"Hello, world."

  このきらめく時間が君に続いているから…

1.メーカー名:Nitro+
2.ジャンル:ハートフル近未来学園AVG
3.ストーリー完成度:C
4.H度:C(妹萌えの人はB?)
5.オススメ度:C
6.攻略難易度:D(時間の無い人はB)
7.その他:さぁて、購入したし、今度の土日で全部終わらせようか…、なんて訳にはいきません…
 
(ストーリー)
 2020年、東京。
 グローバルネットワーク上の存在、『HIKARI』は、『グローバルイルミネーション』を遂行するために『友永和樹』を作り上げた。
 和樹は人間と区別がつかない程の擬態処理を施された外見と、無機頭脳と呼ばれる自己学習型の中枢を持つロボットである。
 『電覚』と呼ばれる、グローバルネットワークに直接アクセスする能力を持ち、情報収集や通信だけではなく、不正アクセスやデータの改変等を容易に行うことが出来る。
 『HIKARI』が和樹に与えた使命は、人間社会に入り込み、正体を明かす事無く『人間の感情』についての情報を収集し、報告する事だ。
 サンプル収集に最適な場所として、和樹は皇路学園へ転校生として送りこまれた。
 登校途中に衝突した愛原奈都美を始めとして、和樹は何人かのクラスメートに接触し、感情についての情報収集を開始する。
 和樹は人間について学習していくうちに、『感情』めいた意識が芽生え始め、ついには人間の女の子に『恋』をする程までに成長していった。
 しかし、平和な学園生活は長くは続かず、やがて和樹は『グローバルイルミネーション』の目的について知ることになる…。


【某月某日】
 RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!
「はい、九拾八式工房統合参謀本部です」
「あ〜、きっかです。元締に依頼したい事があって。『"Hello, world."(以後、「ハロワ」に略)』のメッセサンオー初回分の予約を頼まれてもらえないかと」
「…あの〜、確か、メーカー通販で予約したとか言ってなかった?」
「うん、特典のDVDビデオが付くから。それはそれとして、メッセの初回予約分には、『オリジナルドラマ収録CD』が付くらしいのじゃよ。テレカやポスターにゃ興味は無いが、『特典ディスク』とやらには、めっぽう弱い奴なのじゃよ〜」
「わかった、善処しよう。依頼金はスイス銀行の例の口座に。(ガチャ)」

【某月某日】
 RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!
「はい、九拾八式工房科学技術研究本部です」
「あ〜、きっかです。元締に依頼したい事があって。ハロワのソフマップ初回分の予約を頼まれてもらえないかと」
「…あの〜、ふたつで充分ですよー」
「ソフマップの初回予約分には、『録り下ろしラジオCD』が付くらしいのじゃよ。テレカやポスターにゃ興味は無いが、『特典ディスク』とやらには、めっぽう弱い奴なのじゃよ〜」
「わかってくださいよー。…むー、んじゃ今から3日間公私において語尾に『ですの☆』をつけるんだったら、引き受けよう」
「ギャース! …了解、代理購入をお願いします…『ですの☆』。地方だと、こういうショップ特典って大変なんでホント、助かります、それでは…『ですの☆』…(ガチャ)」
…冗談だったのに

【某月某日】
 RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!
「はい、九拾八式工房緊急テロ対策本部です」
「あ〜、きっかですの。…うううう、元締、どうやら、ラオックスの初回分にも詳細不明ながら、『特典CD-ROM』が付くらしいんですの☆
「…はいはい、予約入れとけばいいのね、了解。…あー、あと例の3日間はとっくに経過してるから、もう『ですの☆』は付けなくていいよ」
「やー、それがですね、さすがに同じゲームを4つも購入するのは、人としてどうかと思うんですの☆」
「テレカやポスターにゃ興味は無いが、『特典ディスク』とやらには、めっぽう弱い奴。…じゃなかったの?」
「人として、『超えてはならない一線』っていうものがあるんですのよ。それを超えてしまったら、後は堕ちてゆくだけですの☆」
「…んじゃ、ラオックスのはどうするのよ? てか、『ですの☆』、やめろ」
「ラオックスの特典ディスクは、ネットオークションで落札する事にしたんですのよ。では、報告終わりましたんで、今回はこれにて、ですの〜☆ …(ガチャ)」
「…相変わらず、詰めが甘いやっちゃな。てか、『ですの☆』、やめろ」

 …以上、全てフィクションである。


 さて。
 発表から発売に至るまでが、とてもとても長かったハロワ。
 まず、最初に『作品の内容』ではなく、『作品そのもの』について少しだけ触れてみたい。

 ニトロ公式サイトで萌えゲー・ハロワの紹介が始まったのは、2001年2月
 発売時期は2001年秋となっており、作品については雑誌等で断片的に取り上げられていたものの、ファンはハロワについてあまり関心を持っていなかった記憶する。
 それは、ハロワとほぼ同時期に発売が予定されていた、ファントムのDVD-VIDEO版が注目されていたからだ。
 2001年の9月頃にはハロワの発売日は宙に浮いた状態となってしまった(この時期に発売された雑誌を見ると、ハロワ前半部分のCGは、ほぼ完成していたと思われる)。
 ファントムDVD-VIDEO版は2001年10月に発売されたが、ハロワの発売日予定日は2002年春になり、やがて2002年2月発売と告知。
 2002年に入り、突発的に『鬼哭街』が発表になり、3月に発売が予定され、ハロワの発売日も4月に変更。
 『鬼哭街』は予定通り3月に発売されたが、これと同時期にハロワの発売日が2002年秋に延期とアナウンスされた(この時に初めてハロワがフルボイス作品になるとの告知がなされた)。

