火焔聖母 〜The Virgin on Megiddo〜 (ドリームキャスト)


 最近なんとなく数が減ってきたようにも感じられる、本格探偵推理物ADV。
 今回レビューを書くにあたり、雰囲気を盛り立てるためBGVに『ぼくら野球探偵団』を流しています <おい

1.メーカー名:StugioLine/KOBI-GROUP
2.ジャンル:マルチED型ADV(一部3D移動などが有り)
3.ストーリー完成度:A
4.オヤジ萌え萌え度:B(まて)
5.オススメ度:探偵物好きならA、完クリ目的とするならD。
6.攻略難易度:B(完クリ目的ならSSS)
7.その他:横田守氏の絵が好きなら購入価値高し。氏の“オヤジ”絵が好きなら2つは買おう!

(ストーリー)
 主人公・蘭堂研人(名前変更可)は、東京の賀神探偵社に居候する探偵見習い。
 社長の賀神岩雄より与えられたあらたな仕事は、青森県に在る「いざなみ市」へ行くというものだった。
 いざなみ市とは、外資系企業によって建設された実験都市。
 元々は古代よりの因習が根強く残る、古い町だった。
 早速移動を開始する研人だったが、“移動”した後にするべき事は一切伝えられず、依頼人も不明のままだ。
 新幹線内で出会った自称ジャーナリスト・神崎麗巳は、「いざなみ市」の中核を成すシステムの調査を目的と称し、研人が転入する学校“いざなみ市立聖骸布高等学校”の内情をリークしてくれと懇願する。
 通称“聖骸高校”とよばれるこの学校は、「いざなみ市」全体のシステムのミニマムバージョンとも言える存在だからだ。
 ノートで、いざなみ市の公式サイトを閲覧する研人は、奇妙なニュースを発見する。
 それは、今乗っている新幹線が配電事故により午後8時に停止した…というものだった。
 しかし、時計はまだ午後7時58分…数分後、車内の電気が突然消えてしまった!


 久々のコンシューマーゲーム、しかも本格謎解き物という事で勇んで取りかかった「火焔聖母」。
 はっきり言って、手応えは充分すぎるくらい。内容も非常に濃くて面白い。
 ここしばらく、某恋愛ADV漬けだった私には、非常に嬉しいタイトルだった。

 …のだが、どーだろ。
 これ、かなりプレイヤーを選ぶような気がするんだけども。
 
 おっと、そういえば今回もネタバレ多少ありなので、未プレイ或いはプレイ予定のある方はご注意を。


 火焔聖母」は、全10章(序章+1〜8章+終章)構成で、通常は普通のADV形式で進行し、主人公が特定の場所を捜索する場合のみ3D画面となるというスタイルのゲームだ。
 エンディングは全部で7つあり、メインヒロイン4人それぞれのものと、サブキャラクターのもの3つという内訳だ。
 サブキャラクターのエンディングは事実上の“攻略失敗エンド”で、メインヒロインの好感度が不十分だった場合に派生するものとされている。
 …ここで早速「はい?!」と思った人もいる事だろうが、それについてはまた後で。
 
 もう一つの特徴として、ゲーム世界に大きく関わっている“実在する「謎」”がある。
 本編では「トリノの聖骸布」「人体発火現象」「キリストの墓」などが重要な要素として登場するが、これらが細かく丁寧に説明されるのはごく局所的で、平均的に説明されている訳ではない上に不充分なため、プレイヤーの持つ知識への依存度が高いようにも感じられる。
 もちろんそれらの知識がなくても楽しめる事には変わりないが、ストーリーの理解度に大きな差が生じるのは否めないと思われる。
 大きな欠点とは言わないが、そういう部分は確実に存在するという事だ(詳しくは後述)。
 

 全体的に見ると、作り込まれたという印象に併せて「ずいぶん古くさい作りだな」と感じさせる部分がある。
 これは、近年のADVというよりは「同級生」等の時代かそれよりも前の時代のタイトルに感じた雰囲気だ。
 主人公の性格やセリフ回し、行動時の会話、根本的なADVとしてのシステムなどにもそう思わせる材料が点在する。
 これが今となっては、逆に新鮮味を感じさせるのではないかと思うのだが、いかがだろうか?

