灰被り姫の憂鬱

 雑誌の宣伝告知で強い興味を示したという、私にとっては非常に珍しい作品(それまではだいたい口コミか友人の薦めが多かったので)。
 だが、メーカー名を見て…やや不安が…
 はるか昔「Ce'st・la・vie」という“体感速度マッハ8でHシーンに突入するすごいソフト”に頭抱えた経験があった私は、めいびぃという名前と「全員の女の子とH可能」の文字にクラクラ来つつ、葛藤収まらないまま購入を決断した。
 さて、その結果は…?

 え、もう6年近くも前の証文持ち出すなって?

1.メーカー名:MBS TRUTH(メイビー・トゥルース)
2.ジャンル:マップ訪問型マルチED-ADV
3.ストーリー完成度:B
4.H度:A
5.攻略難易度:E
6.オススメ度:…ダークな雰囲気がたまらなく好きな人にはB、物語の整合性を重視する人には、残念ながらD−。
7.その他:本編使用BGMはいずれもいい感じだが、どうも版権切れの古い交響曲などを引用・アレンジしているものと思われる(全部ではないだろうが)。
     本編中に御堂絵梨がピアノで演奏しているのと同じ曲が、「CODA〜棘」でも使用されているという事実を発見!


 (ストーリー)
 ここは、どこに位置するのか誰も解らない閉鎖空間。
 外界と完全に隔離された領域に建造された学園には、どこかから連れてこられた大勢の生徒が在籍している。
 そんな彼等の生活は常に巨大な恐怖にって支配されており、常に死と背中合わせの状況を与えられ続けていたのだ。
 学園の存在理由と目的は一切不明…
 わかっている事は、“マザー”と称される謎の存在によって統治され、その直属の執行委員会という者達によって支配されているという事だけだ。
 学園を脱走しようとした者、成績が平均よりも悪い者、その他規律を破った者は容赦なく、そして例外なく処罰を受ける。
 その処罰は、「処刑」という言葉でも代用する事が出来るのだ。

 
そして夏…
 今年も「灰被り姫の儀式」の季節がやってきた。
 執行委員を格クラスから選別するためのイベントなのだが、その内容は凄惨極まりない。
 灰被り姫の候補者は、クラス全員から丸一日陵辱行為を受け続け、これを耐え切らねばならないのだ。

クラスから女子1名を選抜し、灰被り姫とする
任命は、クラスの総意を元に執行委員が行う
選抜の意思を示さなかった者は、処罰される
灰被り姫の任命を拒否した者は、処罰される
灰被り姫は、白の制服を着用する
儀式に参加しない者は、処罰される
不正を働いた者は、処罰される
灰被り姫を故意に殺傷した者は処罰される
灰被り姫が自刃した場合、再度選抜する
灰被り姫は儀式の終了後、処罰者を選出する権利を得る
処罰者の選出は執行委員の代行も可能とする
儀式の終了を以て、灰被り姫は執行委員の候補者とする

 今年もまた、間違いなく何人もの犠牲者が出る事になる。
 去年、恋人の柏木桜子を灰被り姫に選ばれてしまった事で、あらゆる事に無気力になってしまった少年・逢瀬甲斐。
 彼は執行委員となった桜子に命を狙われながら、夢も未来もない学園生活を続けていた。
 彼のクラスからは、三人の候補者が出揃った。
 須磨翠璃
 七重五月
 そして、御堂絵梨…
 彼女達を巡り、それぞれの推薦人達の思惑も暗躍を開始する。 

 だが、今年はそれ以外にも何かが違う…
 儀式が近づくにつれ、色々な所で数々の不穏な動きが浮上し始めたのだ。



 う〜む…
 これは、非常に評価の難しい作品だった。
 正直、個人的にはかなり面白い部類に入るのだけど、ネタ振りや伏線の出し方、演出が高ポイントだったのに反比例するかのように全体的なまとまりがないという、書いてる自分自身よくわからなくなってくる内容構成だ。
 
 さて、今回もネタバレ100%予定なので、未プレイ&ブレイ予定&進行中の方はくれぐれもご注意を…
 っていうか、私の文体のポリシーとして、ネタ隠しをするつもりがないんだけど。
 書くべき事をまとめると、どうしてもバラさない訳にはいかなくなるもので…失礼! 


 本作「灰被り姫の憂鬱」は、かなり狂った設定を持つ異色作だ。
 ストーリー解説を読んでもらえれば解ると思うのだけど、とにかく“根底から何かが狂ってしまった世界観”の上にすべてが構築された物語。 
 この場合の「狂っている」というのは、決してシナリオの発想やシチュエーションの事ではない。
 逆にこういう異質な設定を持ってきている事を充分理解した上ですべてを構築しているものだから、大きな説得力が生まれている。
 この世界観では、「死」という概念が俗世間と大きく異なっている。
 脱走者・落伍者というレッテルを貼られた人間の処刑についてだけでなく、それを受ける対照の一般生徒の間でも、かなりゆがんでしまっている。
 例が「〜していると、吊されるぞ」という脅し文句だが、彼らにしてみればこれは単なる挨拶代わりか愛嬌の一つに過ぎない言葉だ。
 しかしゲームスタート当初…つまり学園内の規律や雰囲気を把握しきっていないプレイヤーからすると、その一言はとんでもない発言なのだ。
 もちろんゲームが進行する程この恐怖感は消滅していくのだろうが、これはプレイヤーの認識が劇中の彼らと同様“環境に慣れていく”事の証明でもある。
 まったく普通に聞き(読み)流すセリフが、実際にはとんでもない発言内容である事はしょっちゅうある。
 だが、それは逆にそういう特異な概念が吸収されやすい土台をしっかり構築した結果とも言えるのだ。
 本作の最大のウリは、ここではないかと私は確信している。
 これらが異様に緻密に描かれた背景や雰囲気のある音楽に彩られて展開する様は、軽い戦慄を感じさせる。

