檸檬 〜影絵亭ノスタルジア〜

梨「なあぁああ〜みっちん〜、今回はお前さんにオススメなソフトが二つもあるんだけどさあ〜」
み「な、なんですかあ、梨瀬さん。ごとさんと同じく、梨瀬さんがそういう声を出す時ってロクな事ない様な気がするんスけど……」
梨「ありゃ、それは心外だなあ。これを見てまだそんな事がいえるかなああ〜」
 「ドリル少女スパイラルなみ!」
 カレンダーガール!
梨「……………………」
み「……………………………………………………」
み「なーーーーんで、ドリルSEAGなんですかああ!」
梨「ありゃ? 気に入らない? ベストチョイスのつもりだったんだけど?」
み「あったまきたっス
梨「へ?」
み「なーんで、いっつもいっつもみっちんがお笑い担当なんスかああ? それに、梨瀬さん言わせて下さい! 最近、梨瀬さんの評論しているソフトは真面目なのばっかりで、全然らしくないッス!」
梨「へ? へ?」
み「かつては一緒に『花の記憶』の評論をやった仲じゃないですかあ」
梨「んな、五年も前の同人誌の事言われたってなあ」
み「そこで、梨瀬さんも、たまにはエロ一辺倒の作品をやってみて下さい! そう、例えばコレ! 『檸檬』てヤツなんですけど……」
梨「ヌキンポハメハメソフトってやつかあ、何かヤダなあ。あと、×日後には『AIR』が発売されるから別にいいよ」
み「んな、いともあっさりイヤがんないで下さいよお! それに原稿締切は『AIR』とほぼ同時じゃないっスか。間に合いませんよ。ホラ、オイラも一緒にプレイしますから」
梨「ありゃりゃ、逃げ道なし、か」
 
 
1.メーカー名:13cm
2.ジャンル:ADV
3.ストーリー完成度:D
4.H度:A
5.オススメ度:D
6.攻略難易度:E
7.その他:音楽は良いね。雰囲気もいいし……でもそれだ…ゲフ!
 
 
(ストーリー)
 時は大正時代。
 細々と物書きなどをやりながら、気ままな放蕩生活を送っている主人公・相馬隆一郎は、親戚の叔父の経営するカフェ「影絵亭」を譲り受け、オーナーになった。
 しかし、ここで働く女給・桐生咲枝に憧れていた隆一郎は、この話を割合気楽にOKしたものの、カフェのもう一つの顔を知り驚愕する事になる。
影絵亭」の裏の顔、それは女給に夜の相手をさせる……すなわち娼館という側面だったのだ。
 
 
み「いやー、すごいっスね!」
梨「は? 何が?」
み「こーんな、中身も何もない作品に、よくストーリー解説書けるな、と思いまして。みっちんじゃ、絶対書けませんよ!」
梨「相変わらず無茶苦茶言うな、オマエも」
み「しっかし、昼は女給で夜は娼婦っていうアイデア自体が下衆……っていうか、余りにも安直というか……みっちん、実はこの段階でかなりヤになったんスけど」
梨「うーん、分かんないでもないけど……実は、俺っちはそれと似たような設定を持っていながら名作、というのを一つ知っているんで、この設定について目くじら立てるつもりはあまりないんだ」
み「??? ……何スか? ソレ?」
梨「まあ、それは後で(総評)の方で書こうと思うけど。とりあえず、各キャラクターごとに見ていこうじゃん」
 
