花譜 〜この調べが君に届きますように〜


 初めて働くことになった名家の跡取息子が、一ヶ月間で何を得るのか?

1.メーカー名:AniSeed
2.ジャンル:ADV
3.ストーリー完成度:全体的にD/一部シナリオ:C
4.H度:B
5.お薦め度:C´
6.攻略難易度:E(すらない)
7.その他:やる時は必ず修正ファイルを入れましょう。でないとクリアできません(でした)


(ストーリー)
 舞台は…大地震が起き、そこから復興してきた…そんな大正風の時代。
 関東一円を本拠地とする日本有数の財閥・鷺宮(さぎのみや)家。
 そこの一人息子である夢二(主人公・変更不可)は、当主であり父である鷹久に、「二十歳になったら自分の跡を継げ」と迫られる。
 だが、夢二は「家を継ぐのは構わないが、会社を継ぐのは嫌だ」といって拒否するのであった。
 しかし半ば鷹久に押し切られるかたちで、弟の幸久が経営する洋食屋・風紋軒で一ヶ月間働かされることになってしまう。
 「今までの不自由ない生活を改めるため」と「人を観る目を養うため」と称して…
 そこでの一ヶ月間は、夢二に何をあたえ、どう成長させるのか?


 どうも最近コンシューマのゲームしかやっていない、しかも色物が多いし…
 「久しぶりに誰の強制も受けずにゲームやろ〜っと」と思い立って、はやゲームショップへ。
 適当にパッケージイラストとタイトルを見ていき、気に入った物を購入するという少々危険な賭けに出てみる。
 そして、買ったソフトがコレ。
 家に帰ってインストールしながら説明書を見ると…
 レストランの“ウェイトレス”で“和服タイプの制服”…「馬車道でしょうかね?」
 しかも“大正時代風”だもんな〜、どこかしら狙った設定になってきました。
 なんか「どっちに転んでも色物系しか引き当てられない自分がイヤ」てな具合でゲームをスタートする。
 オープニングの後、汽車で眠っている主人公を起こしてくれたのが“義妹”で、呼び方は“お兄ちゃん”。
 目的の駅に着いて待っていた人物は、従姉妹の女の子。
 あとは主人公の名前に反応した通りすがりのお嬢様に、無口無表情で見るからに訳ありのお姉さんなんかが出てきます。
 キャラ設定も、見事にツボを狙ってついてきます。
 というか、何より主人公の名前が「竹久夢二」から取られたであろう安易なネーミングセンスに、一抹の不安を感じます。
 それでも「ここまでおぜん立てを用意しているのだから、中身は凝った物だろう」と思いながら、本格的にプレイを開始しました。
 そして一人目の攻略中、先程の一抹の不安が的中したことを思い知りました。
 …やっぱ、なんか全体的に安直すぎるような…
 ネーミングセンスの安易さもさる事ながら、選択肢が比較的簡単な構成になっています。
 間違いやすい選択肢もなければ、引っかけの物もない。
 目当ての女の子が喜びそうなことを、助けるようなことを選んでいけば、気付いた時にはエンディングについています。
 やたらあっさりと終わってしまったので、私は一人目を攻略した時点で空しい気分を味わってしまいましたよ。
 まず、最初の目的との根本的なズレが感じられます。
 そもそも、一ヶ月間の修行に出された理由は「社会勉強」と「人を観る目を養うため」だった筈です。
 それなのに、結局夢二君は恋人を手に入れただけで、本来の目的を果たし切っていないような感があります。
 例えるとしたら“張りボテ”のようと申しましょうか。
 しかし、プロローグで父親に「何でも器用にこなす奴」と言われ、序盤にはそれを示すシーンが何個所かあります。
 「人を観る目」も、素質は十分にあると思います。
 まだ夢二が小さい頃、父親の取引相手に対して言った一言が取り引きを止めてしまい、その後相手は警察に捕まってしまう程の奴だったとわかる…なんて逸話があるくらいですから。
 それが中盤あたりでは、才能のかけらがあまり見られなくなり、女の子一辺倒になってしまいます。
 ようやく最後の方で、夢二の才能と女の子に対する気持ちが上手く融合し、問題解決でハッピーエンドとなります。
 肯定的に見たら「女の子を通して成長した」という事になるのですが、駆け落ちしてしまうエンディングもあるため、否定的な見方だと「やっぱり女の子とくっついただけ」とも思えてしまいます。

 また各ヒロインのシナリオを見ても、選択肢が簡単な上に一日の長さが短く、後半の方ではポンポン日にちが飛んでいきます。
 ヒロインの人数も5人しかいないので、結果として即行で終わってしまいます。
 シナリオを作るのは難しいでしょうが、ヤマらしいヤマがなかったのはいかがな物でしょうか?
 まあ、ヒロインごとにも問題点があるので一人一人上げていきましょう。


