このは☆ちゃれんじ!
 貧乳ではなくて微乳と言う。

1.メーカー名:ルージュ
2.ジャンル:ADVプラスSLG
3.ストーリー完成度:C
4.H度:C
5.攻略難易度:B
6.オススメ度:C
7.その他:微乳は果たして神話たりえるものなのか?


(ストーリー)
 転校初日、乙丸(おとまる)このはは、張り切っていくぞーと意気込んだのもつかの間、意気揚々と台所に下りた所で兄貴から「おまえは六年前の本物の乙丸このはの記憶を移植され、今日目覚めたばかりのホムンクルスだよ」とにこやかに告げられ大ショック!
 そして、ほとんど無い胸にさらにショーック!!
 しかも自分の体を維持し続ける為に、適度なエッチをしなきゃならないなんて超ショーック!!

 しかし持ち前? の明るさで家と学校にとけ込み、つつがなく生活は続く。
 六年の空白で同い年になった親戚の菜苗ちゃんに弄ばれ、兄貴のライバル(自称)が送り込んできた自分のプロトタイプと出会い、それなりに刺激的な毎日。

 人間じゃないあたしでも、けっこう楽しくやってるじゃん!
 でも、ちょっとあの人が気になるなぁ。


 このゲームはシナリオ進行はアドベンチャー形式で、そこにHシーンのシミュレーションパートをはさむ事によってゲームのメリハリを狙った意欲作。
 アドベンチャーパートはシナリオを分岐させる為にあり、これによって三本のルートに分かれる。
 選択肢は特に難しいものが無く、迷う事も無い為、とにかく話を読んでもらおうという意図が見える。
 また各所に入るアイキャッチは、このはの心情を表わすのと同時に話を細かく区切る事によって、きびきびした印象を与え、全体を引き締めている。

 シミュレーションパートは、このはが自分の体を保つ為に一日一回の一人エッチを、日の終りに行う事になる。
 別にパラメータの調整をしなくてもゲームオーバーにはならないが、各イベントを見たり、サブエンドを見る為にはこまめに調整をする必要があるので、それなりのやり甲斐はある。
 その一人エッチの内容は基本的なオナニーから、アイテムの使用・コスチュームの使用・妄想相手の使用? など、シナリオやイベントの発生によってその数を増やす。
 CGもHの選択回数によって増えていくので、すべてを見る為には数回プレイが必要なくらいのボリュームを持っている。

 会話時のキャラクターは登場人物1人につき2パターンほどしかないが、その代わりテキストの横に多彩なキャラの表情を描き込んでいる。
 それによりゲーム中に画面を描き直す処理を軽減しているので、ハード的にかなり快適にプレイできるメリットを得ている。
 それとは別に、イベントや会話のときに画面内に割り込む形で出てくる小コマのCGは、文章だけで笑わすのは手ぬるいと言わんばかりにディフォルメしたキャラを出している。

 読むだけでなく視覚的にも効果を付けるのは、明らかにウケを狙っている為。
 それはアニメによく使われる「キャラがとんでもない事を想像する場面」と同じ使い方で、文章を追いかけるだけでは得られない面白さを出し、結果的に「このチャレ」独特の感覚を醸し出している。
 それをフォローするように、文章はキャラの会話の後に必ずといっていいほどその状況を括弧をつけつつ解説しているので、どういう状況なのかが手に取るように解る。

 そして、珍しい事にこのゲームには主人公が存在しない。
 正確に言えば、プレイヤーがゲームの中で主人公として立ち回る為の、一個のキャラとしては存在していない
 プレイヤーはイコールこのはとなって、ゲームを進めていくのだ。
 その為、会話をはじめプレイヤーの取る行動のすべてはすべてこのはが行う事になる。
 それは、彼女の行動をプレイヤーに体験させる事で感情移入の度合いを高めるのと同時に、いつもなら必要なはずのプレイヤーとの余計なカラミを省くという、作り手側にとっての自由度を高くした。
 もちろんそれは、このはを自由に動かせるという事で、彼女はその期待通りキャラクターとして実に元気がいい。

