ONE2  〜永遠の約束〜
  それは遠い日に約束した永遠…
 貴方はソレを壊すと言うの? それとも…

1.メーカー名:BaseSon
2.ジャンル:ADV
3.ストーリー完成度:B
4.H度:C
5.オススメ度:B
6.攻略難易度:D
7.その他:前作をやるのが最低条件になってしまってるのが気にかかるなあ…


(ストーリー)
 主人公・貴島和宏は父の単身赴任に伴い、仕事に忙しい父をサポートするために、母親・妹と別れて暮らすことになり、櫻衣学園へと転入してきた。
 最初は慣れない生活にとまどったものの、馴染みやすい副担任の深月遙や、小菅奈穂悪友・及川といった友達も出来、何とか楽しい日常を過ごしていたのだが…


 かつて、このHゲーム業界に一大センセーションを巻き起こし、「泣きゲー」という一ジャンルを確固たるものにした名作「ONE 〜輝く季節へ〜」(以下「ONE」)
 しかし、その主要スタッフのほとんどがkeyに移行しており、まさか続編はないだろう…と思われていた作品の正式な続編と言うことで、発表当初はかなり驚いたものだ。
 当然、俺っちも前作「ONE」はハマったクチで、今でも印象深く覚えているし、未だに「至高の名作」として推す人間も多い様だ。
 そんな作品の続編と言うことで、スタッフの方もかなりのプレッシャーと戦い、また慎重に作品に取り組んだようだ。原画さんをコンクールで募集した事など、最たるモノだろう。
 それだけに、基本的な部分はしっかり作られており、丁寧に作り込まれている部分が多く見受けられ、そう言う点では非常に好印象を受ける(ただ、個人的に既読スキップだけは入れて欲しかったが…)。

 だが、正直言えば、「ONE」の続編として見るのならば、これでは「超えた」どころか「並んだ」という評価さえも下せない。
 [鈴がうたう日]の評論でも書いたことだが、やはり「keyスタッフの影」は大きすぎた。

 本来ならば、これはあくまでも評論。一作品として、この「ONE2」も評価するべきだろう。
 だが、この作品を評価する際、どうしても「ONE」との繋がりを考えなければならないシナリオが登場しているのだ。
 そういう点で、実はこの「ONE2」、大きく二分化されている

 一つが前作「ONE」のエッセンスを継承したシナリオ。
 このカテゴリーが「小菅奈穂」「望月綾芽」「芹沢心音」である。

 そして、もう一つが前作の影響下にあまりないシナリオ。
 このカテゴリーに相当するのが「香坂乃逢」「深月遙」だ。
 もちろん、「ONE」の時からのテーマ、存在の消滅についてはどのシナリオでも共通で取り上げられているのだが、それ以外の部分で大きく分けられていると俺っちは感じた。
 では、このカテゴリーに添って、シナリオを振り返ってみようと思う。


【「ONE」の影響を受けたカテゴリー】

小菅奈穂シナリオ

 個人的に、このシナリオが一番、「ONE」のメインテーマを引き継いだシナリオだと思っている。
 非常に心根が優しく、どんな頼み事もイヤとは言えない性格であり、成績優秀、普段の素行も非の打ち所がない(若干、天然気味だが)というまさに良い子の見本だ。
 だが、その良い子を演じる事が奈穂にとって、どんどん重荷になっていき…
 このシナリオのキーワードは「自分が良い子にしていれば、11/9に母親が迎えに来てくれる」という約束だ。
 結局のトコロ、この「約束」自体は奈穂が自分で生み出した妄想であり、彼女は毎年その時期になると、来るはずもない母親を待ち続け、いくら待っても母親が来ないと知った時にその記憶を封印し、再び次の年の11/9を待つ…
 このサイクルが自分を支えてくれる…彼女自身をこの現世にとどめてくれる鎖であり、そして、母親は迎えに来ないという…彼女にとってはあまりに残酷な…真実を主人公が告げた時に、彼女の鎖は断ち切られたのだろう。
 だからこそ、彼女は消える…母親に会える、というあり得ない「永遠の世界」へと。