 「死の規律」と同格に存在しているもう一つの重要事項であり、本作の核となる「灰被り姫の儀式」だが、これもなかなかに恐ろしいもので、戦慄を覚えてしまう。
 「あれだけ大量に中出しされまくってたら間違いなく妊娠(又は性病感染)しちまうんでねーの?」とか「丸一日責められ続けてたら、灰被り姫の疲労はあんなものでは済むまい」という部分には、この際豪快に目を瞑ろう
 この儀式の存在がすでに定着しきっている舞台の上で進行する物語上では、儀式そのものの存在に疑問を抱く者はいても、それを身を張って阻止しようという者は一切存在しない。
 唯一主人公が、一年前の儀式を回想して「どうするべきだったか」と考える程度で、すべての生徒が諦めの境地に達している。
 もちろん規律による処罰云々が絡むためにそういった行動に移るどころではない事は当然なのだが、要はそういう冒険的な展開、または超人的活躍による状況打破は望めない物語という事だ。
 まずは、ここがプレイヤーを選ぶ部分なのかもしれない。
 ストーリー解説を読むと、ダークな雰囲気の陵辱系Hシナリオを連想しがちだが、ある意味それを逆手に取った構成になっているのには驚かされる。
 例えば灰被り姫の儀式は、責めている側の方にもかなりの負担がかかる事が強調されていて、例えば儀式に不参加はもちろんの事、あっさり終わってしまったりなんかしたらその場で執行委員にブチ殺されてしまう訳で、一人最低十回以上の射精を強制されるという過酷さだ。
 儀式の描写では疲労困憊しながらも灰被り姫を責める事を命令される生徒達が描かれていて、結構エグい。
 それによく見ると、女生徒もしっかり責めに参加させられているようで、とにかく灰被り姫だけでなくクラス全体が苦行を強いられるものなのだ。
 そのため、Hシーンが怖い。
 儀式以外の場所で絡む場面はともかくとしても、どこかで死が発生する事になるHシーンがえんえんと続く恐怖感は、なかなかとんでもない圧迫感を与えてくる。

 本作は、冒頭しばらくをいくつかの選択肢によって進行させておおまかなルートを設定し、その後は特定の場所にいるヒロインにひたすら会い続けてエンディングに突入するという形式で、難易度はかなり低めになっている。
 ただし金曜夜までのヒロインとの遭遇時には「肯定」「否定」という選択肢があり、これによってさらにシナリオが二分化するようになっている。
 シナリオ単体で見ると欠点が多く見えてくるが、これらについては後のシナリオ別評価を参照していただきたい。
 この簡単なシステムは、攻略手順に頭を悩ませるよりも物語を純粋に楽しませるためのもの…なのかどうかはしらないが、かなり難を生じさせてしまっている事実もある。
 基本的に、そのプレイ中ではターゲット以外のヒロインに会う必然性がほとんど皆無となるため、キャラクター相関がわかりにくくなる上に進行が単調化してしまい、物語も断続的になってしまう傾向がある。
 また、一日に十何回も回数を分けて会いに行くという不条理なシステムも相まって、午前中に何回も同一のヒロインに挨拶をされてしまうという奇妙な現象が発生する。
 日数がたったの5日前後しかないというのに、攻略にムダに時間がかかるのはこのためだ。
 ましてや出会った際のテキストが毎回使い回しのため、かなりダレてしまうのは否めない。
 中途半端なボイスもこれに拍車をかけており、数名の声優が声を変え演技を変え、出会った直後の挨拶や重要な場面のほんの一部分だけでしか喋ってくれないため、何回も同じセリフを聴かされる事もしばしば。
 これなら、いっそボイスはない方が良かったかもしれない…とまで思わせる。

 特殊な要素を孕んでいる箇所が多いのも、本作の特徴だ。
 この独特の世界観はさる事ながら、その中の主人公・逢瀬甲斐の存在なんかは好例だろう。
 前回の儀式で恋人を灰被り姫にされ、彼女は執行委員になった途端その態度を一変させ、なんと主人公は自分が殺すと吹聴する。
 そしてそれが決して冗談ではない事を、主人公をはじめ周囲の誰もが理解している。
 毎朝、自らの靴へのキスを主人公に強要する桜子。
 主人公が、その後誰か別な女性を抱いても嫉妬心を見せずむしろ無関心を装うのに、その女性が彼を独占しようとすると途端に態度を一変させ、強烈な殺意をむき出しにする。
 かつては主人公と共に図書館に通い、明るく楽しげに語らい合っていた相手とはとても思えない変貌ぶりだ。
 これは、儀式の犠牲になるくらいなら殺してくれと懇願したにも関わらず、それを叶えてくれなかった主人公への憎悪なのか、それとも儀式の結果完全に価値観が狂ってしまった故の偏愛なのか…これはプレイヤーの想像にゆだねられているだろう部分だ。
 そしてこの桜子の“変貌ぶり”は、そのままこの歪んだ世界観の象徴として捉えられ、すべての常識を非常識に塗り替える事が出来ると声高に主張しているのだ。
 そんな彼女への負い目なのか、夢も希望も気力も、果ては生への執着も捨て、桜子がその気になったらいつ殺されてもいいとまで考えるようになってしまった主人公…
 本来なら決して許されない“ただ流され系”の主人公だが、この退廃的な世界では逆に異彩を放つ存在となっていて、しっかりと物語上の居場所を確保しているのが面白い。
 
 ただ「とんでもない境遇の中で、とんでもない儀式に翻弄される生徒達の生活描写」に止まらない所も注目点だろう。
 プレイヤーは、当然ながらそんな異質な学園生活空間の存在理由に興味を持つだろうしこれは作品内でも探求されるべき問題として扱われている。
 関わるヒロインによって、学園全体の色々なポイントについての追求が行われていく進行形式になっており、総合的に情報をまとめる事で全貌が見えてくる作りになっている。
 「エリュシオン」ほど完全にまとめられていないのは大変残念だが、見るべき所は多い。

