みずいろ
 
 ポンコツヒロイン日和参上!
 
1.メーカー名:ねこねこソフト
2.ジャンル:マルチシナリオ恋愛ADV
3.ストーリー完成度:B
4.H度:C
5.オススメ度:B
6.攻略難易度:D
7.その他:さらっとやるなら十分なデキだと思う。
 
(ストーリー)
 片瀬健二は高校2年生。
 幼い頃に母と死別し、父の再婚相手もすぐに死んでしまったという過去を持つ。
 以来、義母の連れ子で1才下の雪希(ゆき)の兄として暮らしている。
 健二は、幼なじみの日和と雪希、雪希の友達の清香と遊んだりしながら育ってきた。
 現在、父は仕事で1年のほとんどを海外で過ごしているため、ほぼ雪希と2人暮らしの状態であり、炊事・洗濯等家事一切は雪希が取り仕切っている。
 そして…。

 
 
 このゲームは、過去パートで関わりを持ったヒロインとのシナリオに固定されるようにできており、途中で出てくる選択肢にしても、ほとんど影響を与えない。
 つまりは“読ませる”ことに主眼を置いていると言える。
 では、鷹羽のクリア順で各シナリオを見ていこう。

(早坂日和シナリオ)評価:A
 幼なじみの日和は、ある日突然引っ越してしまった。
 健二は、日和がいなくなって初めて、いつも虐めていた日和のことを好きだったことに気付いた。
 そして、最近になって、夜中に日和の幽霊が健二の部屋に現れるようになった。
 あの頃の服を着て、昔日和を閉じ込めたことのある古いクローゼットの中から現れ、朝になると消える。
 しかもどうやら健二にしか見えないらしい。
 毎夜一緒にいるうちに、健二は再び日和を好きになっていくのだが…。

 クローゼットから聞こえる泣き声が気になって開けてみたら知らない女の子が出てくるという、かなりシュールな始まり方をするが、そこからの流れがとても巧い。
 とっくに忘れてしまっていた初恋を思い出し、その頃と変わらない日和の性格に触れたことで、健二は再び日和に恋していく。
 更に、日和が幽霊であるという認識から、健二自身にも、絶対に普通の恋愛には至らないという閉塞感があり、それをものともせずに思いを募らせていく健二の姿に感情移入もし易い。
 部屋の中に現れるために靴がなく、健二以外の人間には見えないために別の靴を履かせることも能わない。
 そのため、一緒に外に出掛けると言うことが非常に難しいわけだが、この点を、“雪希のパンツをはいた日和を雪希が見ると、パンツが宙に浮いている”というギャグタッチの描写で無理なく実感させている点も評価できる。
 そして、普通の恋人同士(というかどうかは疑問だが)に憧れた2人が、ファミレスでジュースを2本のストローで飲み、遊園地のコーヒーカップに一緒に乗ることを夢見て、実行してみても、周囲から奇異の目で見られることでしかないという苦しみも上手く描けている。
 また、授業中眠っているという健二の生活パターンも、夜中に起き続けているというこのシナリオではごく当然のことのように感じられるため、違和感がない。
 そして、“本体が眠っているときだけ現れる”という生き霊の特質を巧く利用した構成でドラマを盛り上げているところも評価すべきだろう。
 心残りになっていたクローゼットの引き出しのチョコ、かつて閉じ込められたクローゼットの扉、あの日着ていた服、全ての伏線が繋がっている。

 日和が生き霊であろうことは、プレイヤーには容易に想像できるが、オチが読みにくいように先手を打って現実の日和を描写してしまうというのも巧い。
 『源氏物語』の『葵の上』のように、本人は生き霊であったときのことを覚えていないというのもラストへのもって行き方としては巧い。
 引越先はたかだか隣町であり、高校生になった今なら、その気になればすぐに行き先を見付けられるということも、ちゃんと話に絡んでいる。
 健二は、当初日和が幽霊だと信じていたからこそ、敢えて日和の消息を追わなかったのだ。
 死んでしまった人間の消息など知っても何の意味もない。
 大切なのは、今ここにいる日和だ。
 そういった細かい部分を感じさせるような描き方になっている。

