恋姫 K・O・I・H・I・M・E
 

 三月某日…
「…さてと、CD-ROMも完成した事だし、そろそろホームページ用の新作の評論を書かないとね。鷹風虎徹氏から催促も受けたから、では“ちんくるレビュー”でも始めますか!」
 
 …カシャッ、ヅィーン……(←CD-ROMドライブ稼働音)
 
《HD容量が不足しています》
「…ぎゃーっ!!(←楳図かずおの恐怖漫画調で)」

 
 すでに限界に到達しようとしている我が3GBのHD!
 次回は果たして大丈夫なのか?
 …という訳で、今回は容量約300MBのリメイク版『恋姫』です。シクシク…
 
1.メーカー名:ELF
2.ジャンル:マルチED型ADV
3.ストーリー完成度:C
4.H度:C
5.オススメ度:DOS版プレイ済みの人にはD、これからの人にはC。
       TV版「下級生」でキャラデザが気に入っている人には、B。
6.攻略難易度:B。ただしDOS版プレイ済みの人にはD。
7.その他:一応、知らない人のために。
 本作は、'95頃に“Silky's”ブランドで発売された同タイトルのリメイク版です。
 そちらについては『九拾八式・極』で詳しく扱っているので、興味のある方はそちらを参照してみて下さい。
8.鷹風虎徹度:今回は雪女の“まゆき”で決定! 的中予想150%(爆)
 (「滅殺!!」:BY鷹風虎徹)
 
(ストーリー)
 学生・佐々松小十郎は、十数年ぶりに故郷の田舎に帰ってきた。とはいっても、夏休みの間だけなのだが…。
 幼少の頃を過ごした懐かしい風景と、優しいお婆ちゃんが、彼を迎え入れてくれる。
 しかし奇妙なことに、自分には全く記憶のない、けれどこちらを良く知っているらしい4人の少女と出会う。
 田舎の過疎化が進み、小十郎が住んでいた時、同い年くらいの子供は誰もいなかったはずなのに…。
 だが、おぼろげながら小十郎自身にも、幼い頃子供達と遊んだらしい記憶があるのだ。
 小十郎と、彼を巡って4人の少女達の、ドタバタで楽しい日々が始まった。
 しかし彼女達には、悲しくもはかない秘密があったのだ……

  (「九拾八式・極」“恋姫〜MisticPrincess〜・後藤夕紀担当”より転載)
 

 いやいやまいった。まさかまさかこれがリメイクされようとは…。
 それも、激動の90年代最後のELF作品とは…。
 なんだかよくわからないけど、とりあえず驚愕させてもらいましたよ、ハイ。
 朧気ながらもDOS版の流れを覚えていたので、それに従ってプレイ。
 結果、やはりグランドエピローグとも言える“終了番号・十四”に、初プレイで辿り着く事が出来ました。
 …で、一言。
 
 「なるほど、予想通りストーリーはまぁったく変わっていない
 
 よって今回は、DOS版との比較を中心にまとめたいと思うです。
 
 “恋姫”は我々スタッフの間では比較的評価が高いソフトで、辛口批評で有名(?)な女性ライター・柏木悠里氏も舌を巻いていた。
 “田舎”という、あまりゲームの舞台に使用されない要素を中心に添えて、人間の主人公と、それを慕う4人の妖怪のお姫様達のドタバタ恋愛エピソード。
 話を要約して人に伝えると結構ありがちなものに聞こえるのだが、実際にプレイしてみると、その舞台“田舎”というものの表現力と、良い意味で素朴な雰囲気、そしてとても和やかな演出と音楽・背景美術のパワーに圧倒される。
 これは普通の現代が舞台のゲームでは欠点として捉えられてしまう部分であっても、何となくボヤけてしまい、どーでも良く感じられてしまう気すらする。
 全体的に“お伽噺”的な雰囲気が漂っているためか、どこか浮世離れした感があるのだが、本作はそれをうまく活かしている。
 練り込まれた世界観が違和感無く伝えられ、日本人である我々が心の何処かで知っている、古き良き時代の田舎の良さ…今は失われて久しい感傷が、モニターの中に再現されていく。
 「こんな超弩級の田舎、今時何処にもあるわけねーだろ」と頭では解っているのだけど、それでも引き込まれてしまう何かが、このゲームの舞台にはある…。
 これは“恋姫”が誇る立派なオリジナリティであり、最大の魅力だった。
 DOS版が発売されてから今日に至るまで、私はこれを越える“田舎舞台ゲーム”を見たことがない。素直にそう思う(勿論、それ以外の良さを誇るゲームは多々あった訳だが…)。
 