 では、いつものようにヒロインシナリオ別に評価してみよう…
 例によって順番は筆者の攻略順という事で。


◆村瀬麻耶/評価C

 世界観を知るために一番最初にやるといいかもしれないシナリオだが、単体の説得力はかなり薄い。
 つまりは仲良し四人組だった摩耶・甲斐・桜子・優樹が灰被り姫の儀式というものによって崩壊させられたため、その仇を摩耶が討つという過程を謎めいた展開で見せていくストーリー。
 しかし、突然降って湧いたかのように事件が発生・解決してしまう感が強いため、プレイヤーはかなり置いてけ堀になってしまう。
 あんまり謎めいていないのは当然というか何というか…
 
 だが、全体的な物語を把握した上で反芻すると、これはこれでなかなか味わい深い要素を含んでいる事に気付かされる。
 まず、摩耶の手による被害者に事件の発端を生んだ小夜だけでなく、桜子も含まれているという点だ。
 このシナリオだけだと、「摩耶や主人公の知っている桜子はもう死んだ」ため、いわば一年前の儀式の精算を摩耶が行った結果とだけしか受け取れないのだが、実際に桜子を巡った儀式は失敗しており、彼女は本当は死んだ事にされている(五月シナリオ参照)。
 これを関連づけると、執行委員の桜子が死んだ事そのものの意味が色々と深読み出来るようになっていたりする。
 また彼女がこういう行動を取るきっかけになった優樹の死についても、深みを感じるようになる。
 桜子シナリオから、どうやら彼は摩耶の彼氏だったのではないかと推察される描写がいくつか見られる。
 これには明確な回答が得られないままとなるが、甲斐とのHシーン内での会話内容などからも、そういった一端が見え隠れしているように思える。
 このシナリオの欠点を提示するなら、そういった「摩耶自身の背景の描写が希薄すぎた」事なのだろう。
 もしもこれらの描写が本シナリオ内に集約していたのなら、摩耶自身の凶行の理由をプレイヤーはもっとストレートに受け入れられた筈なのだ。
 
 このシナリオでは、学業成績が悪いという事も処罰の対象になる要素だという事が嫌というほど強調される。
 優樹は摩耶よりも成績が悪かった、という事を彼らに話させる事で、それが彼の死の理由になったのでは…とプレイヤーに早とちりさせる引っかけは、なかなかに面白い手法だと思う。


◆須磨翠璃 (肯定進行→評価D 否定進行→評価C)

 灰被り姫の候補の一人で、他人との協調性に欠ける彼女を貶める意味合いが込められた推薦を巡るストーリー。
 美術室での翠璃の会話で肯定を選び続けると、土曜日には好感度が900に達して“翠璃編”となり、逆に否定を選択し続けると“江頭編”へと移行する。
 両刀使いのデブ男・江頭の好感度がMAXに達した時の恐怖は、本作の全場面の中で最凶のものだ。
 “翠璃編”は、彼女が儀式を受ける行程を背景として、江頭の野望が崩壊するまでの展開であり、“江頭編”は学園内に反乱を起こし、その中で翠璃に対する儀式を“自主的に”行ってしまうというもの。
 この説明を見てもらえれば解る通り、なんと“江頭編”の方が物語的に面白い。
 これは他の灰被り姫候補のヒロインシナリオでも言える事で、いわばバッドエンド方向に進行するとヒロインとの接触が少なくなる代わりに裏設定に突っ込んだ展開へとシフトし、グッド(では全然ないのだが、便宜上)エンド方向はひたすら儀式遂行の方向へと進み、かなりお茶濁し的な結末を迎えてしまう。
 実は翠璃編はそれでも比較的マシな方なのだが、全体的に説明不足の感のあるエンディングの好例として挙げられてしまうのは避けられない。
 江頭編は物語的な抑揚はかなりあるものと思われるのだが、途中経過が思わせぶりな上に長ったらしいため、どうしても評価を高められない。

 ここで注目すべきは、江頭編で判明する事実“脱走者の処刑は執行委員の手によるものではない”というものだろう。
 反乱によって執行委員を淘汰し、一時的にとはいえ学園を支配したかのような状況であったのにも関わらず、どさくさで学園から脱走しようとした者達が死体となって鉄棒に晒されていく過程はかなりの恐怖だ。
 また、たわむれに“儀式”を称して灰被り姫候補を陵辱したとしても、それが正当な儀式という事になってしまうというのも面白い。
 それまで執行委員が学園を(事実的に)支配しているように見えていたが、実際には“それ以外の存在”の力が存在していた事が露見するというのはかなりの意外性だ。
 まあ、これはシナリオ進行によって変わってくる感想なのだろうが…

 翠璃も、関わりを持つと持たないで印象が逆転する面白いキャラクターだ。
 学園に来る前は、灰被り姫の儀式さながらの陵辱生活を強要され続けてきたというが、いったいどういう境遇だったのかという興味は尽きない。
 この学園に来た者達の中で、明確に過去の記憶を持っている珍しい存在なので、是非「ここの連中はどういう理由や基準で集められたのか」という部分に触れて欲しかったものだが、残念ながらそれが叶えられる事はなかった。

 本作は、制作陣が意図していたのかどうかはわからないがシナリオの攻略順番が存在していると思う。
 もちろんこれは強制力があるという訳ではないのだが、どう考えてもこの順番でシナリオを進行しなければ“順を追った展開”にならないという部分がある。
 私のプレイ順番は、どうやらそれの理想型の一つだったと思われるフシがあり、(総合評価はともかくとして)結構楽しめた。
 少なくともこのシナリオは、灰被り姫候補者のものとしては最優先にやるべきなんではないかな、なんて思うのだ。
 
 翠璃はどちらの進行でも執行委員になれてしまうが、江頭編はともかくとしてメインルートの結末はちょっと…
 桜子も加えて3P?!
 これで結末つけたつもりかい?! という怒りの念を覚えたのは私だけなんだろうか?
 とはいえ、目的を果たせなかったばかりでなく桜子の命令でオ○ニー衰弱死してしまう江頭は、涙無しには見られない顛末でささやかな花を添えていたような気がする。
 …あ、ちなみにこの涙は当然笑いの涙よん。
 エロゲ界広しといえども、一人Hが死因という奴はそうはおるまい。
 まさかこんな所で、新たな歴史の一頁を見せられる事になるとは思わなかった。