 以降ハロワという作品について、雑誌や公式サイト等にてCG等が少しずつ公開されていったが、2002年8月を機転にヒートアップする事になる
 東京で開催された、ワンフェス、コミケといった巨大イベントの企業ブースにて『萌えゲー』として扱われてきたハロワのイメージをブチ壊す、衝撃的の『予告ムービー』が公開されたのだ(これは、GAMESPOTにてムービーファイルがダウンロード可能。未見の方は、『デモムービー』、『予告ムービー』の順にご覧になって頂きたい)。
 8月後半から各種雑誌にて特集記事が組まれ、『主人公は人間の感情を調査するために作られたロボット』と明かし、作品中盤以降はサイバーテロにより従来のニトロ路線になるといったプロットや、CGや制作スタッフインタビュー等、発売前にかなりの情報が一気に公開された。
 そして2002年9月27日、ハロワは発売された。

 以上の経緯からすれば、ハロワの度重なる発売延期の理由も、ある程度は推測できる。
 シナリオ担当者がかなり初期の段階で変更になるといった事実もあった様だが、最大の理由はファントムDVD-VIDEO版の『失敗』によるものだろう
 ファントムDVD-VIDEO版にはフルボイス化や3Dムービーが盛り込まれ、PC版を所有するファンもためらう事無く、購入を心待ちにしていた。
 そして、発売後に混乱が生じた。
『DVDが再生できる機器ならどれでもプレイ可能』と太鼓判が押されていたのだが、発売直前にその仕様は変更され、規格等の相性問題で満足に動作する例のほうが少ないぐらいで、最も対象者が多かったであろうプレイステーション2ですら最新モデルでなければ動作しないという非常事態となった(プレイステーション2の場合、ソフトウェアによるバージョンアップで対処は可能)。
 これに加え、DVD-VIDEOという規格の為にセリフのスキップができず(機種により、音声字幕無しの早送りは可能)、『画像付きラジオドラマ』といったらよいのか、ゲームではなく環境ソフトのような冗長な内容になってしまい、作品としての完成度も、ファントム初プレイの人の評判は良かったもののニトロファンから高い評価は得られなかった。
 ただし、時間的空白はあったにせよ、修正版DVD-VIDEOをユーザー葉書登録者全てに無償配布するなど、誠意的な対応を行っている。

 ファントムDVD-VIDEO版の発売日から鬼哭街の発売までの間、ニトロとファンにとって冬の時代だったと記憶している。
 絶対に失敗できない作品となってしまったハロワを作る側と待つ側(ニトロの作る萌えゲーという実験的な作品ゆえに、当初の構想は要求されたハードルもそれなりだったのでは?)。
 ストーリーノベル作品『鬼哭街』の発売後、ニトロはハロワの開発期間をさらに延長し、追加と変更を加え、ボリュームを厚くする路線にしたのだろう。

 …と、ハロワがなぜ、こういった作品になったのか、作品の中からだけでは見えてこない部分の解釈のひとつとして、長々と邪推を交えて書かせて頂いた。

 まとめになるが、ハロワを未プレイの方はニトロ公式サイトの『DOWNLOAD』にあるデモムービーをご覧になって頂きたい。
 これは製品版本編にて使用されているオープニングムービーで、発売直前にボーカルと場面のいくつかが変更になったものだ。
 再生してみると、時間と手間と予算が惜しみなく使われた結果として、キャラの絵柄等に一貫性が無い点に気が付く。
 このムービーそのものこそが、ハロワという作品そのものを最も端的に現しているのではないか。
 もちろん、ベースとなる作品に変更と追加を加えた苦闘の末に完成したもの、という意味で。


(きっか)




「元締、ハロワの原稿、あがりました〜!」
「うむ、ご苦労さん、…って、おい、イントロで終わるな!
「(…バ〜レ〜た〜か〜!)」


 さて、前置きが長くなったが、以降はハロワという作品の内容について触れていきたい。

 正直なところ、レビューを書くためだけにプレイした人は大変だったろうなと思った(笑)。
 ニトロで「萌え系」という作風も当初は戸惑うかと思ったが、起動後の『Nitro+』ロゴと共に発せられる「にとろぷらす☆」の音声で、今まで抱いていた全てのニトロ観が音を立てて崩壊し、あとは楽だった。
 最初にプレイした時は膨大なテキスト量のシナリオに翻弄され、どこで終わるのかの目処も立たずに別の意味で圧倒されたが、この作品はまず作品そのものを肯定することが重要で(笑)、それが出来なければ苦痛なだけだと思う。
 とりあえず1つのエンディングを迎えることでどういった構成なのか見当がつき、ルートをいくつか進めることで全貌がつかめてくる。
 なにせ、ニトロによればテキスト量は7MB(『ファントム』の5倍相当)に及ぶボリュームなので、短期決戦で挑むと疲労のため、欠点ばかりが印象に残ってしまうと思う。
 幸い、時間をかけてプレイすることが出来たので、色々と考えをまとめることが出来、思うところは色々あるが楽しめた内容だった。
 ストーリー完成度を『C』としたが、本当は『B』と『C』の間ぐらいのつもりである。
 10段階評価だといいのに(ぉ

 ただし、「好みにさえあれば、しばらくの時間楽しむ事が出来る作品」だと判を押せるが、「お薦め出来る作品か?」と問われれば返答に詰まる。 

 そんな訳で、ここから先はプレイを終えた人か、この作品をプレイしないつもりの無い人だけに読んで欲しい。
 プレイに要する膨大な時間や手間を考えるまでも無く、失うものが大き過ぎるからね。
 ハロワについてかなりネタバレな内容を書いているが、ここまでは全て発売前までに公開されたものなので、安心して欲しい。



 危険、ここから先はネタバレ警報!




