グリーングリーン
 彼の向かえる夏には、どんな経験が待っているのか?

1.メーカー名:GROOVER
2.ジャンル:アドベンチャー
3.ストーリー完成度:C
4.H度:C
5.攻略難易度:E
6.オススメ度:B
7.その他:キャラだけ見て『カナリア』の次に新しいのが出たんだと思っていたら、実は違うメーカーのゲームだった。
 メーカーにこだわる気もないし、とにかくやってみよう。


(ストーリー)
 鐘ノ音学園は、人里離れた場所にある男子校。
 なのに、六月の終わりに女子が大勢やって来た。
 なんでも共学化を図るため試験的に一ヶ月の入学期間を設けたらしい。
 主人公・高崎祐介(名前変更不可)は突然の環境の変化に戸惑い、女子もぎこちない。
 おまけに、迷子の子供まで抱え込む羽目になり、慌ただしく、煩わしい毎日が雪崩の様に続く事になる。
 そんな中、不意に放送が流れた。
「グリーングリーン」と名乗る女性の声は、堅苦しい学園生活をやめて恋愛の自由を唱えて、みんなを揺り動かす。
 祐介は仲間と共に少しずつコミュニケーションをとり、つかず離れずの学園生活を過ごしていく。
 この一ヶ月の間に、彼は自分の前に現れる女の子と仲良くなれるのだろうか?


 このゲームは、六月の終わりから七月の終わりまでの一ヶ月の間に女の子と親しくなる恋愛アドベンチャー。
 メーカーが違うのに引き合いに出して申し訳無いが、プレイヤーはfrontwingの『カナリア』同様のスタイルで、一日一回から三回学園内を動き回り、女の子と会うことでイベントをこなしていく。
 そのイベントの途中に選択肢があり、バッドエンドになるか、女の子と思いを遂げるかが決まる。
 女の子一人に一つのエンディングで選択肢も難しい部分も少ないため、クリア自体は比較的簡単。
 しかし、簡単にクリアして終わりでは元も子もないので、Hシーンのセリフを前半の選択肢によって変化させることで、繰り返しのプレイを楽しませようと工夫している。
 むしろクリアのための選択肢より、セリフを変化させるための選択肢の方が多く、女の子との会話を積極的にさせようという、ゲーム内の祐介と同じ目的をプレイヤーに与えようとしている。
 学園に散らばる女の子達は、クラスメイト二人、後輩二人、先生一人で一見バリエーションに乏しいが、内容はそれぞれに思うところがストーリーの核となっているため十分変化に富み、そのシナリオは基本的にほとんど同時進行出来ず、一点集中で話を進めていくことになる。

 知らない者同士が知り合い、好きになるには一ヶ月では短い。
 彼女達は、もしかしたら一時の盛り上がりかもしれないその感情にまかせた「一目合ったその日から」的お約束を用いて、付き合い続けることなく、祐介の前から去っていく。
 画面には七月の半ばになると、日付を表示する時に陽炎が立つ。
 それは気温と共に盛り上がっていく祐介の気持ちと併せてプレイヤーへの演出とし、彼女達との「一夏の経験」の強調だ。


千歳みどり
 祐介のクラスメイトで、このゲームのヒロイン。
 入学当初から祐介に興味を持ち、好意を寄せていた。
 しかし思いを遂げたものの、彼の前から去らねばならないのだった。
 彼女は時の異邦人であり、試験期間中に抱え込んだ迷子の成長した姿。
 その時の思い出を頼りに、彼女は再び試験入学期間に今度はクラスメイトとしてやってきた。
 教科書をノートと間違えていきなり破いたり、肥料を口にしてみたり葉っぱを食べてみたりする彼女の奇行は、小さい時に出来なかったこと、知らなかったものに対する興味の現れだ。

 思い出は楽しかった事より、辛い事、悔しいこと等マイナス面の方がより鮮明に残る。
 小さいみどりは、帰る時に祐介に見送られること無く一人寂しく帰っていった。
 そのため印象が強く残り、優しくされた思いを胸に彼と同じ年齢で再び会うため、十年かけて時間を超える許可を得る努力をしてきたのだ。
 そして許された僅か一ヶ月という短い時を、彼女は彼と結ばれるために費やす。
 たとえ両思いになっても、同じ時間にいられないことを知っている彼女は、それからの人生を彼無しで生きていけるように「だからお願い、絆をください」と祐介を求めた。
 努力してこの時代にやって来たのに気持ちがはやって祐介に上手く伝わらず、ちぐはぐな態度や喧嘩の末にやっと搾り出したこのセリフには、彼女の気持ちの全てと覚悟が込められていてプレイヤーの胸を打つ。
 最後まで本名を名乗らず、自分の思いを遂げて去っていくみどりは三度彼の前に現れるが、憧れを完結させ、大人になってしまった彼女は名乗らない。
 女の子とのロマンスの裏には、話の原因を作ったのがみどり本人という鶏と卵の問題や、過去と未来の人間が接することで歴史が変わるという問題、同じ時に同一人物がいたらどうなるかというタイムトラベル関係の問題が無造作に散らばっているのだが、それは、ドラえもん的な「何でもアリ」を採用してシナリオをすっきりさせたということだろう。
 「銀河鉄道999」の鉄郎とメーテルのように、互いを想っていても同じ時を生きられない、切なさとさびしさを感じさせる話。


