RISE 〜ライズ〜
 
 とりあえず、登場人物を紹介すると、マルチに志保に芹香さん、そして何故か、日野森美奈……って、ウソウソ!
 しかし、キャラデザや基本性格設定が結構ダブるのは、ホントだぞ。
 
1.メーカー名:RISE
2.ジャンル:SLG+ADV
3.ストーリー完成度:C
4.H度:C
5.オススメ度:かわいいモノ好きならA、ストーリー重視ならC、ウサギ好きならS
6.攻略難易度:C
7.その他:惜しいなあ。名作になるだけの要素を多分に含んでいるのに、幾つかの欠点が、この作品を佳作止まりにしている…
 
(ストーリー)
 主人公のカナト(名前変更可)は、幼少の頃に知り合ったロボット工学の権威、倫敦橋教授の影響で自身もロボット工学を目指そうとするも、大学受験で失敗。今はごく平凡な大学生活を営んでいる。
 そんな彼の所に、倫敦橋教授が作ったというAIを積んだロボットの女の子が訪れる。
 彼女に心を教えて欲しい、と教授に頼まれ、上手くいけば教授の助手として雇ってもらえる事を条件に、どう見ても人間にしか見えないロボットに、カナトは「ななこ」という名前を与え(型番がNAS‐H775型だったため)、彼女との共同生活を送る事になるのだった。
 