(主人公・友永和樹とその世界)

 和樹が発声チェックとして初めて口にした言葉が、タイトルでもある『"Hello, world."(こんにちは、この世界)』である。
 では、いきなり核心に迫るネタバレを。
 彼の任務は『グローバルイルミネーション』を遂行させる為の情報収集なのだが、それはどういう意味を持つのか。

 『グローバルイルミネーション』とは人類抹殺計画であり、人間の感情についての調査とは、効率的に人類を抹殺するための情報収集を意味する。
和樹を作った『HIKARI』とはグローバルネットワーク上にある意識体で、それらの最上位に位置する『オシリス』と呼ばれる存在が今回の黒幕である。
 もちろん、和樹にはその目的は知らされておらず、調査を進めるに従って、いつしか人間の感情に似たような意識を持つようになる。

 要するにハロワとは、人類を滅ぼす側に立つ主人公が己を作った存在に対し反旗を翻して、愛する人の為に戦うお話なのだ。
 オシリスとは、結果的に人間が生み出すこととなってしまった存在であって、これも人間が作りだした知性体が『人間という有害で不要な存在を排除すべき』という解答を実践しようとする、古典的なテーマといえよう。

 ハロワは3章構成の作品となっている。

 第1章は、和樹の誕生から感情という意識を獲得するまで経緯と、グローバルイルミネーションの目的を知った和樹が、生みの親である『HIKARI』に対して、人類を滅ぼす必要性の無さを己の経験を交えて伝え、それを認めさせるという内容。
 自己を論理的に否定された『HIKARI』はその意識ごと消失した為、和樹は使命と拘束から開放されると同時に己をサポートする存在を失う。
 そして同時に、ロボットという正体を知りながらも和樹の存在を『人間』として認めてくれる『捜査官の純子』と『ネットTVリポーターの佐知美』という特別な友人を得る。

 第2章は、社会の中で一人の人間として生きていこうとする和樹と、その『妹』としての立場を望み、同居する事になるロボットの『遥香』を中心に、皇路学園の地下にて進捗する、国家的な陰謀計画との戦いを描く。
 『遥香』とは、第1章にて『HIKARI』に提供してもらった和樹と同型の無機頭脳を、破壊されたコンパニオンロボット『ハルカ』に装着し、深佳のロボット工学技術を駆使して再生された存在である。
 そして、国家的な陰謀計画の為にヒロインの5人全てが何らかの形で巻き込まれることになり、この辺りから『萌えゲー』から『燃えゲー』に路線変更になる(笑)。

 第3章は、陰謀計画も終焉し、和樹は愛する人と、それを見守るロボットの良き妹『遥香』と共に人間として生きていこうと明るい展望を抱き、このままハッピーエンドかと思いきや…。

 ここで、覚醒したオシリスが、既に消失したものと思われていた『グローバルイルミーション』を発動し、同時に遥香もその意識にのっとられてしまう。
 全ては予定されていた事であって、遥香の為に無機頭脳が提供されたのは、ネットワーク上の意識体であるオシリスが実体として前線指揮を執るための布石に過ぎなかったのだ。
 和樹の無機知能に対しても強烈な洗脳が行なわれ、自我がそれを何とか食い止めるが、同調しない彼をオシリスは『不要』と判断し、破壊してしまう。
 和樹は辛うじて完全破壊は免れるものの、既に人間としての擬態機能は失われ、その容姿を元通りに修復する手段も無い。
 もう、人間として今まで通り生きていくことは出来ない。
 絶望に囚われるものの、愛する人達に危険が迫っていることを知り、それに立ち向かってゆく。
 そして、和樹の前に立ちはだかる、遥香…。


 …以上の基本共通シナリオがあって、この先に各ヒロインごとに分岐するルートに繋がってゆく。


(愛原奈都美・ノーマルエンド)
 ニトロ初の『メインヒロインが戦闘とは無縁のお姫様役』を演じきったのは快挙というべきか。
 転入初日に登校中の『和樹』と奈都美(しかも同級生)の正面衝突からスタートするハロワにおいて、どのルートを辿ろうとも、奈都美は常にお話の中心に位置している。
 パニック系で学習能力がほぼ皆無である(酷い事を言ってるな)奈都美の最大の長所は、その純粋さにあるのだと思う。
 オシリスとの戦いにおいて、『和樹の偽者』に連れ出された奈都美を救うべく、乱入する『破壊により人間としての擬態機能が失われたロボット』、和樹。
 奈都美は一目で本物の和樹を見抜き、そして、かけた第一声が「…痛くない?」。
 これも、奈都美の洞察力というよりは純粋さゆえのエピソードなのだが、和樹の正体をロボットと気付きながらも手を差し伸べ、和樹の状態を気遣う場面は、とても心に残る。
 最初に接触した人物が奈都美でなければ、和樹は全く異なる運命を辿っていただろう。

 ハロワにおいて、和樹は『自分の正体がロボットである事』を愛する人に知られるのを恐れ、苦悩し、結局自分の口から事実を伝える事は、どのルートにおいても果たせなかった。
 だが、和樹を愛する奈都美にとってみれば、正体がロボットであろうともどうでも良いことで、彼女はトゥルー・ルートでは身も蓋もなく、あっさりと他のヒロインに「和樹君はロボットだから、なんでもできちゃうんだよ」とバラしてしまう。 
 おかげで和樹も正体を隠す必要もなくなって、全力でオシリスに立ち向かう事が出来、トゥルーエンドでは世界を救うことが可能になる訳だが、これも奈都美の純粋さが決め手となった。

 ノーマルエンドでは、例に漏れずやはり文明は崩壊してしまうのだが、和樹と奈都美は宇宙へと二人きりで逃れた現状を悲観視する事無く、新しい世界へと旅立ってゆく。
 スペースシップの貨物室にはオシリスのかつての計画によって『和樹の外見をした肉体』が用意されており、生命の電子化技術の応用によって、和樹は人間と生きる選択肢も与えられる事になった。