 映像的に、かなり面白い試みが施されているのも楽しい。
 キャラクター移動は、コマンドによる場面転換以外にも3D-CGを利用した“街並みの表現”“聖骸高校の内部移動”“高エネルギー研究所内移動”等がある。
 しかもその表示にまったくレスポンスを感じさせないため、自然かつ奥行きのある空間の表現に成功している。
 マップ上では非常に単純な筈なのに、全体構造が把握しずらく校内の移動にかなり手間取ってしまう…という欠点もあるにはあるが、これはそれほど重要ではない。
 というより、“プレイヤーが慣れなければならない”部分なのだろう。
 
 物語は、近未来の架空都市における陰謀と忌まわしき因習の打破…という、なかなかのスケール。
 基本となる八章がそれぞれ独立したエピソード風の造りとなっており、それぞれに残った謎がラストに収束していくという連続番組を彷彿とさせる構成になっている。
 手堅い造りだが、緻密な設定構築と伏線の計算・描写が必要とされるもので、その完成度には驚かされる。
 
 2013年という未来の割にコンピューター等の機材関連描写が現在のソレと大差ないとか(仕方ないか?)ツッコミ所はあるだろうが、それはヤボというものだろう。
 主人公単体の活躍ではなく協力者が必ずおり、そしてその相手の力量や発想の見事さ、行動力の良さなどもきちんと描かれているため、非常に気持ちが良い。
 事実上、こいつがいなければ解決は出来なかっただろうという程の功労者・奈村順平の存在感はものすごい。
 主人公自身、メインヒロインの秋村湖希(みずき)との過去や探偵になる事を選んだ重い過去の描写をきちんと行っているため、存在感が引き立ち親近感も得られる。
 湖希を巡る問題の解決への流れなども、主人公と彼女の活躍が両立していて本当に楽しめる。
 比較するのもなんだが、「とらいあんぐるハート3」でもこうはいかなかったものか、と思わず考えてしまう程だ。
 第二章では華竜院巴、第三章では北川真奈瀬、第五章では三香野京子が個々の事件解明のためのサポート(兼、火付け役)になるが、それぞれに性格描写…意外な一面やその心中に秘められた強い意志などがきちんと示されている。
 さらに、それぞれのヒロインが主人公に対して考える事が漠然と“好意”一辺倒になっていない所も感嘆させられる。
 自分から志願したにも関わらず、不器用な尾行を行い、その都度主人公にアドバイスを求めてしまう真奈瀬や、軽口を叩きながらも主人公のトラブルシューティング能力に期待している京子、そして自身が抱く疑問の解答を導くために、必要と解釈して主人公に声をかける巴…素晴らしいバリエーションである。
 悪役の描写や、いざなみ市に訪れる変化に怯える人々の描写も、リアリズムが伝わってきて非常に赴き深い。
 
 すべての章の根底に流れる基本ストーリーも、かなり練り込まれている。
 とにかく豊富な知識と情報を基に、ただ“置かれているだけ”にならない組み込みが成されている。
 実在する“聖骸布”や“へらい村”などについての情報は、問題がないようにオリジナルの設定に組み替えられ、かつ多くの学説を丁寧に汲み取って活かしている。
 これは、一朝一夕に身に付けた知識ではまとめられないのではないかと考察する。
 事実はともかく、そう思わせる程に高まっている事が成功なのだ。
  ただ最終的解決については、おそらく賛否両論起こるのではないかとも推測される。
 石切神父の件などを代表する事柄、或いは“聖胎”と称する者への収束がシスターに辿り着くというのには、残念ながらかなりの違和感が感じられて仕方ない。
 確かにシナリオ上では筋が通っているし、納得せざるを得ない状況は整っているのだが、なぜか釈然としないものが残るのだ。
 多分これは、“特定の誰か”の追求や犠牲によって解決する物語ではない事を、プレイヤーが理解するからではないだろうか
 実際、シスターが“犯人”というカテゴレでくくられる事柄を並べてみると、いずれも大したものではない事に気付かされる (殺人が大した事でないのか…と言われたらそこまでだが、市全体を取り巻く問題はその程度では影響を受けない程に肥大化しているのだ)。
 シスターの正体が、単純に「W@lk3r」と結びつけられただけ、となった事が個人的には残念だ。
 どーでもいいが、何度見ても旧市民達の中に彼女がいた道理に納得できないのは、自分だけだろうか…?