 非常にダブるのだ。
「ONE」の主人公、折原浩平が永遠の世界という、あり得ない世界を望んだ経緯と。

 妹の死という幼い浩平には耐え難い経験が、彼をして「これからはずっと泣きながら暮らすんだ」と言わしめるまでになったその時、前作のヒロイン長森端佳「永遠はあるよ…ずっとそばにいてあげる」と言った事により、浩平は救われたが、同時に行き場を失った「妹と過ごした楽しい時間がいつまでも続く」永遠の世界というとんでもないものが彼の中に生じ、彼自身の身を危うくする原因となってしまった。
 今回はその主人公とヒロインの立場が逆転しているように感じられるのだ。
 すなわち、今まで虚構の約束というものに縛られていた奈穂に、主人公が奈穂といつまでも一緒にいてやると約束した。
 その約束により、奈穂は救われるわけだが、行き場を失った「虚構の約束」はイコール「永遠の世界」となって彼女に襲いかかってきて、結果的に彼女が消え去ってしまう要因となってしまったのだと、俺っちは解釈している。
 そして、それから一年間、奈穂に思いをはせながら決して彼女のことを忘れずにいた主人公の元に奈穂は返ってくる…最後の展開までも「ONE」と同じなのだ。主人公とヒロインの立場が入れ替わっただけで。

 この終盤の展開は前作の永遠の世界の概念を上手く利用しており、俺っち的には申し分ないと思っている。
 少なくとも、彼女のシナリオはメインヒロインとして十分合格点をあげられるだろう。
 だが、個人的にしっくりこない点も気になっている。

 うーん…コレは完全に俺っちのワガママなのだが、実はこのシナリオの主人公って、ホントに貴島クンで良かったの? と思っている。
 もっとはっきり言ってしまえば、本来ならばこのシナリオの主人公は、奈穂に想いをはせ、彼女の事情をかなり深く知っているサブキャラ・及川がやるべきだったのでは? という気がするのだ。
 主人公を変更するシステムでもない限り、これが無茶な注文なのは理解しているが、シナリオ中の及川の描き方が結構細かいので「コイツが主人公だったら、もっと心の葛藤とか描けて面白かったんじゃないかなあ」と思えてしまう。
 これに関しては、主人公・貴島和宏の性格が全編通してもイマイチ掴みづらかった事にも起因しているのだが…

 緻密な描写がかえってアダになる、珍しいケースかもしれない。


望月綾芽シナリオ
 クラスでも浮いている、心を閉ざした少女。
 どうにも彼女が気になる和宏は、何とか親睦を深めようと綾芽が放課後に一人で過ごしている屋上で、ともに過ごすことが多くなる。
 そしてそれと時を同じくして、彼はかつて初恋の人物である幾美の事を夢の中で思い出す様になる。綾芽と面影がよく似た、2つ年上の彼女のことを…

 綾芽のシナリオは、前作で言うところの里村茜シナリオのスタンスを持っている
 実際「ONE」での茜は「永遠の世界に人が取り込まれると、その人物は存在が消滅してしまう」という事を知っている重要なキャラクターであり、よく「裏ヒロイン」「真のヒロイン(琴音ではないゾ…苦笑)」と言われるほど、存在感のあるヒロインだった。
 今回の綾芽も姉…それは他ならない幾美なのだが…が消滅し、その存在が人々から忘れ去られている事を知っているヒロインであり、またOPムービーなどでも奈穂とともに大きく取り上げられており、正式にメインヒロインとして扱われていると言っても過言ではない(要するに今回はデュアルメインヒロイン制なのね)。
 また、前作の浩平の話がフィクションとして登場するなど、最も「ONE」の影響を受けている。
 ただねえ…それを継承するには、綾芽というキャラクターにはあまりに魅力がない
 俺っちから言わせて貰えば、彼女は「甘ったれ」の一言に尽きるから。
 親が無関心だからヒネくれた? 姉が消えたことを誰も認知しないのに自分だけ覚えているのがツラい? 人との関係は煩わしいだけだから興味ない?
 はっきり言って、ふざけんな、だ。
 みにみにれびゅーでお客様が「親のスネかじっているんなら、周囲にその文句を言うべきじゃない」という事を書いているが、まさにその通りだと思う。
 また、彼女は乃逢のバッドエンドの時、乃逢自身の事を明確に覚えているにもかかわらず、最終的に乃逢の消滅を救うのに何の手助けもしてくれない。綾芽にとって、それは全く関心のないことだからだろうか。
 何にせよ、それら全てを姉が消えた事による虚無感という言い訳一つで片づけようとするなど言語道断だ。
 主人公に「あなたに私や姉の何が解るって言うの」を事あるごとに口走るが、そんなの解るわけねーだろ、って言いたい。エスパーじゃないんだからさ。
 いや、解らない事だらけだからこそ、人間というのは他人と交流するし、より理解しようとする。そんな向上心自体が消えた彼女こそ「消滅した存在」とさして変わらない様な気がするんだが…