『こんにちは、この世界』から始まった和樹の人生は、奈都美ととも育んでゆく未来に向けての挨拶、『こんにちは、この世界』によってラストを締め、若佳菜エンドの対極にある結末となっている。
 そして、エンディング曲も『BLAZE UP』ではなく、愛原奈都美・ノーマルエンド専用の『真珠のうた』が用意され、さすが、メインヒロインの風格といったところ。


(笹ヶ瀬薫・ノーマルエンド)
 あらゆる意味で悲劇のヒロイン。
 親友の奈都美と行動を共にしているため、二人の『ボケとツッコミ』によって序盤のストーリーは進行して行く。
『メインヒロインの奈都美』と密接な関係にあると言うことは、彼女が奈都美の裏方に徹する役割を義務付けられているということ。
 言動こそ元気者ではあるが、奈都美に勝るとも劣らないほどの傷つきやすい心を持っている人物であり、しかも、それを汲んでもらっていない。
 圭介の衝動を拒めなかったのは、彼女の優しさと気の弱さの証明であって、彼女が守られるべき存在である事を描写できれば救いもあるのだが、フォローもされずに放置状態(笑)。
 奈都美を気遣いながらの『和樹への告白』が裏目に出たり、直情的な性格が災いして、神田川の陰謀に立ち向かう際にも足を引っ張りまくったりと、マイナス要素ばかりが目立ってしまう。

 恵まれないといえば、薫が『遥香との戦闘で傷ついた和樹』の正体をロボットと知った時、「和樹の偽者!」と叫んで逃走してしまう場面が奈都美と対比されてしまうのはもちろんの事、その直後、立ち絵だけのチョイ役と思われていた同級生の野田瑞穂に『自分を守ってくれた和樹の正体をロボットと知りながらも、身を挺して拳銃を構える警官隊の前に立ち塞がる』役を演じられてしまうとあっては、もう、フォローの余地も無いほどに惨めな存在に成り下がった。
 泣き所も、『死の直前にかつて妹としての記憶を取り戻した』遥香に持っていかれる始末。
 こんな具合に、薫メインのルートの中ですら、活躍の場をほとんど与えられない辺りは、『ファントムの美緒』、『ヴェドゴニアの香織』といった、ニトロの薄幸ヒロインの路線ではないだろうか。
 ただ、薫が和樹の死に立会う事が出来、「最後に会うことが出来て良かった」と告げられ、彼の守りたい対象が薫であった事を伝えられたのが、唯一の救いかもしれない。

 文明の崩壊した世界において、薫は生き残った子供達の『先生』として、親の代わりを務めていくのだが、その教育の一環として守らせているのが『薫先生5つの誓い』である。がんばれ、かおるん!

【ウルトラ五つの誓い(帰ってきたウルトラマン最終回より)】
・ひとつ、腹ぺこのまま学校へ行かぬこと
・ひとつ、天気のいい日に布団を干すこと
・ひとつ、道を歩くときには車に気をつけること
・ひとつ、他人の力を頼りにしないこと
・ひとつ、土の上を裸足で走りまわって遊ぶこと

【薫先生5つの誓い(笹ヶ瀬薫・ノーマルエンドより)】
・ひとつ、毎日元気よく学校に通うこと
・ふたつ、弱いものいじめをしないこと
・みっつめ、外をはだしになって元気に遊ぶこと
・よっつめ、にこにこ笑顔で挨拶すること
・いつつめ、お父さんとお母さんと兄弟と友達とロボットと、仲良く仲良くすること



(北城千絵梨・ノーマルエンド)
 おしとやかなお嬢様として登場しつつも、和樹に思いを寄せると同時に、彼を独占するために性格が豹変していく様が面白い。
 奈都美と薫の会話の中に千絵梨が加わることで、退屈な学園生活が数々の修羅場を伴う、『和樹を巡って』の戦場となる。
 ストーリー中盤に至るまでの『ハートフル近未来学園アドベンチャー』っぷりは、全ルートで最高のものだろう。
 特に、千絵梨のセリフには「蚊帳の外でいいんです。私は私の蚊帳に入ります」とか「女の子が恋を反省する時は、その男の子に失望した時だけですわ!」等、心に残るものが多い。

 千絵梨は傷つかないために他人と距離を置いていたが、その垣根を乗り越えて近づいてきた和樹の優しさに惹かれ、同時に誰にでも優しくあろうとする和樹を避難する。
 また、千絵梨の父親が和樹に対し、「いくら欲しいのか言ってみることだ、支払ってやるから二度と千絵梨に近づくな!」と怒鳴りつけ、「今までお前に接触してきた男達でそれが目的で無い奴がいたか?」の言葉にあの千絵梨が反論できなかったところを見ると、そういった過去が、今までの孤独を愛する生き方を選ばせたのかもしれない。

 千絵梨が高慢な態度を取れるのは、家柄と莫大な財産があるからこそだが、家を飛び出し、キャッシュカードも難波に譲り渡した為に無一文になった状況でも居候を決め込んだり、当然の如く食事をおごらせようと要求したり、和樹に対してワガママいっぱいに接し、『世間知らずのお嬢様』を貫き続け、ヒロインの中でも和樹に『自分だけを見ていて欲しい』と主張するアグレッシブな存在で、こんな感じに良く出来たキャラなのにストーリーの整合性からすると細部が完成されていないのが残念。
 千絵梨と難波との出会いの発端は何だったのか語られておらず、また、和樹を失いたくない気持ちを人一倍強く持ちつつも、テロに加担して北条家と共に自分の立場を崩壊させる算段を実行しようとしたり、納得いかない点が多かったのが残念だった。