 さて本作は、リメイクにあたっていくつもの疑問点を、我々ユーザーに抱かせた。
 まず第一に、完全に描き変えられたCG&キャラクター
 そして、リメイクによって発生する“変更点”…だいたいこの二つがそうだろう。
 今回のキャラクターデザインは、TV版「下級生」のキャラデザを務めた渡辺真由美氏。正直言って原型をほとんど止めていない新デザインに、難色を示した人は確実にいた。
 また某雑誌のインタビューから、渡辺氏が「DOS版の事を全く知らない」という事実が判明し、DOS版に思い入れのある人を益々不安がらせた事だろう。
 しかし実際にプレイしてみたら、さほど違和感を感じない。
 背景から何からすべて(当然だが)描き変えられているためか、新構成の画面にはまた新たな魅力が感じられる。初めに戸惑う事はあっても、慣れてしまえばあまり苦を感じずに進める事が出来るのではないか、と思う。
 個人的な感想になるが、あんずと、髪を解いた朱雀についてはリメイク版の方が好みだったりする。
 んで、よくよく考えてみたら前作は“場面によってキャラクターの顔がコロコロ変わる”という難点があった事を思い出した。
 アレについてはかなり手厳しい評価をせざるを得ない程で、せっかくの良さを台無しにしていたものだ。
 さすがにそういった欠点は、本作にはない。
 また、4人のヒロインが妖怪の正体を現した時の姿も、基本的に人間時のデザインの色変え程度に止めたため、DOS版の様な「なんだこの天狗版朱雀は!? 全然別人じゃんか!」という事にはならない。
 ただ、デザインについてはプレイヤーそれぞれの思い入れがあるから、決して「コレでよい」と断言は出来まい。あくまで私や、私と同じレベルの嗜好の方ならば受け容れられる程度のものだったという事だ。
 それぞれのキャラクターはまたも表情豊かに描かれており、とても魅力的である。
 隠れ里の、ヒロイン達の親達も個性溢れる存在であり、とても好感が持てる。
 特に、まゆきの母などはさらに魅力度UPという感じで、実に良い。
 男性キャラでは、緒方賢一演ずる“朱雀の爺ちゃん”ですかね?
 声を聴いてて思わず「おをっ、獅子王博士ぇっ!」って感じになれる(嘘)。
 
 前作は、前半“田舎編”の雰囲気や演出が好評だったのに対して、後半の“隠れ里編”に難色を示す人が多かったらしい。
 ADVであるにも関わらず、なぜか3DRPG風の戦闘モードに入らなければならない所があり、その違和感は凄まじいものだった。
 また4人のヒロインが、前半の素晴らしい描き込みに対して後半はほとんど描かれず、単なるHCGの素材と化していたという問題もある。
 そしてこれらの不安要素は、丁寧にすべて受け継がれていた
 しかも、わざと(?)負けて再戦を繰り返し、レベルを上げていくという意味不明の行為もそのまま。この部分がリメイクにあたってどう変えられるか楽しみにしていた私としては、正直肩すかしをくらった気分だった。
 …だけど、実際に戦闘シーンに入ってみて、大笑いさせられたのだ(笑)!
 本作の行動コマンドは、画面中央下に表示されている“2頭身の主人公の身体の部分をクリックする”というものに変更された。
 つまり、「見る」なら目をクリックし、「移動」なら足を指示する。状況に合わせて必要な部分しか表示されないので、あまり無駄な選択をする必要がない。
 で、戦闘シーンになるとこの2頭身がボクサー風のスタイルとなり、使用技を連想しているフキダシをクリックする。
 HPが減るとだんだんグロッキーになっていき、敵の攻撃を受けると、画面全体にブッ飛ばされる主人公の醜態がさらし出されるのだ!
 これは見ていて楽しいし、やっている事はそれまでの行動選択と変わらないから、さほど違和感を感じなくて済む。
 なるほど、やっぱり解っていたんだね!
 