 消滅の理由も首を傾げざるをえない。
 主人公との絆がより深くなればなるほど、姉のことを忘れてしまいそうだから、というのがその理由なのだが、何故?
 例えば、人への想いというのは容量が決まっていて、100ある容量のうち、和宏の思いが90になったら、幾美に100あった想いは10に減少する訳?
 仮にそういう論理だったとしても、そういうメカニズムをきっちりシナリオ内で説明して欲しいし、人への想いって、そんな杓子定規みたいなモンじゃないでしょ。
 何より、綾芽自身が和宏と幾美への想い両方を大切にしたいのならば、それに対する努力をして欲しいものだが、そういう描写は一切ない。
 それで消滅じゃ、あまりに唐突過ぎる。
「ONE」の茜は倒れてしまった自分を介抱してくれた主人公に「お前はふられたんだ」という言葉を投げかけられた事によって前の消えた人間への思いを「自ら断ち切ること」を選んだ。
 決して、何かに逃げたり、放棄したりはしていない。あくまでも自ら臨んだ道だった。例え浩平が消えると解っていても。
 だからこそ、茜の最後の慟哭はものすごく説得力があったし、強烈だったのだ。

 残念ながら、綾芽シナリオには、ここまでの描写力や説得力はなかった様に思う。
 全編通してかなり後半までつっけんどんな態度をとるのもそうだが、それを差し引いても魅力がないシナリオだったと俺っちは思っている。


●芹沢心音シナリオ
 コレは正直、このカテゴリーに入れるべきか悩んだのだが。最後の展開からコチラの方にする事にした。
 とは言うものの「ONE」の時のキーワードやテーマは実は使われていない。
 それよりもKey系のカテゴリーとでも言おうか…どちらかというと「Kanon」の影響を受けたシナリオに感じられるのだ。

 一応隠しキャラクターである彼女は、奈穂シナリオの途中に現れる新規選択肢を選ぶことによってシナリオに入れるのだが、登場2回目に思い出の詰まった人形を主人公に託したり、昔親戚の家に遊び来たときに出会った事のある少女だったり、その人形を見て昔彼女と出会っていたことを思い出したり、かつての思い出の場所が野原みたいな場所だったりと、もはや言い逃れ不可能状態だ。
 だが、それ以上にマズいのが、彼女がいったいどういう存在なのか捉えにくいという事に尽きるだろう。
 途中までは学校にも出てくるし、その学校内でもきっちりと認知されている。少なくとも幽霊とかの類ではないハズなんだけど…
 だが、主人公が託された人形を覚えていない、という事実を知るや、彼女は突如人々から認知されなくなり、やがて消滅への道を辿る事となる。
 最後の展開で、彼女は実は一回消えた存在であり、主人公に会いたいが為に一時的に現世に舞い戻ってきたようなニュアンスの事を言う。
 もう端的に言うとイメージとしては「Kanon」のあゆ真琴の様な印象を受けるのだが、心音の場合あくまでも彼女自身が今まではっきりと存在していたかの様に描かれているのが頂けないのだ。
 何せ、彼女のことをだいぶ前から好きだったという心音の同級生まで登場してくるのだから。
 しかし、そこらへんの解釈は一切なしで、いきなり「私、もうこの世界には存在していないんです」とか言われた挙げ句、EDで彼女の転生の様な幼い女の子と出会って終わり、では正直「なんだ、そりゃ!?」である。