 江頭編では“儀式を2回も続けて受けるハメになってしまう”桜子も本来かなり哀れなのだが、なにせ思い入れを持つ事が難しいキャラであるためか、どうしても「ざまあみろ」という感想しか生まれない…ような気がするのは私だけだろうか?
 なにせ自分が小夜先輩にやられたのと同じ事を繰り返すような奴だから、同情心なんか湧かないもの。


 
◆七重五月 (肯定進行→評価C 否定進行→評価C)

 唯一の灰被り姫立候補者で、図書館司書の森末茉莉が推薦者。
 どう考えても主人公達よりも10歳くらい年下にしか見えない同級生だが、実はとんでもない設定を背負った食わせ者というオチ。
 しかも、単純な“本当は腹黒い人物”というパターンではない所が変化球。
 その正体は読書会のメンバー4人と合わせて“本当の桜子”だったという展開には色々な意味で驚愕させられるのだが、残念ながらそれをきれいにまとめられていないため、どうしても「なんでやねん」がつきまとってしまう。
 一応設定の整合性らしきものは他のシナリオでも各所にちらばっている感があるのだが、「実は去年の桜子は儀式中に死んでおり、現在の桜子はマザーが立てた“代役”」というのにはかなりの無理がある。
 いや確かに桜子編では首をロープで絞められながら責め立てられ続ける描写があるにはあったが、それが致命傷となったという描写まではない(もしも意図的にそういう表現を避けたというのなら納得出来なくもないのだが…ねぇ)。
 さらに、Hシーンが長いなんてもんじゃない。
 4人同時責めや5人同時なんて展開があるため、めったくそ展開がトロくなってしまい、物語進行に支障を来しているのも現実だ。
 とはいえ、これはまたメーカーやプランドのポリシーでもある訳だから、一概に「不要だった」とは言い切れないし…う〜ん。
 ただこのゲームのウリ「女性キャラ全員とH可能」は、無理してやらなくても良かっただろうと感じた事は事実かな。
 
 五月シナリオは翠璃同様のプロセスで図書館を訪問し、会話中肯定し続ける事で五月編、否定でマザー編へと移行する。
 面白いのは、この他にも桜子シナリオで否定し続ける事でも五月編に入る事が出来る(マザー編は不可)事だ。
 これについては結構重大な問題が発生しているのだが、これは桜子編で触れてみたい。
 本シナリオも基本的には翠璃編と構成が似ており、バッドルートのマザー編の方が、事実暴露が含まれていて面白い。
 だが、あまりに伏線を放り出しすぎで、全然収集がついていない。
 例えばこのルートで、学園の主・マザーが茉莉だという事実が判明するが、なぜ彼女がマザーであるのか、またどういう理由で一般生徒に紛れつつ支配を行う事が出来るのか、そういった説明までは至っていない。
 そもそも、マザーが普通の人間である事自体にかなりの無理があると思うのだが。
 これは、後に舞子が「人間のくせに目敏い」と言っている事で否定できなくなっている。
 茉莉は桜子シナリオでも主人公に助言を与えたりする重要な役割を果たしているのだから、それなりの書き込みが必要なキャラクターなのだ。
 この設定は、せいぜい「江頭編でマザーが最後まで見つからなかった」事の理由程度にしか機能していない。

 また“本当の灰被り姫の儀式”という奇怪な設定も、首を傾げるものばかりだ。
 これはマザー編でのみ登場するものだが、どうやら執行委員が取り仕切る儀式の裏で、小規模ながら別の形式の儀式が行われていたらしい。
 それにはシスターも立ち会い、マザーや美帆・雨音の監視の元のまぐわりが行われるという。
 委員会による儀式が「学園という世界の存続」のために行われるのはいいとして、この本当の儀式が「世界を維持するため」というのはイマイチ説明不足に終わっている感が拭えない(正確には一応の説明があるのだが、浸透性が低いため目立たないのだ)。
 どうやら「何か」を灰被り姫に憑依させるつもりだったらしいが、単一の肉体では受け止められなかったため、今度は5人分という発想だつたらしい。
 桜子の死亡理由はこういった事らしいのだが、いったいどういう流れでその結末に至ったのか?
 主人公が見る悪夢でも儀式失敗を象徴するような描写が出てくるが、彼は一体何を見たというのか?!
 そして、現在の桜子は何から“代役”ならしめられた存在なのか?
 生徒全員の記憶を都合良く操作し、あまつさえ個別生命体である“代役の桜子”や“5人の儀式媒体”そして“主人公=天使”を作り出せるほどの力を持つマザー(茉莉)は、どう考えてもまともな存在ではない筈だ。
 これらは、想像や連想で補える範疇を大きく凌駕してしまっているものばかり。
 興味深そうな設定や伏線を羅列されまくってそのまま放置…というのは、プレイヤーにとって何よりも辛いものなのだが。

 ゲームスタート時は立候補したという理由から「何このチビ、めっちゃ怪しいんちゃう?」なんて印象を持たれがちな五月だが、実際に触れ合ってみた時の優しさ・気さくさには多少ならずともギャップを感じる事だろうと思う。
 もちろんこのギャップは良い意味で機能し、実はさほど描写がない五月のキャラ立ちを容易に補助する一因ともなっている。
 儀式前の桜子の意識を持っているという部分を表現しているであろう描写がところどころに散らばっており、それが沙希や舞子などとは違った意味でのミステリアスさを醸し出しているのは興味深い。
 個人的に好きなシーンが、五月編での儀式の最中の主人公に対する五月の言葉だ。
 責め立てられ続けて疲労困憊しているにも関わらず、必至に耐えつつ、儀式を受け入れた理由が「主人公を守るため」だったと告白する五月…
 ハードなHシーンの最中であるにも関わらず、一筋の悲しさが感じられたお気に入りの場面だ。
 灰被り姫に立候補したとはいえ、五月自身は儀式を怖がっているという理由、そしてそれでも耐えて乗り切らなければならない事情が、この一言に集約されている。
 残念なのは、これはマザー編と絡めなければわからない解釈だという事だろうか…
 また、結末も結構「なんだそりゃ?」的展開だという事も付け加えておきたい。