 これらをベースに進行するシナリオは、それでも比較的難しくなく、クリアをする事が出来る。
 期間はおよそ夏休みまでの一ヶ月。

 エンディングはアドベンチャーによる基本の三つと、シミュレーションのみのシナリオに依存しない複数のサブエンドがある。
 サブの方は、各シナリオがクリアできなかったとき、パラメータでの条件が満たされていると自動発生する。
 自分でパラメータを調節する必要があるのでノーマルエンドとは別物だが、専用のCGは小コマのものしかない為、本筋に入れなかったときの為のフォローとして用意されたと考えられる。
 内容も「夏休みに遊び飽きたからエッチしましょうよ」とか「宿題が終ったからエッチするわよ」の様に、直接本筋に関わるものではない為、あくまでフォローにしか過ぎない。
 しかし、シュミレーションを挟む行為が必要とはいえ、このバッド・グッド・ノーマルではない別のエンディングの作り方は「全て本筋から分岐してつじつまを合わせなければならない」アドベンチャーのゲームスタイルとして一石を投じる様だ。

 攻略できるキャラクターは乙丸このは道法寺苑生(どうほうじ そのお)、鶴木千尋(つるき ちひろ)の三人。


このはシナリオ
 プレイヤーキャラの彼女は創られた存在である事と、胸がない事にもめげず日々の生活を送るが、そのうちに創造主の兄・貴英の事が気になって…。
 胸も頭も大げさな表情もすべてがからかい甲斐のある彼女は、先生の豊満な胸を頭に乗せられたり、友達の菜苗にない胸を無理やり揉まれたりする。
 家は家で、兄の新薬の実験をされそうになったり(結果的に被害に遭ったのは菜苗だが)、ホムンクルスである事を理由に兄妹らしからぬスキンシップを図ろうとする。

 基本的にこのはを悩ませるストーリーにしない事で、ほとんどどつき漫才のような感覚で話が進み、悲観的とも取れる内容を笑い飛ばしているところがいい。
 しかし、後半本物のこのはと対話する夢を見始めてから、オリジナルとは違う自分を探し始める事になる。

 兄はなぜ自らの研究を完成させるときに妹の姿と記憶を、しかも六年前で途切れたままで移植したのか?
 悩むこのはは、そこに兄の飄々とした普段の態度に隠された悲しみと絶望を知る。
 本来なら、彼女は創造主の兄に何を要求されても問題ないように造られてもおかしくなかった。
 しかし、そうしないどころか主に対し平気で暴言を吐き、星になるほど勢いよく殴り飛ばすほどの自由を与えられている。
 そこには、彼のそうしたかった願いが込められていて楽しい反面、越えられなかった、そして越えようとした為に崩してしまった関係に対する罪悪がある。
 それを、ホムンクルス・このはが理解しつつもあえて一歩踏み込んだ事で、彼女は自分が造られた事への意義を見出し、一歩前に踏み出す。
 オリジナルのこのははどうなったのか? など不明瞭な部分はあるが、造られた者が自分の存在意義を見つけ出す話として興味深い。
 記憶を共有するオリジナルとの夢での対話や、前半の自暴自棄と開き直りが背中合わせだった笑いから、同じ開き直りでも誰かの為に自分がいるという前向きな笑顔に変化していくところに注目すべきだろう。

 終始笑顔で、お涙頂戴を出さなかった事は評価したい。


苑生シナリオ
 このはが造られる前に研究・開発されていた、プロトタイプのホムンクルス。
 このはの兄・貴英と、そのパートナーの道法寺織人(どうほうじ おりと)が二人掛かりでほぼ完成までこぎつけたが、突如貴裕が研究資料を持って失踪した為、感情が欠落したままになってしまった。
 苑生は織人が貴英にライバル心を燃やしているだけあり、その教育の成果はこのはの能力を学業・運動・胸の大きさのすべてにおいて勝る。
 その事を自慢(織人いわく復讐らしい)しに貴裕を探し出したまではよかったが、能力を補って余りあるこのはの元気さ(と庶民度)にショックを受けた。
 そんな彼を尻目に、このは達と付き合う苑生は次第に自らの意思で行動するようになり、その行動はすべて織人の為のものだった。

 彼女のシナリオでは、このはは第三者になる為、寝る前のエッチを除けば通常のプレイヤー視点を持ったアドベンチャーゲームとなる。
 なぜなら、そうする事によって苑生と織人の関係を通し、このはを客観的に見せようとしているのだ。
 苑生はその姿を織人の思い出の中から見出された。
 彼女はそれを知りながら、思い出の人にはなれないという気持ちからか、学校での生活以外はすべてメイド服を着て織人と一線を引くように、しかし忠実に行動する。
 「私はどうすればいいのでしょう?」と、ホムンクルスという造られた存在がその意義を模索する。
 苑生の場合、姿形は同じでも別の人として織人のそばにいる事を望み、その行動は奇異ながらも実は常に努力を行っていた。
 画面の動かないキャラではわかりにくいが、小コマやテキスト脇のキャラがデフォルメされている為、シナリオが進むとだんだん彼女の感情が豊かになっていくのが判る。
 忠実なだけではなく、時には喧嘩もできるようになり、最終的に織人と苑生は想いが通じ合う事で解決を見る。