 ファンタジーを描きたかったというのは良く分かるけど、もうちょっとキレイにまとめて欲しかったと思うのは俺っちだけだろうか?
 キャラデザ、一番気に入っていただけに(笑)残念だ。


【「ONE」の影響を受けなかったカテゴリー】

●香咲乃逢シナリオ

 走ることに楽しさを見いだし、主人公と一緒に何回かジョギングをする事によって親密になっていく後輩の少女。
 やがて和宏は彼女が陸上部に所属しており、そこの長距離部門の先輩で主人公と同輩の蔵谷と二人きりの部活動をしている事を知るのだが…

 このカテゴリーに属するヒロインは遙もそうだが、消えていく理由が「自分自身の存在意義が見出せなくなった」事が引き金となっている。
 もっと具体的に言うと、自身を強烈に支えてくれる=アピール出来るものを少なくとも過去に持っていたキャラクターであり、それを完全に失ってしまった時に、自らのアイデンティティを失うと同時に消滅への道を辿る仕組みになっている。
 この乃逢のシナリオは競技者としての葛藤を上手に描いている。
 蔵谷の提案により、二人だけの競技会を催した乃逢は「楽しく走る」という目的を持っていながら、結局無茶をしてしまい中学校時代に痛めてしまった膝を完全に壊してしまい、競技者としての道を絶たれてしまう。
 これ自体は自業自得だと言っていい。
 せっかく、乃逢を支えようと頑張ってきた和宏や蔵谷の好意を、どういう形であれ無視してしまったのだから、乃逢にしてみれば言い訳しようもないだろう。
 だが、それは同時に競技者としての性(さが)でもある。
 同じく武道をある程度かじった俺っちにしてみれば、あまり彼女を悪し様に言う気もないのだ。
 大会というものに対し、それがどんなものであれ努力してしまうのはスポーツ競技者としての習性なのだ。まして、かつて優秀な成績を収め脚光を浴びたことのある乃逢ならば…まあ、乃逢の場合は行き過ぎではあったが。
 そう考えると、俺っちはこのシナリオにはかつて「ONE」で味わった「誰の所為でもないのに起こってしまう悲劇のやるせなさ」を感じる事の出来るシナリオだったと感じられた。

 ただ、それだけに最後に海辺で乃逢に追いついた主人公が、彼女の支えとなっていく宣言する事によって乃逢自身の消滅を免れるという展開は、納得はいくが、どうにも盛り上がりに欠けている様な気がして、イマイチすっきりしなかった。
 最後の最後でもう一波乱あればねえ…


●深月遙シナリオ
 個人的には一番評価しているシナリオ。
 音楽家という、実に特殊な人物及び題材を扱ったシナリオは難しかったであろうに、上手にまとめている。

 さて、ここで少しだけ俺っちの特殊な事情を語らなければならない

 実は今から3年前、俺っちは父親を亡くしているのだが、その父の職業はずばり音楽家…とある楽器の演奏家だったのだ。
 父は何かの楽団に所属していたわけではなく完全なフリーだったが、その父の友人の音楽家の方とも数多く会う機会があり、故に音楽家というものの人となりはよく知っているつもりだ。
 そして、そういう観点で見た場合、このシナリオ実に共感出来る部分が多い。
 このシナリオは実はもう一人のキャラクターが絡む。
 それは遙が才能を見いだし、コンクールに向けてピアノを教えてあげている生徒・麻生久遠だ。
 和宏はその練習につきあうことによって、かつて遙が音大でかなり優秀な経歴を持つ人物である事を知り、それと同時に何故、そんな遙が今は音楽の教師をやっているのかに疑問を持ち始めるのだが…
 このシナリオは遙と久遠への関わり方によって、EDがいくつかに派生するのだが、実は一番気に入っているのは、遙ハッピー/久遠ピアニスト諦めるバージョンのEDだ。
 何故かというと二人とも、結局ピアニストにはなれずとも、ちゃんと幸せを手に入れることに成功したから。
 久遠が夢を諦めているにも関わらず何故? と思われる方も多いと思うが、ここで梨瀬は断言したいと思う。
 二人とも音楽家向きの性格じゃないからだ。

