パンドラの夢
   パンドラが開けた壷の中に残ったモノは、希望という名の夢?

1.メーカー名:ぱじゃまソフト
2.ジャンル:学園∞(ループ)ADV
3.ストーリー完成度:D
4.H度:C(ソフトな割に青姦多過ぎ)
5.オススメ度:C
6.攻略難易度:E(一本道です。各シナリオ終了後に、そのシナリオのメインヒロインのEDがあります)
7.その他:新システム「VENUSystem(ヴィーナシステム)」を使用する事により、従来のADVよりも演出効果が面白いです。


 初めまして、この度ゲームレビューを書かせて頂く事になりました乾電池と申す者です。
 他のゲームレビュアーの方々とは違い、随分と拙い文章とは思いますが、何卒ご容赦の程お願い致します。


 (ストーリー)
 美術部に所属する「平野唯人(ひらの・ゆいと)」は、夏休みを利用して行われる美術部の夏合宿に参加していた。
 以前は避暑地等で行われていたが、数代前の先輩が起こしたある事件(本編には全く関係有りません)の所為で美術部の予算は差別的に冷遇されていた。
 そんな美術部の部員は四人、部長であり先輩でもある「永源寺実紀(えいげんじ・みき)」、幼馴染であり水彩画に関しては天才的才能を有する「源陽詩美(みなもと・よしみ)」、元気な後輩「橘蘭(たちばな・らん)」。
 人数が少ない所為で、廃部の危険性は高いが、当の部員達はそんな事を全く気にしていなかった。
 そして、合宿前日(8/24)に蘭が立ち入り禁止になっている洋館の地下で発見した看護ロボットの「スウ」も加わり、一週間の合宿が始まった。


 このゲームは、夏休み終了一週間前の学校が舞台である。
 期間は8/25〜8/31までの7日間だが、ゲームの舞台である学校はある理由の為に閉ざされた世界となっており、延々と8/25〜8/31を繰り返すようになっている。
 普通のゲームならば、主人公がこの世界が閉ざされている理由を解明してこの世界から脱出する事が目的となるはずだが、このゲームはその謎を解く事に主題を置いている訳ではなく、どちらかと言うとヒロイン達の心の傷を癒し支えになる事に主題が置かれているように思われる。

 システムは通常ADVと同じものだが、演出システムに「VENUSystem(ヴィーナシステム)」という新システムを採用している。
 このシステムは、簡単に言うとテレビアニメや漫画等でよく見られる演出に近いものである。
 漫画等でキャラクターの背後に稲妻が走ったり、どんよりと暗い雰囲気になったりする場合と同じものだと言えば分かり易いだろう。
 実際の演出で、デフォルメされたカラスがキャラクターの後ろを飛んでいる様は某漫画を思い起こさせる。
 ゲーム進行方法は選択肢を選んで進めて行くものだが、しかし選択肢が少なくシナリオも一本道のためにどちらかと言うとADVと言うよりも、ヴィジュアルノベル系の読み物ゲームと言っても差し支えが無い印象を受けてしまう。
 選択肢がゲーム進行に与える影響も左程無く(CG分岐は有り)、その所為でゲームをプレイしているというよりもシナリオを読まされている印象が強い。
 ゲーム本編は四つのシナリオで構成されている。

 「楽園→希望→二人→永遠」

 「楽園」は、四度のループ。
 最初の二度のループが序章的扱いで、三度目のループがスウのシナリオ。
 四度目のループが蘭のシナリオとなっている。
 「希望」は、一度のループで実紀のシナリオ。
 「二人」は、一度のループで陽詩美のシナリオ。
 「永遠」は、スウと二人で8/31のみを繰り返し、このループ世界の真相が語られる。

 一つのシナリオをクリアして行く度に、その続きのシナリオが現れるというものだ。
 それぞれに中核をなすヒロインは決まっており、そのヒロインがメインのシナリオが終了するとその後の展開には、攻略が完了したヒロインは一切登場しなくなる。
 個人的には、この部分が最大のネックになってしまった。
 これがマルチエンド型のADVならば、攻略対象以外のキャラクターがシナリオ内に出て来なくなっても、特に問題にはならなかっただろう。
 だが、このゲームは章毎にメインで扱っているヒロインとのエンディングに相当するモノが存在する。
 普通のADVならば、エンディングを見た時点でそのヒロインのシナリオは終了して、新たなヒロインのシナリオを新規に1から始める事になる。
 しかし、このゲームでは各章のヒロインとのエンディングはエンディングではなく、ただのシナリオ上の通過点に過ぎないのだ。
 だから、主人公が攻略完了したヒロインの事を忘れて他のヒロインと仲良くするのは、主人公に感情移入してプレイするプレイヤーにとっては納得いかない展開になってしまう。
 これがせめて、各章のラストでそのシナリオのヒロインとHしなければ、ギリギリ納得できたのだが…この点が非常に悔やまれる。