◆御堂絵梨 (肯定進行→評価E 否定進行→評価E)

 「なんとなく嫌いだから」というだけの理由で匂坂流奈に推薦されてしまった絵梨のシナリオだが、もう“支離滅裂”も甚だしい。

 音楽室に常駐する絵梨との会話で肯定を選択し続けると“夜の住人”編、否定し続けると流奈編に突入する。
 「あれ、絵梨編は?!」という声がありそうだが、事実上絵梨個人を巡るシナリオというものは一切存在していない。
 そもそもそれが最大の問題点なのだが…

 「夜の住人」とは、これまで学園で殺されてきた犠牲者達の魂…というか幽霊の事で、この世界では生者と意志の疎通を普通に行う事が出来る上に、さらに殺す事(笑)も可能という、ちょっと不思議かつ特殊な存在として扱われている。
 どうも一部の人間にしか姿は見えないらしく、主人公達にとっては、さながら透明人間の集団のようですらある。
 唯一、自身の生首を抱えた流奈の姿が登場する程度で、それ以外の「お楽しみ機能」は画面では確認できない。
 面白いのは、自身が殺された事や生きていた頃の因縁にあまりとらわれているように感じないという所か(一応ある程度は引きずっているが)。
 彼等は彼等で異質の存在となりながらも、独自の生活圏を持っている存在…そんな風に感じられる。
 その境界が崩壊するのが灰被り姫の儀式直前の頃からで、当初は幽霊騒動のように始まり、やがてサスペンスな展開に変化していく過程はかなり面白い。
 ただし、これは絵梨編独自の展開という訳ではない。

 さて本来このシナリオの中心にいなくてはならない絵梨は、ちょっと不思議な位置付けにいる存在だ。
 ピアノの練習に明け暮れる、明るく優しい少女で本来感じるべき好感度はなかなかなのだが、強烈なキャラクターが集まっている本作の中ではかなりの没個性となってしまっている。
 それだけならばいいのだが、周りでは流奈がひたすら“票集めのための買収行為”に明け暮れているだけで大きな変化に乏しく、前半は特に地味な印象が拭えない。
 夜の住人編で流奈や江頭達が突然姿を消したり、土曜日の夜に校内の徘徊者達が登場する辺りからかなりの盛り上がりを見せるためまったく面白くないとは言えないが。
 とにかく絵梨自身が儀式に絡む設定を持っていない存在であるため、ただ主人公の脇で怯えた生活をしている存在…という域を脱せない。
 キャラクターが背負う物を持っていない分、物語の面白さを盛り立てるための歯車に徹するという考え方もあるが、絵梨もそうすれば良かったのだ。

 “夜の住人編”の評価が著しく低いのは、そんな絵梨がラストのラストで突然、物語の中核に食い込んでしまうためだ。
 儀式を終えた絵梨が、突然黒い翼を生やして「私が…シスター…?
 ちょっと待ったれや、ねーちゃん!!
 
  どうやらこの世界観では、

1. 執行委員会(学園の直接的な支配階級)
2. マザーを中心とする真の支配階級
3. 夜の住人達
4. さらに別な謎の存在(亜理紗編にて解説)

 というものが存在しているらしい。

 で、2の“真の支配階級”というのはさらに細かく分類する事で

A. マザー(茉莉)・美帆・雨音:ある程度事情に通じている者達が茉莉に従っている形式の集団
B. シスター3人衆:顔面包帯の「一号(仮称)」/長身・短髪の喪服姿の「二号(仮名)」/ロリチビの「三号(仮定)」

 …と分けられる。

 夜の住人編では、シスターの監視の目を潜って勝手に儀式を始めてしまった住人達によって、一方的に辱められる絵梨と主人公という展開に発展するが、どうやらシスターを絡めないで儀式を完了させてしまう事は、シスターの位置付けを崩してしまう程の意味があるらしい。
 最後の最後で彼等はしくじってシスターに屠殺されてしまうが、もしも彼等の目的が完遂していたらどうなっていたのか…それを臭わせる事は一切なかった。
 この直後に“絵梨・シスター化”が始まるのだが、これらの流れは何か関連があるのだろうか…?
 なんだか「超能力者はいずれ進化してアギトになる」なんて言ってる某特撮番組みたいだ。
 絵梨自身の裏側的設定を描写または臭わせる場面は皆無なので、どう設定を吟味してみても“突然”以外の何物でもない。
 舞子シナリオで解明されるシスターの正体と照合するなら、彼女も実は“夜の者”だったというオチにまとめられてしまうのだろう。
 たしかに、学園に来るまでの記憶をあからさまに操作された連中が集まっているのだから、そういうのもアリではあるだろうが…
 だとしたら、それこそそういう伏線を綿密に用意しておくべきではなかったか?
 最後のワンポイントで評価崩落なんて、それこそまるで「シスターの名を出してしまったために失敗した」儀式みたいではないか…

 流奈編も、最後の最後で素敵に腰が抜ける展開となる。
 流奈が、執行委員からの処罰を覚悟しながらもあれだけ無茶な買収行為を続け、仕舞いには目論見を成功させてしまう背景の根元がアレでは…
 もう、しばらくまともに歩けないくらいに腰に来る事請け合いだ。
 ここまで散々ネタバレしている上でなんだが、この腰砕け具合は文面では決して伝わらないと思われるので、あえて展開は伏せさせていただく
 プレイの機会があったら、是非モニターの前で「なんじゃこりゃ」音頭を踊っていただきたい。
 ああ、せっかく適度にキャラ立ちした良い個性の持ち主だったのに…
 首は切られまくるわ別シナリオでは吊されまくるわ儀式まがいの事までされるわ…おそらくもっとも悲惨な運命を身体を張って辿っているだろう彼女に乾杯。
 この結末が、比較的まともに思えてくるという事実にも驚愕したい。
 
 
◆舞子&亜理紗 (肯定で舞子編→評価B 否定で亜理沙編→評価C)

