みずいろ
幼き頃の思い出。
幼き頃の記憶。
すべてが色あせたのだろうか?
現在(いま)、それらはみずいろに溶け込んでいく…
1.メーカー名:ねこねこソフト
2.ジャンル:ADV
3.ストーリー完成度:C
4.H度:B
5.オススメ度:B
6.攻略難易度:D
7.その他:ぽんこつ日和が良いぞ! オマケシナリオについては…何も語るまい。
(ストーリー)
主人公・片瀬健二(名前変更可)はどこにでもいる普通の高校生。
義理の妹・雪希や数人の友人とともに仲良くのんびりと過ごしている。
しかし、最初からそうではなかった。
かつて、雪希が来た当初、健二は彼女が嫌いだったのだ。
仲良くできなくて何回も謝らせられた。
自分の部屋を半分とられて狭くなった。
そして…いつも…泣いてばかり、いた。
しかし、当時家の中で泣いてばかりいた雪希を見ているうち、健二は自分が彼女の笑顔を見たいという想いをいだく様になる。
そして現在(いま)、妹の顔は笑顔に満ちあふれている。だけど、幼き頃の想いは今でもかわらない…
「White 〜セツナサノカケラ〜」からデビューし、「銀色」などの話題作も手がけた、ねこねこソフトさんの新作という事で、期待してプレイさせてもらった。
そして、その期待は裏切られなかったと言っていいと思う。
とにかく、色々な意味で高レベルにまとめられている素晴らしい作品だ。
まず、狙いすぎと言っても過言ではないキャラクターとCGは、むしろ「如何に萌えるキャラを見せるか?」という指標がはっきりしている分、潔さという点で非常に好感が持てる。
健気な妹、トロい幼なじみ、憎まれ口をたたき合う同級生、大人しい下級生、ぼーっとした先輩…
ここまで徹底的にやられたら、流石に何も言えないよ。
こういう点に関しては、本当に掴みやすく、この作品の受け入れられ易さに一役買っていると言っていいだろう。
また、通常会話シーンの豊富な立ちポーズもいい感じだ。
表情パターンも多く、なかなかの力作ぶりを伺わせてくれる。
イベントCGに限らず、こういう細やかな点を配慮しているのは、ここのスタッフのやる気の現れだろう、と思う。
他にも、なかなか出来のいいBGMもプラスポイント。
全体的にレベルが高い事もさる事ながら、メインテーマである「みずいろ」はOPのボーカル曲が、歌っている方が比較的上手な事も相まって非常に出来がよい。
そして、これのカラオケバージョンやオルゴールバージョンなどのアレンジをゲーム中に駆使する事によって、演出を盛り上げているのは上手だとしか言いようがない。
また、ボーカル曲と言えば雪希シナリオでかかる挿入歌「ごめんね…」が、かかるシーンとの相乗効果もあってか出色の出来映えで、個人的にとても気に入っている。
何より、最近どこでも使われるようになってしまったI'veサウンドに頼らず、このレベルの音楽を持ってきただけでも、十分評価に値する。
それでは、シナリオの方はどうだったろうか…個々のシナリオを分析しつつ、まとめてみると…
【片瀬雪希】 評価:B
主人公にとっての義理の妹。
どのシナリオでも兄である主人公にらぶらぶビームを発射している彼女だが、こと彼女がメインのシナリオでは演出が非常に上手で、すっきりまとまっている。
幼い頃芽生え始めた「好き」という感情と、小さい頃に兄の欲しがっていたがちゃがちゃの景品と引き替えに貰った「みずいろの指輪」が、彼女の日和に対する負い目になるという展開は、なかなか意表を突いていて良い。
そして、何より俺っちがこのシナリオを評価しているのは雪希がきっちりと、最後に日和から主人公を奪ってしまう…正確には日和が雪希に主人公を譲った訳だが…事によって、双方それなりの傷を背負うことになってしまったという事実だ。
このシナリオを最後まで解き終わっても、その後主人公と雪希と日和の3人が、今まで通りの関係を保っていられるのかは、正直わからない。いくら、日和が無類のお人好しだとしても、だ。
人間が感情の生き物である以上、結ばれた人間の陰には必ず泣いている人間がいるものだ。そういう妙を、最後の日和と雪希が泣きじゃくるシーンは上手に表現している。
ただのベタなハッピーエンドにしなかった…日和という犠牲を以てはじめてなしえたゴールだったというのが、このシナリオの出来を1ランクアップさせた要因だと思う。
【早坂日和】 評価:B
日和がメインのシナリオに進むと、いきなり幽霊状態で彼女が出てきて、結構びっくりしたものだが、前〜中盤を主に雪希がらみのギャグとして絡ませ、後半彼女が幽霊であるが故の苦悩というシリアス展開にするあたりが、一連のKEY作品の流れに通ずるところがあり、なかなか楽しませてくれる。
