ハーフヴァンパイア サキさん
 
 自分の内面と、どこまで向き合えるか?
 
1.メーカー名:くるみ
2.ジャンル:アドベンチャー
3.ストーリー完成度:C
4.H度:E
5.オススメ度:B 
6.攻略難易度:D
7.その他:テーマに臆することなかれ。そこはかとなく漂う、ライトな感覚は楽しませてくれる。
 
(ストーリー)
 近未来。
 関東エリアの一部にある、人外の者が住むことを認められた精霊指定都市「芭流原(ばるはら)」。
 そこに住む、吸血鬼の父と人間の母の間に生まれたハーフの主人公・サキさんは、ある日ふとした事件から、その闇の力に目覚めてしまい、命を狙われ始める。
 彼女の持つ闇の力は、とてつもなく危険なものだったのだ。
 数々の刺客がサキの目の前に現れ、そして様々な形でかわされていく。
 そしてサキの前に、一人の少女がさらなる刺客として立ちはだかった。
 不思議と彼女の事が気に掛かるサキは、友人達が止めるのも聞かず、瀕死の重傷を負ってまでも、自ら彼女に近づいていく。
 少女は、そんなサキの姿に恐れを抱き、大掛かりな罠をしかけて一気に葬らんとする。
 その時、サキの周りの人達は?
 暗躍する謎の美女は何者か?
 刺客の少女と、サキの関係は?
 サキと、彼女を思う人達の心は、今クライマックスへ向けて集束する。
 
 
 流行ものが増えてくると、それにとらわれないものを見て、安心感を見出すプレイヤーも増えてくる。
 このゲームは、まさにそんなプレイヤーのためのゲームだ。
 選択やトラップは少なめにして、読ませることをこころがけ、3種類のミニゲームを挟むことで、全体が単調になるのを押さえた。
 そして、恋愛ではないストーリー型であり、なおかつ一本道のシナリオ。
 マルチエンディングは存在するが、一度クリアした後で、元のストーリーの途中と最後におまけとして加わる程度。
 分岐シナリオ、マルチエンディングが当たり前の今にあって、この姿勢は潔い。
 しかも、ストーリー型にありがちなシリアスさ、犠牲を払ってのお涙頂戴、ハッピーエンドを蹴っての孤独等の作りもしていない。
 常に明るく、みんなでハッピーになろうと、前向きな感がある。
 しかし、だからと言って軽いノリでおちゃらけていることはない。
 このゲームの根底にあるテーマは「自分の内にあるものと、どう向き合って生きるか」だ。
 
 話は、サキが自分の住む世界には許されざる自らの力を否定することから始まり、それを認め肯定した上で、力を受け入れることで終わる。
 この間に、サキを取り巻く面々も、同じく自らに葛藤する。
 権力争いに巻き込まれる程の身の上から、自分の欲や気持ちを素直に出せないニンフのアリス。
 人狼であるが故、幼い頃に迫害され、しかしそれは弱かった自分のせいだと考え、道を外れることなくより強くありたいと願うケンゴ。
 ウンディーネの属で、気の弱さと大きな失恋のため、自分を自由に表現することができないが、恋にも友達にも、もっと理解してもらいたいと努力するミサオ。
 数少ない人間で、元ヴァンパイアハンターである闇の力の監視者だが、その目的であるサキを愛するが故、護りたいという心情と板ばさみになるアキラ。
 葛藤するのは味方だけではない。
 家の命に従おうとするも、サキの友達にほだされて離反し、護る側に立つ事になる鬼族の鈴。
 鈴の兄で、九条への忠誠心とミサオへの愛情に悩み、自分のあり方を模索するアオイ。
 アキラの上司で同じく監視者であり、自分の役目に忠実、どんなことも冷徹にこなすが、その反面行った全ての業を背負わなければならないと、自らに課す九条。
 そして、人でありながらサキに近い力を持ち、刺客として彼女の前に立つも、サキの態度に恐れと親しみを覚え、惹かれ、自分が予見する不吉な未来への選択を、自らが決定してしまうのではないかと悩む悠里。
 唯一裏表の無いキャラであるキラ一人を除いて、出てくるキャラクター全てが、向き合うべき何かを持っている。
 はっきり言って重苦しくなってもおかしくない筈のものなのだが、サキの前向きな姿勢がみんなを引っぱっていく形が、あまり暗い印象を与えない。
 「重い空気を漂わすだけが深いテーマを表現する方法じゃない」という制作側の考えが見えるようだ。
 グラフィックもそれに一役、いや二役も三役も買っている。
 とにかく表情が豊か。
 特に出番の多いサキ・アリス・ミサオは顔がころころ変わって、見る者を飽きさせない。
 普通の顔が少なく感じる程だ。
 滝のような涙、軽蔑のまなざし、光る眼鏡、引きつる顔、明るいノリの定番がふんだんに使われている。
 これで漫才のようなかけあいが入るのだから、重くなろうはずもない。
 そこに良いタイミングで声が聞こえてくる。
 フルボイスではなく、要所要所で声を挟むことで、よりインパクトのある作りになった。
 Hシーンにも、当然声が入っている。
 聞こえると恥ずかしいが、良い気分だ。
 
