らいむいろ戦奇譚 〜明治日本、乙女防人ス。〜

 日露戦争なんちゃって裏話


1.メーカー名:elf
2.ジャンル:アドベンチャー&シミュレーション
3.ストーリー完成度:C
4.H度:C
5.攻略難易度:C
6.オススメ度:C
7.その他: あかほりさとる氏原作による、正真正銘のエロサクラ


 まず、あかほりさとる氏について簡単に説明しなければならない。
 氏は主にアニメ畑で活躍している人で、、多くの作品の脚本やシリーズ構成を担当している。
 代表作に「天空戦記シュラト」(文芸担当)、「NG騎士ラムネ&40炎」(原案・シリーズ構成)、「セイバーマリオネットJ」(原作)、「爆れつハンター」(原作)、「アベノ橋魔法☆商店街」(ストーリー構成・脚本)など多数で、いくつかは同名の小説を書いたりもしている。
 しかし、氏の脚本は往々にして「その作品世界の存亡」をかけた戦いといった、大げさな話になることが多い。
 彼が原作や脚本を担当した時は、大抵その作品の傾向が読みやすいのだが、逆に解り易いという点でウケが良いらしく、人気作となる場合が多いように思われる。
 ゲームとの関連は、PCエンジンソフト「銀河お嬢様伝説ユナ(ハドソン)」でシナリオ構成をしたことによる。
 そこで制作会社「レッドカンパニー」の社長・広井王子と知り合っており、その流れで「サクラ大戦」に関わることになった。
 「サクラ大戦」では、氏はシリーズ構成と脚本を担当(「2」「3」も同様)し、神と悪魔・帝都の壊滅・特攻・キーキャラの退場・大団円といった彼の持つ方向性が如何無く発揮されている。
 「サクラ」が絶大な人気を博しているのは言うまでも無い事だし、それは少なからず氏の能力の高さを証明している。
 作品を見る人によって好き嫌いが分かれてしまうが、なんだかんだ言いながら人気作家なのだ。

 そして、この「らいむいろ戦奇譚」では原作であるだけでなく「サクラ」と同じくシリーズ構成と脚本を担当している。
 Hゲーの世界へ「サクラ」と同じ仕事を持ち込んだならどうなるだろうか?
 ましてそれがエルフという老舗の元で行われるなら、なおのこと注目しないわけにはいかない。

 本家「サクラ大戦」が大正時代をモチーフにしているのに対し、こちらは明治時代の史実を背景にしている。
 「サクラ」で用いた、まだ不思議が通用した時代で、激しい出来事があった場所や日本に縛られない舞台はないか?
 昭和までくると裏事情を作るのが難しく、大正は本家「なんちゃって大正」の「サクラ大戦」がある。
 これらのことを踏まえて「じゃあ明治で」という事なのだろう。
 で今回は、舞台:明治→出来事:戦争(日露戦争)→敵:ロシアという構図が出来あがったのではないだろうか?


(ストーリー)
 時は明治。
 日露戦争が激化の一途を辿るさなか、主人公・馬飼新太郎(名前変更不可)はある女学園に教師として赴任する。
 違和感のある校内の様子に不信に感じるが、その回答を得る前になぜか突然戦闘が始まってしまう。
 そして、状況の掴めない新太郎が目にしたのは戦艦「天乃原」と礼武(らいむ)を駆る少女たち、真田木綿・本多更紗・加藤麻・福島絹・黒田綸子の5人の「らいむ隊」の姿だった。
 人知れずロシア軍の礼武が守る旅順要塞を攻略するために集められた少女達。
 彼女達がその覚悟と引き換えに望んだことは「学校に行くこと」だった。
 新太郎はその教師として呼ばれたが、奇しくも先生としてだけではなく、「らいむ隊」の隊長として戦闘の指揮も取ることになってしまう。
 続く戦闘と学校という安らぎの中で新太郎は徐々に女の子達の信頼を得ていく。
 そんな中、一行が旅順へと向かう道程で1艘のボートを救助するが、驚いたことに乗っていたのは元恋人ソフィアだった。
 幼児退行している彼女は新太郎を動揺させるが、それでもらいむ隊の少女たちと変わらず接し、隊長の役目をこなしていく。
 女の子達との絆は、ソフィアとの仲はどうなるのか?
 そして決戦の地、旅順要塞が近づく…