 音楽家というのは、このサラリーマン社会の日本において、相当特殊な部類に入るモノだ。楽団に所属するのならばともかく、フリーで活動して行くならば…少なくとも遙も久遠もそれを目指していたはずだ…その芸術性、もっと端的に言ってしまえば腕が認められなければ、生きていくことすら出来ない
 常に自分を磨き続けなければならず、あくまでもストイックに目標を追い続けなければならない過酷なものだ。
 それは言い換えればワガママをどこまで押し通せるか、という力に繋がる。
 自身の腕に絶対の自信を持ち、どこまでもワガママに自分の道を追求していく、そういう自分の力を押し通す強固な意志がなければつとまらない。
 少なくとも父はそうだったし、父の友人である音楽家達もそれは共通だったと記憶している。

 遙はどうだっただろうか。
 それまで、自身に絶対の信頼を寄せていたピアノに、遙を尊敬しているという後輩が壁となって立ちはだかる。自分より才能がある後輩が…
 彼女は結果的に、その後輩と戦う事になるピアノコンクールから逃げてしまった訳だが、これこそが彼女が「ワガママを押し通せなくなった」瞬間であり、強固な意志が崩れ去った時でもあった訳だ。
 こう考えれば、彼女がピアニストの夢を捨てて教師になったのも、納得できる。
 その時の虚脱感を知っていたからこそ、久遠に自分が逃げ出した過去を伝えられなかったのだろう。
 確かに久遠に自分の過去を話さなかったのは遙のミスであり、彼女の心の弱さでもあった訳だが、それを責める気に俺っちはならない。
 遙が自分の過去を久遠に知られたことにより、久遠がコンクールで落選してしまった事で自分の存在意義を認められなくなってしまい、そこから消滅に繋がるのは、ヒロインが消えてしまうというテーマを持っている今作品において、最も解りやすく納得できる理由である。

 では、久遠はどうだろう。
 自身を「天才」と呼称し、もちろんピアノの腕にも絶対の自信を持っている。
 児玉先生にピアノの練習をしている代償として成績が大幅に落ちていると指摘されれば「コンクールで入賞出来なければ、ピアノをやめてやる」と豪語するほどの自信家でもある訳だ。
 こういう点はむしろ芸術家肌であり、遙より音楽家としては向いているようにも思われるが、彼女は最後に音楽家として絶対にやってはいけない事をやってしまう。

 それは「自分の失敗を他人の所為にする」事だ

 別に音楽家に限らず、人間が生きていく上でやってはいけないことかもしれないが、こと自分の腕一本で生きる音楽家を志している者ならば、絶対にやってはいけない事だ。
 はっきり言ってコンクールに落ちて、遙を口汚く罵る久遠の怒り顔のCGは醜悪の一言に尽きる
 久遠がコンクールでいつもの調子が出せず落選したのは、自分の出番の直前に遙の過去を、それを知っている人間からそれとなく聞かされたかららしい。そして、その精神的ショックがそのまま演奏に繋がってしまい、遙はさんざんな演奏をするハメになってしまった。
 確かに、そういう事はあるだろう。
 楽器は感情がこもらなければ、絶対にいい音が出せない。
 俺っちは少なくともこのことを知っている…そういう点では恵まれていたのかもしれない。
 何せ、父が練習時によく弾いていた練習曲の演奏で「あ、今日は機嫌いいな」とか「うわー、すげー不機嫌」とかいうのが子供心ながらに解るぐらい、常に演奏の音が周囲にある環境で育ったから。
 だから、精神的にダメージを受けた久遠が、コンクールで実力を発揮できなかった悔しさ・辛さは十分に理解できる。