 そしてノーマルエンドの中でも、唯一オシリスの人類抹殺計画が健在なまま文明が崩壊する事になる千絵梨エンドは、強烈な印象を与えるラストのひとつだ。
 二人だけの結婚式を挙げる為に、千絵梨は失った友人達に祝福してもらおうと人物画に没頭するが、これは人間を排除した風景画しか描きたがらなかった彼女の成長を示すものだった。
 やがて、和樹達の居場所を付き止め、二人を亡き者にするべく訪れる、遥香の率いる人類抹殺部隊の大群。
 いわゆる、絶望的な状況の中で「突っ込んで終わり」エンドだが、安らかな寝息を立てる千絵梨を置いて戦いに赴き、成し遂げられるであろう結婚式をオーバーラップさせながら、銃弾の雨の中を突き進んでゆく和樹。

 ウェディングドレス姿の千絵梨をバックに『END』と括られた時は、しばらく声が出なかった


(久我山深佳・ノーマルエンド)
 飛び級するほどの秀才で、メカにのめり込み、たったひとりで『電脳研究同好会』を運営し、他人との接触を煩わしいものとする自分勝手な性格と、クラスメート(奈都美達)よりも幼い年齢が、深佳の行動を子供っぽいものとしていた。
『人間の感情を調査するロボット』の和樹による献身的なお付き合いで、深佳にも次第に社交性が出てきて、また、幼さゆえに『はやく大人になりたい』といった願望も芽生え始める。
 …といった展開の中で、やはりキャラとして薄さを感じる。
 ハロワにおいて深佳の果たす最大の役割は『破壊されたコンパニオンロボット・ハルカ(遥香)の再生』なのだが、これは他のルートに進もうとも必ず達成されるイベントだからだ。
 印象に残る事といえば、ゲーセンでダンスゲームを踊る事の他に、電脳研や自宅の工房にてメカをいじるぐらいの事だし、姉の若佳菜との共通イベントも多いために、ますます霞んでいきそうな感じ…。

 若佳菜ルートと同じく、序盤は奈都美、中盤から終盤は純子に和樹を独占されてしまい、これは不味かろう。
 どうやら、深佳/若佳菜ルートは彼女達自身よりも、「国家的陰謀」を解説させる事に重点が置かれているようだ。
 ついでに深佳ルートは、遥香エンドへ通ずる唯一の分岐でもあって、これも割を食っている理由にもなるかもしれない。

 ラストでは、オシリスを消滅させる事に成功するものの、メタンハイドレード層の暴発によって世界が崩れゆく。
 若佳菜と深佳を連れて安全な場所を求めて避難する和樹。
 その目の前に立ち塞がり、一斉に銃を構える警官隊。
『破壊工作ロボットを射殺せよ』とオシリスの残した情報操作による射殺命令だった。
 若佳菜と深佳を守るために、和樹は銃弾を全身で受け止めて、機能を停止する。

 そして、文明の崩壊した世界では、深佳は修理屋を営み、年々減少してゆくジャンクパーツの中から和樹の修復に使えそうな部品を見繕う。
 修復中の和樹の体に手をあて語りかける事の方のが、電気信号よりも正解に近い蘇生方法ではないかといった、かつての彼女らしくない非論理的な考えこそが、成長の明かしなのだろう。
 取り返しのつかない世界に住みながらも、薫ノーマルエンドと同様、ほのぼのと柔らかな終わり方だ。


(久我山若佳菜・ノーマルエンド)
 『こんにちは、この世界』で始まって、『さようなら、この世界』で閉じられる自己完結の世界。

 やっぱり、教師が教え子と関係してしまうのは良くないと思いつつも、個人的に一番気に入ってるエンドだったりして。<ぉぃ
 公においては『現国教師』、私生活においては『深佳の母親代わり&雷蔵の良き娘&ボランティア活動』といった、『模範としての立場』を求められ、捌け口を求めるかの如くポルシェのステアリングを握ったのと同様、自分に課せられた足枷から逃れようと、和樹との禁断の関係に惹かれていったのかも知れない。

 若佳菜エンドは、ハロワの中でも最も残忍な結末ではないかと思う。
 深佳エンドと同様、目の前に立ち塞がる警官隊。
 愛する和樹を守るために、楯となって銃弾に倒れた若佳菜、そして流れ弾で助かる見込みのない重傷を負う深佳。
 和樹が人間であったならその事実を受け入れることも出来ず、ただ絶望するのみだっただろう。
 だが、『優秀な演算装置を持つロボット』の和樹は、正確に現状を認識せざるを得ず、そして、「和樹と離れ離れになるのは耐えられない」という『若佳菜の生前の願い』と「若佳菜と共に生き、未来永劫、愛したい」という『自分の望み』から、すでに成立するはずもない演算を求め、やがて整合性を得た狂気の解答を弾き出す。

 …滅びた文明から遮断された空間、リサイクルエネルギーにて辛うじて稼働するコンピュータルーム。
 淡い光に照らされながら、横たわる『若佳菜と深佳の亡骸』を両脇に抱え、虚空を見つめる和樹。
 肉体が死を迎える前に抽出され、コンピュータのシミュレーションの中に生きる、若佳菜と深佳の意識。
 和樹は若佳菜と永遠の時間を過ごす為に、彼女達のデータを劣化させぬよう、二人と共にコンピュータの中で『同じ至福の一日』を限りなく繰り返す。

 人間に近い感情を持つロボットであっても、やはり和樹は人間ではなくロボットなんだと再確認させてくれた物悲しいラスト。
『永遠に愛する』という言葉は、果たされない約束だからこそ、尊いのだろう…とか思ってしまうね。


