カナリア 〜この想い歌にのせて〜

それは、愛を求める心の声

1.メーカー名:front wing
2.ジャンル:アドベンチャー
3.ストーリー完成度:BとCの中間
4.H度:D
5.攻略難易度:D
6.オススメ度:B
7.その他:「カナリア」という単語が持つ意味を、考えてください。

(ストーリー)
 主人公・八朔洋平(ほずみようへい:変更可)は、東京のフィルハーモニー交響楽団で働く両親の都合で、東京から親戚のいる四国へ、半ば強引に引越しをさせられてきた。
 そこで楽器店を経営している叔父に会いに店の前まで来た時、洋平は、店のスタジオから出てきた集団の中の女の子に目を奪われる。
 叔父に聞くと、彼女らは、自分が通う高校の軽音楽部だという。
 ギターをたしなむ洋平は、学校に編入してからすぐ軽音楽部に入る。
 洋平は部の実力の高さに驚きながらも、すぐに親睦を深めていった。
 学校についていけるよう叔父の娘と勉強し、世話をやく妹に付き合い、不意に知り合った弾き語りの女の子と、路上でライブコンサート。
 軽音楽部の目標は、9月の学園祭。
 洋平にとっては、みんなの心に触れる、長く熱い夏になりそうだ。

 最近にしては珍しく、複雑な設定や非現実的な出来事の無い、ストレートな学園恋愛アドベンチャー。
 日曜日を除き、一日一回町内を移動して、女の子とのイベントをこなしていく形式は、シンプルでやりやすい。
 プレイヤーは、洋平が引っ越してきた5月20日から学園祭のある9月8日までの間(キャラによって前後する)に、女の子の心をつかむことが目的となる。
 最初の一週間は文章を多く使って、洋平にかかわるキャラ達をじっくりなじませていき、それぞれの性格をうまく説明している。
 ちなみに「軽音楽部」は、みんなが下の名前で呼び合うこととなっている。
 プレイヤーが攻略できる子は、佐伯綾菜・片桐美香・新城千秋・茅ヶ崎めぐみ・八朔絵理の五人。
 移動先で会った女の子の会話に出てくる選択肢によって、ストーリーは分岐していく。

 綾菜は、軽音楽部員で洋平のクラスメイト、そしてこのゲームのメインキャラクターでもある。
 彼女とは早い段階から付き合い始めるが、彼は途中で、綾菜に兄がいたこと、兄妹とも徐々に音が聞こえなっていく病気「とくはつせいりょうそくせいかんおんなんちょう(特発性両側性感音難聴)」にかかっていること、兄は、それがもとで踏み切りの事故に遭い、亡くなったことを知る。
 「いつか好きな人の声も聞こえなくなってしまう私でも、あなたは愛してくれる?」
 悲しい問いかけが、洋平の胸に刺さる。
 ゲーム中、唯一の悲劇性を持ったストーリーだ。
 他の四人がハッピーエンドなだけに、決して明るくない未来が一際目立つ。
 彼女の言動は、愛する者の声を忘れないように自分の胸に焼き付けるための心の叫び。
 ゲームの冒頭にある「頭を一年ごとに取りかえる鳥」の会話は、いつか新しい声を聞くことができなくなる綾菜への複線なので、プレイ中は頭の中に入れておいて欲しい。
 ちなみに、エッチシーンが一番わがままであり、唯一エッチからのバッドエンドを持つキャラでもある。
 
 美香も、綾菜と同じく軽音部で洋平のクラスメイト。
 始めは部長オンリーだったが、日を追う毎に、洋平が気になってくる。
 しかし彼女は、二人の人を好きになるのはいけないことと一人思い悩み、素直になれなくなってしまう。
 男勝りな性格で張り合っていた所へ、洋平に女の子として扱われ、彼女がほだされる話。
 勝気なだけに、美香の思い悩む姿は痛々しく見える。
 「雨」が絡むイベントがほとんどで、彼女の気持ちを代弁している。
 プレイヤーは、広い心で美香のゆれる心を見守ってあげたい。

