PORTRAIT 〜ポートレイト〜
夢の中で君が心を閉ざしているのは、何故?
夢の中で君の瞳が映しているのは、誰?
夢の中で、君が俺に微笑んでいるのは、何故?
夢の中を彷徨うと出会う君は、誰?
1.メーカー名:TESLA
2.ジャンル:ADV
3.ストーリー完成度:A
4.H度:ワーストルートならAやね。ハッピールートでもB。
5.オススメ度:A
6.攻略難易度:B(結構、手こずった…)
7.その他:どうも、話題作に振り回されていた2000年だったが、よもやこんな隠れた名作があろうとは……
(ストーリー)
主人公である青木健志は、キリスト教系の全寮制高校に通う美術の好きな学生だ。
彼の所属する美術部は、デロリ画の天才と呼ばれる芸術家・草葉ゆかりを講師とし、かつて健志が告白して見事に玉砕した部長・桐島ルカや、同級生・二ノ宮杏子らとわきあいあいと活動を行っている。
そんな矢先、次の課題のテーマに頭を悩ませていた健志は、先日ラジオで紹介されていた小説「深い淵」に出てくる「深い淵に降り立つ女神」にインスピレーションを感じ、これをテーマに次回の作品を作る決心をする。
それを決めた日、登校拒否をしていた幽霊部員の天野美由が美術部に加わり、更に志気が上がる健志だったが、その日から彼は不思議な「夢」を、毎夜見る様になるのだった……
つーか、オイ、コレちょっと凄くないか?
月にウン十タイトルも発売される今のHゲーム業界において別段話題にのぼったわけでもないし、有名メーカーが作った訳でも、著名な原画さんが絵を描いている訳でもない。
しかし、この完成度の高さはなんだ!?
とにかく、やたらめったら緻密な文章は2000年最大の話題作と言っても過言ではない「AIR」にすら匹敵する。
そして、オススメ度A以上をつけたのは、この年では俺っちにとっての2000年最強RPG「D+VINE[LUV]」のS以来だ。
どの位オススメかと言うと「今回の原稿はネタバレで書くのヤメヨ。出来るだけ多くの人にやってもらいたいから」って俺っちが思っちゃう位、オススメなのである。
と、言う訳で今回は一切、ネタバレは使わない。
そこのトコロを了承して頂くとともに、以下から始まる文章に目を通し、少しでも興味を持たれたなら是非プレイして頂ければ幸いである。
4人のヒロインが存在し、各キャラにハッピールートとワーストルート、そしてそれらの攻略失敗があるのでエンディングは全てで16通りあるが、実質的にはハッピーとワ−ストの計8個のエンディングを見て終了となる。
そして、全てを解き終わってまずスゴいと思ったのが、ありとあらゆる様々な伏線が張られているのにも関わらず破綻が一切ない事だ。
伏線…と言うよりは、各キャラクターに振り分けられた設定が本当に上手に料理されて作品に絡んでおり、その設定から外れる事がないため、非常にまとまりが良い作品になっているのだ。
あえて言うなら、主人公が何故急に変な夢を見始める様になったのかが、天野美由シナリオでしか描かれないので、イマイチ分かりづらい事がちょっとマイナスなぐらいか。
どのシナリオにおいても各ヒロインや脇役まで、キチンとした性格設定に基づき、納得のいく行動をとってくれる。主人公ですらも、だ。
物語である以上当たり前の事かもしれないが、ここまでそれを徹底し、意識した作品は本当に稀だろう。
美由が何故、登校拒否をしていたのか。
何故、杏子が主人公にあそこまで親身になって、偏食をするなと言うのか。
どうして、ルカが自分の得意分野に粘土を選んでいるのか。
ゆかりがわざわざ主人公を「青木健志」とフルネームで呼ぶ意味は何か……
これらの設定と伏線が、全て活かしきれている。
主人公が何気なく両親の事を指して言う「オヤジ・オフクロ」という言葉にすら、伏線が張られている用意周到さは感服する他ない。
次に、この作品のメインテーマである「トラウマ」の描き方が、本当に上手に描かれているのがポイント高い。
主人公が突如見る様になる「夢」を通じて、各ヒロインの心理描写を徹底的に表現しているのもさることながら、ここの演出がまた、とにかく凝っている。
「crossroad」「kagomekagome」等の夢に入る前のタイトル表示もカッコイイし、夢から醒める時は必ず「open
your eyes」…いいセンスしてるヨ、ホントに。
そして「トラウマ」というものを描くためのベースになる普段のADVパートも、実に秀逸に表現されている。
特に、俺っちが評価したいのが、「人間の汚い部分も、しっかりと描写している」事だ。
これは主にワーストルートで見る事になるが、話が重い雰囲気になる前のパートでも結構出ている。
初日にルカと杏子に「スケベ」呼ばわりされるイベントなんかはその典型だし、ルカシナリオでゆかりが主人公に八つ当たりしてくるのも、そうだ。
しかし、こうして良いも悪いも含めた「人間らしさ」をキャラクターに与える事が出来たからこそ、トラウマに立ち向かう(もしくは屈する)事を上手にまとめたシナリオが完成したのだと、俺っちは思っている。
シナリオに関しては、まずハッピーは言うに及ばず、ちゃんとワーストルートも納得出来るシナリオになっているのがスゴい!
