加奈 〜いもうと〜
 
『加奈〜いもうと〜』 加奈の命は、あと半年…。最愛の妹の死を目前に、何をしてやれるのか?
 
1.メーカー名:D.O.
2.ジャンル:ADV
3.ストーリー完成度:B’
4.H度:C
5.オススメ度:A(重たい話が嫌いな人には勧められない)
6.攻略難易度:B
7.その他:大人向けって意味でも、本当に18禁の意味があるシナリオだった。
 
ストーリー
 藤堂隆道の妹加奈は、慢性腎不全のため、入院している方が多い生活をしている。
 隆道はある時から、それまで疎んじていた加奈を可愛がるようになった。
 そして加奈が高校に入った時、隆道と両親は医者から、加奈の命はあと半年と宣告されてしまった…
 
 結論から言ってしまうと、かなり荒削りな点が目立つものの、とても良いシナリオだったと思う。
 生と死、臓器移植、家族と恋人、逝く者と残される者、そんな重いテーマをよく描いている。特にED6は、鷹羽の一番のお気に入りだ。
 ストーリーは、大きく分けてED1〜3、4〜6の二系統になっている。それでは、各シナリオの寸評から書いてみよう。
 
ED1 ベストエンド はじまりのさよなら
 ベストエンドの名のとおり、加奈が生き延びる唯一のシナリオ。
 2人が結ばれるのが、加奈が助かった後なのが残念。
 ただその後、加奈が隆道から自立するために家を出て行ってしまうという展開は、その不満を吹き飛ばす程に意外だった。
 加奈は、隆道にとっての『守るべき存在』から『共に生きる相手』に昇格するための第一歩(はじまり)として、離れて暮らす(さよなら)ことを選んだ。
 その勇気は賞賛すべきものだと思う。
 いつの日か1人の女性として隆道の前に帰ってきて、それからようやく結婚するのかな、と楽しみのあるエンディングとも言える。
 安直に、助かりました、じゃあずっと一緒にいようね、で終わらなかったのは、本当に偉い。
 
ED2 ノーマルエンド 追憶
 加奈を失い、それなりの苦しみを味わった隆道が、立ち直るきっかけをつかむエンディング。
 冒頭で出てきたペンダントが、小道具として活躍する。
 隆道は、加奈の「愛しています」という一言によって、加奈を失ったことを“恋人を失った”と置き換えることができ、前に進めるようになったのだ。
 ただ、『加奈にペンダントをあげたのは受験の前じゃないでしょ!』という強烈な突っ込みを入れておかねばなるまい。
 
ED3 夕美エンド 迷路から
 恐らくはED2の時にも、隆道が似たような状況だった時期があったはずだが、今回は自力では回復できず、夕美の正に涙ぐましい努力によって立ち直る。
 まだまだ当分元には戻るまいが、日々の生活の中で徐々に自分を取り戻していくだろう。
 とにかく錯乱する隆道は、見ていてとても辛いものがあった。
 
ED4 知的ルート第一エンド 雪
 この知的ルートは、3つとも『加奈は助からない』という前提の元に話が進む。
 迫り来る死を前に、逝く者残される者がそれをどう受け止めていくのかというのが、この知的ルートのテーマだ。
 3つのエンディングに共通する“夢の中での加奈の旅立ち”“加奈が降らせた雪”は、17年の生涯を必死に生きた加奈と、自分の身を切るようにしながらそれを支え続けた隆道だからこそ、感動できるのだ。
 このED4は、加奈が日記をつけることもなく、加奈も夕美も失って、隆道には何も残らないという点で、最大のバッドエンドではないかと思う。
 
ED5 知的ルート第二エンド おもいで
 加奈が日記をつけたことにより、隆道に救いが生まれた。
 「今日、海を見た。もう恐くない」という記述は、加奈の短い人生が悔いのないものであったことを物語っている。
 ただ、『命をみつめて』という本のことがチラッと出てくるものの、それが加奈の日記から生まれたことには触れられていないので、やはり中途半端なエンディングとなっている。
 
ED6 知的ルート第三エンド 今を生きる
 思うに、これが本来『加奈〜いもうと〜』という作品で描きたかったテーマなのではないだろうか。
 死にゆく者の姿を身をもって見せてくれた須磨子、香奈との交流、自らの肝臓を香奈に残すことを望んだ加奈、そして“大切な人”に告白し、結ばれることのできた加奈。
 日記にこそ書かれていなかったが、海のことばかりでなく、そういう意味でも、加奈には心残りはなかった。
 “生きる”ということがどういうことなのか、加奈なりの結論が出ている。
 そして一方で、夕美と隆道との関係もしっかりしている。隆道が夕美と別れたのは、加奈の残り少ない時間を、できる限り一緒にいてやるためであって、夕美に対して愛を感じていなかったわけでもない。
 例え加奈の代替品的要素が強いとは言え、夕美の個性は承知した上で付き合っていたわけだし、加奈に似た部分に惹かれたのが発端だったというだけのことだ。
 夕美と別れたことで、隆道がより深く加奈を想うようになったのは不幸ではあるが。
 かつての恋人のイメージを追い続ける人がいたとしても、それはその人に対する未練とは限らない。
 そして、恋人と死に別れた人が、次の恋を見付けたとしても、それは彼女に対する裏切りではない。生きている者は、前に進まねばならないのだから。
 夕美が良い人過ぎるように見える気もするが、何しろ10歳の時に隆道を傷つけたことをずっと気に病むような娘なんだから、それは納得しよう。
 『命をみつめて』を読んで、隆道との別れが仕方のないことだったと納得できた夕美となら、隆道は、これからもう一度やり直せるはずだ。
 