 だが、それでも音楽家はそれを他人の所為にしてはいけないのだ。
 少なくとも、遙にどんな過去があったとしても、久遠が彼女から得たものはとても大きかっただろうし、失われもしないはずなのだ
 酷な言い方だが、自分のミスを棚上げして、押し通せなくなった意志を全て遙に押しつけて逃げた久遠は、ここで音楽家としての資格を失ったと俺っちは思っている。
 だからこそ、俺っちは先にも述べた遙ハッピー/久遠ピアニストを諦めるのEDは気に入っているのだ。ちゃんとキャラの性格に沿った結末を迎えるから。
 逆にトゥルーED扱いの遙ハッピー/久遠ピアニストになる、というEDは納得いっていない。
 もちろん、久遠が音楽家に向いている性格じゃないのに、何で? というニュアンスもあるのだが、それにもまして気に入らないのが、まるで遙を踏み台にしてピアニストになってしまった様に見受けられるからだ。
 このEDではお人好しの遙は街角テレビの大型モニターに映し出された久遠を見て素直に喜んでいるようだが、久遠は遙が消滅してしまった後、あっさり遙の事を忘れ去ってしまうし、遙が再び帰ってきた時も別段登場してこないため、どうしても「久遠にとって遙はどうでもいい存在だったのかな?」と思えてしまうのだ。
 コンクールに入賞するためだけに遙の教えを請うた。久遠の性格としては実に「らしい」と言えなくもないが、どうもこういう細かいところが引っかかるのが、このシナリオの惜しい点なのかもしれない。


(総評)
 この作品のキモは前作「ONE」と違い、消える対象が主人公ではなくヒロイン側であるという逆転の発想にある。
 だが、この設定がかなりの制約を与えるとともに、この作品のアダになってしまったと俺っちは思っている。

 例えば、消滅に対する焦燥感の煽り方だ。
 前作「ONE」は主人公・折原浩平はかなりのイタズラ好きで序盤笑わせてくれることも手伝って、かなり感情移入がしやすかった。
 それに主人公の視点=基本的に単一視点で、浩平の身にかつて降りかかった悲劇や、それに伴った永遠の世界という描写を緻密に行えたため、いざ消滅という回避出来ない事実に直面した際、とてつもない恐怖感をプレイヤーに与えることが出来た
 実際、みさきシナリオで周りの人間からどんどん忘れ去られ、端佳にまで忘れられた浩平が最後に屋上でみさきに出会うシーンは「…助かった!」と本気で思わせるほどの説得力があったものだ。
 だが、「ONE2」はヒロインの消滅をテーマにしている上、主人公・貴島和宏がその消滅に対して「そんなバカな、そんな事あり得ない」というのを基準にシナリオを展開してしまうため、どうにも恐怖感や焦燥感というものがプレイヤーに伝わりにくい。
 また、上の基準があるからと言うわけではないのだが、作品全体的に
 ヒロイン消滅→主人公がヒロインが帰ってくるのを待つ→ヒロイン帰ってくる
 の流れが妙にあっさり描かれているため、どうにも拍子抜けしてしまう。
 ここの描き方で感心したのは、和宏自身が忘れてしまうという、変わったアプローチをしているのにも関わらず、唯一覚えていたピアノのメロディを彼が弾き続けることによって、それをよりどころにして帰ってくる遙シナリオぐらいのものだ。

 前作の「消滅」という設定の継承、主人公が消えるという二番煎じは使えない状況、これらを考えれば、ヒロインの消滅という展開はやむを得なかったのかもしれないが、ヒロインが消えた後のエピソードの描き方をもう少し工夫してみれば、もっと収まりのいい作品になったかもしれないと考えると、少々もったいない気もする。

 とはいうものの、総合的には良く出来ており、前作をプレイしている人ならばやっても損はしないと思われる。

 個人的には、序盤の会話の寒さがどうしても鼻についてしまうのだが、中盤以降は面白く展開していくので、それほど問題にならないだろう。


(梨瀬成)


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