してくれた(しかも主人公はその事を憶えていない)」細野不二彦先生の作品「ママ」の主人公・萩原行(はぎわらこう)がサブヒロインの佐倉めぐみにしてあげた事と同じだろう。
 この作品でも主人公・萩原行は自転車好きに設定されているし、佐倉めぐみはこの事がきっかけで主人公に思いを寄せる事となるのだ。
 そのチェーンを直してくれた主人公にもう一度会いたくて自転車部に(主人公がいると思いこんで)入部し、後から主人公が入部してきてビックリ、というシナリオの自然な流れは評価できるが、こういうパクリが分かってしまうと、先につばめシナリオをやっていたことも手伝ってどっちらけもいいトコロだった。

 さて、ではこの作品最大の不満点にいこうか。
 それはCGと文章の整合性も含めてだが、あまりにへんな表記が多く、特に俺っちの様に自転車の事に関してある程度の知識を持っている者にとって「おいおい、ちょっと待ってくれよ!」というものがとんでもなく多い事だ。
 まず何と言っても、ゲーム開始5分で登場する「化粧坂を猛スピードで下りてくるつばめ」のシーン。
 文中では「ロードレーサーに乗った女の子が…」と表記されているのだが、CGでそのつばめは乗っているのは、まっすぐなフラットハンドル太いタイヤ、挙げ句に言い逃れ不可能状態のごっついフロントサスペンションフォークを持つ…世間一般で言うマウンテンバイクなのだ!
 いくら何でもMTBをロードレーサーと言われれば萎えるッチ…
 それならそれで、彼女のセカンドマシンがこのMTBで、このロードレーサーの部分は誤植だったというのならばまだ分かるのだが、作品の中盤、つばめはあろうことか「この父の形見のロードレーサー以外興味ない」と言うのだ。
 これはつばめがその自転車以外所持していない事を裏付ける台詞であり、現に合宿の時は細いタイヤを履いたドロップハンドルのロードレーサーで参加している。
 あのシーンだけ自転車をカスタマイズしていたの? でも、ロードレーサーにMTBのタイヤって常識的には装着できないんだけど…
 また、そう言うことを抜きにしても、音菜とふらんの初顔合わせのイベントの時、外で待ち合わせていたはずなのにCGが(学校らしき)建物の中であったり、主人公が化粧坂登坂3回目チャレンジの時も一緒につきあってくれるつばめが制服姿で登場したり(制服で峠なんか登れるか!)、結構ムチャクチャだ。
 更にシナリオライターさんの自転車知識にも疑問を感じざるを得ない。
 例えば自転車の素材・チタンの事について「出た当初はブームだったが、今では廃れた」みたいな表記があるが、正確には間違いだ
 確かに軽さと剛性を信条とするロードレースの世界ではアルミとカーボン素材の自転車に押され気味ではあるが、アルミほどではないが高い剛性にカーボンほどではないが高いショック吸収能力と軽さ、そして基本的に劣化しない上、耐久性も高いという、実は自転車にとってはベストな素材なのである。
 当然、それ故に人気は結構高い。
 ただ単に、レースシーンではあまりお目にかかれないと言うだけであって、自転車乗りならば一度は憧れる素材なのだ。
 では、何でこんな誤解が生じてしまっているかというと、このチタンという素材は製作に非常にコストがかかり、故にとんでもなく高価だからだ。
 だから、数が少ないのは事実だが、廃れたというのは間違い。
 みんなおいそれとは手が出せないだけの話なのだよ。
 正直、こういう話はマニアックレベルでの話であって、普通にゲームをやるプレイヤーにはそれほど影響のあるモノではないのだろうが、だからこそ、こういう誤解を招くような表現は避けて欲しいと思う。
 ゲーム全体を通して、マニアック知識の露呈を避けていることは十分感じることが出来たが、それなら基本的な部分のうんちくぐらいは作中語っても良かったのではないだろうか? そういうのを無理なくプレイヤーに伝えるのも、シナリオライターの技量の一つだと思うが。

(総評)
 ゲームと言う観点から見れば盛り上がり不足、自転車好きという観点が見れば「?」という実に微妙な作品。
 つくづく八宝備仁氏の原画に助けられた作品だとも言える。  ただ、個人的にスゴく惜しいな、と思ったのが話の視点をロードレースに絞った点だろうか。
 自転車というのは様々な楽しみ方がある。
 ロードレースだけでなく、自然を堪能するためのツーリングや、豪快な山遊びをMTBで味わえたり、気軽にお散歩気分で自転車で出かけ町の中で新たな発見をしたり…様々なスタイルが存在するし、そのスタイルに合わせた自転車だって多種多様だ。
 また、色々なパーツを入れ替えて自分好みのオリジナル車を作る、なんていうのも楽しさの一つだ。これは自作PCに通ずる楽しさであろう。
 特に自転車と関係ないヒロインが4人も登場する作品なのだから、ロードレース以外の自転車を描く余地はあったはずなのだが…
 こういう多岐に渡る楽しみ方が出来る自転車というものの魅力を、もっと伝えることが出来れば、この作品は更に深みが増したであろう事が残念でならない。

 さて、久しぶりに自転車のこと書いたら、自転車に乗りたくなってきたゾ。
 うっしゃ! 今から多摩川サイクリングコースでも走りに行くかあ!
(梨瀬成)


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