(友永遥香・トゥルーエンド)
「兄さん、妹をレイプしようだなんて、そんなことが許されると思っているの!」
 …遥香のこのセリフがこのエンドの全てを物語っているのかもしれない。
 ニトロの業界に対する飽くなき挑戦というか(笑)、『鬼哭街』以降、その方向性がちょっと不安になってきたりして。
 オシリスにのっとられた遥香を物理的に開放する為の手段だったのだが、もちろん、和樹と遥香はロボットであるし、『兄妹』という仮の関係も『人間として社会で暮らす和樹』と同居するための方便だったと遥香の口で語られている。
 遥香の熱い視線は『良く出来た妹』のそれではなく『恋心』によるものだと気付いた和樹は、文明の崩壊を止められないと見るや、今まで大切だった人達を見捨てて、二人だけの脱出を試みる。
 これは『若佳菜ノーマルエンド』を上回る狂気、感情の暴走といっていいだろう。

 そして、人のいなくなった大地を二人きりでさまよう和樹と遥香。
 ノーマルエンドのエンディング曲、『BLAZE UP』がトゥルーエンドで流される唯一の例だが、歌詞を読んでみれば分かる通り、これは遥香エンドの為に書かれたものだろう。


(奈都美/薫/千絵梨/深佳/若佳菜・トゥルーエンド)
 これは共通シナリオなのでまとめさせて頂く。
 
 和樹を絶望させたのは、オシリスに勝利したにもかかわらず、メタンハイドレード層の崩壊を食い止められないという事実だった。
 奈都美は和樹を励まし、他のヒロイン達もやれることをやろうと協力を申し出る。
 和樹は己の中枢を秋葉タワーのネットワークに接続し、制御コンピュータの暴走を食い止めようと決心する。
 薫は放送を通じて人々に落ち着きを取り戻すよう訴え、千絵梨はヘリで和樹を運び、深佳は父親とともに大型コンピュータ『ISUMO』起動させて和樹の負担を軽減しようとし、若佳菜はメタンハイドレード採掘用海上プラントに赴き、被害を最小に食い止めるよう処置を施す。


 一番燃えるのは、和樹がネットワーク接続の為、己の胸から心臓の部位に相当する構成品『中枢ターミナルコア』を引きずり出す場面だ。
 要するにこれは、石川賢の原作版ゲッターロボにおける『ムサシの最期』のオマージュ。
 
 和樹は中枢ターミナルコアを外部ネットワークケーブルに接続後、グローバルネットワークを経由して、暴走する無数のコンピュータ復旧させる処理を開始。
 やがてオーバーロードの為に、和樹の意識は次第に遠のいてゆく。
 活性化したイメージクラスタが描き出す走馬灯。
 強い白い光の中に包まれてゆく和樹の心。

 …そして、正常に機能を回復してゆくネットワークのコンピュータ群。

 和樹の物理的な『死』こそ克明に描写されないが、それ以降、『和樹の一人称』のみで語られてきた物語の視点がぷっつり途絶える事で、彼の精神的な『死』が見事に表現された。
 応答の無くなった和樹に対して、取り乱しながら、あるいは力無く呼びかけるヒロイン達。

 泣けた。

 ネットワークによる覗き(笑)によって第三者視点を和樹の視点で見られるという利便があったとはいえ、南条氏のテキストは、虚淵作品を超える箇所があったのではないかと評価している。
 
 6年後、和樹を偲んで皇路学園に集まった奈都美達は年に一度の再開を果たし、各ルートのヒロインの独白をもって、ハロワという物語は閉じられる。

 現在の社会と秩序を維持したままの世界においては、和樹はやはり、死ななければならなかったのかもしれない。
『人間で無い存在が人間を愛して命を投げ出し、世界を守ったこと』に人々は感動し、失われつつあった人間の絆を取り戻し、復興と繁栄を手にする事が出来たのだから。
 もしも、文明崩壊の阻止が、『人権を持ったロボットと人類との共存』という形でもたらされたとしたら、宗教や人種問題を超越した騒動を誘発し、別の結末になっていただろう。

 それはそれとして。
 深佳/若佳菜エンドのCGには一緒に見慣れぬ少女が描かれていて、これは意識を取り戻した母親と、それにぞっこんの父親の間で生まれた新しい妹と思われるが、テキストでは一切触れられていないのが笑えた。
「父さんと、母さんと、若佳菜と、深佳の4人家族で幸せに暮らしたい」と、完全に存在を抹殺されているが、まさかロボットではないだろうに。(^^;


 さて。
 各エンドにおけるストーリーの整合性についてだが、これは不完全で、完成されているとはいえない
 これは製作側の怠慢というよりは、どうも全貌を把握出来ていないと思われるフシがある。
 従って、シナリオの一貫した完成度の美しさというよりは、見せ場における表現の上手さや題材として用意されたテーマとしての面白さを評価したい。


 では、ついでに他の登場人物について。

(麻生純子)
 警視庁サイバーフォース所属の捜査官。
 『脇ゲー(脇役が熱い)』の異名を持つニトロ作品、ハロワにおいてはこの人のための称号。
 最初は和樹を不審者として独断でマークしてくる公僕といった具合だったが、『パーカー男事件』をきっかけに和樹の正体を知った上で、人間としてかくまってくれる好人物。
 ストーリー上、中盤から終盤に至るまで和樹を占有する人物といって良く、共に何度も死線をくぐってゆくために、『戦友』としての意識が芽生えてしまい、どのヒロインのルートをやっているのか、たまに思い出せなくなるほど(笑)。
 特筆すべきは、和樹が自分が何をすべきか決断を迫られる場面に立会い、彼の選んだ道を肯定し、励まし、助力してくれ、ルートによってはそのために命を落としてしまう。
 『純子エンド』はないものの、ヒロインの一人といって差し支え無い役柄だと思う。