 ともあれ、人物についても舞台背景についても、物語内の数々の事件描写についても描き込みが深く、“重厚な手応え”が感じられ、それが本作の最大の売りであろう事は間違いない。


 しかし、実は欠点もかなり山積みだったりする。

 「セーブポイントがたった8カ所」「メッセージ読み返し機能がない」「メッセージスキップはともかく画像表示やエフェクトは短縮されないため時間がかかる」等、基本システムについても色々いいたい事はあるが、そんなものとは比較にならないのがフラグ構成だろう。
 先にも触れたが、本作は序章と終章を除いてメインは八章構成である。
 そんな長編であるにも関わらず、エンディングは計7種類と格段に多い
 もちろんこれは、単純な行動ミスによるゲームオーバーは一切含まれていない。
 つまりこのゲーム、エンディング区分の条件はすべてヒロイン達の好感度稼ぎに依存されているという事なのだ。

 「火焔聖母」は、これだけの重厚な物語であるため、やはりメインストーリーそのものは一本仕立てでバリエーションはない。
 第六章“ヒロインとのデート編”の内容と、第八章“解決のための行動編”で共に行動するパートナー、終章結末部とスタッフロール後の後日談の内容が変わるだけだ。そしてもちろん、そうなるためには五章まででそれぞれの好感度を高めていかなくてはならない(そうでないと六章で断られるため)。
 ちなみに八章は、ごく一部の会話シーンが変わるだけで、どのヒロインが相手でもほとんど変化はない
 変化場面をまとめたとしても、総合10分あるかないかである。もちろんさほど重要な内容も語られる事はない。
 こんなぽっちの変化を確認するためだけに、わざわざ何時間ものプレイを繰り返さなくてはならないのだ。
 あまりにデメリットが大きすぎる。
 だから、「初プレイは評価高く」「完クリ目的だと評価下がる」という結果になるのだ。
 単にエンディング確認するためだけの作業に徹したとしても、一番最後に分岐するポイントはデートする相手(同時に八章のパートナーとなり、エンディング対象になる)を選択する第六章であり、ここから最短コースを辿り、かつスキップを駆使したとしても、最低1時間以上かかる。
 ましてやサブキャラエンド(森口紫乃・滝恭一郎・仲代良)まで確認するとなると、メインヒロインの好感度を全部下げながら進行させねばならないという条件が付加されるため、ほぼ最初から(具体的には二章辺りから)やりなおさなければならない。
 それだけではない。
 メインヒロインの好感度を高めるためには、移動目的とは大きく異なる場所にもしょっちゅう出向かなければならない。
 要するに、“どこに誰がいるか探して下さい”状態が常に続くと考えていい
 それは、特定ヒロインとの行動中、すでに目的地が決まっている移動の際にも適応させる。
 中には「おいおい、そんなんアリか?!」という潜み方をしているキャラもいるので、実に始末に負えない。
 攻略チャートを持たない人は、一度プレイした際の居場所一覧を自ら作成でもしていないと、完クリ目的プレイの際に多大な影響が出る事は間違いない。
 この苦痛は、想像を絶するものがあった。
 たった2〜3枚のCGを拝むだめだけに行うには、あまりに厳しい条件だ

