Phantom 〜Phantom of inferno〜
 
RRRR、がちゃっ、
「はい、柏木にゃ(←井上トロのせいで、猫語がクセになってる)」
「きっかです、もう『ファントム』やりましたか?」
「…あの、もう4日連続同じ内容ですにゃ…」
 
1.メーカー名:ニトロプラス
2.ジャンル:ADV
3.ストーリー完成度:A
4.H度:C
5.オススメ度:B
6.攻略難易度:D
7.その他:本当はオススメ度は特Aにしたい位ですが、詳細は本文を。
 
(ストーリー)
 主人公は、目覚めると暗い部屋の中で、3人の人間に囲まれていた。
 何が何だか解らないまま、3人のうち“アイン”と呼ばれる少女と戦わされる。
 天性の状況判断力で、辛くも勝つ事ができた主人公。
 実は、主人公は殺人現場の目撃者で、本来消されるはずだった。
 しかし才能を見出され、記憶を消去された上で“ツヴァイ”と名付けられて、殺し屋としての特訓を受ける事になる。
 犯罪組織“インフェルノ”の暗殺機械として、その手を血に染めていく主人公。
 そんなある日、自分が何者だったかを思いだしてしまう。
 機械でなくなった彼は、これからは自分の意志で人を殺す事になると気付く。
 インフェルノから逃げ出すか、それとも…。
 運命の選択が迫ってきた。
 
 
 はて、あのきっか氏が連日連夜、高ーい遠距離通話料を払ってまで「さあやれ、すぐやれ、とにかくやれ!!」と言い続ける程、大絶賛の18禁ゲームとは一体…?
 
 実は強制的に記憶を消去され、殺し屋にされてしまった少年が主人公という破天荒な設定にちょいと引いていたのですが、覚悟を決めてプレイしてみました。
 うわっ、これなら大絶賛も納得! 確かに面白い!
 何とびっくり、破天荒な設定だらけなのに、自然にゲームに入り込めてしまいました。
 これは、世界観がきっちり構築されている事が大きな理由でしょう。
 また、この主人公は精神的に強くて、ストレスを感じなかった所も良かったですね。
 それも、場合によっては崩れ落ちる事もある人間として無理のない強さで、違和感無くプレイできました。
 この手の「うわーん、その気も無いのに巻き込まれちゃった(泣)」型の話の主人公って、妙に卑屈だったりアホみたいに明るかったりして、私には感情移入できない事が多いので、主人公のこういう性格はすごく嬉しかったですね。
 そして、とにかくハードボイルドなシナリオの出来が出色。
 ゲームとして見ると全体的にバランスの悪いシナリオもありますが、それを差し引いても見事なもので、ずぶずぶとハマってしまいました。
 和製のハードボイルドというものは、上辺だけのハードボイルドもどきが多く、本格的な物は少ないのですが、この『ファントム』は数少ない本格ハードボイルドと言えますな。
 また、シリアスな内容のシナリオだと登場人物のセリフが必要以上にペザントリィ過ぎて嫌味だったりする事も多々有りますが、このゲームは比較的平易な言葉で、雰囲気を出す文章が書かれていて、とっても感心。
 ムービーや、きざな言い回しに頼らなくても、映画的な世界観のゲームは作れるといういいお手本です。
 無理に“映画”にこだわる、某コンシューマー系S社にもわかっていただきたいモノですねぇ。
 
 あっと、今思い出したけど例外もあって、主人公が明らかに十代なのに「つん〇桟敷」なんて表現をするのだけはご愛敬(…)ですか(笑)。
 
 あと、メーカー自らが雑誌記事や広告で強調していた、銃関係へのこだわりがかっこいい!
 このこだわりが『ファントム』の世界観を構築する上で、重要な要素になっていると思います。
 きちんと銃の事をからめてある話があるし、それでいて、うかつに知識の羅列にならないように注意しているみたいです。
 こういうオタク的こだわり、悪く言えば“知識のひけらかし”は、けっこうシナリオに入れちゃうライターさんが多いのに、実にクール。
 ま、その分別枠でひけらかしてますけどね(笑)。
 CG鑑賞モードのみならず、銃鑑賞モードがあったりするのですよ。
 何て素敵(←オイ)!! 
 
 それから出てくるヒロインも、美緒を除いては全員犯罪に手を染めているにも関わらず、嫌な印象を与えない所もすごい点ですね。
 ごく個人的な事になりますが、私が複数ヒロインが居るタイプのゲームで、ヒロインを誰一人嫌いにならないのは大変珍しい事なのですよ。
 基本的にHゲームのターゲットが男性である以上、男性に好かれるステロタイプのヒロインが多いのは当然でしょう。でも、ワガママな私は、全員がそんなのばっかりじゃ引いてしまいます。
 しかも、新しいタイプの強いヒロインなどとあおっておきながら、結局、男性に都合の良い強さでしかない事が多いのも何だかなぁ。
 その点『ファントム』のヒロイン達は、それぞれが違う形で本当に強い所を見せてくれます。
 特に美緒など、それこそ一見ステロタイプの弱々しい、主人公の足を引っ張りそうなキャラなのに、芯の強さを感じさせてくれる描写が有り、「おおっ」と思わせてくれましたね。
 でも、志賀さんかわいそう(笑)。
 主人公のみならず、ヒロインも強い。
 いいなあ。私、足引っ張るだけのお姫様って一番大嫌いなの。
 パッと見の印象とは全然違う、かと言って変にかけ離れてもいない、絶妙な演出バランスで描かれたヒロイン達。とにかく、絶対に全員のエンディングを見て欲しい所です。
 それに、全員のエンディングを見る前では、このゲームの本当のすごさはわからないと思うし。
 どーでもいーけど、アインって、見た人みんな綾波だって言うけど、私は紫苑だと思うにゃ。
 