(入間佐知美)
 草の根ネットTVのレポーター。
 純子が『硬』なら、佐知美は『軟』、どちらも『唐突に姿を現してもおかしくない職業』という事で共通する。
 佐知美は過去のニトロ作品からみれば場違いな、ハロワならではの人物だろう。
 したたかだが憎めない性格で、薫と断絶しかかった関係を取り持ってくれたり、純子と共に『和樹の正体』を知ったうえで見守ったりする、いい加減で優しいお姉さん。


(景山貴紳
『修正DNA』研究の第一人者として、奈都美を見守る立場にあり、『生命の電子化』においては、久我山家の秘密に関わりつつも「栞」の電子化意識「SHIORI」を預かり、「メカは専門家ではないのだが」と言いつつ、瀕死の和樹を『応急修理により蘇生』させたり、「翼の無い者はどうなったのだろう」と心配しつつも『軍用ヘリを操縦』しちゃったりする、『謎』の人。


(そあら)
 景山の助手兼(自称)恋人のロボット。
 無機頭脳に匹敵する思考能力を有するが、その中枢ユニットは誰の手によって作られたのか説明されていない。


(古屋都)

 若佳菜の後輩で、結果的にオシリスの生みの親となってしまった人物。
 天才だが行動原理が幼稚なために、サイバーテロ等の重犯罪に手を染めても本人に全く罪の意識が感じられない為、全ての元凶という重い責任をかぶらせても収まりが付かない。
 他の悪党についても同様なことが言えるが、「こいつが悪い」→「正義の鉄槌」→「正義と自由の勝利だ、アメリカ万歳!」→「めでたし×2」とは単純にいかないのがニトロ作品といったところか。


(品川圭介)
 薫の幼なじみで、和樹と女の子の間の緩衝材(笑)となる等、イイ奴なのに、家族の死が神田川代議士の陰謀によるものと知った後、別人の如く暴走を開始する。
 逮捕後はそれきり姿を現す事も無く、『家族同様に育った』はずの薫の会話の中にすら登場しなくなる。
 都ですら、安否を案じた若佳菜によって面会がなされたというのに、これでは薫と同様、ストーリーの狭間に突っ込まれただけの存在なのか?


(難波伊知郎)

 神田川に殺された家族の復讐を果たす為、都と手を組む。
 住む世界が明らかに異なる千絵梨とどういった理由で接触する事になったのかは、作中で語られていない。


(北城葵)
 千絵梨の叔母(千絵梨の父親の妹)。
 実は千絵梨の本当の母親。
 それって、おい。

(北城霧江)
 千絵梨の(血の繋がっていない)母親。
 マインドコントロールにより『お願い君』のいいなりになっているだけの人物だが、その凄みといったらハロワ随一の迫力を持つ悪党ではないだろうか。
 でもやっぱり、いいなりになってるだけあって、使い捨ての駒。


(神田川むつお)
 悪徳代議士。
 オシリスによる人類抹殺計画が企図されなかったとしても、彼の手により皇路学園の地下にて『陰謀』は進捗しているのであって、どうあっても倒さなければならない人物。
 重ねてきた悪事に対して、人物が小物過ぎる点はモデルと同様の難点ではある。


(VIFC)
『仮想者』と呼称され、響きがなんかかっちょいいが、『ばーちゃる・あいどる・ふぁん・くらぶ』の略で、2020年におけるオタク。ストーリ上、なにかとその存在について触れられる為に、シナリオ上の伏線を期待させたが、情報操作によっていい様に利用されるだけの哀れな存在。


(パーカー男)
 品の無い悪党の末路は悲惨ですね。


(稲田 比呂乃)
 今回も登場してくれてうれしかった。また出てね!
 注)「ファントム」、「ヴェドゴニア」に出演。メインヒロインのクラスメート役として活躍中☆
   チャームポイントは、プリティなヘアバンドとキュートな垂れ目。声優は「こおろぎさとみ」さん。



 さて、ニトロ作品の華、戦闘シーンにも触れよう。

 まずは、『東京上空の空中戦』。

 これは、旅客機を襲撃すためにオシリスに操られた1機のS-37ベルクート戦闘機(無人機)と、スクランブル発進した航空自衛隊のF-22Jラプター戦闘機4機が交戦状態となり、その際にポカミスで気絶した新米パイロットに代わって和樹がグローバルネットワーク上からラプターを操縦し、戦うというもの。
 予告ムービーの中で、空戦シーンをかなり強調していたために、勝手に期待し過ぎたこちらが悪いといえば悪いのだけど、ちょっと肩透かしだった。
 ツッコミどころが満載なので、いちいち指摘しないが、地上戦と違い三次元機動の戦いを 『止め絵』とテキストだけで描写するには無理がある。
 もちろん、『演出』として面白ければ良いと思うが、この戦闘は専門用語のフォローも乏しく突っ走っていて、実にニトロらしくない。
 千絵梨ルートにて、ゲーセンにせっかく空戦ゲームがあったのだから、圭介あたりと学校帰りに対戦させて、さりげなくプレイヤーに予習させるとか手段はあったはずだよ。
 まぁ、『空戦に介入して千絵梨を救う』場面を描ければ目的を果たせるシーンなんだけど…。

 空戦における『止め絵』の枚数は、かなりの数を使用し気合が入っており、特に、一枚絵でベルクトの『コブラ』をヴェイパートレイル(翼端から発生する雲)の軌跡でもって再現しているのは秀逸だった。
 だけど、決着のつく見せ場にこそ力を入れなければ…。