 また、「タイミングアンサーシステム」というやっかい者も問題として挙げておきたい。
 これは、主にヒロインの好感度を左右する選択肢にタイムリミットが施されており、4秒間で3つの選択肢を選ばなければならない
 それだけではなく、時間経過によって選択肢は消滅し、だいたい2秒弱でいずれか一つの選択肢が消える。
 こうして文章にして書くと大した事ないように感じられるが、実際にプレイしているとこれはかなり辛い。
 1秒半程度の短時間で、「3つの選択肢を読み」→「どれを選ぶべきか考え」→「その上で決定」という行程を踏まなくてはならないのだ。
 読むのが遅い人間にとっては、地獄以外の何物でもない。
 しかもこれが会話中に突然出現するものだから、パニくったらもうアウトだ。
 当初、ひょっしたらここで消滅する選択肢はさほど重要ではないものが消えるのか…とも考えたが、後の調査でランダムである事が判明。
 どうも、その時点でカーソルがおかれている場所から一番遠い位置のものが消滅しているような印象を受ける。
 幸いというか、すでにエンディングが決定してしまう第七章前半以降からはこのシステムは登場しなくなるが、とにかく困ったものだ。
 これのおかげで、何度リロードするハメになったか数え切れない。
 「とらハ3」でも同様のシステムがあったが、せめて機能オフにするか、時間を延長できるモードが欲しかった所だ(一度EDを見ていると、次回からはリミットが緩和される、とかね…)。

 で、これらを乗り越えて辿り着くエンディングなんだが…
 正直、書くことがない。
 あれだけの苦労を伴った割に、ここで書き記すべきものが皆無だというのも恐ろしい。
 各エンディングは、事件を解決させて東京に戻る主人公に誰が関わってくるかというレベルのものに過ぎず、先の通りCGがちょっとだけ付加され、ちょっとだけテキストにバリエーションがつくだけでお茶を濁されてしまう。この間数分
 つまり、どれも個別エンドとか“物語の結末”と言い切れるレベルのものではないのだ。
 物語の中核となる事件は、全ED過程共通の部分ですでに完結している。
 つまり、その後のどーでもいい部分が分化しているだけだ。
 メインヒロインであり、重要な鍵を握りかつまだまだ語るべき部分があるだろう湖希EDが、“ただ探偵事務所に居着きました”という内容だった事に、正直ブチ切れそうになった程だ。
 はっきり言って、これほど“蛇足”に甘んじたものはない。
 本編があれだけの濃さだったというのに、なぜ結末がこれほどお粗末だったのか…どうしても理解が出来ない。

 これらの問題点は、すべてゲーム全体の中枢に位置する問題点で、必ずプレイヤーの誰かが同感と捉えるものだろうと考えている。
 まあ、人によっては妥協あるいは納得できてしまうものなのかもしれない、という要素も孕んではいる。
 だが、これはどうだろうか…?

 本作究極の問題点“章スキップ”だ。

 本作は、総合10時間を軽く上回る長編ADVであり、多数の章で構成されている。
 ところが、とある条件を満たしてしまうと(逆に言えば、最低条件を満たせなかった場合)、その章が終了した途端に一気に章をまたいでしまうという現象が起こる
 具体的に言えば、一章や二章辺りの行動が不充分だと「クリア条件を満たせず」と早急に判断されてしまい、章スキップが始まってしまうのだ。
 スキップされた章は、パパッと軽い説明(日記形式)だけで流されてしまい、何が何だかわからないうちに進まされる。
 で、八章ラストの竜神の祠調査後に突然青い炎のグラフィックが表示され、ゲーム終了させられてしまうのだ
 プレイヤーは、何が起こったのか最後までわからないまま、放置されてしまうという図式だ。
 よりによって、ラスト直前まで辿り着いて…である。
 これは、「一章から三章までの間で、メインヒロイン達に対する選択肢や行動でマズイ結果を選択してしまった」ために発生するペナルティだ。
 つまり、好感度を最低限すら稼げなかった、という意味だ。
 本編のメインの事件とはまったく無関係の所で行った選択の結果が、“カムイフチの祭を阻止出来なかった”という結末を導くというのだ。
 こんなもの、一体誰が納得できるというのだ?!
 私は最後まで章スキップを起こさなかったのだが、この情報を知ってから実験として“スキップする条件を満たしながらのプレイ”に挑戦した。
 結果、第一章での巴救出の際の選択肢や、真奈瀬の意見への賛同の是非などの細かい要素の積み重ねによって、一気に五章までスキップしてしまうという事態に遭遇できた。
 強制ゲームオーバーまでのプレイ時間は、だいたい3時間。もちろん、その行程は最低限過程によるものだ。
 真面目にプレイしていてこの結末に辿り着いた人は、これを遙かに上回るプレイ時間をムダにさせられる事は明白である。
 条件の切り替えは、やっぱりヒロインの好感度云々であった。
 これって、意地悪以外の何だというのだろうか…?
 もちろんこれ以外にも色々な原因が内包されている事が後の調査で解ったが、もうあきれ果ててしまった。
 どうやら一部の未確認情報では、シスターに充分に会っていない事でも発生してしまうらしいが、こうなったらもう「どないせーっちゅうんじゃ」状態だ。