 プレイヤーは教師として平時は生徒とコミュニケーションを図り、戦闘ではらいむ隊の隊長となり指揮をとる。
 ストーリーは日露戦争を背景に全13話で構成され、各話の中でらいむ隊の女の子達との絆を深め、最終的に旅順を守るロシアの礼武を退け、攻略の手助けをすることが目的となる。

 まず目に付くのがグラフィック。
 立ち絵のキャラが実に大きく、表情も豊かで生き生きしている。
 また立ち絵の大きさを調整することでらいむ隊5人全員を同時に画面内に表示するといった工夫もしている。
 キャラパターンの豊富さや、画面の賑やかさはBOOのプレイしたゲームの中でも群を抜いている。
 グラフィックの質感もさすが老舗の仕事と思わせる。
 丸味のあるキャラクターデザインと柔らかい色調が見てて心地良いし、キャラの大きさに迫力を感じる。
 H度は控えめだが、1キャラに偏るか全員を満遍なく進めるかで二通りのパターンを用意しているし、サブキャラがロリータ、お姉様、無理矢理を担当しているのでバリエーションも豊富だから十分に楽しめるだろう。

  メインキャラ5人は
 木綿→メイド・妹(「お兄ちゃん」連呼という意味で)
 麻 →セーラー服・ボーイッシュ
 絹 →巫女・泣き虫
 更紗→チャイナ服・お嬢様
 綸子→和服・無口

 となっており、サブキャラは
 九鬼様→ロリータ・魔女
 須美→女医・お姉様
 ソフィア→外人・元恋人

 という役割を持っているため、プレイヤーに対し、あらゆる方向性に対応しようという姿勢が見て取れる。
 しかもロリータ担当の九鬼様は、実年齢不明(ン百歳)の最高齢というギャップが面白い。

 シナリオは、日露戦争の重要な拠点・旅順を攻略するための裏方となってロシアの霊的戦力を叩く過程を、13話に分けて見せていく。
 内容はおまけシナリオとなる6話をはさんで、前半の1・2話が紹介、3話が麻・絹、4話が更紗・綸子、5話が木綿との親睦を深め、後半の7話が更紗、8話が絹、9話が麻、10話が綸子、11話が木綿と新太郎との個々の絆を深め、12話・13話で旅順での決戦という構成になっており、そこに到着するまでの間に、5人との融和を図る。
 最終回までの話は一貫して分岐することはないが、各話毎に中心人物を変え、個々のエピソードを盛り込むことでシナリオが単調にならない様にしてある。
 彼女達はそれぞれに個々のトラウマを抱えていて、環境こそ違えどみんな孤独で人との付き合いに疎遠だった。
 家庭の環境から、故郷を一人離れることとなった木綿。
 軍人の家に生まれ、男らしく軍人らしくあるために女ということに目をそむけて育った麻。 
 巫女の力の強さから敬遠され、麻に手を引かれるまで家に引きこもっていた絹。
 良家のお嬢様故に特別扱いされ、同世代の友達との付き合い方を知らなかった更紗。
 幼少の頃、父親の偏愛により家から出してもらえず、鏡の中の自分だけが友達だった綸子。
 そんな彼女達は新太郎によって過去のわだかまりを吹っ切り、彼を信頼して身体を預ける。
 それで終わってしまうだけでは物足りないので、シナリオの間にロシアで別れた恋人・ソフィアによって心乱される新太郎とのやりとりを織り交ぜる。

 女の子達の一喜一憂を1話毎に並べていき、一丸となって旅順要塞に挑み大団円を迎えるラストは誰一人として欠けることのないお約束の展開だ。
 「らいむ〜」が持つアニメのような構成や娯楽性を感じさせる展開はあかほりさとる氏がもたらしたものと考えられる。
 そして、それが気持ち良く思えるのは「あかほりイズム」とも言える部分が抑えられているからだ。
 氏の持つ神と悪魔の戦い、破壊(死)と再生(復活)、一人は大概いなくなるなどの種々のネタはエルフというソフトハウスによって薄められ、見る者への大げさなアピールやくどさをやんわりと軽減しているのだろう。
 この効果は両者の相互作用によって、というよりはそれを狙って作られたという方が正しいかもしれない。

