knot 〜絆の魔法〜
  好きになった彼女は魔法使い〜

1.メーカー名:feng
2.ジャンル:ADV
3.ストーリー完成度:C
4.H度:D
5.オススメ度:C
6.攻略難易度:E
7.その他:バグ多いって


(ストーリー)
 魔法という存在が認められている世界。
 自称万年暇人の主人公「浅倉鷹也(名称変更化)」は、クラスメイトで幼馴染の「津和野(つわの)ひかり」と「稲葉由縁(いなば・ゆえん)」の口車(主に由縁だが)に乗せられて、魔法研究会の部長に任命されてしまう。
 現在、ひかりと由縁以外に魔法研究会に在籍している部員は、卒業間近で幽霊部員の三年生「硯美知晴(すずり・みちはる)」と鷹也達のクラスメイトで居眠りばかりしている「高柳美弥(たかやなぎ・みや)」の二人で、それに鷹也達を加えた五人で構成されている。
 しかも魔法研究会と銘打っておきながら、実際の活動内容はお茶や雑談ばかりという魔法とはまるで関係のない事をやっているお気楽サークルなのである。
 渋々ながらも部長を引きうけた鷹也だったが、なんとか新入部員を獲得しようと奮闘し始める。
 そして、ひょんな事から知り合った一年生「幸村小姫(ゆきむら・こひめ)」と「有藤鈴香(ありとう・すずか)」が部員に加わり、鷹也の波瀾に満ちた不思議な毎日が始まるのだった。


 このゲームはヒロイン達と交友を深めて行く事によって、シナリオが進行するADVとなっている。
 システムも一般的なADVと同様のものとなっており、街と学校内の二箇所のマップ上から目当てのヒロインが居る場所に移動して会話をするようになっている。
 だが、マップ上に表示される各ヒロインのアイコンが魔法を発動させる時の色で表示されているため、それが判っていないと誰がどこに居るか判らないのでその辺が少し不親切に感じてしまう。

 次に世界観設定に関してだが、このゲームでは「魔法」というものが日常に受け入れられているという認識の元で世界観が構成されているのだが、イマイチそれがストーリー中から伝わってこない。
 この世界に存在する魔法は、RPG等に出てくるような攻撃的なものではなく、童話等に出てくるような不思議な力に分類されるタイプの魔法なので、それが使える者は本来ならば珍しがられるか恐れられるはずなのだが、ストーリー中ではそれらに分類されるような描写は成されていないのだ。
 異世界を舞台にしているならば特に説明は必要ないかもしれないが、このゲームは「魔法が認識されている現実世界」という世界観の元に構成されているのである。
 一応、ゲームをインストールした際に一緒にインストールされる説明ファイルには世界観説明としてその旨が表記されているが、そういうネタバレ的要素を含んでいない世界観説明はオープニングなりで主人公の独白などで明確にしておくべきだろう。

 ストーリーは大別して二種類に分けられており、ひかり・由縁・美知晴・美弥は魔法を使える原因となった駅前のオブジェに関系した展開となっている「オブジェ編」、小姫・鈴香はそれぞれ自分が持つ魔法とコンプレックスに関係した展開となっている「個人編」の二種類に分けられている。
 更に、小姫を一度攻略した後で小姫シナリオに選択肢が追加されて、そこから分岐する樹シナリオがオマケとして用意されている。
 個人編は巧くまとまっているのだが、それに反してオブジェ編だけは唐突感だけが目立ってしまった。
 詳しい評価は各ヒロイン毎に行うが、ストーリーの中核を成すべき筈の駅前のオブジェの存在がひかり以外のヒロインのシナリオではイマイチ巧く生かされていないのである。
 ひかり以外のヒロインのシナリオでは、オブジェがシナリオに登場した時点で何の脈絡もなく突然シナリオに絡み始めてシナリオの中核を成す存在となってしまう。
 そのため、本来ならばプレイヤーをシナリオの核心に導く存在であるはずのオブジェが、逆にプレイヤーを完全に置き去りにしてしまうという致命的な失敗を犯してしまったのだ。
 少しでもオブジェに関して序盤なり中盤でフォローがあれば、プレイヤーはオブジェに対して「何か秘密が在るに違いない」という認識を持ち、後半の各ヒロイン毎の展開でオブジェがシナリオにスムーズに関われる土台を作る事が出来たはずである。
 それをしていないために、シナリオに取り残された形となったプレイヤーには唐突感だけが残り、後のシナリオに対する牽引力が大きく損なわれてしまうという結果を生み出してしまった。