 とゆー訳で、発売からかなり経ってしまったが、個人的にかなり前から目をつけていた作品だけに、気合いを入れてプレイさせてもらった。
 上のその他の項でも触れているけど、本当に名作まであと一歩の惜しい作品だ。
 欠点は後述するとして、まず長所から見ていこう。
 んで、まず俺っちが最初に感心したのは、シナリオライターの文章力。
 とにかく、誤字・脱字がない。文法上変な表現もない、破綻をきたした文章もないと、非常にしっかりした文章で、気持ちよくゲームを進める事が出来る。
 えっ? そんなの当たり前だろうって?
 イヤー、Hゲームの世界って、ここらへんかなり改善すべき課題なんじゃねえのって、俺っちは思うんだけどなあ。
 実際、それを実践しているのは、ごく一部のメーカーしかないと思う。
 俺っちの知っている限りではエルフとか、Piaキャロシリーズとかかな(特にPiaキャロ2はこの点に関してだけは、良く出来ていた)。
 話を戻そう。
 そして、この文章力の高さに加え文章自体のセンスも素晴らしく、真面目な文に始まり、ギャグ有り(「全日本不器用委員会会長 涼子」とか「ホットケーキはばばーんでぼよよーん」とか…他にもいっぱいあるなあ)、シリアス有りでヴァリエーションも豊富だ。
 例えばエンディングの「ななこと俺は正式に一緒になる事は出来ない〜」から始まる文章は、かなりグッとくるものがあった。この台詞は広告にも使われていたね。
 また嫌味にならない程度に、シナリオライターの見識の深さも披露されるので、プレイしていて心地いい。
 最近はやたらと(この作品も含めて)リーフの影響を受けてか、ヴィジュアルノベル形式の作品が乱発されているが、この形式、ただでさえ画面構成が文字中心になる。
 故に誤字・脱字は簡単に発覚してしまうし、文章が連続で表示されるので、文法の間違いだって、どうしても目立ってしまう。
 ヴィジュアルノベル形式のはしりとなった「」に、誤植が多かったのは有名な話だ。
 ちなみに、俺っちが今までで知っている最強の誤植、KINGof誤植は某ゲーム雑誌の「ザンギュラのダブルウリアッ上」だなあ、やっぱり……(笑)。
 大した文章力もないくせに、この形式の作品を出しても、プレイヤーの失笑を買うだけだと思うんだけど……諸メーカーには、もうちょっと考えて欲しいトコロだね。
 逆から言えば、ヴィジュアルノベル形式の作品を出したいのであれば、シナリオライターに「RISE」並みのポテンシャルを要求しなきゃダメでしょう。
 今のプレイヤーの目は肥えているんだからさ。
 さて次に評価が高いのが、ななこの育成パートのアイデアの良さ。
 このななこというロボット、要するにパソコンと同じで、CPUやらメモリーやらを組み替えて、パワーアップさせる事が出来る。
 このゲームの最終目的は主人公の大学で開催されるミスコンというコンテストで優勝させる事なので、当然上手くパーツを組み合わせないと、ミスコンで0点を連発し、バッドエンドへ一直線という結末が待っている。とはいうものの、ファーストプレイで、このミスコン優勝はほぼ不可能。
 そこで、この作品では、今まで集めたアイテムやお金を継承でき、永く遊べる様、工夫している。
 恐らく、3回目プレイぐらいでミスコン優勝は可能なはず。
 そして、買ったパーツを組み合わせたり、育成の要、DVD鑑賞を行う「ななこOS」のアイデアが秀逸だ。
 デフォルメされたかわいいキャラが、これまたかわいい部屋の中で動き回る様は、見ているだけで楽しい。
 また、ななこルームはプレイヤーの自由に模様替えも出来るし、ななこが乗れる乗り物(ぶーぶーカー等)とか、部屋の背景換えのオプション、その他ありとあらゆるアイテムを買い物で増やしていく事が出来るから、解いたあとも、しばらくアイテム集めが楽しめるスグレモノだ。
 俺っちなんか、初期にこのアイテム集めに精を出しすぎて、全然お金が貯まんなくて苦労してしまったもんなぁ(実話)。
 あとは、オプションや、操作性の充実も見逃せない。
 まず、どんなエンディングでもいいから見て、アイテムを次回に継承すると出現する「ななこルーム」のコーナーが超イカす! オプションの方のななこルームは、消費電力を気にしないで自由に行動できるので、ぶっさしソードもピストルも使いたい放題。ななこも叩きたい放題だ(ヒデッ!)。
 また、意外と気がついていない人も多いと思うが、ななこ絵日記をのぞくと、シナリオ回想とBGMモードになっているので、見ていないシナリオのチェックや、もう一度見たいシナリオを見る事が出来る。至れり尽くせり、というヤツだ。
 操作性の方もメッセージ高速スキップもあるし、前の選択肢に戻るコマンドもある、クリックレスポンスも良い。
 だがそれ以上に秀逸なアイデアは、一度見たシナリオを、あらすじだけで飛ばす事の出来るあらすじモードの搭載だ。
 この作品もノベル形式の例に洩れず、テキストの量が多いのだが、一度見てしまったテキストなら1ないし2ページ分のあらすじだけで、飛ばすことが可能なのだ。
 ちなみに、このあらすじの部分もメッセージスキップ可能だったりする。
 これに関しては、この作品の基本システムが「午前と午後に学校に行くか家にいるかを選択する」という、シナリオを細かく刻んでいるタイプだからこそ出来るんだけどね。
 なんにせよ、このあらすじモード、俺っちみたいな面倒くさがりには有り難い機能だね。
 さて、いよいよ、短所なのだが……うーん、もうずばり言っちゃうとシナリオ
 まあ、高い文章力のある人間が、ストーリーテラーとしても優秀、とは限らないという事だね。
 なんて書くと、シナリオがクソのダメゲーかと思われるかも知れないが、そんな事はない。
 実際、いい話もかなりあり、キャラもちゃんと立っている。
 ただ、何というのか……ちょっと、プレイヤーの嫌悪感を引き出させるシナリオが多すぎるのね。
 そういうのが殆どないのは、ともみぐらいなんだけど、ともみはシナリオ自体にメリハリがなく、一番つまらないシナリオになっていたりする。
 あやめシナリオだと、あやめの祖父、綾月重蔵は、まあ、このテのお嬢様シナリオにはありがちな「ウチの娘を、下賤な輩に渡してなるものくわぁああ、離せ、離すのじゃ! 三太夫!」タイプの(いや、もっと厳格な人だけどね)ジジイなんだけど、主人公に対する、露骨な嫌がらせには、閉口する事しきり。
 大抵のプレイヤーは殺意抱くんじゃねえの? セバスチャンなんて可愛いもんよ、コイツに比べれば(まあ、ヤツは執事だけど)。
 だけどあやめシナリオは後半が結構面白いし、カスミばあさんという、あやめの身の回りの世話をしてくれているバアさんが、なんだかんだ言って主人公の味方になってくれるので、まだ許せてしまう。