 そして、生き霊の日和が本体の日和の記憶を持っていなかったように、ようやく見付けた本体の日和は覚えていなくて、そこからの健二の一人相撲とも言える追体験により、本体の日和が生き霊の日和の記憶を僅かに残しているらしい、という形で物語は終わる。
 健二は、両方を併せ持つ日和と生きていくことができるのだ。

 あと、このシナリオでは、文章を無理矢理主題歌に合わせた部分もあって、終盤でいきなり「離されぬよう、流されぬよう」という文語体っぽい描写が出てくるのだが、これは、歌詞の方を直してでも口語体にすべきだったと思う。

PS このシナリオでの雪希は、コメディリリーフ的な存在であり、アブない義妹大爆発状態になっている。


(進藤むつきシナリオ)評価:C
 幼いころ、偶然知り合った少女むつき。
 ある日、健二はむつきに赤いリボンをプレゼントした。
 そして、むつきとキスした翌日から、むつきの姿は消えてしまった。
 最近になって、雪希の友達の進藤を紹介された健二は、彼女が海岸でキスした少女だったことを知る…。

 日和シナリオで、雪希の友達として登場したけたたましい少女:進藤が大人しい少女として登場する。
 とにかくベタベタなシナリオで、正直失望した。
 話自体は決して悪くはないのだが、日和シナリオの後でプレイすると、かなり見劣りするデキだ。
 しかも、OPクレジット上は進藤むつきということになっているが、本編中で雪希が進藤の名前を呼ぶことはなく、常に「進藤さん」としか呼ばないことが全てを物語っている。

 オチを言ってしまえば、むつきというのは彼女の姉であり、健二が「むつき」だと思っているキスの相手も雪希の友達も、当時は活発だった妹の方なのだ。
 「進藤」は、姉になりすまして自分の想いを打ち明けたことに罪悪感を持っており、健二にそのことを言い出せないのだ。
 また、健二は雪希に「むつき」の名前を出さないため、終盤になって初めて名前を出したときに全てが分かるというどんでん返しを狙っていたらしい。
 だが、はっきり言って底が浅く、オチまで読めてしまう。

 これは、展開が単純な上に、あざとさが見え隠れしてしまうせいだ。
 健二が気恥ずかしさから、雪希に「むつき」の名前を出さないのは巧い。
 また、大好きな兄の目が友達に向かっていることを知っている雪希が、敢えて進藤のことを話題にしないのもいい。
 だが、むつきに妹がいたことを知っている健二が妹のことについての話題をふらないのはまずい。
 また、進藤が妹の近況について語らないのも不自然で、いかにも“何か隠してます”と言わんばかりだ。

 ついでに言うと、進藤(妹)が大人しい子になったのは、幼いころに健二の『大人しい女の子が好き』という言葉を聞いたせいらしいが、それくらいであの活発な女の子が、大人しくなるのはともかく、人見知りするような子に育つものだろうか?
 鷹羽としては、活発な進藤のままでいかに健二と惹かれ合っていくかが見たかったのだが。

 もう1つ、大きな問題点を書いておくと、進藤はどのシナリオでも赤いリボンをしているのだが、健二がプレゼントしたことで“赤いリボン”にこだわりを持つようになったのではなかったか。
 進藤シナリオの時だけは“みずいろのリボン”をしているという展開にした方が、上手く「みずいろ」を絡めることができたと思う。
 こういう重要なアイテムがこんな簡単な扱われ方をしているところが、このシナリオの評価を低くしている。
 あ、ただ、描写力自体は決して低くはないと思うから「C」なのよ。


(片瀬雪希シナリオ)評価:B
 ある日、健二が欲しがっていたガシャポンのアイテムをくれた雪希に、健二はオモチャの指輪をあげた。
 だが、そのアイテムは、実は日和が当てて雪希に託したものだった。
 指輪欲しさにそのことを言い出せなかった雪希は、心の奥にコンプレックスを抱いたまま成長して…。