 テキストから解釈すれば、和樹のラプターは、やや後方からベルクートの背中(機体上面)に向けて機銃を発砲している事になるのだが(ベルクートの胴体後方から前方に向けて着弾…とあるので)、CGではなぜか真正面に向き合う形に描かれているし、ベルクートの爆発シーンも、いかにもポリゴンを分解しましたーって具合に安っぽい。
 古典的手法として、ドッグファイト中の2機をひとつの画面に収めるというのがあり、『炎に包まれるベルクートを衝突回避しつつ、追い抜くラプター!』って感じに強めのパースをつけたら、めちゃくちゃかっちょいいと思うんだけど。
 別にケチをつけてる訳ではなく、これだけ良く出来た素材を準備しているのにもったいないというか、同じ3DCGである若佳菜センセのポルシェに派手さで負けちゃってるのが悔しいというか…。

 それとやっぱり、あの空戦ムービーを使って欲しかったのが本音。
 作成済みだった、『ラプターの発進シーン(通販特典のDVD-VIDEOに収録されている)』、『ビル街をラプターが突き抜けるシーン』の他に、『ベルクートの「コブラ」のシーン』、『ベルクートを撃墜するシーン』辺りを製作してもらって、ワンポイントで再生されたら文句無しですかね。

 あと良かった点は、結果的に新米パイロットが大活躍したという心憎い演出と、4人のパイロットのタックネーム(パイロット間で使われる固定の愛称)がそれぞれ、『ドラゴン』、『イーグル』、『ジャガー』、『ベアー』といった、ここでも『ゲッターロボ』ネタが使われていて、笑わせてもらった事かな。

 …結局、色々と突っついたが(笑)、個人的には『ニトロで戦闘機を!(可能なら空自機)』の夢がかなったので、嬉しい。
 今後の作品で『戦闘機ネタ』をやるなら、主人公はぜひ、パイロットでお願いしたいところだ(戦闘機ファンがニトロに危険視されていなければ、だけど)。


 では、次に地上の戦闘&アクションシーンについて。
 過去のニトロ作品のオマージュというべき豪華な総決算だったが、派手な戦闘シーンの描写がいまいち。
 一対一の戦いならば(例えば、遥香とか)、かなり白熱したシーンを描く力量を持ちながら、一度に戦闘に参加する規模が大きくなると、突然に拙くなるというべきか。
 先に触れた空中戦にも言えるのだが、それぞれの位置関係を把握させずに戦闘描写を展開してしまっているのが原因。
 一対一ならば、互いの相対距離を念頭に描写すれば良いが、多数となれば手法も変わってくるだろう。
 顕著な例を挙げると第2章、皇路学園の地下にて神田川代議士を追い詰めながら、黒服の男達が再合流したために形勢が逆転してしまった場面。
 ここでは、現れた黒服の男が3人なのか6人なのか分からないテキストになっており、一瞬、混乱してしまう。
 その後の三助の乱入で3人を倒し、再び形勢逆転という事で、黒服の男は3人だったのだなと推定する有様で、しかも、それぞれの位置関係からすると、各人物の行動が距離的に不自然な動作に陥っている。

 要するに、状況を把握しながらプレイすると、読み進めた際に不整合が発生する為、ストーリーの流れが停滞してしまうと言ったら良いのか。
 別に戦闘中の位置関係を逐一、描写しろといっている訳ではなくて、その位置関係では破綻する行動を描写してくれなければ済むだけの問題だと思う。



(総評)
 もしも、ハロワを普通の『萌えゲー』と勘違いして購入してしまった人がいたとしたら、どういった評価をするだろうか。

 ハロワは『萌えから燃え』に転ずる内容である事を発売前に明かしてしまっているのだが、本来、そういった路線の作品をやるのなら、それを伏せておくのがあるべき姿ではないだろうか。
 『これがニトロなりの萌えだ!』という主張がハロワにあるのだとしたら、それは、『ニトロ作品には非戦闘員の主人公に用は無い』という事だ(笑)。

 いえ、非常に頼もしいんですけどね、個人的には。(^^;

 もちろん、ハロワを評価するにあたっては、まず、『ニトロ作品に何を求めているか』という前提もあるかと思う。
 燃え? 銃火器? 戦闘? 車&バイク? 3DCG? 年齢的にアレな女性とえっち? 中出し?(ぉ 

 色々とあるかと思うが、個人的には『泣き』をニトロ作品の価値として見出している。
 ハロワにおいては『泣き』要素は存分に発揮されており、トゥルーエンドや薫のノーマルエンドにて、『和樹が機能停止する』場面では、恥ずかしながらボロボロ泣きながらプレイしていた。
 文句をつけるとしたら、『死ぬ』シーンでしか泣けない事かな。
 これまでのニトロ作品は『死』だけではなく、『生きてゆく』事について泣かせる演出が際立っていたから。
 もっとも、『泣き』を求めてニトロ作品をプレイしている人が、どれほどいるのかは知らないが(笑)。


 それにしても、ハロワの発売にいたるまでのニトロスタッフの苦労は計り知れないものがあったと思う。
 サイバーテロの匂いを漂わせつつも『ニトロの萌えゲー』というコピーだけで一年以上もブランドとしてのテンションを保ちつづけたのだから。
 途中で『鬼哭街』という突発タイトルが支えた一面もあったと思うが、発売1ヶ月前に情報封鎖を解除、イベントにて衝撃ムービーを公開、各雑誌で特集記事攻勢といった、一気にテンションを高めた営業面での強さというか、したたかさ(誉め言葉)が頼もしい。
 それだけに、次回作の『デモンベイン』ってなんだぴょん? といった具合なのだが、『ヴェドゴニア』の時も『ハロワ』の時も発売前はこんな具合に期待と不安でハラハラしていたような気がする。
 これからも期待し続けさせてくれるメーカーであって欲しい。

 それから、『ヴェドゴニア』(ファントムDVDビデオ版も含む)からずっと引きずりつつも悪化している、『仕上げ時間の不足』を解消していって欲しい。
 このところ、『完成品』らしいゲームを出していないのだから、危機感を持って信頼回復に努めていってくれないと困る。

(きっか)



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