ただ、難を言うと基本的に場面が主人公の部屋に限定されているため、それほど長いシナリオという訳でもないのに、変に冗長な感じを受けてしまう。
さて、後述のむつきシナリオの次に評価が高いこのシナリオだが、それはこれが意外な側面を持っているからだ。
はっきり言うと、このシナリオ「Kanon」のあゆシナリオに酷似している。
結局、日和自身は幽霊ではなく、どちらかと言えば生き霊の様な存在で、彼女の本体は隣町にある病院におり、夜に眠っているときだけ主人公に会いに行っている存在だ。
ここまで書くと「Kanon」を知っている人間は「おいおい」とか思うかも知れないが、実はこのシナリオが語りたいテーマは「Kanon」とは全く別のモノなのである。
かつての週間少年サンデーで連載されていた「GS美神 極楽大作戦」で幽霊のおキヌちゃんが人間として復活するという話があるのだが、テーマとしてはむしろこちらに近いと思う。
要するに幽霊として過ごした時間というのは、人間の夢の中の様な出来事なのだから急激に忘れ去ってしまう、というヤツだ。
日和もまた、エピローグで主人公のことを忘れ去ってしまうが、そんな彼女にゆっくりと、しかし強い意志を以て接する主人公は、この作品の中でも一、二を争う格好良さだ。そう言えば「GS美神」の方でも最後の主人公がメチャクチャ格好良くて、妙に印象に残っている。
そして、その上で再び結ばれる二人、というラストは結構感動的。
俺っちが、こういうシナリオに弱いと言われればそれまでだが、一見どこにでもありそうなシナリオを上手く味付けした、その技量に感心するね。
【小野崎清香】 評価D
とにかく、展開が読める。
その上、継母との確執という、ありがちなネタでこれまた何とも言えない。
正直言うと、彼女と主人公との間に恋愛感情が芽生える事自体が、かなり謎だ。
問題山積みのシナリオなのだが、その大半は演出の下手さから来ていると思う。
普段から口喧嘩に興じるクラスメイト、というタイプのヒロインとそのシナリオというのは今まででも数多く存在すしたが、かなりの後半になるまで「なんなのコイツは!?」という態度を崩さない清香に、アレコレ自分の状況を打破しようと取るに足らない事ばかり考える主人公。
これでは、テンポよくゲームを進められない。
また、このシナリオのキーワード「砂絵」というものがわかりずらいのも難点だ。
俺っちが無学なだけかもしれないが、ただ単に「砂絵」とか言われても、どうにもピンとこないのが事実。
コレに関しては、申し訳レベルでも良かったから難しくない程度のウンチクがあっても良かったと思う。
また継母の存在が、かなり後半になるまで出てこないのもマズイだろう。
このシナリオでは、清香と主人公は幼なじみなのだから、そこらへんの事情を知っていてもおかしくはないだろうに、そういう伏線張りとか一切ないのは手抜きだと言われてもしょうがないだろう。
プレイヤーはもちろん予測出来るだけに、尚更ね。
【進藤むつき】 評価:A
一番評価が高いシナリオ。
まず、この作品の根本システム「プロローグの過去編の選択肢で、誰のルートに行くか決定する」を一番上手に使っているのが評価高い。
妹である雪希の同級生で親友、という役柄で出てくる彼女だが、声優さんの演技も含めて、とにかくやかましい。
実際、そういう事を前提にしているので、コレはむしろ成功と言えるかも知れないが、とにもかくにも癇に障る声なのだ。
ところが、このシナリオの凄まじいところは、その声優さんの声の事まで計算した上で伏線を張って、そこから話を展開させてしまうところにある。
むつきのシナリオに進むと、他のヒロインのシナリオと違い、性格が完全に正反対の、どちらかというと無口で大人しい娘として登場するのだ。
むつきのシナリオを先にやっていると、伏線も何もあったものではないが、こういう工夫は評価すべきだろう。
そして、むつきが…いや、本来ならむつきと言ってはいけないのかも知れないが…このシナリオ内のみ性格が変わってしまうのも、全ては過去編での出来事故なのである。
主人公が何気なく言ってしまった「大人しい子の方が好きかな」という一言が、むつきを大きく変えてしまった…
「子供の頃の一言だけで、んな馬鹿な」と思う人もいるかも知れないが、人にとっての転機というものは案外そんなものなのかもしれない。「口は災いの元」などという諺もあるが、人間の言葉というものは時として、すさまじい「力」を持つこともある。まして、多感期にある子供の頃の話なら尚更だろう。