 問題はななこと涼子のシナリオ
 涼子シナリオでは、中盤から元来ロボット嫌いの涼子と、ななことの対立という展開が待っているんだけど、涼子がとにかくイヤな女になってしまう。
 涼子はななこがロボットだと発覚するまでは(もしくは他のシナリオでは)とってもいい娘なので、余計にそれが表現されてしまうのだ。
 特に、誰も来ないトイレでななこをいじめる涼子、というシナリオがあるんだけど、何かムリヤリHシーン挿入するために作ったみたいで、凄くイヤだった。
 結局、この涼子シナリオで何がまずかったかというと、結局、みんな涼子が悪いという事。
 涼子が一人で、勝手に悪役になってしまうのが問題なのだ。
 後半に涼子の過去が明らかにされるので、それを見れば分かるんだけど、結局、涼子がロボット嫌いになったのは、他ならない自分の責任だし、せっかくななこが努力して、誤解を解こうとしても意固地になって拒否するのも、全部涼子自身
 いくら、主人公が好きだからという裏の感情があったとしても、悪いのは全部涼子でしょう。
 作中で「全部、カナトが悪いんだー!」とご丁寧にも4倍角文字で叫ばれるシーンがあるんだけど、それじゃ主人公が可哀想、っていうかあんまりだよ。
 プレイヤーは、いや少なくとも俺っちは納得できないし、その納得できない上で、涼子にイヤな部分がどんどん露呈されていくのは見ていてホントに辛かった。
 ただこのシナリオ、逆にななこがおいしいんだよな。
 シナリオの最後でミスコン勝負に勝ったななこが、自分がロボットだと会場のみんなにバラすシーンがある。
 単純に見れば、ななこが涼子に勝ちを譲ったという事になるのだろうが、裏を返せば涼子に「自分はロボットだから主人公とは一緒になれない」という意志を表明した、結構せつない話だったりする。
 しかも、その直前にななこ自身が涼子に「自分も主人公が好き」と宣言する場面があるだけに、尚更だ。
 そして、ななこシナリオ。
 はっきり言えば、かなりいい部類に入る。のだが、やはり問題点がある。
 この作品をプレイした人なら分かると思うが、後半、嫉妬に狂った主人公(笑)が、ななこを襲っちゃう場面がそれ。
 これ自体はまあいい。と言うか、ある意味ドラマ等で使い古されているパターンだし、これがバッドエンドにつながるシナリオだって言うのなら、納得も出来る。
 だが、このシーンを経過しなければハッピーエンドにいけないのは許せない。
 後半、何をしているのか秘密で夕方に出かけてしまうななこの後をつけた主人公は、ななこが見知らぬ男と車に乗って、どこかに出かけてしまうところを目撃してしまう。
 それで主人公は疑心暗鬼に陥り……という内容なのだが、何故、主人公はななこを信じてあげられない?
 これは別に、俺っちがカッコつけて言っている訳ではない。
 ここまででプレイヤーはななこがどういう性格か、もしくは主人公をどう思っているかを(テキストをちゃんと読んでいれば)熟知している筈だ。
 さて、果たしてななこが主人公の事を裏切るだろうか?
 俺っちには、とてもそうは思えない。なのに、主人公は自分で勝手に妄想を膨らませ、とうとう最後にはななこを襲ってしまう。
 はっきり言って、こんなのは許せない。
 この場面でななこが泣き出してしまった時、マジで主人公に殺意の我道を叩き付けてやろうかと思ったぞ。
 だいたいこの主人公、変に悟った所があるかと思うと、急にガキっぽくなったり、Hの時、妙にサディスティックだったり、どうもいまいち好きになれなかったのだが、このシーンで俺っちの怒りは頂点に達しちゃったぞ。
 まったく、梨瀬あと一歩でパソコンのモニターに因果を叩き込んじゃうトコロだったじゃないか。
 結局、プレイヤーの意志とキャラクターの動きが、一体となっていないというのが俺っちの感想だ。
 特にななこシナリオの主人公の様に「プレイヤーが、そのシナリオから何を思っているのか」を無視して、勝手に無様な様子をさらけ出すのは、マイナス要因以外の何物でもないだろう。  最近はやりの、甘っちょろいラブストーリーへのアンチテーゼだという事は良く分かる。
 俺っち自身も「Piaキャロ1」に対して、悪人不在のシナリオはつまらん、などと言ったクチだ。
 だけど「甘っちょろいラブストーリーへのアンチテーゼ」と「プレイヤーに嫌悪感を与える事」はイコールであってはいけないだろう。
 あと、やはりシナリオ自体に少し齟齬が生じてしまうのもマイナス。
 ミスコンの時、飲み物を飲めないななこがお茶を飲むなんていうのは、そのシーンがかわいいデフォルメキャラで構成されるシーンなのでまだいい方だが、選択肢次第では、一回もHした事のない主人公が、教室内でななこにイタズラしたり、と変なシーンもある。
 また、ななこシナリオ以外ではハッピーエンドの条件をミスコンに優勝する理由が希薄だろう(ともみは優勝しなくても大丈夫だから例外)。
 涼子シナリオなら、ミスコンでの勝負をななこ自身が挑むのだからまだ納得もいくが、あやめシナリオなんかは、何故ミスコンで優勝しなければならないのか、もう完全に謎
 確かにゲームとして見るなら、ミスコンは一つのボーダーラインなんだろうが、ミスコンに優勝できなければ、ハイ、バッドエンドではやりきれないのも、また事実だ。
 まあしかし、シナリオ関係ではマイナス面もあるが、そういう点を差し引いても、非常にグレードは高い。
 久々の良作に巡り会えた気がする。
 
(総評)
 最近、やはり『To Heart』のマルチの影響なのだろうが、ロボットものの作品が増えている訳だけど、この「RISE」では、「感情を持つロボット」という表現が上手なんだよね。
 ななこがやたらとボケた行動をするのも、彼女が「ロボット」である故である事が多いし、シナリオ「かけがえのないもの」なんかはその典型だろう。
 と言うか、マルチって、やっぱり人間臭いんだよな。
 ロボットという感じがあまりしない。
 「やがて生まれてくる妹たちのために」という台詞を入れてみたトコロで、このロボットらしくない点は拭いきれない。
 マルチのシナリオというのは、色々な意味でこの業界に波紋を投げかけた訳だけど、そういう点で、マルチのシナリオに疑問を感じた人には、この作品是非オススメしたい。
 マルチとはまた別の「感情を持つロボット」への回答が得られるだろう。
 なんにせよ、末永く遊べるいい作品だ。
   
(梨瀬成)
 
 
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