(荒川璃緒)
 メインヒロインです。
 主人公・夢二が関東一円を勢力とする財閥の一人息子なら、こちらは関西一円を勢力としている家柄のお嬢様。
 しかも幼い頃に主人公と会った事があり、綺麗な思い出があります。
 今回出会えたのは偶然の賜物という、先述の「ツボを狙ったキャラ設定」の片翼をになっているような存在です。
(プロローグ、主人公が見てる夢で、小さい頃の璃緒がピアノを弾いています。その時主人公は「母さんは、こんな長い髪ではないし…」と言っているのですが、その当時の母親のグラフィックは明らかに璃緒より髪が長い…こういうのは単純な設定ミスでしょうね)
 やはりメインヒロインだけあって、見るべきところは沢山あったと思います(その分、他のシナリオが力不足とは口が裂けても…)。
 他のシナリオとの大きな差は、夢二君が本領を発揮して活躍する事です。
 璃緒にとって夢二は思い出の少年であり、今でも好きな相手であります。
 夢二の方も、璃緒の正体に気付いてからは惹かれていきます。
 ただ、そのままハッピーエンドに行くわけもなく“璃緒には婚約者がいて、それは元貴族だか華族だかのおじさん”と、絵に描いた展開が待っています。
 そんな状況から璃緒を奪うわけですから幾多の困難があり、それを切り抜けた末に結ばれます。
 夢二君、“愛する女性を守るために戦う男”とはかっこいいですねー。
 ただ、脱出に協力してくれる美咲の方が更にかっこいいし役に立っているのは、笑い話だろうかね?
 ある程度パターン化された展開でも、読み応えは有ったので良かったと思います。
 すべてのヒロインがこのレベルで書かれていたら…と思うと少々残念ですね。


(鷺宮鈴音)
 主人公の義妹で、雪の日の朝、夢二の母親が発見した“雪に埋もれて死にかけていた”赤ん坊が鈴音です。
 なぜ雪の中から発見できたかというと“二つあわせると不思議な光と共に共鳴しあう鈴”を持っていたからなのですが、いったいそれは何よ?
 初めて出てきた時は「これはきっと重要なアイテムに違いない!」と思いましたよ。
 だけど、最後まではっきりとは解らずじまい
 夢二たちも、それが何なのか突き止めるのを諦めている風情が漂っていますし…。
 摩訶不思議なアイテムを出すのなら、それに見合う結末を用意して欲しかったです。
 そういう意味でも、最大の肩透かしを食らったシナリオになっていると思いますね。
 不思議アイテムの鈴が、さも伏線のように出てくるにもかかわらず!
 結局最後に付いたオチはいつもそばにいつ大切な人と認識し、結婚し親の後を継ぎ、鷺宮家安泰。
 おそらく鷹久が最も望んであろうエンディングになるのではないかと思います。

 あと気になってしまうのが、この娘の見た目の設定が、かなりの猫好きでめっぽう朝に弱い…名雪ですか?
 髪の色と髪型も、どことなく似てるしさ。
 もともと夢二を慕っており、夢二に一番近い位置にいる存在ですから、そう波乱に満ちた展開は待っていません。
 夢二からしてみても、可愛い存在からの延長線上で結ばれたといったところでしょう。
 このゲームって、璃緒のように現在の夢二の状況から離れれば離れるほど、面白いシナリオになる傾向が有りますね。


(菱沼美咲)
 主人公の従姉妹で、修行先の風紋軒店長・幸久の娘さんです。
 璃緒と途中までのシナリオが重なる部分があるので、璃緒への対抗馬(?)的存在でしょうか。
 ただ璃緒の所でも書いた通り、美咲シナリオに入るより璃緒シナリオでの存在感の方が俄然強いと思われます。
 美咲も、鈴音と同様に現在の夢二からは離れた存在ではないし、慕ってもいるので大差は無いように感じます。
 では、何が売りかというと…
 鈴音が妹属性なキャラなら、美咲はお姉さん気質の人という部分でしょう。
 自他共に認めるお店の看板娘なので、愛想もよく面倒見も良い。
 もちろん夢二に対してもそれは発揮され、璃緒との関係を取り持とうとしますが、自分の心は押さえ切れないのでした…というのが流れです。
 なのですが、私は璃緒のシナリオからやったためか、感想は“おまけ的”な物に。
 仮に、美咲の後に璃緒シナリオをやったら“踏み台”みたいな印象を持つでしょう。
 璃緒に重きが置かれているため、「後からついて来ている」印象があります。
 璃緒シナリオの裏で無難に、かつひっそりと終わっているという感じでしょう。