 千秋は洋平の親戚で、軽音部のOG。
 洋平の家庭教師をしてくれたり、髪の毛を切ってあげたりと、事ある毎に世話をしてくれる。
 しかし、その端々に見せる思わせぶりな態度とは裏腹に何も言わない彼女は、過去に自分が二人の部員から同時に求愛されたことが原因で、軽音部を崩壊直前にしてしまったという負い目を持っていた。
 今あるバランスを壊したくないために閉ざされた彼女の心は、実際に我々プレイヤーに在り得る問題でもある。
 結果は理想的過ぎるが、一番共感できるシナリオかもしれない。

 めぐみは、都会でアイドルデビューを間近に控えていた。
 しかし四国での撮影中に、気の強さからいざこざを起こして飛び出してしまい、洋平のいる町で流しをやってすごしていた。
 そこで洋平と出会った彼女は、無理難題を押しつけて、その度に彼をなじる。
 それにへこたれずに張り合い続け、路上ライブに付き合う洋平を見て、やがて好きになってきてしまう。
 そして夏休みに入る頃、彼女の所属する事務所の社長に見つけられてしまい、洋平との恋か、アイドルになる夢のどちらかの選択を迫られる。
 あったらいいなシナリオその1。
 洋平の住む町が四国の片田舎という設定が活かされていて、非現実的な気がしない。
 ラストは恋と夢の両手に花で、おいしい気はするが、その後のサクセスが想像できるいい話。

 洋平の妹の絵理はもともと兄にべったりだったが、引越しをしてからそれに輪をかけて世話をやくようになり、所々に女を感じさせる態度まで見せる。
 そうこうしているうちに夏休みが過ぎ、絵理の16歳誕生日、洋平は彼女が不意に知ってしまった本当の兄妹弟ではないという事実を聞かされる。

 あったらいいなシナリオその2。
 妹である関係上、絵理は朝夕にほぼ必ず出てきて、朝はメイドの真似や猫語? の真似で挑発したりする。
 全体的には子供っぽさを強調した構成でまとめられているので、その態度に隠されていた切実な想いを感じ取ってあげたい。
 成長した姿が結構可愛いので、その姿のCGが1枚きりしかないのがちょっと残念。

 彼女達は、それぞれの過去や環境を踏まえて個々のキャラを立たせているので、ストーリーが無理なく仕上がっている。
 バッドエンドもちゃんとある。
 しっかりしたキャラ達のおかげで、部員のちぐはぐになってしまった心がよく表現されている。
 9月8日までプレイしきらないと見られないので目立たないが、一度は見ておきたい。
 洋平のせいで、ばらばらになる軽音部。
 「結局合わなかったんだよ、俺達」の一言は、洋平を通じて、プレイヤーにプレイの甘さを指摘するかのようだ。

 音にも注目したい。
 本作は軽音楽部をとりあげているだけに、音に対するこだわりがある。
 まず「歌」。
 各キャラクターのテーマソングを作り、それぞれのエンディングに絡めた。
 歌うのは声を当てている声優で、歌詞にはシナリオの内容と、キャラの気持ちが綴られている。
 最近多い「提携してるからこの歌で作りました」的なアニメの歌は、見習って欲しい。
 そして、プレイ中にさりげなく聞こえるドアの音や虫の声・靴音等・手を抜いても気がつかないような部分がしっかりしている。
 ここまできっちりしてるゲームはそうそうない。
 更に声優はイメージぴったりで、技術的な面も申し分ない。
 エッチシーンはセリフを読み過ぎる感じ(それでも棒読みではない)だが、綾菜や絵理が過去を語るシーンは、ぐっとくるものがある。
 これらの音を違和感無く合わせた制作者側の苦労が偲ばれる。
 グラフィックは陰影や細かい線を使わず、アニメ調にすることで、ライト感を出した。
 エッチCGも声に雰囲気をまかせて、ソフトな感じに仕上がっている。