 以下に各シナリオ評価に入りたいと思う。


 (楽園) 評価:A 
 最初に選べるシナリオであり基本的な世界観が描かれている。
 一回目〜二回目のループ時は、和気藹々とした楽しい合宿風景といった趣で話は進む。
 美術部面々との漫才のような掛け合い、絵を書くだけではなく遊んだりしながら、楽しく合宿を満喫しているなかで見る不思議な夢。
 それらの伏線が、上手い具合に配置されているために、違和感無くこの世界観を受け入れる事が出来る。
 三度目のループでのスウのシナリオでは、スウと唯人の心の触れ合いが描かれているが、これが個人的には一番好きだったりする。
 絵を書く唯人の近くで綾取りをするスウ、ずっと雷が鳴っていれば良いのにと言うスウ、寝ている唯人の傍に居るスウ、これらのスウの行動は唯人に対する好意から行われているものだが、直接的な求愛行動を取って唯人に嫌われたくないので、このような控えめな方法で自分の気持ちを表現しているところが、実に萌えである。

 唯人がスウのその気持ちに気付きながらも、スウの気持ちに応えることが出来ない心理も良く分かる。
 この世界ではアンドロイドに対して恋愛感情を抱くのは、世間一般的な倫理観から見ても禁忌に触れる為と思われる。
 唯人の両親が、家に居る看護ロボットの性器を事故を恐れて外していたと触れられている事からもそれが伺える。
 そして、お互いの気持ちを確かめ合った後でもそれが原因で、唯人はまだ自分の気持ちに素直になれないでいる。
 一般的なロボットとの恋愛を取り扱ったモノでは、H後は世間の目を気にしなくなるものだが本来人間には羞恥心などがあるため、他者から軽蔑される恐れの在る事柄、自分が恥ずかしいと思っている事柄を隠す性質がある。
 だから、唯人のこの反応は実に当たり前の反応なのだ。
 他のゲームの主人公はそんな事を気にしないタイプだが、そんな人間は本来存在するはずはない。
 スウのシナリオが終わると、そのまま新たにループして蘭のシナリオに移る。
 蘭のシナリオでは、蘭の心の闇と心の傷に触れて行く事になる。
 蘭は治療が困難な病を患っており、9/1が来れば入院しなければならない。
 しかもその病は、手術の成功確率が低い為に高い死の危険性を含んでいる。
 そのため蘭は死というものに冷めた部分を持っている。
 自由奔放で元気一杯な蘭が時折見せる心の闇が酷く異質なものに見えるが、それは死に対する恐怖と支えとなる者が居ない事に対する不安の裏返しである。
 スウのシナリオのラストで蘭が屋上から飛び降りて死のうとしているが、本来ならばループする世界では9/1が来ないので自殺する必要性はないと思われるが、繰り返し見せられる病魔に侵されて行く自分の姿は、如何に心が強くとも耐えられるものではないだろう。

 そして蘭が置手紙をして自殺しようとしたのは、唯人なら自分の心の支えになってくれるかもしれないという蘭の希望だったのかもしれない。


 (希望) 評価:A
 実紀メインのシナリオ。
 蘭が消えた事により蘭に関する記憶が消え、蘭に所縁の有る場所は荒れ果てている。
 楽園のラストにて蘭と約束を交わした事も忘れている唯人が、理由の分からない悲しみに心を痛める部分などは、楽園でのシナリオや演出などが生きているので素直に上手いと言うしかない。
 そして、実紀が蘭をどれほど大切に思っていたかも伺えるので、実紀に対する好感度も素直に高くなる。
 実紀のシナリオでは、実紀が心に負った障害を乗り越えて行く様が描かれている。
 唯人と実紀が実は幼馴染だったというのは、よくありがちな設定だがそれが特に気にならない。

 ラストにて、幼年期に巻き込まれた事故と同じ事故に巻き込まれる。
 そしてその事故を乗り越えたとき、幼年期に約束を交し合った場所で本当の再会を喜び合う。
 そういうありがちな展開さえも、全く気にならないのはやはりシナリオの上手さだろう。