 エンディングは最終的に5人の個別エンドとトゥルーエンドがあり、それを決めるのはストーリーの間にある選択肢と授業の内容。
 前半でキャラが確定すると、「話数スキップ」が発生し、話は後半の確定したキャラに対応した話に進み、飛ぶことなく話を進められた場合はトゥルーエンドとなる。
 この話数スキップはプレイヤーが女の子を見るか、ストーリーを見るか、戦闘を楽しむかによって受け入れられ方が変わるだろう。
 キャラに走るなら楽だろうが、ストーリーをとるなら選択肢の変化を楽しむことが出来なくなるし、戦闘もその分回数が減ってしまう。
 しかし、選択肢によるわずかなセリフの違いを除けば、エンディングに至る過程で同じイベント、戦闘をこなすので、話が飛んでも飛ばなくても各話の内容は全く変わらない。
 話数スキップは、例えば後藤夕貴氏の「火焔聖母」のレビュー内では、それが前半の選択ミスによるペナルティとして用いられており、後半まで引きずってしまうスタイルが問題視されていた。
 しかし、この「らいむ〜」のそれは、不必要な部分は飛ばします的なピックアップの要素が強い。
 トゥルーエンドと個別エンドの差は女の子とのHの有無とCG一枚、ED曲を該当する女の子が歌っているくらいなもの。
 スキップする時は、一応ペナルティっぽいショートコントが入るが、目的の女の子に集中する人にとっては特に問題にならないだろう。


 さて、問題の方に移ろうと思う。

 まず授業。
 新太郎は軍がらいむ隊の少女5人を戦争に駆り出さねばならないせめてもの償いとして、彼女達の知らない「学校」という雰囲気を味わわせてあげたいために教師として呼び寄せられた。
 奇しくも戦闘隊長として指揮しなければならなくなったが、それでも最後まで教師としての自分を変えることはなかった。

 問題はその授業内容。
 新太郎は1・6・13話以外で彼女達に授業を行う。
 一見育成シミュレーションとみまごう科目の選択は彼女達の学力を上げてくれそうに思えるが、そんなことはない。
 上がるのは彼女達の好感度と新太郎の授業評価だけで、学力とは一切関係がない
 そのため、学校らしい雰囲気を見せた事以外何の役にも立っていない。
 確かにゲームの目的は彼女達の学力を上げることではなく、「学校に通わせてあげたいだけ」だから間違ってはいないが、せめて授業を受けることで「何か出来るようになった」というイベントを入れるべきではなかったか。
 これでは正に「学校ごっこ」を見せているに過ぎず、軍のはからいも少女達を単に艦の中で遊ばせているだけになってしまう。
 そうなると新太郎が本当に勉強を教えていたのか怪しく思えるし、彼がラストの方で「教師として自分の信念を曲げるわけにはいかない」というセリフもどこか軽々しく聞こえてしまう。

 そしてシナリオ。
 全13話という構成で細かく区切ることによって全体のバランスはいいが、キャラ毎に見るとあまり掘り下げられていないように見える。
 いや、絹が小さい頃から自分の力に振り回されていたことや、更紗の令嬢ゆえの一人ぼっちの寂しさなど生い立ちや性格は十分判るし、何より麻は軍人へのこだわりが良く書けていると思う。
 しかし、周りの掘り下げ方が足りないように思える。
 例えば、どうやって彼女達は集められたのか?
 セリフでは「軍を使って全国から礼武を使える者を集めた」らしいが、誰が何の基準でそれを判断したのか?
 礼武が魂の力(魂色:こんじき)によって発動することや、それを使える者は女性のみらしいという説明はある。
 というより、説明はそれしかない
 多分能力者である九鬼様に仕える一族が協力しているのだろうが、艦長自ら「詳しいことは解らないがね」というほどなので、プレイヤーはただ推測するしかない。
 そして、彼女達は何のためらいも無く軍隊に入るものだろうか?
 軍人の家柄の麻以外はみんなまるで違う場所にいたのだから、なんで自分が? と疑問を待つはずだ。
 説明を受けても、すぐには「はいそうですか」とはいかないだろう
 その辺りの、彼女達の葛藤を描くことで、彼女達が望んだ学校の重要性も増したのではないだろうか。