・桐生咲枝
 正に器量よしという表現がぴったりの咲枝は、主人公・隆一郎の憧れの女性であり、また娼婦としても自ら「殿方を歓ばすのは天職」と言ってのける程の手練である。
み「しっかし、何かのっけから鷹風虎徹度バリバリなキャラっスね」
梨「うーん、確かに普段は落ち着いていて、器量よし、黒髪ロン毛、イイ感じだね…」
み「歯切れが悪いっスね。何か問題でも?」
梨「いやね、先日新潟に遊びに行った時ね、彼もこのソフト持っていてね。感想を聞いてみたんだよ」
み「ふむふむ」
梨「そしたら、彼も全部解いたらしんだけど『下らない』と言下に吐き捨てられてねえ」
 こういうゲームだからしょうがないのかもしれないが、まあとにかく、Hシーンになるとこの咲枝というキャラ、とんでもない淫乱に変身してしまうのだ。
 さすがに口調自体(「〜ですわ」とか)は普段と変わらないが、とにかく片っ端から恥ずかしげもなくモロな単語を喋りまくる。
み「うわー、キッツー! これじゃ虎徹さんじゃなくても、捨てたくなるっス
梨「オマエは初期シーズ○ェアの女キャラ達かい? って感じだろ?」
み「あ、梨瀬さん、いいトコ突いてます。にしても、このキャラの声優さん、妙におばさん臭い声っスね」
梨「設定どうりなら、それでもいいんだろうけど、絵柄が妙にロリっぽいだろ? だから、何か違和感強いんだと思うけど」
み「虎徹さんもお気の毒に(笑)
梨「コイツはこういう性格なんだ、って言われればそこまでなんだけどね。ちょっと違和感の方が先に立つのはマイナスだな」
 また、ストーリー自体も、主人公に亡き兄の姿を重ねていたものの、やがてそれが愛情に変化していったという下りは良いのだが、Hシーン以外のパートでも、そこら辺の事が全く語られないし、途中で前フリこそあったものの、兄の話自体が出るのは本当にエンディング直前。
 過程も何もなしに、種明かしがなされるシナリオ展開は正直、頭痛い。
梨「とりあえず、コイツのシナリオはここまで、と」
み「最後に幸せな家庭を築いて終わり、っていうのもお約束っスけど」
梨「お約束も大いに結構だけど、それならちゃんとシナリオを物語として描ききって欲しいもんだよ。お約束、っていうのはそういうパターンが巷に多いからこそ『お約束』なんだからさ。中身の薄いお話をやって最後のシメが『お約束』じゃあ、正直失笑ものだぜ」
 
・李明夏
「影絵亭」では厨房を任されている、思い切りのいい姉御肌の人物。
 かつて暮らしていた中国は上海を離れて、日本に流れ着きいつのまにやら、ここ「影絵亭」に居着いていた。
梨「実は、キャラ的には、コイツが一番イイなと思ってるんだが……」
み「でも、なんだか、コイツらイキナリSMおっぱじめましたよ
梨「をいをい」
 そう、実際、明夏のシナリオはSMがメインとなり、基本的には明夏がM役になりHシーンが展開されていく。
 何でも、このキャラ、マニュアルによると上海にいた頃は性奴隷にされていたという過去があるそうで、そこらへんの手管には長けている様だ。
 しかし、そんなハードな設定があるにも関わらず、シナリオ中でそんな話はついぞ一回も出てこなかった
 マニュアルに書いてある事は、予備知識として知っているのが当たり前、というメーカーのポリシーがあるというのなら、これ以上の言及は出来ないが、キャラクターに深みを与えてくれるかもしれない設定を、シナリオ中に全く表記しないというのは、大問題だと思うのだが。
み「ま〜た、そんな難しい事言って。そんなの、コイツがSMシーン担当だから、適当にでっちあげた設定に決まってるじゃないスか!」
梨「ありゃ? みっちんもそう思う? 確かにこのHシーンの比重の重さとシナリオの薄さ、そして設定の不徹底を見ると、そう思っても仕方ないよなあ…」
み「設定の…不徹底っスか?」
梨「つまりさ……」
 上で書いてある性奴隷の話が一切出てこない件も、確かに問題なのだが、彼女がそういう境遇を経て苦労してきたのなら、もうちょっとシナリオ内でそれが見え隠れしてもいいと思うのね。
 コイツのキャラとしてのこの作品での位置づけというのは、「面倒見が良くキップのいい姉御肌」というので、間違いはないんだけど、辛い経験をしてきたからこそのシビアさとか、そこらへんの表現が全くないのよ。
 後半の「アタシも、色々苦労したのヨ」なんてセリフから鑑みるに、過去にあった事を辛い事だと考えていない訳じゃあない様だし。
 設定自体があっても、それをキャラの性格に反映出来ないのは不備だとしか言いようがない。
梨「まあ、エンディングは綺麗にまとめていると思うけどね」
み「さっきの咲枝シナリオと大差ないじゃないっスか」
梨「まあね。でも、小さな幸せでいいから、主人公とともに生きていきたいっていう感じは結構出ていると思うよ。シナリオがもっと深ければ、それなりに良いものが出来たと思うんだけどねえ」
 