 冒頭で紹介される病棟の患者(というよりもはや住人)で、主人公より遙かに年上なのに外見ロリロリな舞子に、眠り姫の亜理沙。
 意志の疎通が出来る舞子との会話の選択肢で二分するため、ここではまとめて扱ってみた。
 
 彼女達のその存在自体が特異なものであるためか、このルートは全体の裏設定部分に深く食い込むシナリオが展開する。
 まずは、舞子編から。
 「あたち、一万六歳♪」的な手法とはまた違ったシチュエーションで合法的にロリHを展開させるためだけのキャラ…と思ったら大きな間違いで、実はかなり中枢設定に入り込んでいる重要な存在…というか、シスター三号の正体
 そのため、彼女のシナリオではこれまで不明瞭だった「シスター自身の思惑」というものが露見する作りになっている。
 幼い仕草に反して、あらゆる事情に精通しているかのような態度、そして正体を露見させた後の大人びた声色と台詞は、舞子というキャラクターの持つ不思議さ・不気味さをこれ以上ないくらいに表現していてポイントが高い。
 屋上での会話で感じる恐怖感は、マザー達や夜の住人達の比ではない。
 だが、逆にそれだけ立っているキャラをうまく扱い切れていない部分も目立っている。
 まず、彼女の正体がシスター三号である…というオチだけでは、彼女のシナリオは完結出来ない。
 いったいどういう理由で、しかも病棟に患者として存在しているのか…そして、どうして彼女の正体をマザー他(葉月を除く)教師達が追求できなかったのか。
 本作は、そのシナリオ全体の特異性から本来描かなくてはならない部分が省略されていても、さほど違和感を感じずに済むという武器を持っている。
 しかし、それは全てに通じるものではない。
 実際、主人公自身が彼女の存在理由に対する疑惑の念を抱いているのだから、その回答は必要の筈。
 単なる正体隠蔽だったとしても、その旨きちんと片付けて欲しいものだ。
 この展開では、例えるなら「おばあちゃんはどうして口がそんなに大きいの?」という質問に対して「ホントのおばあちゃんは俺の腹の中さ」と答えるようなものだ。
 もしもこれで回答を提示したつもりだというのなら、ちょっと困った勘違いだ。
 
 しかし、これだけ問題があるのに評価を高めている理由は、灰被り姫候補者シナリオとはまったく性質の異なった物語進行であり、同時に抑揚が大きく単純に面白いからだ。
 執行委員対シスター軍団という図式に変化する“学園内の覇権”争奪は、意外な出来事をうまく絡めていて退屈させない。
 特に“シスターが、その気になれば人間にでも殺せる存在”であるという事実の判明は、かなりのものだ。
 ここで活躍するのはなんと江頭だというのも予想外。ううむ、伊達にお楽しみ機能満載という訳ではないらしい(笑)。
 暗き獣などという「あ〜あ、またやっちまったよ」的突発設定が出てきたりもするが、関係者が次々に殺されていくサスペンスにはなかなかのリアリズムがある。
 まさか雄二や充まで殺されるなんて…というプレイヤーの意外所も容赦なく責めてくる。
 
 一応、ここでシスターの正体らしきものがおぼろながら見えてくる。確認の意味も含めてまとめてみよう。
1. 夜の者”と自身を称する彼女達は、人間であるマザーとの契約の元、学園という名の“生け贄の場”に存在していた。
2. そして、本来強大な力を持つ彼女達の純粋な支配圏にしないため、(どーいう関連かはピンと来ないが)マザー側は灰被り姫の儀式を行う必要があった。
3. どうやらこの儀式によって誕生する灰被り姫なる存在は、彼女達にとっては忌まわしい存在であるらしい。
4. 彼女達の目的は、自身を縛る制約をすべて解放して望み通りの世界へと“システムを作り替える”事である。
5. その行動を起こすため、学園生徒の抹殺や“暗き獣”を導入する。
6. 彼女達の目的を果たすため、そして“贄の場”を管理させるためにはマザーの作った“天使”…すなわち主人公が必要らしい。

 なるほど、彼女達の解説からは確かに重要な設定が見えてきているのが解る。
 さらに想像を発展させれば、彼女達は犠牲者達の“魂”等の…すなわち「贄」としてもっとも必要な部分を得るために、あんなに処刑が頻繁に行われるような異常な環境を作らせたのかもしれない。
 そして「処刑時には首をはねられた筈の犠牲者達の死体には、なぜか首が付いていた」という理由もおぼろに見えてくる。
 多分だが、あの場面はシスター達が“犠牲者の魂やそれに近いものを得た”という事の象徴だったのではなかろうか。
 そう考えれば、主人公があの場面を半ば夢うつつのように感じているのも納得出来る。
 …もちろん、そういう想像補完がすべてにおいて正しいとは思えないけれど。
 これらは一気にまくしたてられた感もあるにはあるが、全体の流れを考慮してみると、なるほど確かに合点がいく部分も多いかもしれない。
 ここで、マザー編で放り出しっ放しになっている「主人公=天使」の件を綺麗に片付けてくれなかった事と、エンディングがものすごーくあっさりしすぎていて印象に残らないという些細な問題もあるが、他のシナリオに比べれば間違いなく密度が高い。
 
 だが、ちょっと待って欲しい。
 これを、初回のプレイで充分に把握・または納得出来た人はどれくらいいたのだろうか?
 いくらきちんと謎について説明された場面があったとしても、一度出しておけばそれでいいとは限らない。
 まったく同じ事を、わざわざ複数の場所に散らばらせる事で、より印象度を高める事も必要だ。
 例えば主人公が天使であるという、マザー編での事実暴露は他シナリオでも行われているので、「なんで天使なんだ?」という部分はともかくとしても、そういう事になっている…という事実関係は認められる筈だ。
 また、一度きりの場面でも単純な「セリフ説明のみ」でなく、色々と印象を残すためのアイデアを盛り込んでプレイヤーに与えるインパクトを強めねばならない。
 そういう工夫が今ひとつ足りなかったのが、こりシナリオの難点といえるのではなかったか。