 (二人) 評価:A
 陽詩美メインのシナリオ。
 蘭に続いて実紀の存在がループ世界から消えた為、旧校舎が壊れ始める。
 陽詩美のシナリオでは、陽詩美と唯人の心の傷と春華の存在に関して語られる。
 僕は当初陽詩美が嫌いだった。
 異常に能天気で、決してループを肯定しなかった部分が実に腹立たしかった所為なのですが、その部分に完全に騙されていました。
 能天気に振舞っていたのは、ループの異常性に気付いていながらもその事実を認める事が怖かった所為での結果なので、この事実が分かった際に、いままでのシナリオでの行動にも、自然に納得がいったのは言うまでもない。
 そして、このシナリオでの要である春華の存在を忘れてはならない。
 閉ざされた空間である学校に外部からやって来る事の出来る春華の存在は、この世界の本質に迫るものである。
 陽詩美と唯人が心に負った傷。
 そして春華の願い。
 それらの要素が噛み合って、ラストへの盛り上がりを高めて行く。
 このシナリオも「楽園」「希望」に劣らずに完成度が高い。


 (永遠) 評価:D
 陽詩美が消えるが、いままでのループで消えた者の事を思い出している。
 そして温室以外の場所(建造物)が全て崩壊している。
 ループ世界に残ったのは唯人とスウだけになり、遂にこの世界の真実が語られる。

 本来ならば終章であるこのシナリオが一番盛り上がるはずなのだが、残念ながら前三つのシナリオの完成度にはとても及ばない。
 スウの前の主人である「小野寺櫻(おのでら・さくら)」、彼女の身に降りかかった悲劇、小野寺の血に秘められた秘密などが明かされるが、このシナリオだけ世界観のアラが目立つ。
 この世界は小野寺の血に秘められた「夢織り」の力が作り出した世界である。
 つまり、この世界は夢だったのだ。
 小野寺の血を櫻から受け継いだスウがループ世界の骨組を形成して、その他の人物がループ世界に肉付けを行ったと考えられる。
 この事から、「希望」でのラストの展開と一年前に死んだ春華がこの世界に存在している事の理由も説明する事が出来る。
 同様に、誰かが消える度にその人物に関係した場所が壊れる事も説明できる。

 だが、ここで一つの矛盾が生まれる。
 何故唯人に関係しているであろう場所まで、崩壊しているのかが説明できないのである。

 温室はスウに関係した場所なので残っているのは分かるのだが、上記の理由を適用するならば唯人は学校の土地以外に関係していないという結論に達する。
 学校に来ている人間で、学校の土地だけに特別な思い入れがある奴はまず居ないだろうから実にこの世界の存在定義に矛盾している。
 そしてこのシナリオの最大の問題点はエンディングにある。
 ループが終わったとき、現実世界でのスウはバッテリーの全エネルギーを使い切り活動を停止していた。

 さて、突然で恐縮だが車のバッテリーを交換した事が有る人は居るだろうか?
 交換した事が有る人は分かるだろうが、車のバッテリーを普通に外すと車内のデジタル時計の設定が解除されてしまう。
 それを防ぐ為には、専用の機器が必要だ。
 その事を踏まえて、唯人がスウを起動した時の状況を推測してみよう。
 スウが発見されたときの状況だが、洋館の地下室で蘭に発見されたらしいが、蘭の性格上というかキャラクター性から考えると、他の人間に教える前に、絶対に自分で調べてみたはずである。
 スリープモードだったならば、その時に起動していた筈である。
 ちなみに短時間の待機状態をスタンバイモード、長期間の待機状態をスリープモードと分類する。
 スタンバイモードは、自分の意思並びに外部からの干渉で解除となっている。
 スリープモードに関しては言及されていないので想像の粋をでないが、恐らくスタンバイモードよりも消費電力を押さえた状態の事だと思われる。
 そして蘭が発見した際に起動しなかったという事は、バッテリー容量は0だった可能性が高くなる。
 全編通して特別な運命めいたものがストーリー並びに設定に含まれていないので、唯人が調べた際に都合良くスリープモードから起動したという事なんてまず有り得ないはずだ。
 その事に付け加えて、外部操作によるスリープモードの起動並びに解除という機能は、自己判断能力のあるアンドロイドに必要なのだろうか?
 それにスウが眠りについたときに、死んだ櫻の傍で供に眠りに付きたい旨の発言をしている。
 この発言からは、自分の意思でスリープモードに入ったとしか受け取れない
 そしてスリープモード継続中だったならば、蘭が発見した時点でスリープモードは解除されていたはずだ。
 しかし起動しなかったという事は、なんらかのトラブルが発生して起動不可能な状態だった可能性が高い。

