なかない猫 A cat never meow

記憶の呪縛、人それをトラウマと言う…

1.メーカー名:ばった
2.ジャンル:ノベル型ADV
3.ストーリー完成度:E
4.H度:C
5.攻略難易度:E
6.オススメ度:D
7.その他:催眠による記憶の操作、というのはいいアイデアなんだけど…。

(ストーリー)
 直樹は夢を見た。
 見知らぬ少女に促され、彼女と交わる。
 そして言われるままに両親を手にかけた。
 血塗られた床…そして目を覚ます。
 高三の初夏のある日、そんな夢のために気分が優れない彼は、教育実習に来た女性・彩音と出会う。
 その時から、彼の中で何かが騒ぎはじめる。
 直樹は、抜け落ちた小さい頃の記憶に抵触する度、欲情に駆られていく。
 苦しむ彼の前に現れたあやねと名乗る少女は、彼を煽り、そして不意に直樹の前に現れた男・正樹は、全てを知っているそぶりを見せる。
 困惑する彩音をよそに、直樹は自分の記憶の穴を埋めようと、正樹の元へ向かうのだが…。


 特別な操作も何もいらない。
 テキストを追いかけて、選択肢による分岐でシナリオが変化するノベル型アドベンチャーだ。
 攻略できる女の子はヒロインの彩音、クラスメイトのともみ恵子、彩音と同じく実習生の音子(ねこ)、謎の少女あやね、正樹の妹分の瑞美(みずみ)の六人で、それぞれが育った環境に問題を抱えている。
 シナリオは、現実逃避の結果として用意された存在のあやね以外、直樹が自分の欲望を克服することで、彼女達と手を取り合って生きていくというスタイルで統一されている。
 どのストーリーも、本筋の彩音の部分が多少長く感じる以外、テキストをちゃんと読んでいっても一時間もかからないという手軽さがいい。
 一度読んだテキストは選択肢までスキップできること、クリアしたイベントは後で見られる事など、この手のゲームに欲しいと思われる要素はちゃんと組み込まれているので、プレイ上の不満は無い。
 選択肢が表示されている状態でセーブできる点は、一歩踏み込んだ親切さだ。
 隠し要素は特に無いので、100%クリアするのに悩むことも無い。

 しかし誉められるのはそこまでで、問題が多い。
 まず、一度クリアしないとメインの彩音シナリオに入れないという点。
 本編である彩音のシナリオに入るためには、最低でもともみ・恵子・音子・あやねのうちの誰か一人(瑞美は彩音シナリオからの派生)をクリアする必要がある。
 どのシナリオでも、直樹は幾度となく湧き上がる欲情と戦うことになるのだが、あやね以外の三人は本編とは何の関わりもない話のため、途中に出てくる直樹の記憶のフラッシュバックの意味が無い。
 彩音が出る必要も無いし、まして彩音シナリオでしか重要でない正樹が出るなど無駄な部分もある。
 彼女達の知らない部分の直樹を受け入れる話で完結しているのに、少しでも本編への複線を張ろうとしたため、シナリオ毎の完成度が曖昧になってしまっている。
 結果的に、あやね以外でクリアして彩音シナリオに入ると、彩音との関連がないだけに、どこか違和感を感じることになる。
 これは三人のエンディングにも影響している。
 これらのシナリオは、それぞれの生い立ちによるトラウマが柱となっている。
 その中で直樹がおかしくなる原因は、彼の記憶のせいとして説明される。
 二人で助け合っていくのだから解決しなくても良いのかもしれないが、伏線を張られ、それが消化されないのではプレイヤーは納得いかない。
 残る疑問は、彼女達のハッピーエンドを見ても解消されるわけではないので、素直に喜べない。
 更にすごいのは、本編に関連のある筈のあやねのハッピーエンドは、なんと現実逃避した状態のものなのだ。
 つまりは、一度別のシナリオをこなすという事イコール、本編の彩音と瑞美のもの以外、すべてのハッピーエンドがバッドエンド、ということにならないか? という事だ。
 これはもっと、はっきり区別した方がよかった気がする。
 いっそ彩音とのハッピーエンドのみ、専用のEDを用意して差別化を図った方が納得できたかも。

 次に、説明不足の多さ。
 本編によると、実は直樹は小さい時に正樹に受けた催眠療法によって振り回されている…らしい
 更に、それは彩音の母が正樹を見てくれなかったから、ということへの嫉妬によって仕掛けられたもの…らしい
 とどのつまり直樹の垣間見る記憶は、九割方正樹によって造られたものである…らしい
 困ったことに、これらはゲーム中にちゃんとした説明がない
 そのため、プレイヤーは文脈から「おそらくそうだろう」という推測しかさせてもらえない。
 上記のストーリーにある「少女と交わる」「両親を手にかける」という部分は正樹によって刷り込まれたものだが、文章が進んでも、誰もこの事を正樹やプレイヤーに説明してくれない。
 かろうじて、あやねが自分の存在理由を「自分は、あなた(正樹)が嫌な事から逃げるためにいるの」と語るのみである。
 話の終盤では彩音は処女だと判明するし、両親も出てくる。だったら誰か正樹に真実を話してもいいだろうに、哀れ…直樹は何も知らないままでゲームは終るのだ。
 正樹は直樹にどんな暗示をかけたのか?
 彩音は直樹に何をしたのか?
 本当の両親は、なぜ直樹を叔母の元に預けたのか?
 ただの説明文になるのはご勘弁だが、タネはちゃんと明かすべきだ。そうでなければプレイヤーは納得させられない。

 設定も、所々に曖昧さが目立つ。
 初夏に始まった話は、正樹によって何日間振り回されていたのか定かでない。
 途中から出てくる、正樹を兄と慕う瑞美は年齢不詳。直樹と同じ位の歳らしいが、文章から推測するとどうしても20歳位にしかならない。
 正樹は病院で、自分の机の中からいきなり拳銃を出してくる。
 他にもあるが、とにかくそれぞれの人物が置かれた環境への配慮が足りない様だ。
 しっかりとキャラ設定を造っているかどうか、疑わしいほどである。
 他にも、会話時は細身の体なのに、Hシーンになると突然ふくよかな体になってキャラの感じが変わる(CGそのもののクオリティは高いが)、効果音に乏しいため各シーンの盛り上がりに欠ける等、色々とクリアすべき課題の多いゲームだ。

(総評)
 厳しい言い方になるが、CGが及第点なだけで「簡単」ということ以外、誉められる所がまるで無いといっていい
 テストプレイはしっかり行われたのだろうか?
 女の子の人数は手頃、催眠による記憶操作も題材として面白いと思う。
 とにかく吟味が足りなくて残念。
 そう思わずにはいられないゲームだ。
 まあ、CG観賞以外にはあまりオススメできないかも。
 評価の甘い私でこうなのだから、他のライターなら「選ばれなかったソフト集結」行きにしていたかもしれない。

 正樹がとんでもなく胸クソの悪い奴だ、というイメージ描写だけは成功してるかも。
 何しろ完全クリアのために繰り返せば繰り返すほど、「嫌な奴」度に磨きがかかる(笑)。
 あまりにムカツクため、途中で投げ出さない様に注意した方がいいかも…。

              
(Mr.BOO)


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