  
 では、亜理沙編はどうか。
 こちらも舞子編とある程度絡んでいるため、裏設定暴露という展開が中心になっているが、舞子編とはまた違った位置付けになっており、なかなか赴き深い。
 本来ならば舞子編と同等なくらいの面白さがあっただろうシナリオなのに評価が低いのは、単純に「亜理沙が眠り続けているためにドラマが続かない」ためだ。
 システム上、ただでさえ退屈な印象を与えかねない本作において、これはまずかろう。
 後述するが、亜理沙が眠り続けている理由はだいたい推測出来る。
 だがそれはそれとして、眠る彼女を巡ってもっと多くのキャラクターが動いてくれれば、ストーリーも退屈しなく済んだと思うのだが、どうだろう?
 実際に動いていたのは美帆だけというのは、かなり無理を感じてしまう。
 
 さて、亜理沙は結局の所何者だったんだろうか?
 舞子編で、事実上の勝利を得たシスター達をも瞬殺してしまう程の強大な力の持ち主である亜理沙は、断定は出来ないがまず間違いなく“ヴァンパイア”
 ヴァンパイアといえば「主に夜行動する」「変身能力を持つ」「ニンニクが嫌い」「十字架を恐れる」「昼間は自分のテリトリーで休んでいる」「日光に弱い」「波紋に弱い」等の特徴が有名だが、実はこの他にも「流れる水に接触すると崩壊する」「人間の家に侵入するためには、一度そこに招かれている経験がなくてはならない」というものがある。
 古いヴァンプ映画では、この辺をちゃんと描写しているものがある(水に関してはハマープロの「ドラキュラ'72」、後者もクリストファー・リー主演のドラキュラ映画で描写がありますね)。
 さて、主人公の所に初めてやって来た時、窓の鍵が開いているにも関わらず彼が開けないと入れなかった亜理沙のシーンに、この一端が見えている。
 また、Hシーンでは主人公の首筋に噛みついたという表現があり、その後エンディングでは“不自然に外部の光を遮った一室”の中で執行委員長として構えている場面まである。
 その直前の廊下の場面を見る限り、夜だったからカーテンを閉めていた訳ではない。
 主人公が亜理沙から与えられたものは、そういう力だったのではないかと考える。ヴァンプ化した事により強烈なカリスマ性を得たといった所か。
 こういうレベルなら、たとえすべてをはっきりさせなくてもプレイヤーの知識に委任できる範疇で許容出来る。
 まあ、ピンとこない人もいるだろうが、幸い亜理沙そのものの存在は学園そのものの力関係から遊離した位置にいるから、こういうのもありなのかもしれない。
 すべてをはっきりきっぱりさせてくれなければ目覚めが悪いという訳ではないのだ。そのさじ加減をもう少し考えて欲しかったというのが本作全体の印象だと思う。
 そんな中の希有な成功例として、このシナリオは挙げておきたい。

 …とはいえ、それほどの存在がどうしてあんな学園にいたのか…
 そこまでの過程を推察するのも面白いかもしれないが、ここにはもう少し理解しやすいポイントを設定して欲しかった。


◆柏木桜子 (肯定進行のみ→評価F…あれっ?)
 メインヒロイン…なんだよなぁ、桜子って。一応…
 となれば、だいたいの人がみんなトゥルーエンド的なものを求めていたのではないだろうか…
 ところがシナリオは“主人公と桜子の関係の清算”という方向に進み、プレイヤーの思惑とはまったく別の方向に向かってしまっている。
 プレイヤーが思っていたものと、シナリオライターの意向にずれが生じる事は多々あるが、今回のこれはそんな事では納得出来ないくらいに激しく距離が開いてしまった。
 本シナリオが最低評価になってしまった理由は、そんな所に依るところが大きい。

 桜子は普通校舎の屋上を在中箇所としており、ここで肯定を選択し続ける事でのみ桜子編に入る事が出来る。
 さて、ではここで否定を選択し続けるとどうなるのか?
 なんと、途中で桜子寄りでは物語が進まなくなってしまい、五月に会わない限り完全にストップとなってしまうのだ。
 で、ステイタスを確認してみると…げげげっ、五月の好感度が900?!
 ちょっと待ってよ、おいら冒頭で一回会っただけなのに、どーしてぇ?! …などという嘆きの解答は得られない。
 これは五月編でちょっとだけ触れた桜子編のシステム上の問題点で、本当の桜子である五月編にシフトさせる事での補完を目的としたものだろう。
 だが五月編はそれだけで普通に辿り着く事が出来るし、また五月編だけを桜子編と組み合わせてみても関連は案外薄いのだ。
 まして、その部分の設定を知らないと決して納得出来ない繋がりでもある。
 五月編に行ったって、突然嫉妬に狂った桜子に主人公が刺し殺されて終わり、だもんなぁ…(死んでないって…? アハッ☆)
 初めてのプレイでいきなり肯定オンリーや否定オンリーの選択に走る人も少ないだろうから、こういう流れに辿り着いた人も結構いたのではないかと考える。
 もー少しどうにかならんかったのかなぁ。

 桜子編についてもう少し触れてみよう。
 すべてのプレイヤーが納得出来たか否かはともかくとして、少なくとも他のシナリオでシスターやマザーを巡る設定は提示され、なんとなく世界観全体も見える様になっては来た。
 そうなると、残るのはこの異常な環境を巡る根元的な問題だ。

 それらをあえて羅列してみよう。

この学園はどこにあるのか
ここにいる生徒達は、何処から、どういう理由又は基準で選ばれたのか
どうやってここまで来たか、そしてどうして記憶に細工をされているのか
学園というカテゴリである以上“卒業”という概念もあると思われるが、その対象となった存在はどうなっていくのか
執行委員の権限はともかく、それらを実質的に統べる存在は何か(マザーや教師達、または亜理沙編での主人公は論外)

 パッと思いつくだけでこれだけある。
 まだまだあるかもしれないが、だいたいの人が抱いた疑問だろう。

 ここまでのシナリオでは、不思議なくらい触れられていないポイントだったため、この解答を桜子編に求めるのは自然な流れだ。
 続編が確定しているとかいうのならともかく(かなり無茶だな、ソレ)、そうでないならある程度説明を求めたくなる部分なのは疑いようがない。
 
 対して、桜子編の展開は…
 
 「学園内の時計が壊れた」という出来事を境に、なぜか一年前の灰被り姫の儀式の様子が幻として再現されるようになる校舎内。
 それにより、一年前…桜子が儀式の犠牲になっていく過程を再び見せつけられる主人公。
 事象の謎は究明されないが、主人公は現在の桜子との関係と、かつての彼女を巡る人間関係を反芻し、どうあるべきだったのかを考える。
 そして彼が導き出した結論は…現在の桜子を殺す事だった。  
 
 執行委員殺害の罪で処罰され、鉄棒に吊される主人公を見つめる雄二と充…

 …さて、問題です。
 これで納得できる人は、どれくらいいるでしょう?