 声というファクターが追加された事により、キャラクターそれぞれのインパクトはさらに際立った。
 主人公の名前が変更可能なため、その部分だけ沈黙されるのは悲しいが(デフォルト固定にすりゃいいのに!)、ミスキャストもなく非常に嬉しい演出も加わっている。
 特に朱雀の怒りや、あんずの「お兄ちゃん」攻撃は、破壊力抜群だ!
 
「お兄ちゃん…あんずじゃ、駄目なの…?」
 
 この台詞で、恐らく20万人は堕ちたと見たが、いかに(笑)?!
 ヒロインのみならず、彼女達の親…部の長達の存在感も強調され、その少ない出番に反して、強いインパクトを与える。
 特に、DOS版を知っている人は必聴だろう(笑)。
 龍王なぞ、初登場とハッピーEDの際のギャップを楽しんで欲しい。
 ところでこの声優さんて、まさか「ミスター味っ子」の甲来軒の甲山さんでは…?
 とにかく、さすがはELF! と思ったのが、声優が豪華だという事。
 家庭用ゲームと同じか、それ以上かもね。
 うーん、声優リストが欲しいぞい!(求む、情報)
 

(総評)
 新規で購入する人にはオススメしてもいいソフトと、結論付けよう…と思った。
 しかし、よくよく考えてみるといくつかの不安がある。
 まず、どうしようもない問題点として「ゲーム性が古すぎる」というものがある。
 これは過去の作品の中枢をそのまま継承したために発生したものだが、果たしてこの内容で、WIN95以降にH系ゲームを始めた人をも満足させられるか…というと、それははなはだ疑問である。
 これはDOS版プレイ時にも考えていた事なのだが、「恋姫」の場合は“ELF色(またはSilky's色)”を盛り込む必要はなかったのではないか…同社の他のゲームの様に、物語の途中に女の子と結ばれる展開を入れるのではなく、物語の結末に至ってようやく結ばれるという展開の方が良かったのではないか? …と思うのだ。
 これはつまり『WITH YOU』や『To Heart』などの恋愛系等と同じという意味になってしまうが、本作はこんな変わった設定を持っていながらも、さりげに恋シュミテイストが強い。
 恐らく新参ゲーマーで、DOS版を知らない人が本作をプレイしたら、やはりそういうものを求めてしまうだろうと思う。
 そうなると、途中でいくつもHを絡め、しかもそれのいずれも“真剣”にならなくてはならず、さもないとベストEDに行けないという展開は、今時の恋シュミに慣れた人には辛くはないか?
 恋シュミプレイヤーには「一途派」が多いと聞くけど、基本的に「一度になるべく沢山! できれば全員!」派であるELFの意向は、そろそろ時代とズレ始めて来ているのではないか…なんて考えてしまった。ま、本作については3割ほど差し引いて。
 国宝級の優柔不断である主人公というのが物語の核になっている訳だから、あまり大きく変更を加える事は出来まい。
 しかし、もう少し近年のゲーム風にアレンジを加えても良かったのではないかな…? と。
 各ヒロインとの結びつきの演出をさらに濃厚にして(H以外でね)、イベント等を増加し、もっと各ヒロインの印象をムラなく整え、その上で最終決断を主人公(というよりもプレイヤー)にあえて迫る…とかでも良いのでは? なんてね。
 リメイクは結構だし、その出来も悪くはないのだけど、それでは逆に「今、リメイクする必要があったのか?」という事にも繋がりかねないのだ。
 実際問題、「恋姫」のリメイクを望んでいた人は少なかったと思う。断定は出来ないが。
 それは、「恋姫」がリメイクの必要のない程の完成度を誇っていた事にも繋がる。
 以前のバージョンが、惜しい所でユーザーの不評を買ってしまっていたというならばリメイクの意図も解ろう物だが。
 まぁ、リメイクというのにはもう一つ「過去の名作を現代に復刻する」という意味もあるわけだから、一概にどうこうは言えないんだけどね。
 
 本作は、新規でプレイする人よりもDOS版プレイ済みの人の意見が幅を効かせるものである事が、ハッキリ目に見えている。
 プレイヤーの思い入れが集中しまくったソフトだけに、完成度を決定付ける事だけは出来ないだろう。
 ただ、一度偏見をなくして触れてみるべき…とは思う。
 それだけの価値は、充分に持っている秀作だ。
 
 
(後藤夕貴)


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