(オブジェ編)
(津和野ひかり)
 普段は人当たりも良くのんきでマイペースなのだが、幼い頃に良家の子女という家柄の所為で周囲から特別視されてしまい、結果疎外され寂しい思いを味わっっていた。
 そんな嘗ての自分と、同じ寂しさを現在も味わっているオブジェの心を癒すためにオブジェの中に取り込まれてしまう。

 ひかりシナリオにおけるオブジェの役割は、自分という存在を知って欲しいために魔法をこの世界に生み出した存在となっている。
 オブジェ編に共通して言える疑問点である「何故オブジェにそんな存在が居るのか?」という部分は共通して明かされていないが、別段その辺は気にならない内容になっている。
 自分の過去の境遇と体験からオブジェに同情して、自分を生贄として差し出す下りはどうも考えが足りないというか勢いだけでやっているのではないかという印象しか受けない。
 だが、周囲の者が気付かなかったオブジェの寂しさを、過去に同様の体験をしているひかりが知り得たというのは巧い演出だ。
 けれども、鷹也にオブジェの事を教えておきながら、他に魔法の使える者にはオブジェの事を教えていない理由が納得出来ない。
 自分しかオブジェの中の存在を感知できないというならば納得できるのだが、そうではないのでオブジェ自身の寂しさを無くしてやりたいならば、もっと沢山の者にオブジェの存在を広めてやれば良いだけの話である。
 それをひかりがしなかったのは、一重に「オブジェの事は自分だけの秘密」としていた事が原因なのである。
 ハッキリ言って自業自得としか言い様が無い。
 それで事情を知らない周囲に迷惑を掛けているのでは呆れてしまうしかない。


(稲葉由縁)
 鷹也を魔法研究会の部長にした張本人であり、日頃から日常的な事やくだらない事に魔法を使っている。
 そんなある日、最近流行りだした「魔法を使える者が突然記憶を失うという原因不明の奇病」が由縁を襲い、記憶を全て失ってしまう。

 由縁シナリオにおけるオブジェの役割は、魔法を生み出しそれを行使する者から魔法を使う代償として思い出を奪う存在となっている。
 しかし何の前振りも無くオブジェが唐突に登場し、由縁の記憶を奪ってしまう所為でストーリーに厚みを出す事に失敗をしてしまった。
 確かに突然襲い掛かる不幸という演出は出来るかもしれないが、これではご都合主義的な印象しか受けない。
 更に悪い事にオブジェの中の存在が、どうして「思い出を必要としているのか?」という説明が一切されていない。
 オブジェの言い分を聞いていても、どうしても思い出を奪う必要性が感じられないのだ。
 もしも、オブジェが自分の存在を維持するために他者の記憶を奪うしかないというのならば充分納得できるのだが、そういった理由は全く無く記憶を奪う必要性が実に曖昧にされている。
 これではオブジェの存在自体が不要となってしまう。
 これならオブジェを登場させずに、魔法を使い過ぎると記憶を失ってしまうとしてしまっても不都合が無いように思われる。
 ラストはラストで「人間の絆の強さを知ったオブジェは、自分はこの世界には必要無いと悟り人々から奪った記憶を返して、別の世界へと旅立って行った」となるのだが、これではオブジェが一体何なのか全く不明なままである。


(高柳美弥)
 いつも居眠りばかりしているのんきな少女で、召還魔法を使う事ができいつもにゃんたと呼ばれる子猫を召還して一緒に行動している。
 そんなある日町中から猫が突然居なくなってしまい、美弥は猫が消えた原因を調べ始める。

 美弥シナリオにおけるオブジェの役割は、美弥が幼い頃飼っていた黒猫の魂が美弥が自分が居なくても寂しがらないようにするために、美弥に猫を召還できる魔法を使えるようにした存在となっている。
 このシナリオには実は前提からして大きな失敗がある。
 それは、美弥が「幼い頃に居なくなった黒猫の事を殆ど気に掛けていない」のである。
 オブジェの中の黒猫の魂は、美弥に対する試練として猫を居なくしたりにゃんたを怪物に変えたりしている。
 それらの試練は全て美弥が「大事なものを失った悲しみに耐える」事が出来るようにするためなのだが、それをやる理由は理解できるが必要性が全くないのだ。
 美弥に試練を課した理由は、黒猫自身が居なくなった際の美弥の悲しみを知っているからそのような悲しみを再び味わった際にそれに耐える為なのだが、実際には黒猫の事が美弥の口から語られるのは猫達が居なくなってからである。
 もしも美弥が黒猫が居なくなった事で心に大きな傷を負っていたのならば、その悲しみを漂わせるようなキャラクターにしなければならない。
 だが、美弥は悲しみを持ったキャラクターというには不充分なほどのんびりとマイペースに行動している。
 ハッキリ言って、こんな試練を課す必要性がまるでないのである。
 そもそも普通に生活している状態では全く問題無いのに、無理矢理弱さが露呈する状況を作り出してその弱さを克服しろというのは余りにも強引過ぎるとしか言いようがない。
 そのため、このシナリオで起こった事件は黒猫の自己満足な使命感を満たすためだけに起きたとしか感じられなかった。