・楠本雪緒
 作家としての主人公の大ファンである彼女、強引なキャラクターと性格で無理矢理影絵亭に居着いてしまう事になる。
み「な〜んか、また小煩いのが出てきたスね」
梨「うーん、確かにね」
み「あれ? また、歯切れ良くないっスね。こういうタイプが好みで?」
梨「いや、そういう事じゃなくてね……」
 正直俺っちとしては、これと、後述のカレンのシナリオはそこそこいいと思っている。
 何と言っても昼間のパートでの、他の影絵亭とのメンツとの接触が多い。
 咲枝には暖かく見守ってもらっている様だし、明夏とのじゃれあいレベルの喧嘩や、カレンに先輩風を吹かすのも微笑ましい。
み「でも、何だか単なるワガママ娘〜、って感じじゃないっスか?」
梨「俺っちも、その点については認める。だけど、それをシナリオ内でちゃんと活かしていれば、それはそれでいいと思うよ」
 昼間のカフェのパートでは、とにかく明るいムードメーカーであり、前半の夜のHシーンのパートなんかも、彼女が初心者であるが故の失敗続きでなかなかに笑わせてもらえる。 だが、エンディング直後の激白シーンは、そういう布石があったからこそ、感動的に描かれているのだ。
 また、彼女のこれからに胸躍らせる主人公がいい感じのエンディングも、作中では一番だろう。
梨「まあ、欠点もあるけどな」
み「梨瀬さん、オイラもそれ分かりますよ。例の激白シーンでしょ? キャラ的な布石はともかく、ストーリーとしての布石は全くありませんでしたからね」
梨「そうなんよ〜(頭抱える)。何の脈絡もなく、政略結婚の話が出てくるじゃん」
み「ま、プレイヤーとしては予想できるんスけどね」
梨「ただあのシーンって、主人公が彼女の境遇を全て知っている様なそぶりしてるじゃん? シナリオ中で雪緒が主人公にそれを告白するシーンってなかったと思うけど」
み「肝心なトコロで一歩抜けている感じっスね」
梨「これさえなければ、俺的には一番イケテるシナリオだと思うんだけどね」
 
・カレン
 もっとも幼いながら、影絵亭一のテクニシャン。
 純真で無垢な分、娼婦としての自分の行動に何ら不自然なものを感じていないため、その小さな姿は痛々しさを誘う。
み「……ロリっスね」
梨「みっちんは、こういうのが好みか?(微笑)」
み「ぬわ〜に、言ってんスか! ソレ、どちらかと言ったら梨瀬さんの方じゃないですか! 『まんぐり』でもファーストプレイでそう言われてたじゃないスか」
梨「あ〜、あの5分で終わりやがるクセに、プレイ内容でプレイヤーの性格診断までしてくれる馬鹿ソフトね。でもさ〜、みっちんのファーストプレイの時って何て診断されたんだっけ?(再び、微笑)」
み「…………」
梨&み「『あなたって、ロリーがお好き?』」
梨&み「……………………………」
梨&み「…………………」
梨&み「…………」
み「話、進めましょか?」
梨「そだね」
 ただ、一番幼いながらもテクニシャンというギャップを狙った点もさる事ながら、反面とんでもなく感じやすく、すぐにイッてしまうため、奉仕する事は出来ても、される事には慣れていないという設定は、非常に面白い。
 ストーリーにも、ここら辺は良く盛り込まれているし、彼女が今までどういう環境で育ってきたのか、どことなく想像がついてしまう。
 そして、今までそういう境遇に置かれていたカレンが、主人公になついてくる展開は、この作品に於いて唯一シナリオとHシーンが融合している点であり、十分に評価に値する。
梨「それに、カレンのシナリオはもう一つ美点があるよ」
み「何でがス?」
梨「ちゃんと起承転結がある点さ」
 カレンが咲枝にもらわれてくる「起」、Hシーンの「承」、父親の話が出てくるあたりの「転」、そしてエンディングの「結」。
 上でも指摘している、Hシーンとシナリオがかみ合っている点もあって、話がちゃんとまとまっており、全体的にスッキリした印象を与えるのだ。
み「ま、本来なら起承転結なんて、あって当たり前のものですからね」
梨「ただ、この作品のカレンと雪緒以外のシナリオって何か『承承承承』って感じだからさ。Hシーンの密度が高すぎて」
み「エンディングはどうスか?」
梨「いいと思うよ。ちょっと、予想通りと言えば、予想通りだったけどね」
み「シナリオをある程度書ききっていたから、エンディングが予想通りでもそれなりに納得出来た、ってトコロっスか?」
梨「ま、そんなトコロだね」
 