  キーキャラのはずのソフィアとの絡みもそう。
 中盤に救助される彼女は、その精神が幼児退行を起こしていた。
 ショックを受けた新太郎は彼女への心配と、らいむ隊の5人との間で葛藤することになるが…
 ソフィアとらいむ隊が全くといっていいほど噛み合わない
 ソフィアはその状態から個室に隔離されているし、新太郎が様子を見にいっている。
 そのため、らいむ隊のみんなが覗きに来られる機会が奪われ、結果的にソフィアとらいむ隊の接点が失われてしまっている。
 それなのにソフィアの所に通う新太郎に対し、みんな何も言わないし「自分達も彼女の相手を」とも言い出さない。
 同じ艦の中で彼女達と新太郎の隔離された環境が発生したのに、みんな普段と変わらない生活しか送らないというのも不思議なものだ。
 用意されているイベントといえば、7話「千羽鶴」でソフィアに折り鶴を送ろうとか、8話「大凶なんか怖くない」でソフィアに起こった事を探ろうと絹の能力に頼るくらいなもの。
 11話「おにいちゃんの日」に至っては木綿が新太郎を休ませるために、献身的ですらある。
 しかも、それらの話は新太郎とらいむ隊の女の子達の絆を深める(Hする)ための話だから、ソフィアには意識が向けられていない。
 いくら元恋人ということを知っていたとしても、ソフィアに心奪われる先生への心配や嫉妬心は生まれてきてもおかしくないのではないだろうか?
 そして新太郎とソフィアは甲板、風呂場など戦艦内で所かまわずSEXしまくっているのに何故誰も気が付かない?
 行われているのは彼女の正体が発覚するまでという不正確な期間内だが、少なくとも1日2日のことではあるまい。
 とすると、ソフィアが来てからもそれなりに日数が経っているはずなので、何日SEXし続けても気が付かれないほど艦内には人がいないという事になってしまう。
 更に新太郎を信用するのはわかるが、その恋人だったからといってソフィアまで信用していいのだろうか。
 結果的にかわされてもいいから、もしかしたらスパイか刺客じゃないのか? と疑うセリフだけでなくイベントも入れないとむしろ不自然だろう(アニメではフォローが入っている)。
 ソフィア本人にしても、幼児退行状態が続くことで新太郎との思い出は語れないため、ラスト近くで正気に戻ってからまくし立てられても物足りないことこのうえない
 新太郎が、らいむ隊のみんなにソフィアとの思い出を語るだけでもかなり違った印象になったはずだ。
 こうした周囲への配慮の足りなさはメインキャラの足を引っ張るので、結果的にゲームとキャラを遊離させることになる。