 さて、自分的にはツボ突かれまくりで、手放しでベタ誉めしたい『ファントム』ですが、もちろん欠点も有ります。
 例えば、クロウディア編以外のシナリオは全て同じ舞台ですが、その点、手抜きと感じる人もいるかもしれません。
 また、アイン&キャル編の第三章が開くフラグの立て方が、少々あざとい。
 フラグに気が付けば「なるほどねぇ」とは思うけど、なかなか気付かない人も多いんじゃないかなあ。
 それと、銃の設定のこだわりに対して、かえって拒否反応を示す人も居るでしょうし、詳しい人間ならば逆に「こんな程度?」と思う可能性もありそうです。
 あと、銃の選択によってゲームの展開が変わらないという点も「それじゃ、銃の種類なんてたくさん出てきても意味ないんじゃない?」と言う意見も出そうだし。
 もっとも、私としてはそれによって展開が変わってしまうと、いたずらに難易度が上がるし、銃に詳しくない人には、展開が解りにくくなるのではないかと思っていますが…。
 あ、でもでも、銃の選択で展開が変わらないために一つ笑い話があって、主人公がぎりぎり急所を外して撃ったという展開で助かる人が居るんだけど、きっか氏はその時、デザートイーグルを使用していたそうです。
 助かるかーっ(笑)!!
 
 でも、ここまであげた欠点って、本当はさほど気にしてなかったんですけどね。
 ゲーム中には全然考えていなかったし。
 ちょっと誉めすぎたかなーと思って、無理に書いただけ(笑)。
 そんな欠点より、主人公がほとんど全部のSEXシーンで中出ししてた事の方が気になる私って、馬鹿でしょーか(苦笑)。
 キャルとの三章のSEXシーンではその事が話に絡んでるからいいんだけどねー。
 
 閑話休題。
 ただ、本当にとてもいいゲームなのですが、とにかく好き嫌いがはっきり分かれそうなので、残念ながら万人におすすめはできません。
 特に、どんな話でもせめて1つ位はハッピーエンドが無ければ満足いかないタイプの人には、自信を持っておすすめしません。
 
 この『ファントム』の中で、主人公は好むと好まざるとに関わらず、何人もの人を殺す事になります。
 序盤ですぐ出せる、途中で逃げ出して日本に帰ってくるエンディングでも、その事を忘れて、ただのうのうと暮らしていくと言う結果にはなりません。
 また、どのヒロインとのエンディングでも、人を殺すという事への重みと葛藤を見せつけられる形になっていて、痛い、イターイ。
 第一、たいがいのエンディングに辿り着く前に、主人公はインフェルノ最強の殺し屋の称号、“ファントム”を与えられてるんだから、その罪の深さも並じゃない訳で。
 まあ、アインとのエンディングは比較的ハッピーエンド風ですが、それでも破滅の足音が聞こえる気がするのは、私だけでしょうか?
 逆に言うと、“絶対ハッピーエンド派”でない方には濃縮還元180%おすすめです。
 
(総評)
 今となっては信じられない、とっても恐ろしい、私がきっか氏にこのゲームを奨めた時の会話。
 
 「“銃にこだわりが有ります”なんて、18禁とは何も関係ない事を強調してるゲームがあるんですけど、私、銃関係強くないので、やってみてもらえませんか? 多分、大した事無いと思うんで、ツッコミを書いて欲しくてー。世界観は暗めだからもしかしたら、けっこうイケテルかもしれないですけどー、キャラの絵とかは今ひとつ華がないし…。ええ、もし一人でやるのが嫌なら、私もやりますからー」
 
 なんつー、小馬鹿にした態度…。
 この会話の結果が、連日の電話攻勢です。
 
 教訓。
 やはり、やってないゲームに下手な先入観を持ってはいけない。
 わかっているつもりでも、こういう事ってあるんですねー。
 
 とにかく、本っ当に秀作です。
 久しぶりに本が出したくなってる位(『痕』以来)、はまっております。
 極上のブラックコーヒーの様な、深い、深ぁーい味わいがあります。
 
 ねぇきっかさん、本、絶対出しましょうね〜、うふふ、フフフフフフッ(←大暴走中)。
 
 このニトロプラスというメーカーさん、自分達の作りたいゲームを作りたいように作ったら18禁になってしまっただけなので、18禁ゲームの事をよく知らない所を、逆に強みにしたいとの事。
 その気持ちを絶対に忘れないでね…。
 だってだって、“葉っぱ(仮)”ってゆーメーカーを『液体(仮)』の頃から知ってる人間としては、非常に不安なの。
 この不安を吹き飛ばしてくれる様な、次回作を出してくれる事を期待します。
 もしそうなら、恋シュミでもやります。マジよ。
                                
 
(柏木悠里)


戻りマース