(硯美知晴)
 魔法研究会の幽霊部員である美知晴は、数少ない治癒魔法の使い手である。
 だが、自分自身の病弱な体を癒せないその力を歯痒く思っていた。
 そんなある日、美知晴は自分の体と治癒魔法の残酷な秘密を知る事になる。

 美知晴シナリオにおけるオブジェの役割は、土地を守りその土地で生まれた弱い命を助けている存在となっている。
 このシナリオも、オブジェの存在が唐突としかいえないように扱われている。
 オブジェの庇護の元に生きている美知晴は、オブジェの力の及ぶ範囲である雪城町の中でしか普通に生活する事が出来ないのである。
 そのため、雪城町から外に出るとオブジェからの力の供給が絶たれるために、命の危険に陥るのだ。
 しかし美知晴はその事実を知らず、ただ理由は不明ながら雪城町から外には出られないという事だけしか知らないのだ。
 そして、鷹也と共に雪城町から出ようとしたときに初めて、オブジェからその事実を告げられるのである。
 何故、鷹也と居る時にその事実を知らされたのかという理由は、オブジェが美知晴の性格を知っているからこその当然の選択なのである。
 もしも以前に町を出ようとして失敗したときの美知晴に教えたとすると、美知晴はその事実に絶望し生きる事を諦めてしまう可能性があるからだ。
 その予測を裏付けるように、自分が町から出られない本当の理由を知った時の美知晴は自暴自棄になっていた。
 そしてもう一つの重要な理由として、自分の代わりに美知晴を支える事が出来る人間が現われるのを待っていたと思われる。
 鷹也が選ばれた理由は、美知晴と同様に治癒魔法が使えるからなのである。
 ここで初めて、「鷹也は魔法が使える素養がある」という設定が生きてくるのである。
 全体的な流れは秀逸ながらも、オブジェの扱いの悪さが目立ってしまったのは残念としか言いようが無い。
 ちなみに鷹也が魔法を使う事が出来るようになるのは、このシナリオだけなのである。


(個人編)
(幸村小姫)
 登校途中に偶然鷹也とぶつかった事が縁となり、小姫は魔法研究会に入部する事になった。
 小姫は魔法の力は強いものの、そのコントロールがあまり巧く行えないために普段は魔法を使わなかったのだが、魔法研究会に入部してからは徐々に使用するようになっていった。
 魔法研究会に入部して楽しい一時が流れるのだが、そんな小姫の心の中には大きな爆弾が抱えられていたのだ。

 オブジェという物が出てこないために、実に巧くまとまっているといえる。
 何故小姫が樹に甘える事を止めたのかがちゃんと説明されているために、後半のストーリーがスムーズに進んでいく。
 小姫が魔法の力を巧く扱えない理由も、実に理に適っている。
 感情が抑圧されていれば、感情でコントロールすべき魔法の力が巧くコントロールできないのも納得できる。
 そして、小姫がもう一人の人格を否定する理由も理解できる。
 小姫のもう一つの人格は、一般的な常識等の観念を取り払ったものなので自分の感情に素直に行動してしまう。
 それは小姫が今まで抑え付けてきた「誰かに甘えたい」という感情も、解き放ってしまうのではないだろうか?
 だから小姫は、自分の中ではしてはいけない事と認識している「甘える」という行為を行ってしまう恐れのある、もう一人の自分を受け入れる事が出来ないのだ。
 そのため、エンディングでもう一人の自分を受け入れたことが充分に生きてくるのである。


(有藤鈴香)
 登校途中に偶然(本人談)鷹也を自転車で轢いてしまった事が縁となり知り合う。
 そして小姫が魔法研究会に入部する事になったので、彼女が心配な鈴香は付き添う形で一緒に入部する事になった。
 鈴香が使えるのは「物または力自体を飛ばす魔法」なのだが、彼女はそんな自分の力が好きではないため入部しても魔法を使おうとはしなかったが、魔法研究会のメンバーの影響からか少しずつ自分の力と向き合おうとし始める。
 だが、在る事件が切っ掛けで魔法を使った事により、鈴香の体に悪魔のような羽と尻尾が生えてしまった。