 ナンとも言えないのが戦闘。
 各話に一度らいむ隊はロシアの礼武兵とシミュレーション形式の戦闘を行う。
 5人が一体ずつ礼武を持ち、それぞれが五行を参考にしたと思われる「風・火・土・金・水」の属性を持つ。
 敵も同様の属性を持つため、お互いの相性を考えてマップ配置を行い撃墜する。
 ここまではいい、ユニットの相性を考えるのはシミュレーションの基本の一つだ。
 後は攻めればいい…と言いたいところだが、困ったことに、このゲームは「攻め」というものが存在しない
 礼武は敵が遠くに現れて、味方がどんなにフリーになっても敵に向かっていくことができない。
 だから、敵がマップ上に何体(最大10体)現れても攻撃範囲外では黙って見ているしかない。
 つまり、「余裕がある時にマップ内の敵を倒して更なる敵の出現に備える」ということができず、ひたすら相性を頼りに、近づいてくる敵の礼武を倒していくしかないのだ。
 戦艦を中心に円形で形作られたフィールドは一番遠いところで5マスもあるのに、味方に許された移動場所は戦艦の周りを囲む1マス分のスペースのみで、攻撃は正面1マス、パワーアップした後でも2マスしかない。
 あとはせまってくる敵をひたすら待つばかり…
 アニメでは近接戦闘のみの理由として「有視界による戦闘を行うために遠距離の攻撃ができない」と説明している。
 ゲーム内でも一応「敵を自分の目で確かめねばならない」といっている。
 しかし同時に、「この艦の役目は生身の彼女達を守ることにある」とも言っている。
 ならば、礼武が行くことの出来ない遠方には援護射撃をしてもいいのではないだろうか(アニメでは行われている)。
 例えば、戦艦から遠方の礼武のまでの直線上に彼女達がいない時に限り艦砲射撃ができるといった、文字通り「彼女達を守るためのフォロー」くらいあってもよさそうなものだ。
 戦艦が飾りでは、近くでしか戦えない彼女達の戦いは防戦一方になるのが当たり前。
 さらに、マップによってはいきなり戦艦に隣接して現れることもあるし、出てくる敵はランダムで、同一属性のユニットが三体以上展開することもある(相性で有利になるのは一属性につき2種なので、確実に攻撃を受ける状況が発生してしまう)。
 後手に回ってばかりで理不尽な上に、倒しに行くことも出来ない完全な防御戦をプレイヤーにやらせたかったのだろうか?
 少なくともBOO個人は楽しさよりももどかしさを感じる。

 更に困ったことに、味方ユニットは消滅しない。
 設定として用意されていないのだろうか?
 戦闘での敗北条件は「戦艦の防御率が100%から0%になること」だ。
 慣れないうちは攻め込まれて戦艦が沈むこともしばしば(やり直しによるペナルティーは無し)だが、勝てるようになるとユニットがやられないことが不思議に思えてくる。
 どうやったらやられるのかいろいろ試してみたが、30ターンほどで戦艦が沈むか、敵が全滅するので確認ができなかった。
 何しろボスクラス以外は相性が良ければ一撃、同じなら二撃、悪くても三撃で倒せる上に、「防御」とか「避ける」といったコマンドも無く、間合いに入れば勝手に攻撃。
 結局「何回攻撃をもらおうとも船が沈むまでは消滅しないらしい」ことしか判らない。
 「礼武が攻撃を受けると彼女達が傷付く、彼女達が傷付くと礼武は攻撃力を失う」というのに、ヒットポイントが無いどころか無敵っぽいというのもおかしな話ではないだろうか。
 正面で戦う礼武が死なずに戦艦が沈むのでは「戦艦は彼女達を守るためのもの」という艦長の言葉も説得力を失う。
 コツをつかむとクリアは簡単なのに、敵が近寄ってくるまで攻撃できないから無駄にターン数が費えるし、緊張感も奪ってしまう。
 5人の礼武には登場シーンや必殺技のムービーもあるから見所もそれなりだが、全体的に大雑把なため、シミュレーションとしての完成度はお世辞にも高いとは言い難い。

  他にも、九鬼様は眠ったままなのにいつ戦艦へ運ばれたのか? とか、新太郎は外交官をやめた後、なぜ教師になったのか? とか、彼女達の軍服はミニスカートとズボンの二通りあるが用途の違いは何なのか? とかの疑問は文章での説明も回答も無い。
 ついでにパッケージ(CD-ROM版初回限定版)内には「インストールマニュアル」と「トランプ」「カレンダー」だけで、キャラやゲーム背景に関する説明書が入っていないのはどういうこと?
 おまけなどの付加価値よりもプレイに関する情報を提供すべきではないのか?
 それから、ゲーム最初の方の会話で、

 艦長「紹介しよう、彼が馬飼新太郎君だ」
 伊達少佐「馬飼、すると彼が…」
 艦長「うむ」

 で終わってしまう会話があるが、この後何話になっても説明が無くゲームは終わる
 おそらく「九鬼様のお導き」で選ばれたのだろう、とプレイヤーに推測させただけで、ゲームでの回答はない。
 このゲームはこうした「お約束なんだから、説明なんて要らないでしょ」的な個所がかなり目立つ。
 もっとじっくりと話数を増やして煮詰めれば解決できたかもしれない。
 しかし、そうすると逆に問題だらけのシミュレーション部分や科目選択を延々と何話も続けなければならなくなるという問題が発生する。
 もし、マルチメディア展開に合わせたるめの省略だったならもったいない気がする。