はっきり言ってしまうと、このワーストルートは完全な鬼畜&陵辱シナリオで、かなり濃ゆいHシーンが展開する。
ところが、他メーカーで良く見かけられる本当にただヤルだけのストーリー皆無なものと違って、何で主人公がヒロインを陵辱してしまうのかをハッピールートと同じぐらい緻密な文章力で見せてくれるため、ちゃんと作品内の一ストーリーとして溶け込んでいるのだ。
これは、前述した「人間の汚い部分」を見せる相乗効果も手伝って、この作品の完成度を更に高めるのに一役買っている。
特に、草葉ゆかりシナリオのワーストルートは凄まじい。
エンディングの「思い出させてくれて、ありがとう」はマジでくるモノがある。
他のワーストルートも、救いのないものばかりだが、こういうシナリオがハッピーと同じぐらいの重要な比重を持っているのは、結構スゴい事だ。
もちろん、ハッピールートも、各キャラクターの設定にあわせて、非常にメリハリのあるストーリーが展開するので、スムーズかつ楽しみながらプレイ出来る。
少々、話が暗すぎる感はあるが。
ただ、あえて言うと最後には「暗き淵に降り立つ女神」って、あんまり関係なくなるのな。
ここら辺は、もうちょっと突っ込んだ話があっても良かったとは思うんだけど。
さて、さんざん褒めちぎっているが、少し欠点にも触れておこう。
まずキャラクターについてなのだが、全体的に大人しい娘が多く、ぱっと見だと今イチ個性的に見えない。
ゲームを続けていけば、かなりの個性派揃いであるのが分かるのだが、とかく最近のビジュアル重視のゲーム群に比べると、この点に関しては埋もれがちなのも、また事実。
まあ、個人的には桐島ルカはかなりツボなんだが……
正直、この作品の主題は「各ヒロインのトラウマと心理描写」なのだからこれはこれでイイと思うのだが、客観的に判断すれば、ファーストイメージが似た様なキャラで構成されているのは、ちょっとマイナスだと思う。
例えば、もはや恋シュミの代表作品と言えるリーフの「To Heart」のヒロインなんていうのは、格闘少女にメイドロボ、超能力者にオカルト好きetcと、よくよく考えてみればキワモノのオンパレードみたいなゲームだった。
次に、序盤…特に初日が異常に長く、かなりの冗長さでプレイヤーを疲弊させる点。
濃いシナリオ、大いに結構なのだが、やはり長すぎる。
何せ、初日に主要キャラ(脇役含む)を全員登場・紹介し、誰のルートに進むかの選択肢を何個も何個も選ばせられる。
具体的には、他の日の選択肢なんていうのはいいとこ2・3個なのに対して、初日だけは15近くある。
こんなのが毎日続くのか…という不安を先に感じさせる展開はマズイ点だろう。
最後に、これはこの作品故の欠点だと思うのだが、狂言回しが多すぎる事だ。
まあ、毎夜主人公が聴くラジオ番組「クリス藪阪のホワイトトラッシュ」なんかは、まだいいのだが、主人公の同クラスの大山だけはいただけない。
立ち絵すら存在しない、文章のみで表現されるこのキャラは完全なコミックリリーフと化しているのだが、実はゆかりと美由のハッピールートで、かなり重要な役割を果たす。
大山のCGを用意すれば良かったのだろうが…脇役までも含め、緻密にシナリオを語ってきたが故の落ち度だろう。
東一みたいに、ちゃんとキャラとして成立させても良かったと思うよ。
(総評)
「バランス イズ パワー」
これが、この作品の全てだと思う。
とかく、最近のHゲームはやたらとH重視でシナリオがおろそかだったり、逆にシナリオ徹底重視のあまり、Hがあってなきがごとしだったりした。
まあ、それはそれでいい作品も出たし、一概に悪いとは言わないが、前者はゲームとしての根本的な出来に問題が多いモノがあまりに多いし、後者はHゲームとしてのアイデンティティを問われるものが多い。
しかし、この「PORTRAIT」は、それらを上手く両立、融合させる事によって、その魅力を最大限にまで高めた傑作だと言っていい。
この高バランスに更に磨きをかけ、次回作におおいに期待したいところだ。
広告展開などをマメに行えば、かなりイイ線行けるとマジで思う。
ホント、上手くやれば、天下取れるよ、ココ。
(梨瀬成)