 しかし、長所ばかりではない。
 画面にある4ヶ所を何回か回るだけのフラグの立て方が、単純作業でしかない。
 システムが簡単なだけに、話を進める上で少々目立ってくる。
 そして明るいノリが災いしてか、テーマに対して各キャラクターが説明不足になっている。
 サキの両親はどうやって出会ったのか?
 アリスはどんな権力を相手にしているのか?
 ケンゴの背負った過去とは?
 誰を見ても、わずかに文章で表現されるだけで中途半端。
 特にキラなどは、何も書かれていないのでただの謎キャラになってしまっている。
 シナリオとは別に、それぞれを彫り下げる部分が欲しかった。
 
 またグラフィックは、表情は良いのにキャラのポーズがほぼ動かない。
 サキなどは、主人公であるにもかかわらず2ポーズだけで、腕一本の変化も無い。
 表情の出来に安心してしまったのだろうか。
 セリフも、使い方は良いのに声は棒読みっぽい。
 声優のキャリアにもよるのだろうが、もう少し頑張って欲しい。
 特にHシーンは、何人かで声を当てているようだが、総て同じテンポに聞こえる気がする。
 マルチエンディングは、サキ一人では物足りないと感じるプレイヤーには親切に見えるが、本作ではおまけ的要素に過ぎないため、そちらに重点を置いて見てみると、一本道のメインシナリオが、丸ごと全部おまけに感じられてしまう。
 他キャラに集中していると、メインで一番苦労しているサキの話が、単なるバックグラウンドに成り下がることになる。
 つまりそれは、エンディングのあるキャラ(5人)分、ゲームを繰り返す作業があるということだ。
 メインシナリオは1プレイ2時間程度かかるため、全部プレイすると骨が折れる。
 マルチエンディングではバッドエンドも発生するから、CG全部を集めるには根気が要る。
 「根気よく、気軽なゲームをやる」人が、どれ位いるだろうか?
 
(総評)
 良い所、悪い所半々といったところか。
 ライトなゲームなので、色々な所で救われているようだ。
 粗削りな部分はあるものの、楽しめる作品だと思う。
 上ではあえて触れなかったが、正直デジコミに近い。
 更にHシーンは、エッチでないグラフィックでも代用できそうなので、ほぼ必要性が無いと言えるだろう。
 選択肢次第で殆どカットできるし、18禁ゲームとしての体裁を保つために描かれているだけの様にも見える。
 大体、メインキャラのHシーンがほぼ無い。
 これはつまり、一般にギャルゲーとして出せるということを意味してないか?
 重いテーマの割に暗い話でもないし、お手軽で、何より笑いがある。ホロリとさせる部分もある。
 Hがメインではないのも、そのためだったりして。
 キャラをもっと掘り下げる必要はあるが、ディスク2枚組でアニメーションを盛り込めば、フォローできそうだ。
 
 パソコンは、コンシューマーのそれと比べて、ゲームの参入において門戸に広い幅を持っている。
 だから、手軽にいろいろ試す事が可能で、その中でヒットが出れば、自信を持ってコンシューマーに参入することが出来る。
 本作は、本当にそれが目的なのかはともかく、そうすることが可能な作品だと私は思う。
 こういうタイプの作品はきっともっと増えるだろうけど、そうなると、面白い面白くないを別として、エッチな部分が評価できなくなりそうだ。
 まあHゲーではなく、ギャルゲーとして見ておくべきだろう。
 それならば、いくらでも人に薦められるゲームだと思う。
 
(Mr.Boo)


 
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