 女の子達のストーリーはよく描けているのにそこかしこにアラが多く、シミュレーションは不満を残す。
 このゲームは「どこをとっても片手落ち」そんな気がしてならない。


(総評)
 そんなに「サクラ大戦」に似てるかなぁ? というのがプレイした第一印象。
 確かに何度もここに書いた「お約束」という点でのゲームのガイドラインはそうかもしれない。
 しかし、キャラ萌えやシミュレーションの内容と扱い等を考えた場合、かなり異なる印象を受ける。
 まして「らいむ〜」のいる土俵は18禁を頭に冠するインパクト重視の世界。
 シナリオやゲーム性などの質を無視するわけではないが、キャラデザ一つでその印象はがらりと変わってしまう。
 それに「サクラ大戦」は劇場という表の世界で見せる華やかさがある。
 対して「らいむいろ戦奇譚」はキャラが一軍人としてしか機能していないためかなり地味。

 これだけ違っても、世間では「エロサクラ」なのだから不思議なものだ。

 BOOもプレイする前はキーワードにしていたくらいだし、改めてブランド力の恐ろしさを垣間見た気がする。

 このゲームは、あかほりさとる氏という「名前がブランド」といっていいほどの知名度をもつ人が原作者だけに、どうしても氏のゲームでの代表作「サクラ大戦」(原作ではないが)を引き合いに出されてしまい、それだけで最初からPCゲームプレイヤーをはじめコンシューマゲームプレイヤーやアニメ関係の等といった周囲の注目を浴びていたと思う。
 その声に答える努力をしたからだろうか、ゲームの内容およびメディア展開には「サクラ大戦」と似通った部分が多くみられる。
 背景の戦争は違えど、霊力を用いたなんちゃって兵器・5人組の少女と男の隊長・(個別の瀕死な状況は発生しないが)特攻から全員無事帰還・ラスボスが著名人(今回はロシア屈指の怪僧)・最後に一人だけ主人公の前から姿を消す女性・マップ内での移動が三回など、見る人から見れば似たところばかりと思われても文句は言えない。
 ただ、氏は誰にでも解り易い「お約束」や「王道」をよく用いるので、一概に「サクラ」似と決め付けるべきではない。
 誰でも考えそうだが、原作があかほりさとるだったから比較対象としてたまたま「サクラ大戦」が挙がっただけ、と考える方が筋ではないだろうか。
 とはいえ、今後はその呪縛から逃れられないとは思うが。

 「らいむいろ戦奇譚」はゲームから始まり、アニメにコミック、音楽活動など規模は小さいながらも「サクラ大戦」がやったものはほぼ行っている。

 ただし、短期間に、だ。

 「サクラ〜」はゲームがウケて、十分に浸透した後にさまざまな活動を行っている。
 もちろんそれは、あかほりさとる氏だけでなく広井王子藤島康介など著名人が参加するのに垣根の無いコンシューマゲームという強みが力となった結果によるものだろう。
 数年に渡って、現在でも続くリメイクは大衆に与えたインパクトがいかに強かったかといういい証拠だ。
 それに対し、「らいむ〜」はすべてのことを半年足らずの間に行っている。
 あまりにすべての事柄を凝縮してしまっているため、味わう前に目の前を通り過ぎてしまった感がある
 あかほりさとる氏とエルフというメーカー名以外、一般に対する知名度の弱さが急がせたといっても過言ではないかもしれない。