 先ほど散々誉めたストーリーにしても、問題がない訳じゃない
 とにかく複雑な設定の山積みがあり、それに付加説明が比例していないためにプレイヤーの理解度が高まらないのだ。
 これには、冒頭部で触れた「プレイヤーの知識への依存度」も当然含まれる。
 火之迦具土の死体から土地の豊饒が成されたと伝えられた根元的理由、ヴァチカン教皇庁とPhoenix社の考案した“理想郷構築”のための作戦、Phoenix社内で独自活動する連中の目的、自然発火現象のメカニズムとそれの発生理念、教皇庁がいざなみ市を聖地と認定した行程、マリーの派遣目的、m-EARTHを巡る諸設定と構築目的・予想外の事態、界面干渉型熱核融合発電の存在意義と隔離理由、電離層異常についての理屈…等々、これらをすべて一回のプレイで完全把握出来た人がいるなら、私は拍手を送りたい。
 実はこれらにはちゃんと説明が成されているので一見文句の付けようがないのだが、あまりに情報が膨大すぎるためにこちら側の情報処理能力を凌駕してしまう危険があまりに高い。
 用語の一つひとつをメモし、その関連と情報を事細かに記した上で関連づけないと、把握はかなり困難だ。
 まして、六章の妙見先生の説明と八章の教会での座談会(笑)だけで「へらい町」「聖骸布」「電磁層異常」の謎を解決させたとは決して認めたくない。
 これらは、もっと前から時間をかけて、じっくりとプレイヤーに認識・浸透させていかなければならなかった情報だ。
 ここに至って、シナリオライターの“情報の一方的提示”が露見してしまっている。

 最後の問題点。
 ヒロインが、かなりクセのある連中揃い。
 一番無難なのが巴だが、いつまでたっても言うべき事をいわず主人公を突っぱねるメインヒロイン湖希に、カタブツでムダに真面目な真奈瀬などは、プレイヤーに大きな不快感を与えかねない場面ばかりが連発する。
 巴にしても、あまりに現実超越な存在のためか違和感を抱く人も多いだろう。サブキャラの紫乃なんか、論外だ。
 個人的には、第三章以降真奈瀬が急に可愛く感じられるようになったが、人によっては最後まで大っ嫌いという人も多いだろうなぁ。
 特に三香野京子、ムカつきすぎ(笑)!
 こんな奴、誰か気に入る人いるんかいな?!
 さらに、声が「おジャ魔女どれみ」のどれみそのまんまなのも大弱り(爆)。
 まさしく「とんでけぴゅ〜☆」モノである(意味不明)。
 全体的に、ストーリー方面やバイプレイヤー描写に力が偏り、本来物語の命運を分ける筈のヒロイン達の描かれ方がまずくなった事は否定出来まい。
 その証拠に、賀神社長や麗巳、妙見先生や本来憎まれ役の筈の滝ポンなどは異常なくらいにキャラが立っている上、この上なく感情移入しやすいのだから。


(総評)
 高い完成度と重大な問題点を併せ持つ作品…と、結論づけるしかない「火焔聖母」。
 この作品をやり込んでいて感じた事が、「ADVにおける“ゲーム性の追求”」だ。
 本作は、これを追求しようとして独自の方向性を模索し、その結果様々な長所と短所を生み出したのではなかろうか、と私は考える。