(高浜桔梗)
 緑の髪の毛、読書好き、眼鏡っ娘……いったい何番煎じやら
 よくここまでやりましたな・其ノ壱。
 読書好きだから物知りというおまけ要素もくっついてきます。
 このゲームでは平均的なシナリオ。要するに夢二との立場が近からず遠からず、一番自然な存在だと思います。
 とりあえず、仕事仲間から親しい存在になっていき、彼女の事を知るようになります。
 「桔梗の父親は教授で、ある研究をしている」↓
 「父親には優秀な助手がついているのだが、その助手に付きまとわれている」↓
 「その事がたまらなく嫌だが、父親の研究を何より先に考えているために拒否が出来ない状況に追いつめられている」↓
 あとは、強硬手段に出てきたその助手をぶっ飛ばせば、見事ハッピーエンドに行きます。
 「さらっ」と書きましたが、それはこの娘が一番攻略が楽だからです。
 ほんと、桔梗のシナリオは何も考えずに終わってしまいましたよ。
 このゲ−ムがいかに簡単な選択肢構成で作られているかを示す、丁度いいキャラですね。
 けど「一体なんで簡単なのかな?」と考えてみたけど、それってまさか眼鏡キャラ特有の装着バージョンとそうでない時のCG回収のためなのだろうか…


(木下弥生)
 無口、無表情、無感動……いったい何番煎じやら
 よくここまでやりましたな・其ノ弐。
 だけど、ヒロイン5人の中では一番思い入れがありますな。
 それはネ、

「どんなにやってもクリアが出来なかったんだもん…」

 いやー、バグだったとは思いもよらず10周ほどいろんなパターンを繰り返し、やっとこさバグフィックスの存在に気付いたという体たらく。
 アップデートしてようやくクリアが出来たので「ほっ」としたのも束の間、それまでのクリアデータがすべて消えていた…
 この頃は、アップデートすると「今までのセーブデータは使えません」というゲームが多くなっていますな(号泣)。
 評論とは直接関係ありませんが、これは少々いただけません。もう少し気を使ってもらいたいものです。
 クリア間際でこんなことがあると洒落になりませんからね(激怒)。

 さてシナリオの方ですが、璃緒を表的存在でかけ離れたヒロインとすると、弥生は裏的存在となります。
 で、シナリオ的には璃緒より読み応えが有ります。
 変な例えですが、「薔薇には薔薇の、雑草には雑草の生き方がある」という位の差は有るでしょう。
 弥生にはとある理由により借金があり、そのために悪徳商人に辱められています。
 そんな弥生をみて、夢二は躍起になって助けようとします。
 最終的には親の手を借りて助ける事になるのですが、このゲームって夢二の頑張り方次第で面白さが大きく変わってしまうのね。
 しかも、面白い時に限って女の子の状態はとっても不幸だったりしますね。
 もしかすると夢二の能力(スタンド)って、不幸な人がいて初めて真価が発揮される物なのだろうか?(自爆)

 弥生シナリオでは暗さが目立っている分、それを何とかするという雰囲気が多く感じられました。
 そういった意味でも、このシナリオが一番印象に残りましたね。


 ヒロイン個々のシナリオで感じたのはこのような物です。
 シナリオのことはこれ以上は言うまいと思うので、このゲームの売りであろう“アニメーションシーン”について少しばかり…。
 ゲーム中、女の子の登場シーンとHシーンでアニメーションが入ります。
 なかなか見れるアニメーションで、一言で言うと「頑張ってるね」、もう一言付け加えると「要らなかったね」です。
 登場シーンではさほどは感じませんが、Hシーンだと完全にテンポが悪くなります。
 しかも選択肢が簡単なのとあいまって、それまでの展開はこのアニメーションを見せるための壮大な行程だったのでは、という印象を受ける事でしょう。
 導入すること自体は良い事でしょうが、変に作り込まず、さらっと流せるものの方が良かったです。


(総評)
 たしかに面白いシナリオも有りますが、全体を見てしまうと難易度が低いために軽い印象が目立ちました。
 化ける要素を含んでおきながら、今一つ弾けきれなかったからだと思います。
 また、見た目から受ける印象と、実際ゲームをプレイして受ける印象とのずれがあったのも原因だと思います。
 せっかく入れたアニメーションも、あんまり役に立っていなかったしね。
 救いとしては声優が上手かった事か?
 少なくとも、あえて選んでやる一本ではなかったですね。

 あと、弥生の所でも触れましたがセーブデータが使えなくなるのは痛すぎです。
 このゲームは難易度が無いためやり直しもすぐに出来ましたが、難易度が高かったりくそ長いゲームだったりするとしばらく戻ってこれなくなります。
 私もまだ新米ですが、プログラムで食っているので、そういう点を特に強く感じてしまいます。
 バグが出るのは仕方の無い事ですが、それによってそれまでプレイした物が消えるというのは、作り手が思う以上にダメージが大きいものです。
 こういうのは、なるべく避けてもらいたいものですね。

(エルトリア)

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