 しかし「ホムンクルスと人は同じ時間が与えられているわけではない」という織人の言葉がさすように、二人のその後が開ける事に対する疑問が残される。
 誰をクリアしてもその疑問が晴れる事はなく、かといって暗いままで終わる事もない。
 苑生のシナリオだけでなく、ほかでも部分部分に見られる「人とは違うもの」としてのさりげない主張は、あくまで彼女達が創られた存在である事を最後まで主張する為の伏線に過ぎない。
 しかし、この為に決まったペアどうししかないストーリーはそれぞれに味のあるものとなった。
 このシナリオは、苑生と織人の関係がこのはと貴裕の関係と近い事から光と影のようなイメージを受ける為、苑生のシナリオとこのはシナリオがまったく重ならない事と併せて、このほのシナリオと二本でワンセットとして作られたと考えられる。

 最後のシーンで苑生が私服を着ていたのは、織人と対等の存在として互いを認め合った証拠。
 このはも、夢の中のオリジナルこのはとの会話で自分という存在を認めるくだりを描いているが、より直接的な表現の苑生の方が、もしかしたらこのはよりも幸せかもしれない。


千尋シナリオ
 学校の中でたまたまぶつかってから知り合いとなる、女の子のような姿をもった男の子
 このは・苑生シナリオが共にすべて関係者で固められているのに対し、このシナリオだけは完全な部外者の千尋が中心となって話が展開する。
 別に、女装の趣味があるわけではなく、性同一性障害でもない。
 そこには、女の姿でしか自分を見てもらえない家庭の事情があった。
 もちろん、当の本人が不良に絡まれているこのはを見て「僕も遊ぶ」といってしまうほど、感覚的に幼い事がそれを続けさせる一因でもある。

 千尋は、姉が亡くなったショックで立ち直れない母親の為に、女っぽい格好をしなければならなかった。
 彼は女の子の格好をする事で、元の自分という存在を押し殺しているのだ。
 その象徴が髪の毛で、その長さは自分を押さえてきた年月を物語る。
 造られた女の子と女の子を形作る男の子。
 このはは、そんなどこか他の人と違う雰囲気にひかれたのか、この話では積極的になっている。
 千尋もそれに応えるように、男の子扱いしてくれたこのはに対し母親の為に伸ばしてきた髪の毛をばっさり切り、男の姿で彼女を迎える。
 そんな二人を見て、貴英は千尋にこのはをたくし温かく見守る事になる。

 彼ははこのはを何の為に作ったのか? それは彼女が選択した答えで正しかったのか? 
 結局語られる事は無いが、自らの望んだそれと恐らくは異なる答えを見つけ出した彼女を見る貴英の寂しさは、このはシナリオをクリアしているとよく解る。
 千尋といる事が自分の存在理由だと判ってしまったこのはは、兄から離れていくしかない。
 そんな独り立ちのドラマがこのシナリオにはあり、単独の話として先の二本に劣る事はない。

 ところで、このシナリオはどうしてもショタ系な人に向けられている気がしてならない
 なぜなら、まず千尋が女の子のような男の子だという事、そして犯す(言い方が悪いが)このはがボーイッシュだという事。
 あるイベントで、性欲が暴走しそうなこのはが思わずその場にいた千尋を相手にしてしまうものがある。
 「女」のこのはが「男」の千尋に手を出すのだから構図としてはノーマルだが、外見が逆な上千尋が男だとシナリオに入るとき主張しているので、見てくれが「男っぽい」女の子と男だとわかっている女っぽい「男」になり、かなり不思議に見える。
 もともとゲーム自体が明るい方面のものだけに、適応範囲の幅を広げる狙いがあったと考えて間違いはない。

 シナリオは三本と少なめだが、自分の存在意義という一貫したテーマによって統一感がある。
 このはという「造られたもの」が主役の為、主人公として造られていないプレイヤーは「なぜ主人公がいないのか?」というプレイヤーの存在理由を自らに引き出す事になり、存在理由というゲームキャラと同じ疑問を共有する事になる。
 オリジナルのこのはや苑生はその後どうなったのか? といった疑問は抽象的にしか語られないが、それはプレイヤー自身で決めてくれという事だ。
 全体的に、読むというより感じるタイプのゲームといえる為、主人公を通してプレイヤーを引き込む他のゲームに比べてより身近に感じられるところが実に印象的だ。


