まぼろし月夜  ドリームキャスト版
 
 70年の想いがもたらすものは?
 
1.メーカー名:シムス
2.ジャンル:ADV
3.ストーリー完成度:B〜E(シナリオによる)
4.H度:巨乳マニアの人には、想像力活用でB?
5.オススメ度:ドリキャスだから、C
6.攻略難易度:C(時間さえかければE)
7.その他:ドリームキャスト初のテキストノベルアドベンチャー(と言っても、当時これしか出てなかった)である事に注目。
 
(ストーリー)
 主人公(田中隆史:変更可)の部屋に、友人の後輩が連れてきた女性・あやめさんは、好きな人(どうやら自分の曾じいさんらしい)との待ち合わせの途中に、関東大震災で亡くなった幽霊だった。
 しかも地縛霊なのに勝手に動いているため、このまま成仏しないでいると、二ヶ月もすれば力を使いはたし、消滅してしまうことが判明。
 彼女は自分が死んでいることを理解しておらず、主人公を自分の思い人だと信じて疑わない。
 主人公の部屋に居着き、尽くす事で、悦びを実感するあやめさん。
 説得をするどころか、友人(女友達)が増えていくばかり。
 それぞれのあやめさんへの関心は、いつしか主人公への想いと交錯していく。
 梅雨に始まった物語は夏本番へ向かい、あやめさんは、未だ自分の運命を知らない。
 
 『To Heart』で人権(ジャンル権?)を得たアドベンチャーノベルを、一早くドリームキャストに採り入れたのが、本作品だ。
 そのシステムは数ある同タイプのそれに倣い、画面に表示されていく文章に沿ってストーリーが展開し、要所に出てくる選択肢によって、最後にどの女性といるかが決まると言うパターンを踏襲している。
 出てくる女性も11歳の小学生「あさみ」をはじめ、幼なじみで妹同然の中学生「理緒」、一コ下の後輩「」、ボーイッシュなクラスメイト「葉月」、無表情なその双子の妹「美雪」、あさみの保護者で、花屋を営む22歳のお姉さん「早苗」に、途中から勝手に出てくる謎のキャラ「玉子」、同じく途中から出てくる、理緒の憧れるハーフの女優(と言っても13歳)「クリス」、幽霊であるあやめさんまで、幅広く用意されているので、いわゆるソツの無い作りとなっている。
 主人公の行動は、家〜学校(休日の時は無し)〜散策〜家のパターンで統一され、
数箇所に、キャラ別の強制イベントと選択肢が用意されており、これに散策中の遭遇率を併せて、キャラ毎のシナリオ分岐とグッドエンド・バッドエンドが決定される。
 選択肢は頻繁に出ないが、6月21日から8月15日までの期間、7ヶ所の場所に1日1ヶ所しか行けないため、結構手間がかかる。
 ゲーム中のオプションで、カレンダーに誰と会ったかをチェックできるが、単純に見ても全部埋めるには最低7回、もちろん全キャラのエンディングを見るなら、プラスあと3回(11のEDがあるけど、内2つは最後の選択が違うだけ)、当然全てが一回のプレイで終わるとも思えないので、さらに数回のプレイが要求される。
 
 1プレイ2時間弱(音声を聞いていると4時間は硬い)程だが、意外と大変だ。
 大抵はバッドエンディングか、隠しキャラの一人とのハッピーエンドを迎えることになるだろう。
 かと思えば、同じ所に行くだけでハッピーエンドになってしまうキャラもいる。
 誰でもいいならとっつき易くはあるが、個別に攻めると意外なところで手間取る。
 
 シナリオは、あやめさんが主人公と各キャラとの愛情を見届け、無事成仏する、つまりあやめさんを成仏させようと努力する内に、いつのまにか関わった誰かといい仲になるというパターン。
 一つの目的意識から生まれる愛情は、定番の一つだ。
 成仏させることが目的なのだから、自分が死んだことを思い出させるか、彼は曾じいさんではないと解らせればいいのだが、キャラ毎に「花火で火事の記憶を思い出す」「実験の失敗をかばって霊力を使い果たす」「盆で帰ってきている霊に説得される」「本体を取り戻して?」と色々考えられてるが、ほぼどれもが、愛しあう二人を見てここが自分の意場所ではないことを知り、身を引く形で成仏する。
 しかしちょっと待て。
 あやめさんは、主人公の家に居着いた幽霊。
 ということは、彼は毎日あやめさんに、誰かと仲良くなっていく様を見られている事になる。
これは凄いことだ。
 同棲や夫婦ならまだしも(それはそれで問題アリだが)、曾じいさんと間違えているとはいえ好きな人の住む家へ、変わるがわる女の子は来るし、まして他人を好きになる過程を見続けるとは。
 尽くすことが楽しいとはいえ、普通なら嫉妬に狂う悪霊になるところ。
 しかし、天然ボケというあやめさんの性格づけや人柄と、あやめさんと友達になりたいと願うやさしい人達ばかりなので、自然なままそこに居させることが出来る。
 皆も、あやめさんの前では彼を好きなそぶりを見せまいと気を使う。
 最終的にあやめさんは、曾じいさんと主人公が別の人だと納得して成仏するが、はっきりいって、一歩間違うと泥沼だ。
 あやめさんに体を貸す都合で、一番近くにいてもあやめさんに遠慮して好きだと言えない南や、「好き」や「友情」といった感情を、あやめさんや主人公とかかわることで取り戻していく美雪の様に、あやめさんがからまなければ、味もそっけもなくなるキャラにはうまく作用している。
 なかなか微妙なバランスだ。
 