 氏は企画=アニメ・ゲームに直結するが、エルフはまずゲームありき、だ。
 例えば、エルフの過去ビッグタイトルのひとつ「同級生2」は一作目を上回る人気を博し、多くのコンシューマー機へ移植され、アニメにもなっている。
 「To Heart」でブレイクしたleaf「Kanon」擁するKeyのようなメーカーにしたって、ゲームそのものの人気が上がらない限り、その先へはなかなか進まないのに、この「らいむ〜」はいきなりの同時展開。
 本当の評価がはっきりする前の活動は事前情報を知っている人にしか通用しない=知らない人へのアピールができないということだ。
 「あかほりさとる」というブランドで、期間短縮を補う狙いもあったかもしれない。
 しかし、BOOがプレイした限りでは「らいむ〜」がアピールしてくるのがまずCG、ついでOP曲「燐花」、そして原作という順に思えるので、あまり意味を成さなかった。
 TVアニメ内で放映されていたCMの頭で「あかほりさとる原作の〜」と声に出されていたのは、それだけゲームの方での氏のイメージが薄かったからかもしれない。

 出てしまってから言うのもなんだが、とにかく「まずゲームを練りこめ」これにつきる。
 エロゲーは一般ゲームの様に、話題作だからといってそうそうTVCMも流せなければ一般に知られる著名人もなかなか登用できない。
 「らいむ〜」は「あかほりさとる」という個人ブランドと、「エルフ」という老舗の知名度がある分有利だが、それでも厳しい展開だったはずだ。
 十分でない環境でかなりの爆発力を見せたのだから、たいしたものだと思う。
 ギャルゲー(あかほりさとる)とエロゲー(エルフ)を融合させた実験作的意味合いから考えると、十分に評価していい一本といえるのではないだろうか。

  ところで、気になるのが同時展開した企画達のその後。
 音楽活動等はさすがによくわからないので置いておいて…

・コミック:
 らいむ隊編成直後から新太郎に出会う直前までのプレストーリーを描いている。
 身体検査や屋外での軍事教練(キャンプっぽいが)があったり、新太郎の前に隊長を勤めていた伊達少佐が活躍したりと、「ゲームでは描かれなかったが、こういうこともあるだろう」的なサブストーリが多い。
 しかし、妙に麻が目立っているため、麻の視点からみた少し前のお話という感じ。
 また絵的に微妙だと思われるので、勢いが過ぎた後となる発売の遅さ(03.4.30現在未発売)を考えると苦戦必死と思われる
 ちなみに「サクラ大戦」もようやく漫画化された。
 そのコミックスは藤島康介本人こそ書いていないものの、絵柄を似せる努力とPS2版の「サクラ大戦〜熱き血潮に」の発売のおかげで好調な売れ行きを見せている。

・アニメ:
 これは意外と出来がいい
 こちらは完全にゲームの展開に沿って作られている。
 サブタイトルをはじめ、せりふも忠実に話す上に、ゲームでは物足りない部分を多く補っているため、より解り易くなっている。
 例えば4話「名探偵更紗!?」は、無くしてしまった彼女自慢の懐中時計を探す話だが、PC版では夜中に水を飲みに行った時に落とすという「金属同士がぶつかって音がしないわけ無いだろ」的な矛盾を含んだ自爆だったのを、アニメではオリジナルキャラ「アントワネットガンジー13世」という更紗の飼い犬が「光る物を集める癖によって隠し場所に持っていかれていた」という無理の無い(犬の存在自体が微妙と言えなくも無いが)理由に変わっていた。
 また9話「リトル・ステップ」は九鬼様が体力回復を図るため空から船を降ろしたことを、みんなが九鬼様が怒って降ろしたのだと勘違いし、天の岩戸よろしくパーティーでおびき出そうとする話だが、PC版ではただ「自室で寝ているだけ」なのに対し、アニメでは「近くの湯治場に言ってしまい留守だった」とし、パーティーをするみんなをより滑稽にみせ、さらに船外でのこととしたため、寄港した港でみんながドレスに着替える(PC版は須美のドレスをみんなに貸すことになっている)というサービスシーンが用意された。
 他にも木綿のコスプレなど、見所は多い。
 更に、ソフィアのセリフや振る舞い(Hは当然カット)も変えられているとか、オリジナルキャラとして九鬼様の僕に三人の子供の式をつけ、寝ている九鬼様の代わりの解説役としたりと、かなり丁寧に作られていることが判る。
 アニメだけ見るなら「サクラ大戦」より上だろう(「らいむ隊」が無秩序に踊りまくるEDを除く)。
 話数こそ「サクラ」の半分(13話)なのに、よくまとめられているため、もし話数が倍だったなら例えば伊達少佐、あるいはソフィアなど、キャラを深く掘り下げる話を差し込めたかもしれないのに、と思うと残念でならない。