 もちろん、良い部分も無いわけではない。
 それどころか、それだけピックアップしたら他のシナリオではどうしても太刀打ちできない完成度に至っている部分すらあるのだ。
 とにかく本編ほぼすべてにおいて憎まれ役であるという珍しいメインヒロインの桜子が、本当はどういう人物だったのかを説明するには充分なものがあり、なるほど感情移入は容易になっている。
 主人公が、あれだけ諦めの境地に立てるようになってしまった原因も、これならよくわかるというものだ。
 桜子が儀式を迎えるまでの経緯、そしてその儀式の凄惨な内容は、彼等の変わり様を裏付ける充分な説得力がある。
 貶めるためだけに不当に選出され、殺人行為ぎりぎりの陵辱を長時間強要された桜子…その悲惨さと哀れさは、確かにプレイヤーの胸中に複雑な想いを生む。
 冒頭に何度か出てくる主人公の思い…あの時桜子の望み通り、儀式の前に殺してやった方がよかったかもしれないという考えは、哀しみと狂気が程良く入り交じった名シーンだ。
 何度も繰り返し登場する、灰被り姫の制服をまとった悲しい顔つきの桜子と、憎々しげな怒りの表情をあらわにする現在の黒い制服の桜子、そして赤い普通の制服をまとって明朗な表情を向けるありし日の桜子…この三態は、簡単に言葉ではまとめられない、複雑なイメージを形作るのである。
 …決して「桜子マイティフォーム/グローイングフォーム/アルティメットフォーム」なんて思ってはいけない(笑)。
 この辺の描写の濃厚さと説得力だけは、さすがメインヒロインの面目躍如、といった所だろうか…
  
  
 こうして全体を眺めてみると、ハッピーエンドに属する展開が徹底的に皆無なのに驚かされる
 恐怖感や不穏感を煽り、かつシナリオの謎への探求心もうまく扱い、物語への注目度を高めている事には驚嘆さぜるをえない。
 問題点は確かに多いが、同じくらい汲むべき所があり、しかもそれが世の傾向に逆行しているものばかりだというのも驚きだ。 



(総評)
 実はこのゲーム、全体を見つめてみてもう一つ考えた事がある。
 それは「当初設定されていた事を変更したのに合わせた改訂が不十分なのではないか」というものだ。
 まず間違いなく、キャラクターデザインやCG製作が行われた段階での舞台設定…時期は夏ではなかった筈だ
 あれだけ「暑い暑い」と夏の猛暑をセリフで表現しているというのに、画面では夏の強い日差しの表現や季節感を表すものは皆無だし、ましてや生徒全員は冬服をまとい、夏服を着ているキャラクターは一人も存在していない(露出の多い服を着ている舞子や亜理沙は当然論外)。
 多分テキストを読ませないで、ゲームの設定をまったく知らない人に本作を見せたら、間違いなく「秋か冬?」というのではなかろうか。
 その他、挙げればキリがないので割愛するが、そういう「切り口がうまく合っていない」部分が多い。
 構想そのものはともかくとして、かなり無理のあるペースで製作されたのではないかと勘ぐってしまうのだ。

 本作は、実に面白い設定を持ってきたゲームだという一言に尽きる。
 不充分な箇所が目立ちはするものの、独立した世界観を構築し、その中で「独自のルール」を設定してこれを無理なくプレイヤーに認知させた手管は絶賛したい。
 私の自論として「どんなに歪んだムチャクチャな世界観でも、その中の常識を納得させられたなら大成功」というものがある。
 「天才バカボン」を見て、何発も立て続けに弾を連射できるおまわりさんのリボルバー拳銃はおかしいなんていう人はいないだろうし、ベシやウナギイヌ、ニャロメ等の存在理由を真剣に考慮する者もいないだろう。
 それはバカボンの世界観が説得力を持っていて、読んでいる者を抱き込んでしまえるパワーがあるからだ。
 逆を返せば、それくらいのものがなければどんなに凝った設定や場面を考えたとしても浸透は難しく、いつまでも遊離し続ける要素になってしまうのだ。
 
 無気力で何事にも強い関心を持たず、ただ流されるだけで物語を終えてしまう主人公。
 常に不条理な死と隣り合わせの生活を強要され、未来も夢も忘れ、ただ生への願望や欲望だけにすがる生徒達。
 理由らしい理由なく、突然に執行される処刑と、それが容認され罪にも問われない世界…
 
 ある意味、近年の話題作「バトルロワイヤル」にも通じる不条理世界の観念だが、見事に消化された題材だったと思われる。
 もう少し時間をかけ、じっくりと設定の描写や描き込みを強化&増加させ、これ以上は不要と思われるくらいにまで書き込めたなら、ひょっとしたらかなりの話題作・問題作として後々に伝えられる可能性もあっただろう。
 それだけに、不充分な部分が惜しいのだ。
 最後のエンディングを迎え、納得出来ずに11個目の(存在しない)エンディングを探し始めただろう人は、私の他にもきっといると思うのだ。 

 当初の私の偏見を見事に粉砕するパワーを持った名作(迷作?)だった事は疑いようがない。
 総合評価はともかく、ちょっとお気に入りになってしまった。  


(後藤夕貴)


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