 仲のいい兄妹を演じながら、コンプレックスを育ててきた雪希の物語という感じで、実は健二の恋心というようなものはほとんど描かれていない
 このシナリオでの健二と日和の関係は、健二がモノローグで『俺は…多分、日和のことが好きだ』と言っているとおり、ほとんど日和と付き合っているような状態であり、清香の言動からもそれが分かる。
 それなのに、どうして健二が雪希を選ぶのかという点についての描写はほとんどない。
 健二の取り合いにしても、健二のあずかり知らぬところで“一日交代で健二の横に立つ”という協定が結ばれている。
 雪希が健二と結ばれるくだりにしても、気を利かせた日和が雪希に健二を譲ってしまった形であり、日和のお人好し具合がクローズアップされるばかりで、雪希は魅力的なヒロインではなかった。

 ただ、雪希の苦悩はよく描かれており、指輪の負い目故に日和に対して一歩引きながら、一緒に住んでいるために優越感を持つという心の矛盾がシナリオに整合性を与えている。
 挿入歌『ごめんね』が流れる唯一のシナリオであるため、メインシナリオの座は決まったようなものだが、肝腎な義兄妹の恋というインモラルな部分を乗り越えておらず、やや中途半端な感がある。


(小野崎清香シナリオ)評価:C
 同級生で雪希の幼なじみでもある清香に脅迫され、清香の描く砂絵の手伝いをすることになってしまった健二。
 何とか清香の弱みを握り返して自由になりたい健二だったが、裏目裏目に出てドツボにはまっていく。
 そのうち、清香が砂絵に執着する理由が母への想いであることを知った健二は、清香に積極的に協力していくようになるのだが…。

 清香の脅迫と、勝手にドツボにはまっていく健二という導入部が異様にムカつくが、それ以外はなかなか巧い。
 ただ、清香の母が「清香さん」と呼ぶことから、やはり義母であるというオチが読めてしまう。
 健二にとっては、幼いころに初めて遊びに行ったころからいた人なので、本当の母親だという思い込みがあったのだろうが、その辺りをもう少し突っ込んでおくといいシナリオになったと思う。
 ついでに、年頃の女の子の家に同年代の男友達が泊まりに来るという状況に何の疑問も持たない母親というのも、義母とはいえ気になった。
 多分この人は、清香の気持ちを知った上で、健二ならと安心して任せているのだろうが、その辺りも少し突っ込んでおいた方が良かったように思う。
 いずれにしろ、この人は清香と健二がどういう関係になったかまで分かって見守っているはずだ。
 この義母との関わりをプレイヤーの目から隠そうとしたことで、清香の『独りになりたくない』という想いの描写が空回りしている。
 健二が気付かないのがもどかしいのだ。
 母との想いで、義母とのわだかまりを描かずして清香の苦悩は理解できないはずなのに。

 取り敢えず、清香との関係は、気軽にケンカできる恋人というもので、疲れない付き合いになるだろう。
 また、このシナリオでも、半徹夜状態で砂絵を描いているため、健二が授業中寝てばかりいることに納得できる。

PS Hシーンでも外さない後頭部の巨大なリボンに秘められた謎が、とうとう明かされずに終わってしまったのが残念。
  それと、清香くらい胸があるなら、「胸が小さい」なんて言えん!


(神津麻美シナリオ)評価:D
 雨上がりの公園で偶然知り合った3年生の麻美。
 異様にテンポの遅い言動に興味を抱いた健二は、何かと世話を焼くうちに麻美に惹かれていって…。