 上記の理由から、発見時スウのバッテリー容量が0だったと判断すると、新たな疑問も生まれて来る。
 それは、「唯人がスウのバッテリーを交換した際にスウの記憶データをどのように保存していたのか?」ということである。
 スウの記憶媒体が、電力供給がストップするとデータの保持が出来なくなる揮発性メモリを使用していたとすると、自動車のバッテリーを交換する際に使うような特別な機器を使用して電力供給していればバッテリー交換はできるが、そんなものが都合良く学校に置いてあるだろうか?
 もしも学校に看護用かそれに伴うアンドロイドでもいれば話は別だが、それに関係するような描写はされていないのでこの可能性は排除したいと思う。
 そうすると記憶媒体に、不揮発性メモリである「フラッシュメモリ」を使用していた可能性が高い。
 「フラッシュメモリ」とは、データの書き換えが可能なRAMの特徴と、電源を切った後もデータが保持できるROMの特徴を併せ持った不揮発性の半導体メモリの事で、セル構造がシンプルなので高速読み出しやメモリの大容量化が可能である。
 この「フラッシュメモリ」がスウの記憶媒体に使用されていれば、特別な機器を使用しなくてもバッテリー交換の際にデータの保持が可能である。
 しかし、本編中にスウの記憶データの保持形式に関する記述はないので、これらの事は完全に想像の粋をでないので注意して頂きたい。

 もしかしたら、ゲーム世界では全く未知の形式でのデータ保持法が採用されているのかもしれないが、ここでは「フラッシュメモリ」を使用しているものとして話を進めたい。

 上記の理由から現実世界に戻って来た唯人が、エネルギーが切れて活動を停止しているスウの前で自己完結的な独白をしている部分に、大きな違和感を感じてしまうのである。
 これが、スウが再三言っていた自分自身の死亡コードを入力した上での事ならば、スウが二度と起き上がる事はないと納得できるのだが、ただエネルギーが切れて活動を停止しているのであれば、直ぐ助けてやれよ! と声を大にして言いたい
 もしも、スウの思いを尊重してこのまま眠らせると言うのならば、唯人はシャレにもならない偽善者だ。
 スウの思いを尊重するならば、死亡コードを入力してやるくらいの決断を下せばラストシーンも充分生きてくるはずだ。
 それをしないでスウとループ世界で延々と生活していた理由は、スウを失いたくなかったはずなのになぜだろう。
 ちょっと穿った見方をすれば、捨て猫や捨て犬を可哀想と言うだけの人間と同じレベルなのだ。
 つまり、「口先だけでなら何とでも言えるが実行はしたくない」というのと同じ事。
 このシナリオでの唯人も、まさにその通りなのだ。

 「スウは死にたがってるが、スウを自分の手で殺したくない。でもバッテリー切れで死ぬのはどうしようもない」
 僕には残念ながら、ラストの唯人の独白はこのような見方しかできない。
 一番最後を締め括るシナリオで、こんなミスを犯したところがとても悔やまれる。



 (総評)
 さて総評だが、全体として見ずに単体としてシナリオを見ると高水準なのだが、一つの繋がったシナリオとして見るとシナリオとシナリオの繋ぎ方に納得できない部分があるために、とても評価が低くなってしまう。
 ドラマ等で良くある当事者は知らないが、見ている側は知っているという現象だ。
 これがかの有名なドラマ「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」ならば、見ている側が当事者の知らない事を知っていてもなんら問題はない。
 だが、このゲームでは夢とはいえ各ヒロインと明確な絆を作ってしまった所為で、夢が覚めた後で各ヒロイン毎に絶対的なフォローを行わなければならなくなってしまっている。
 そして、誰よりも最優先でフォローしなければならないのは、既に入院してしまった蘭なのである。
 唯人は手術をしても死ぬ可能性の高い蘭に、諦めずに生きぬいていく事の大切さを教えて入院して手術を受けさせる事まで決心させたのだから、どう転んでもその責任は取るべきだろう。
 その他のヒロインに関しても同じ事が言えるのだが、どう考えてもその辺に無理が生じるような展開なので実に歯切れが悪い。
 それとも、結局は夢なので全部なしって事で納得しろって事なのか?

 一つのシナリオでは実に良い事言ってそのヒロインの支えになるような事まで言ってるのに、次のシナリオではその事を忘れて次のヒロインとしっかり犯っちゃてるのはとっても引いてしまう。
 これならば、一本道じゃなくてキャラ別にシナリオ作った方が良かったように思える。
 そうすればもっと全体のまとまりも良かったんじゃないかと思えるので残念だ。
 上記の部分と「永遠」での不味ささえなければ、まさに良作と言っても過言ではなかったと思う。


 そういえばDVD版が2002/1/25に発売されたんですね。

(乾電池)

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