幽霊の存在意義や、人に与える影響には、こんなのがあってもいいのでは?という一つの提案をしている様で、なかなか考えさせてくれる、と言ったら深読みし過ぎだろうか。
 基本はお涙頂戴だが、中には(たぶん)天使が出てきたり、あやめさんが実体化したり(シナリオ的には納得できないが)と、意外性もあるところがいい。
 
 ただ、セリフが気になる。
 主人公はよく名前を呼ばれるが、その声がない。
 名前を変更したからということではなくて、元々データにない。
 おかげで、セリフの途中で名前が出る時、名前を口にしているであろう時間だけ丸々その部分が無音になり、間が空いて何ともバツが悪い。
 せめて元の名前の時ぐらいははしゃべらせて、変更したら「あなた」とか「この人」などを言わせるべきだったろう。
 会話の歯切れが悪いのは、明らかにイメージダウンにつながる
 
 主人公の存在の薄さも気になる。
 女の子達は、それぞれのスケジュールに従い、行動している。
 主人公は、これに併せることでイベントを発生させるが、途中、自分の行ってない部分の会話が出てくることがある。
 その前後の関係は数回プレイすれば解るが、自分がいてもいなくても、彼女達の間では矛盾なく話が成立している。
 逆に、複数の場所で同時に色々こなしているような感覚もあり、まるで自分が、あちこちに出没する浮遊霊みたいに思えてくる
 常に家で家事やってるあやめさんの方が、よほど人間らしい
 
 更に、文章は主人公の一人称視点で解説してるため、セリフがくどく見える。
 性格的にも、頭が回ったり回らなかったり中途半端にいい人で、プレイヤーからは離れている、独立した存在の様な感じもある。
 何より名前が飛ばされているので、感情移入の度合が薄い。
 また彼は毎日、あやめさんの待つ自分の住まいへ帰る。
 当然、しつこくない程度にいつも何か会話があって然るべきだが、「家にかえろう」から、何も無しにいきなり「次の日」はないだろう。
 最初の方は、プレイヤーに説明することもあり、どこで何をする等色々書かれるが、日が進むにつれて一日が短くなり、帰った途端翌日に飛ぶ。
 あやめさんは好きな人の帰りを楽しみに待っているんだから、一行でもいいから何か会話をしたりとか、いっそのこと、あやめさん専用の会話モードでも付けるべきだったのではないだろうか?
 一枚のグラフィックも無い、文章すら無いでは、あやめさんがかわいそうだ。
 
グラフィックは、陰影の付け方がなんとなく特徴的。
 原画の雰囲気を出すために頑張ってる感じがする。
 キャラクターはH漫画家の田嶋安恵。当時青年コミックが出ていたけど、今は違うかも…
 独特なタッチで描かれたキャラが好きで、ゲームに使われることを知って期待していた。
 グラフィッカーの努力でしょう。
 充分に及第点ではないかと思う。
 ただ、皆さん胸デカすぎです
 11歳のあさみと「あんまり自信ない」という南以外、デカいデカい。
 中学生の理緒は、胸の谷間も激しいモデルの様なスタイルの持ち主で、葉月・美雪は、水着からはみ出さんばかりのデカさを誇り、早苗さんに至っては、着けたエプロンのサイズが小さいかのごとく、横からはみ出す程もある。
 原画がそうなのか、CGで誇張されたのかは知らないが、胸にこだわりのある人は、かなりいいかも。
 
 音楽は詳しくないから多くは書けないが、メインテーマから多くのアレンジを作り出し、ゲーム内に統一性を持たせようとしている。
 主題歌の「まぼろし月夜」は、エンディングを見たキャラによっては、より感慨深く聞こえることだろう。
 でも、オープニングが弱い。
 エンディングもそうだが、ゲーム中に使われるCGで大半を済ませているため、あまり繰り返して見る気は起きない。
 アニメを使えとまでは言わないが、一工夫欲しい。
 OP・EDだけ聞けるおまけでもよかった。
 
 トータルで見て、どの部分にも一長一短が見られる。
 出来が悪い訳ではない、という部類での「無難」な作品とはどういうモノかという、いい? 見本といえるだろう。
 
(総評)
 どう見ても、制作時間が足りなかったとしか思えない。
 更に言えば、ドリームキャストで出したのは、最初に書いた通りどこもこの手のゲームを出していなかったからではないだろうか?
 最初に出せば、とりあえず注目だけはされるから。
 それは立派な作戦だと思うけど、そこにドリームキャストならではの工夫が見られない以上、「無難な作品」であるとしか言えない。
 非難をする気はないが、プレステ版では更に2キャラを増やして、ドリームキャストではなぜか麻雀まで出ているのを見ると、本当はもっと作り込むはずだったのだろう。
 雑誌で変更点を見る限り、後発のプレステ版は改良された所が多く、ドリームキャストより、どう見てもやりやすそう。
 クリア後のパスワードで、ネットの情報が検索できるところが、ドリームキャストならではの、唯一の利点だろうか。
 なかなかスケジュールをこなせないのがこの業界の特徴とは言え、後から出る下位ハードソフトの方が魅力的なのが実に残念。
 いや、早々に出して破綻しなかったことを、まず評価すべきか。
 今回は、ドリームキャスト版のみでの評論になっている(みんなビンボが悪いのよ)けど、人に薦めるなら、やっぱりプレステ版になってしまうんだよね。
 私もそれら全てをプレイしてから、また改めて評価したい。
 次は、後からのフォローのいらないゲームを期待してます。
 
 
(Mr.Boo)

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