 本作は特徴的な部分が多い為か、問題点も目立つ。

 もっとも大きいのは、一番の特徴であるシミュレーション部分がアドベンチャーからほぼ完全に遊離している事。

 このゲームのイベントは、キャラ固有のもの以外すべてこのはの一人エッチによる性? 長の度合いによって発生する。
 しかし、それらは個々のシナリオに必要なものではない為、無理に発生させる必要がない。
 さらに、キャライベントはそれぞれのルートを維持する為の選択肢を選んでいれば勝手に発生する。
 その為、言ってしまえばシミュレーションがなくても問題なく成立してしまうのだ。
 逆に、複数のイベントが同時に発生する条件を満たしている場合、その優先順位によってキャライベントをずらしてしまう為クリアできないという迷惑な事態が起こってしまう。
 その影響なしに、パラメータが直接シナリオに関わるのはこのはシナリオのみ。
 しかも、それは「だれの事考える」「お兄ちゃんと」というパターンを選択し続けるだけでクリアできる為、シュミレーションの役割どころか選択肢にもなっていない。
 あとはCGやイベントを回収する手間が残るだけ。
 もう少しうまく絡める事ができなかったのだろうか?
 たとえば、パラメータが上がる事によって段階的にクリアに必要なイベントを発生させていくとか、最後のクリア条件が一定のパラメータを満たす事であったりと、考えようはあったはず。
 そして、サブエンドは優先順位を低くしておいて、そのまま各キャラのクリア条件を満たさずにパラメータを上げたら入れるようにすればいい。
 もちろん、あまりにパラメータと複雑に関連させるとそれこそ作るのもクリアするのも大変な事になるが、やはり幅を持たせる作りにしてほしかった。
 結局、シミュレーションとして役に立っているのはサブエンドを見る事だけだが、これもアドベンチャーパートに選択肢をつけるだけで代用できてしまう。
 エッチのバリエーションが豊富でも、完全に切り離されているのでは意味がないから、いっそおまけのミニゲームとして単体でつけておいたほうがそれだけに集中できていい。

 そして、イベント。

 イベントは上記した通り、キャラ固有のもの以外シミュレーションのパラメータによって発生(一部限定条件あり)し、直接的にシナリオに関与するものがほとんどない。
 その内容は、シミュレーションでエッチに使える道具が増える・妄想の相手が増える・コスチュームが増えるなどの選択項目が増えるものや、巨乳に(一時的に)なるなど笑えるものもある。
 しかし、このはの時はシナリオ継続の為、これらを基本的に無視する事になる。
 後の二人は比較的自由にシミュレートできるが、アドベンチャーパートの選択肢を間違えなければ必要なイベントが勝手に発生し問題なくクリアできてしまうという単純さの為、イベントをわざわざ起こす必要がない。
 なにより、イベントはこのはの絡むものばかりの為、他の二人にとってはイベントの意味すら薄い。
 どうせなら、何の脈絡がなくてもこのはのパラメータによって二人それぞれ固有のイベントを入れておいてもよかったのではないだろうか?
 いくら話の中心がこのはだとはいえ、みんなちゃんとエンディングを用意されて立派に独立しているのだから、シミュレーションをするのがこのはだけだから他は要らないようなスタイルでは全体として片手落ではないか。
 イベントがないと、学校での日常会話や兄との会話など、内容は面白くてもありきたりのものでしかない為、そのバランスを考えてほしかった。

そして選択肢。

 シミュレーションは文句無し。
 このはが徹底的に一人エッチをしまくる分、水着・体操着のコスプレや、そのテの道具といった細かなところまで対応している。
 ボールペンのような小道具はなかなかの盲点だ。
 しかし、アドベンチャーパートになると一転、大変な事になっている。
 なんと、「なにしよっかな」「次の授業なんだったかな」「たまには大人しく」「教室にいよっと」「どこかにいこうかな」という五つの選択肢しかない
 しかも、ひとつでも間違えばイベントがずれ込むという厄介な問題まで持っている。

 もちろん、ずれてしまえばクリアはほぼできないのだから、じゃあ何でアドベンチャーの部分を作ったの? という基本的なゲームの構成に疑問を持たざるを得ないのだ。
 まさか、存在意義というテーマをゲームの出来にまで持ち込もうとしたのか? とは思いたくないが、とにかく一日一回か二回出てくるだけなのにわずらわしくてしょうがない。
 違った選択をしないようにではなく、カーソルをずらしてしまうような物理的ミスに気を使う方が圧倒的に比重が大きい為、それこそ無駄なところでストレスがたまる。
 アドベンチャーの意味合いが少ないなら、いっそ「誰に会おう」という選択肢にしたほうがル−トのミスもストレスも少ない分いくらかましだ。