 ちなみに民放での放映は2003年3月いっぱいで終了している。
 驚いたことに、今後発売予定のDVDではTVではさりげなく隠されていたHシーンをしっかり監修するらしい。
 長期に渡って「らいむ〜」を引っ張るのはこのアニメ版かもしれない


余談:
 らいむ隊にモデルはあるのだろうか? と思って少し調べてみたが、どうやらいないらしい。
 そのかわり、戦艦「天乃原」にはモデルがあったようだ。
 きっか氏の協力で資料を提供してもらったが、彼の「上っ面だけ持ってきた掘り下げの少ない資料だろう」という読み通り、どうやら戦艦「三笠」がそれらしい。
 「天乃原」と「三笠」を比べると、「天乃原」のほうがマストが一本多く、細かい部分がすっきりしている(3DCGデータの簡略化のため?)様に見える以外、特に違うところは無く、まず間違い無いだろう。
 それに、日露戦争時の旗艦で戦績もトップクラスとくればあかほり氏でなくとも取り入れそうだ。
 また、「天乃原」の艦名の由来も同じく「三笠」に起因していると思われる。
 「三笠」の艦名の由来と言われる阿倍仲麻呂の和歌の中に(ひらがなで)「天乃原」と書いてあるのがその根拠だ。
 この辺の設定を、「艦隊司令長官・東郷平八郎大将の旗艦『三笠』と同時期に、ひそかに兄弟艦として造られたのがこの『天乃原』だ」なんてセリフで匂わせてくれるだけでも興味の度合いが変わってくると思うんだけどなあ…
 ちなみに、特別部隊とはいえ帝国軍戦艦なのだから、菊の御紋があるべきところにらいむのマーク(切り口を模したもの)を付けるのはまずいと思う。


 それと、キャラクターの名前も面白かった。
 彼女達の苗字はそれぞれの礼武と合わせると

 真田木綿→礼武:ユキムラ(真田幸村)
 本多更紗→礼武:タダカツ(本多忠勝)
 加藤麻→礼武:キヨマサ(加藤キヨマサ)
 福島絹→礼武:マサノリ(福島正則)
 黒田綸子→礼武:ナガマサ(黒田長政)


 といった戦国武将だし、いっそ「彼女達には礼武となる武将達の魂が宿っている」とか「実は生まれ変わりだ」とか語ってほしかった。
 また、名前は織物でまとめられている。
 BOOは更紗や綸子などの名称をはじめて知ったよ。

 更にそれらは
木綿: 庶民に広まった用途の広い生地 → 家事などあらゆる仕事をこなす働き者
更紗: ポルトガルの方から伝わった生地 → 本人は西洋かぶれ
 麻: 丈夫だが織物としては手間のかかる繊維 → 気が強く素直じゃない
 絹: 糸は繊細かつ強靭な高級品 → 気が小さいが霊力は一番強い
綸子: 紋織りと無地織りのある織物三原組織の一つ → 一番頭が良く(文(紋)がある?)て無口(無地?)できれいな黒髪(三原色?)をしている
  というように、彼女達のキャラクターにも反映されている
 ちなみにロシアの礼武を操る幹部3人・ラシャ・サテン・ビロードも同じく織物の名前だが、ラシャは更紗、サテンは綸子と名前の由来がかぶるオチがついている。
 もっと話数が稼げるなら、こうした「遊び」に関する部分のフォローができたはずだし、遊びが遊びではなくきちんとした設定の一つとして機能したかもしれない。

 他にもこのような部分が隠されていると思うので、探してみるのも一興だろう。

 そういえば、ロシアの礼武2体で帝国軍の二個大隊が壊滅したという。
 そんな相手を「らいむ隊」の礼武は5体で1話平均20体弱倒してきた
 1話で一人あたり4体ということは彼女達の力は軽く見積もっても4個大隊以上ということになる。
 それなら確かに多大な犠牲を払った旅順に戦艦一隻(主力は5人)で向かうのも頷ける話だ


(Mr.BOO)


戻りマース