 近年ADVは、ゲームというよりも“電脳小説”に限りなく近い位置付けになり始めてきた感がある
 つまり、感動的で濃厚なシナリオ・演出を得る代償として、本来ゲームとして持っていなければならなかった筈の部分を置き去りにしてはいないか、という危惧と言い換えてもいい。
 一例として、最近のファ○通のクロスレビューで「DC版“AIR”」を指して、「ゲーム性皆無」と述べたレビュアーがいた。
 この人がこの作品をどこまでやりこんだかは知る術もないが、少なくともそういう印象を抱かれたという事は事実なのだ。
 そして同時に、私もこれに同意する。
 これは、「AIR」を知る人にとっては噴飯モノの意見かと思われるが、ちょっと待って欲しい。
 「物語を楽しむ」事と「ゲームを楽しむ」事は、決してイコールではない
 というより、物語進行のみを優先させる形式の作品を“ゲームとして認識”するためには、ある程度の経験が必要になってくるのだ。
 NINTENDO64のタイトルしか経験した事のない人には、「AIR」等の作品群は“ゲーム”であるとすら感じない事だろう。結局はそういう意味だ。
 もちろん、それは直接作品の評価に結びつくものではない事を、ここで強調しておく。
 最近この辺が非常にあやふやになってしまった訳だが、コンシューマー系ではパソゲー(主に18禁ジャンル)系以上に、こういった区分に厳しいのだ。
 つまりゲームとして発売される以上、“ゲーム性”という部分をある程度強調させねばならない。
 極論を唱えるなら、ストーリー性はその次なのだ

 「火焔聖母」は、おそらくこのジレンマに捕らわれてしまったのではないかと思う。

 本作は、いうまでもなくその売りはストーリーにある。
 キャラクターの萌え度や媚び度、はたまた色気あるCG閲覧だけがメインではない。
 だが、シナリオを徹底的に練り込んだとしても、ドリームキャストのソフトとして発売される以上一般のターゲットへの意識が求められる事になる。
 そうなった場合、18禁ゲームとはまた違った構築をしなければ周囲を納得させる事は難しい
 「AIR」は、すでに他方面で成功が確認されているタイトルだからベタ移植も可能だったが、完全新作の場合は事情が異なる。
 そういった考察を経過して組み込まれてものが、「タイミングアンサーシステム」や3Dマップ移動、或いは章スキップなどの独特なスタイルだったのかもしれない。
 そんな風に思えてならないのだ。

 ただ、当然ながらこういう視点で見つめてみると、決してバランスが良かったとは言い難い。
 ゲーム性の反映として組み込まれたものが、単なる“プレイヤーへの意地悪”にしかなっていないからである。
 これだけ長所と短所がキレイに分別される作品は珍しいが、そのおかげで見えてきた結論である。
 もちろん、洗練されて使いやすかった部分も多く、容認できる細かな問題点も多数あるのだ。
 だから、完成度が低いなんて決して思ってはいないし、そう考える人もまずいないたろう。
 単に“うまく混じり合っていなかっただけ”の話なのだ。
 それによって支払った膨大なリスクは、無視できないだろうが…

 私個人の感想でまとめるなら、「クセの強い傑作」という事になるだろうか。
 難点を多く感じたと同時に、非常に勉強させられた作品であった。


 ちょっと脱線になるかもしれないけど。
 序章部分で語られていた賀神社長の言葉に、私はかなりの感銘を受けたのでここで記しておきたい。
 競馬を例として挙げていた「原因の積み重ね」という発想の妙は、腹の底から驚かされた。

・賭事に勝つための“原因”を積み重ねてこなかった者は、たとえその賭けに勝ったとしても、儲かる事にはならない。
・逆に勝つための“原因”を積み重ねて来た人は、たとえ適当に選んだとしてもそれが勝ちになってしまう。
 

   
 私には、これが身に染みてよく解る。
 単純に“運の善し悪し”で片付けない、さらに踏み込んだ考察だ。
 まさか、ゲームからこんなに深い言葉を拝聴できるとは思わなかった… 

 
  

(後藤夕貴)

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