 笑いの中にはっとする場面。
 徹底的な一人エッチ。
 単純にして意外と細やか。

 二つの融合にはまだまだ遠いが、ばたばたした日常を楽しみながらプレイすれば問題は無い。
 微乳をはじめ、よりボーイッシュな事も、プレイヤーという第三者の視点が無い事も、他のゲームと比べて変り種だった。
 その意味だけでも十分に存在意義のある一本だろう。


(総評)
 とにかく主人公をどう見るかで、プレイヤーのプレイ意欲が左右されると思う。
 なんといっても、これだけ胸の無い主人公(メインヒロイン)は皆無。
 それでも人間なら成長する希望も持てるが、ホムンクルスが成長するとは思えないのでかなり可哀相な話だ。
 だからこそ明るい話にしたのだろうが、システム面で悔いが残る作品となったのは残念だ。
 このゲームが明るいのは、もちろんこのは一人だけではなく登場人物がユニークなところにある。
 マッドサイエンティストの貴英や、復讐をするつもりの実はお人好しの織人、ぬいぐるみのミミタンや忍者のごとく菜苗に付き従う執事の西泉など個性的なキャラばかりで、そのどたばたは見てて面白い。

 そんな彼らが時折見せる静かなシーンが印象的で、そうしたキャラのバランスのよさがシステムをカバーしているから、差し引きゼロで問題無く見ていられるのだ。

 なんといっても注目したいのは、このはの従妹だった日御子菜苗(ひのみこ ななえ)だろう。
 このはは六年前の姿と記憶で造られた。
 その時の菜苗は、このはの後ろをついてくるまだ幼い子供だった。
 それがいきなり同い年になって現れ、親友となった事は、このはにとって戸惑いつつも嬉しい事だっただろう。
 しかし、本当にうれしいのは菜苗だったに違いない。
 はじめは、小さいころ遊んでいたお姉ちゃんがある日遊びにこなくなって泣いていたかもしれない。
 しかし、六年の歳月とお金持ちである家が支えとなって、高ビーで高慢だが強い精神を作り上げる事ができた。
 当然、その間にお姉ちゃんに起こった事、その兄がしてる事を知ったに違いない。
 そして、ホムンクルスのこのはが生まれた日、嬉しくて通り道の公園で待っていたのが、ゲーム直後のシーンに繋がる。
 大好きだったお姉ちゃんと一緒に肩を並べる事ができる。
 対等に遊ぶ事が出来る。
 なにより、六年前の状態がベースだから、その間に「人が変わった」なんて事がない。
 菜苗がゲーム中頭をグリグリしたり、微乳を弄んだりするのは、自分の小さい頃の記憶と何一つ変わっていない姿に親近感を感じているから。
 そして、このはは思ったとおりの反応をし、自分を小さい頃の記憶をもとに子供扱いしようとしない、菜苗にとって理想的なパートナーとしていてくれる。
 顔や態度には表さないが、時折話すまじめな口調に、このはへの感謝が込められている気がする。

 このはシナリオで、菜苗が好きなのは実は貴英だった事がばれてしまう。
 しかし、だからといって強引に貴英を奪う事はなく、このは誕生の過程を知っているだけに、「自分は妹だからと」遠慮するこのはと大喧嘩してまで逆にこのはを後押しし、自分はこっそりと涙を流した。
 妹の記憶を持っていてもホムンクルスなのだから兄妹じゃない、だからタカびー(貴英)を好きになってもおかしくない。
 このはが造られたものとしりつつ、そのちゃちな言い訳を吹き飛ばし、一個人の存在を認めているからこそ菜苗はこのはと喧嘩したのだ。
 もちろん、このあたりはゲーム中で描かれてはいない。
 しかし、西泉の「ロマンチストですがだがリアリストでもあるのです」というセリフが彼女の奥深さを物語る。
 最終的に、彼女はその西泉と懇意になるようだが、サブキャラとして動かすだけでなく一本のシナリオを持たせても面白かったかもしれない。
 菜苗がいるからこそ、このはの世界が成り立っているといっても過言ではない。

 キャラクターが生き生きと動くこのゲーム、クリアに対する手応えを必要としなければ、そのどたばたとささやかな感動で十分満足させてくれるだろう。
 個人的には菜苗のようなキャラクターが男の子や女の子を懐柔するようなゲームを出してくれると面白いものになりそうなんだけど、果たして次の作品はどんなものなのだろうか?


(Mr.BOO)


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