 序盤から元気の良い鈴香と鷹也の掛け合いがとても面白い。
 鈴香が魔法の嫌いな理由もちゃんと説明されており、それが後のストーリー展開を違和感無いものとしている。
 後半の鈴香に悪魔の羽と尻尾が生える下りも、ちゃんとした理由があるのは素直に感心してしまう。
 先ず鈴香が魔法が嫌いな原因だが、小学生の頃にいじめを止めた時に魔法を使った所為で周りから疎外された事が原因となっている。
 それまでの鈴香は魔法が使える事を誇らしく思っていたが、それが原因で魔法を疎ましく思ってしまう。
 そして、子猫を助けるためとはいえ魔法を使った事で大事故を起こしそうになり、自分の持つ魔法の力を嫌悪した事で悪魔のような羽と尻尾が生えてしまう。
 何故悪魔のような羽と尻尾が生えたのかだが、それは鈴香が幼い頃読んでいた絵本が原因となっている。
 その絵本には心の優しい悪魔が現われるのだが、悪魔の姿をしているために人々に恐れられてしまう。
 鈴香は、無意識ながらも自分の事をその悪魔と重ねていたので、人を傷付ける力を持った自分を悪魔のような存在だと思い込んだ。
 そのために、かつて読んだ絵本の中に登場した悪魔と同じような羽と尻尾が生えてきたのだ。
 絵本の中の悪魔は、自分の姿ではなく内面を見てくれるお姫様と出会った事で救われている。
 そして鈴香も、羽と尻尾が生えてしまったが今まで通り接してくれて、自分の内面を見てくれる鷹也に救われている。
 ここで、羽と尻尾が生えた理由を考えてみたい。
 もしかしたら、鈴香が自分自身に掛けた呪いなのではないだろうか?
 自分自身が抱える不安を癒して、絵本の中の悪魔のように救われたいと鈴香が願った事が原因なのではないだろうか?
 そして羽と尻尾が消えた事で、その願いが叶えられた事を証明しているのだ。


(幸村樹)
 魔法研究会の顧問で鷹也達のクラスの担任。
 10年前の冬に夫を亡くしており、それからは周りに弱さを見せなくなった。
 小姫からその話を聞いてから、鷹也は樹に惹かれ始めていた。 

 オマケシナリオである樹はHシーンこそないものの、実はサブタイトルでもある「絆の魔法」という部分を一番体現しているキャラクターである。
 かつては魔法が使えたが、夫を亡くしてからは魔法を使わなくなった樹の魔法は、「誰かの為に使う魔法」なのだ。
 そのため自分だけでは使えないのである。
 多少展開は強引ながらも、その下りは充分に説得力を持っていた。
 敢えて突っ込むならば、樹と鷹也の年齢差くらいだろう。
 ヘタすれば20歳近く違う事になるのだから。


(総評)
 全体的に見れば平均点はクリアしているのだが、キャラクターに拠ってはシナリオ完成度の差が目立ってしまった。
 ヒロイン達のキャラクターは充分立っているのだが、それを全てのシナリオで生かしきれていないのは残念としか言いようがない。
 個人編だけならば充分平均を上回る完成度なのだが、オブジェ編がその足を引っ張る形となっているのである。

 このような完成度の差を生み出してしまった原因は、どう考えてもオブジェ編の中心であるオブジェの存在だろう。
 大した説明も無く突然後半に登場する事で、プレイヤーにご都合主義的な印象しか終始与えられないのでは失敗としか言いようがない。
 そのためオブジェ編のヒロイン達のそれぞれのキャラクターを立たせる事には成功していながらも、それにシナリオが追い付いていない所為でシナリオ自体に厚みが感じられなかった。
 これならば、無理にオブジェを使わなくても良かったのではないだろうか?

 同様に、魔法に関してもイマイチ説明不足な部分が目立っている。
 一応、ゲーム中では「人と人の絆を作っているのは人の心であり、魔法はそれを補助するためのもの」という形で魔法に対する答えを出しているのだが、別にそれが悪いというわけではない。
 だが、イマイチそれがゲーム中から伝わってこないのだ。
 このような自体を引き起こした原因は、本編内における魔法に対するフォローが少ないためである。
 本来ならば、設定を生かすためにそれを補うような設定を用意するのだが、それが用意されていないために魔法というものがストーリー上持つ重みが少なくなってしまったのだ。

 このような形で損をするのは、非常に残念としか思えなかった。

 次回作ではその辺に気を配って欲しいものだ。

(乾電池)


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