 麻美は、唯一過去を共有していないキャラクターだ。
 その分、“ほっとけない”キャラにすることで、健二の方からアプローチさせている。
 ただ、その分麻美の性格というのがとにかく癪に障る。
 麻美に友達がいないのは、彼女がのろまなせいというよりは、引っ込み思案で自分というものを前に出さない性格に起因していると思われる。
 事実、清香や日和は特段気にすることもなく、“健二の彼女”として麻美に接しており、麻美もそれにちゃんと対応しているのだ。
 麻美に友達がいないのは、彼女が自分に都合のいい世界を作ってその中で生きているからに過ぎない。
 『日記を書いている』と聞いて、あんな内容の夢物語を書いているとは、普通は思わないだろう。
 麻美は、結局健二をも自分にとって都合のいい登場人物にしてしまっていた。
 猫の件にしても、新しい“みーちゃん”でしかない。
 最後の最後まで、それは変わらなかった。
   “だんだ、だんだ、だんだーん”
 この偽りの物語は、多分、麻美が死ぬまで続くのだろう。

 鷹羽は、シナリオのデキはともかく、この麻美の性格がどうしても好きになれなかった。



 という具合で、それぞれ恋愛物としては結構盛り上がるし描写力もある。
 ただ、全体的に見たときに、テーマを生かし切っていない中途半端な部分が目立つのが惜しい。
 導入部の強引さと、すぐに読めてしまうどんでん返しをもう少し何とかすれば、ラブコメとして申し分ないデキだったと思う。

 タイトルである『みずいろ』も
   プロローグで健二が雪希に送った母からの手紙の文字
   日和シナリオで、幼い日和が健二に宛てた『好きです。』の文字
   進藤が好きな薄い雲の向こうの青
   雪希が昔健二から貰った指輪
   清香が亡き母から貰った水色の砂
という具合に、麻美シナリオ以外ではシナリオ中に出てくる。
 ただ、雪希の“指輪の水色”と進藤の“雲の向こうの水色の空”はいいとして、水色の砂を肖像画のどこに使うのかとか、雪希は昔貰った母からの手紙(健二が作った偽物)を結局どう思っているのかとか、イマイチ使い方の下手なものもあった。

 結局、どのシナリオでも雪希の想いが根底に流れているという形式の割には、、各シナリオのヒロインとの交流の方が主眼になってしまうため、雪希の想いが強調されず、中途半端になってしまった。
 また、日和シナリオだけが別のライターの手になるもののため、そこだけイメージが変わり、恐らくはメインシナリオであろう雪希のシナリオを食ってしまうほどの完成度になってしまった。
 徹頭徹尾ポワポワしていていい人全開の日和の方が、ヒロインとして成立しやすいという面もあるのだろうが、やはり雪希はヒロインとして日和に負けている感が強い。
 このゲームは、こういった詰めの甘さが惜しいなかなかの佳作だったと思う。


 
 
(総論)
 このゲームは、過去パートで何があったかによって分岐した未来の物語になっているが、清香、麻美のシナリオでは、特段何かが変わったという形にはなっていない。
 それは当然で、麻美には過去のことは関わりないし、清香もどのみち雪希の幼なじみという展開は変わらないからだ。
 唯一、進藤だけが過去で出会うことで引っ込み思案な大人しい娘として登場する。
 ここで、日和のことについて触れなかったのは、日和の引越そのものが既にパラレルワールド的なイベントだからだ。
 どうしても、わざわざ隣町に引っ越すことにどれほどの意味があるのかという疑問が浮かぶ。
 バレンタインの件がないくらいで、日和が引越を拒むとも思いにくい。
 こういった疑問を残してしまったり、友達の名前がヒロイン以外には南山1人しか出てこないなど、健二が異様に人付き合いの浅い人間であると思える描写があることもマイナス要因になっている。

 反面、清香シナリオ以外でも、『毎年この時期になると清香は眠そうにしている』とうモノローグがあったり、せっぱ詰まった清香が日和に砂絵を手伝わせてとんでもないことになったらしい描写もあったりして、各シナリオの補完がされているのはプラスだ。
 日和のいつでもどこでもポンコツな言動は、『To Heart』のマルチを思い出させるが、それより深みを感じるし、結構生きたキャラクターだったと思う。

 鷹羽は、なんだかんだ言っても、ゲーム全体としては、そこそこいけるデキだと思っている。
 なんだか、久しぶりに当たりを引いた気分でゲームができたのだから。

 
(鷹羽飛鳥)

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