・美郷可南子
 最後に影絵亭に雇われる事になる、無口な少女。
 無感動、無表情な彼女は、どこか人形の様な作り物めいた印象を与える……
み「しっかし、いい加減どうにかならんモンですかねえ〜」
梨「へ? 何が?」
み「だって、コイツ、キャラデザインといい、性格といい、アレにそっくりじゃないスか」
梨「しー! そういう事は大声で言うなって!」
み「ホント、どこからどう見ても綾な梨「らーらららーらー♪」
み「………!!?!??!」(耳を押さえてうずくまっている)
梨「さ、ちゃちゃっと見ていこうか」
 実際、コイツのシナリオは余り良くない。
 他キャラとの接点は少ないものの、一応用意はされている。
 しかし、無口という設定のため、主人公に対してすらまともなコミュニケーションがとれないため、シナリオとして、イマイチ成立していないのだ。
 また、(どうも、話の展開から察するに、というよりは歌劇の方だ)が好きというファクターがありながら、シナリオ中にあまり上手に活かされていないのも、マイナスポイントだろう。
み「どうでもいいですけど、このシナリオだけ、主人公妙に強気ですよね」
梨「そうだなあ……何かやたらとオナニーしろ、だとか、いたぶる様なペッティングとか、そんなのばっかりだもんな」
み「あれだけの事をしておきながら、最後の方の展開で『オマエが大事だ』みたいな事言われてもねえ……」
 
 
(総評)
み「やっと、終わったスね」
梨「ふう、ヤレヤレだよ、全く」
み「ところでようやく総評にたどり着いたんですから、さっき言っていた『この作品と似た要素をもっていながら名作だった作品』ってヤツを教えて下さいよ!」
梨「あ〜、あれね。イヤ『殻の中の小鳥』だよ」
み「へ?」
梨「いや、へ? じゃなくてさ」
み「だって、アレって名作中の名作って言われてるヤツじゃないスか」
梨「うーん、確かに。ただ、何て言うか雰囲気の作り方とかさ」
 実際、「殻の中の小鳥」もメイドに性的接待をさせる事が裏の目的であり、言うなればキャラの二面性に注目を置いた作品だ。
 そして、時代背景がしっかり描かれていたり、それに沿った絵や雰囲気作りを徹底して行っている点も似ている。
み「じゃ、何が問題なんでしょ?」
梨「作品として、どこに重きを置くか、じゃねえかな?」
 要するに、あまりにもHシーンに比重を置きすぎなのだ、コレ。
 昼間の影絵亭のパートでもっとストーリーをちゃんと語る事も可能だったと思うのだが、あまりにも会話量が少ない上、物語の展開も唐突すぎる為、シナリオ全体が薄すぎる。
殻の中の小鳥」はカードゲーム部分のゲーム部分にストーリーを上乗せする事によって完成度を高めていったのに対し、「檸檬」はHシーンを中心にし、そこにストーリーを上乗せしようとしたまでは良かったが、それを上手に絡める事が出来なかったのだと思う。
み「ゲーム作る、っつうのも大変ですよね」
梨「そうよ、何でもいいから『ツクール』シリーズかなんかでゲーム作ってみ? いかに大変か分かるから」
み「梨瀬さん、結構あのシリーズやってますよね?」
梨「おうね! 最後までやり遂げた試しないけどね
み「ダメじゃないスか!」
梨「ま、いいじゃんね。さ、次はみっちんの番じゃないか〜」
「う゛」
「ドリル、まわしま〜す!」
「おがーーーーーー」
 
 
(梨瀬成)


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