 というところかな。
 特に1と6はテーマが深くて、何度も読み返す価値のあるエンディングだと思う。
 同じ「いってきます」でも、1の希望に溢れた「行ってきます!」と、6の全てを受け入れた加奈の「いってきます」では、意味がまったく違う。
 こういう使い分けがジーンと来ちゃうのよね。
 次に、歌についてもちょっと書いてみよう。
 オープニングの『白い季節』はいい味出してるし、挿入歌『Believe 〜つぶらな瞳〜』も、使い方が巧い。『あなたへ』も良い歌だし、全般的に作品世界をよく表すような歌詞で気に入っている。
 ただ、『あなたへ』って加奈が生きてる歌なんだよね。
 『WHITE ALBUM』の時にも書いたことだけど、シナリオが大幅に違う場合、そのEDの時だけ違う曲使うとかして欲しいな。
 今回の場合、ほかの5つのEDのための歌が欲しい。
 で、勿論欠点がないわけでもないので、そのことについても書いてみよう。
 まず、何と言ってもグラフィックがまずい。
 ウケ線でない絵柄というだけでもかなり損しているのだが、シーンによって顔が違うのは何とかして欲しい。
 例えば蜂事件の後、加奈が見舞いに来るシーンでは、立ちポーズになった途端に5歳くらい年を取っている。ああいうのはまずいよ。
 もっと酷いのは、ED1のHシーンで加奈のお腹に手術痕がないのだ
 腎臓はどこから入れたの?
 やっぱり地下鉄みたいに、最初は外にあるのに、どっかの駅から地下に入って行くのかしらね?
 2つ目は、結構大事なところで文章的なミスや誤植が多いこと。
 日記を読んでる感動的なシーンで「一時一句」はなかろう。
 文章的なミスというのは、前述のED2でのペンダントのことや、加奈に高校を案内する時、雅俊が加奈を覚えているのを見たすぐ後でも、智樹に対し「他の二人は覚えてもいないだろうが」と思ったりするのがある。これは、まずいよね。
 あと、欠点というわけではないけど、気になった点が1つ。
 そう、加奈への腎臓移植のことだ。
 ED5、6で、加奈から香奈への肝臓移植が問題になっているが、では加奈に腎臓移植しようという話が出ないのは何故だろう?
 無論構成から言って、加奈に腎臓移植しては、知的ルートは存在できない。
 だったら、移植しようとは思ったものの、HLAが適合しないなりの理由で断念すればいいのだ。
 実際、ED1ではミスマッチゼロだが、ED3ではミスマッチワンだ。
 ならばミスマッチツーでもスリーでも、加奈が残りの人生を精一杯生きるという精神的価値と引き替えにできないほど低い成功率に落としてみせればいい。
 何の説明もなく、腎臓移植のことに触れないから、片手落ちになってるのよね。
 さて、ゲーム中では特に説明されないけれど、とても重要な点について1つ。
 隆道があの日以来、突然、加奈に対して優しくなってしまったのはどうしてだと思う? 
 そして、いくら強引に連れ込まれたからとは言え、夕美のことを抱き、付き合い始めてしまう。
 見ようによっては、夕美と加奈の二股掛け、或いは加奈に手を出せない分を夕美で誤魔化しているようにすら見える。普通なら、鷹羽はこういう展開をとっても嫌う。
 ところが、今回に限り気にならない。というのは、心理学的に納得できる展開だからなのだ。
 隆道が加奈に優しく対するようになったのは、夕美に手酷くフられた直後だったからに他ならない。
 隆道は夕美に酷く失望したため、自分の愛情に対して愛情を返してくれる存在を欲していた。
 加奈にばかり優しくする両親、自分におびえる加奈に対する不満は、作ってやった花冠に満面の笑みで応えた加奈を見て氷解した。
 だからこそ、蜂の大群から守るという行動に出たのだし、その後加奈から寄せられた、ある意味正当な思慕は、失ってしまった愛情の注ぎ先として加奈を選ぶに十分だった。
 だからこそ、その後加奈を見る目が異性を見る目になりつつある自分に危惧していた隆道は、夕美への誤解が解けた時、夕美と付き合うことで加奈を単なる妹として見ることの出来る状況を作り出したのだ。
 隆道を見る加奈の視線に怪しいものを感じ始めた勇太に対し、「俺、彼女いるんだ」と一言だけ言った隆道は、やはり自分自身、加奈に“女”を見ていることを勇太に気付かれたくなかったんだろう。
 だから否定するのではなく、“加奈以外の女性と付き合っている”という別の事実をぶつけてそれ以上の追求を封じる、という卑怯な手を使っているのだ。
 それで、多分無意識にだろうが、自己嫌悪に陥りそうな自分を抑えるため、その後すぐ夕美を抱いている。
 ただ前にも言ったけど、夕美のことを好きなのも確かだ。
 隆道の理想の女性像そのものが、初恋の相手である夕美と、その後の長い時間見つめてきた加奈との両方に影響されているが故だ。
 そして、残された僅かな時間を全部加奈に費やすことが、夕美をないがしろにすることだと判っているから、それは純粋な想いでないと思うから、夕美を切り捨てて加奈を選ぶことになったのだ。
 結果的に、このことが加奈に対する想いを完全に成長させてしまったのだが。
 夕美は「命をみつめて」を読み、加奈に全てを注ごうとした隆道の当時の想いを知ったことで、自分が2番目にされてしまったのは仕方のないことだと納得したのだ。
 恋人との死に別れとか、悲しい恋をしないと、判りにくいことではあるだろう。
 人は、自分の知らない感情は、どんなに説明されたって理解できないから。
 ある程度人生経験を積んできた人向けの、そういう意味でも、大人向けの物語だと思う。

    
(鷹羽飛鳥)


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