だからこそ、主人公と過去編で出会うことがない、他のシナリオに進んだ場合、彼女は子供の頃と同じく快活なままで出てくるのである。
そして、このシナリオはその「たった一言の重み」を上手に表現している。
つまり、むつきにとって、主人公の一言は後の性格形成に影響を与えるほどのインパクトだったという訳だ。
良くできてるよ、ホント。
【神津麻美】 評価:C
唯一、過去の共有のないキャラクター。
だからという訳ではないのだが、どうにもインパクト不足が否めない感を受ける。
後半の猫のエピソードも、もうちょっと伏線の張りようがあったはずだし、性格もイマイチ見えてこない。
大体、序盤の食堂昼食争奪戦などは、ツカみとしてはいいのだが、そのあと「だから何だったの?」程度の効果しか発揮していないし、教室にただ一人佇んでいたのも、シナリオ的に特別な意味があったとは、ちょっと思えない。
後半の「子供の頃の猫に対するトラウマ」の描き方はむつきや雪希シナリオほどではないにしろ、悪くない。
だが、これも伏線張りがないため、失敗に終わっている。
要するに詰め込み過ぎなのだ。
食堂昼食争奪戦、トロい故のイジメ、猫のエピソード…色々な要素を組み込もうとしたのはいいのだが、イマイチまとまりに欠いている。
時には絞る事も重要…このシナリオは、そんな事を考えさせてくれる見本とも言えるだろう。
こうやって、個々のシナリオに目を向けても、全体的にレベルは高く、決して悪くない。
だが、問題もある。
この作品のパッケージの裏を見ればわかる事なのだが、実はこの作品のテーマ、それは「普通」なのだそうだ。
現実的…というものではなく「ギャルゲーとしての」普通を追求し、そういう作品から感じられる矛盾点などを極力排除した…というのが謳い文句なのである。
確かにそう言われれば、普通だ。お約束のオンパレードみたいな設定と、それに沿って流れるシナリオといい、どこかを彷彿とさせる音楽も聞き覚えがありそうな感覚のものが多い。
矛盾点も…確かにない。だが、それだけだ。
はっきり言えば、全てに於いて平凡なのだ。
かつて、名作と呼ばれた作品の数々が、何かしらの非凡なものを持っていたことによって、スターダムにのし上がっていったのに比べると、あまりにもインパクト不足だったとしか思えない。
それは、少しそういう点から外れた日和シナリオを見てもわかる事だ。
一番メリハリの利いた日和のシナリオが、他の「普通」のシナリオよりも一歩抜きんでて見えるのは、そのいい証拠だろう。
この作品をやっていると、どうしても「あ、やっぱりToHeartのヒロインって魅力的だったんだな」とか「KEY系主人公って、スゲーインパクトだ…」とか考えてしまう。
そつなく、まとめた優秀作品。
天才ではないけど、秀才タイプ。それが、この作品のシナリオに限らず、全体的なイメージとして焼き付いているのは、マズイ点だ。
ここらへんが、次回の課題だろう…
(総評)
……非常に評価の難しい作品だ。
なんか最近、こんなコトばっかり書いている様な気がするが、やはり今回もこういう感想をもってしまった。
はっきり言うと、かなりの高レベル作品だ。
シナリオも良いし、CGのレベルも高いし、音楽だってかなりいい出来で、全体的に良くまとまっている。いや、まとまりすぎていると言ってもいい。
だが、正直に言おう。この作品の俺っちの率直な感想。それは
「出来のいい同人ソフト」
というものだ。
何と言えばいいのだろうか…とにかく様々な模倣の上に成り立っている作品…そんな感じを俺っちはすごく受けたのである。
それは例えば、一連のリーフ作品らしさの継承とも言えるし、KEY作品の影響を間違いなく受けているだろうし、F&C作品といった、既存の作品の匂いと言ってもいいだろう。
もちろん、俺っちはそれが悪いとは言わない。
例え、模倣であってもいいものを継承して、さらに上を目指す作品なら、それはそれ評価の対象にもなる。
だが、残念ながらこの作品からは、あまりそういうものは感じられなかった。
ただ単に「追いつけ追いつけ」ではなく「追いつけ追い越せ」を心がけて、更に頑張って欲しい次第である。
後半はツライ事も書いたが、こんな良作品はなかなかお目にはかかれない。
Win環境に移ってから、ようやく熟してきたHゲーム世界だからこそ出現した「普通」を目指した作品。
次回作こそ何かしらの非凡なモノを持った、何か心に訴えかけてくる様な作品を期待している次第である。
(梨瀬成)