 色々な面で中々いい感じだが、さらっとプレイする作品なだけに、不満な部分も結構目立つ。
 まず、不要な移動と選択肢が多い。
 一日の行動は、学校から町内を移動後、女の子と会って家に帰る…で統一されている。
 キャラによって差は出るが、これを固定イベントで飛ばされる日を除いて5月20から9月8日まで、延々と約3ヶ月分も繰り返さなければならず、簡単を通り越して単調になってくる。
 台詞を早送りする機能も有能とはいえないので、3回ほどプレイすると、ちょっと飽きがくる。
 行動の合間にある各シナリオへの分岐と、攻略の成否を決定する選択肢が少ない。
 確かに楽だが、ゲーム内の日にちを考えると、その選択肢が出るまでがまさに無駄な時間となる
、中には時間制限付きのものもあり、それなりに緊張を高めてくれるが、重要なものばかりではないので、複数回プレイするとちょっとくどい。
 次に、軽音楽についての知識。
 洋平をはじめ、ゲーム中のキャラ達は洋楽を中心にいろいろ話をする。
 しかし「キースリチャード」「カートコバーン」「ギブソン355」「テイストオブハニー」「スモークオンザウォーター」「デリックメイ」等々…これらが、どんな人・物・歌か全部解るプレイヤーは、どれほどいるだろうか。
 恥ずかしながら、私には9割方解らなかった。
 ゲームとしては軽音楽部らしさが感じられていいが、邦楽は版権の問題から無理としても、誰もがわかる曲をもうすこし入れて欲しかった。
 送り手側が空回りすると、プレイヤーはついていけない。
 一番困ったのが、主人公の洋平。
 彼は基本的に真実一路な人間で、綾菜へは愛を惜しまず、部長に告白しようとする美香を暖かく見守り、めぐみに対しては彼女と同じギターを買って「俺がお前と同じところへ登ってやる」と決意に燃える、がんばりやだ。
 しかし、綾菜の兄が踏み切りで死んだことを聞いた数日後に、踏み切りを通るシーンで、顔色が変わる綾菜に気付かない。
 千秋の態度が気になるのに、部長にまったをかけられると、彼に殴られるまで自分を見失う。
 悩みのピークに達した美香がめぐみと喧嘩になった時、洋平は悩みの原因が解らず、彼女達に対し「子供だな」となじる。
 絵理にいたっては、彼女が自分の生いたちを話すまで、血が繋がってない兄妹だとは微塵も気付かない(絵理が来たのは洋平が3歳位の頃)始末。
 美香のシナリオで、洋平は美香とめぐみに「あんたが子供なんだよ」といわれるが、これでは彼は子供どころか、ただの愚直な男である。
 要するに、女のキャラに対して薄っぺらい。
 はっきりいって役不足だ。
 もっと彼自身の歴史と家族を浮き彫りにして、性格づけをはっきりさせるべきだった。
 次回作では、納得のいく主人公を創りあげて欲しい。

 それから女の子には、制服とその他一着(めぐみは服変わらず)ではかわいそうなので、少しおしゃれさせてあげて欲しい。

 問題は決して軽くないが、全体的にライト感覚を崩さずにまとめられている。
 「爽やか」というセリフが似合う作品である。

(総評)
 「エロス」ではなく、「えっち」ぐらいな感じの作品。
 絵柄とシナリオは、どちらもゲームよりOVAに向いているような気がする。
 テーマソングやキャラで女の子ばかり注目を浴びるゲームだけど、シナリオを引き締めているサブキャラがいてこそ…というのを忘れてはいけない。
 それが部長。見てくれがぱっとしないけど、実はいい味出している。
 彼は千秋への告白タイムに洋平に待ったをかけ、自分がふられたと判ると彼の背中を押してやる。
 美香が洋平のことを好きだと気付くと、美香に告白されたときにやさしく諭してその気持ちを洋平に向けてやり、綾菜の時には、踏み切りで彼女を助け損ねた洋平を差し置いて、文字通り自分の命を捨てるという、とてもいい人なのだ。
 千秋がいた時から軽音部を見続けていた唯一の3年生。
 控えめだが、学園祭のための曲作りや合宿の手配などを一人でこなす、縁の下の力持ち的な存在。
 プレイヤー扮する洋平の影で見えない部分を占めていたのは、紛れもなく部長である。
 主人公に問題があるだけに、彼がいなければただだらだらと日数をこなすだけのゲームになっていただろう。
 洋平と対峙する部長というサブキャラクターを作ったことで、このゲームは成功したのだ。
 次回も、こんな味のあるキャラクターを生かした作品を期待したい。
          
(Mr.Boo)


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