朽木双葉
 みどりと同じく祐介のクラスメイト。
 由緒ある家柄に女子高へ通わされていたため、男との接し方がわからず傍若無人に振舞っていたが、ふとした祐介の優しさに触れ素直になろうとする。
 陰陽の力に現実離れを感じるが、それでもみどりのドラマチックな話に対し、リアリスティックな話。
 前半は、自由奔放に育ってきたゆえの気の強さで男子と(代表は祐介)対立し、後半は、お嬢様として女性ばかりの環境にいたため異性に対する接し方が解らずに戸惑う姿がほほえましい。
 ひょんなことから優しくされた祐介に対し、双葉は自分の持つ陰陽の力で式神を使い花を届けるという離れ業を見せるが、一介の高校生が花言葉など知るはずも無く、どうしてもちぐはぐしてしまう。
 そこで今度は、気が強いのに任せて正面からぶつかろうとするが、上手く言葉が出てこない。
 それでも、祐介の好みに合わせようと努力する姿勢に彼女の純な心が伺える。
 祐介と気持ちを通わせることができた彼女は、彼好みの女になって戻ると言って去っていくが、彼女が学園へ来た目的は「男の子との出会い」だ。
 それを成就して帰ったのだから、次の目的は「好きな人に会いに来ること」なのだろう。

 しかし、シナリオを通して張り合っている二人の姿は恋人と言うよりは親友同士に見えてしまうので、もしかしたらお互い恋人を連れて張り合うのでは? とも思える。
 最後に彼女が祐介に渡した黄色い花は何だろうか?
 「私を思って」だと、彼女が贈った三本目の花と言葉がだぶる(花もパンジーなので黄色くない)ので、たぶん「忘れないで」の類いだと思うが、一般人の私には花言葉は解らないので、お茶を濁すような形でなく、せめて何の花かはっきりさせて欲しかった。
 みどりが祐介と区切りをつけて会えなくなるのに対し、区切りをつけてもあいにこられる双葉。
 そして、終始ストレートだったみどりに対し、素直になれない双葉。
 二人は対称的でなので、そこに気がつくと奥深さを感じられるはず。


朽木若葉
 双葉の妹として入ってきた一年生。
 奴隷のごとく人のために尽くす彼女は、それを苦にせず笑顔を見せる。
 そんな彼女のために花を取ってこようとして瀕死の重傷を負った祐介は、若葉の命がけの行為で一命を取りとめるが、彼女は消えてしまう。
「花が夢を持っていると思うか? それでも花は咲く、そして枯れる」
 『仮面ライダーアギト(02.1/6放送分)』で、主人公の一人・葦原涼が水原リサに対して「普通に生きる事、そして自分にはそれが叶わぬ事」のたとえとして語ったセリフだが、若葉のシナリオはまさしくそれに殉ずるような話だ。
 祐介は、使い走りから服を脱ぐことまで何の疑問もまたずにこなそうとする彼女にもっと自分を主張しろと促すが、彼女は「人に仕えることが自分の役目」と言って聞き入れない。
 それもそのはず、彼女は小さい頃の双葉に召喚されたサボテンの式神で、人の命令(特に双葉)は絶対のもの。
 「式はある程度大きくなると意思を持つ」と双葉のシナリオで触れていたのは、若葉のこと。
 彼女は感情を持ち、人に意見することもできる。
 そして、人に仕えることが目的だから、使い走らされることに疑問は無い。
 だから、自分の仕事を手伝う祐介を不思議に思う彼女は特別な感情を抱くようになるが、その正体を知られたくないために、どうしても素直になれない。
 人で無いことを知られた時、彼が離れていくことの不安や、使役されるものが人と対等の立場に立ってしまうことへ畏れ。
 プレイ当初本気で奴隷ゆえの身分の違いか? と思っていたが、人外の者と知って納得。
 他人に知られた時点で消えるのではないところが、この話の救いだ。
 もちろん、それを知らない祐介は彼女に喜んでもらうため、台風の中風邪を引いているにも関わらず、彼女が心配していた花を取りに行き、肺炎を誘発してしまう。
 瀕死の祐介に彼女は自分の正体を明かし、植物としての生命力を与えることで彼を救うが、自分を維持できる力が残ってないことを解っている彼女は最後の思い出として彼に抱かれ、次の朝枯れたサボテンだけが残る。
 意思の疎通はあったのに、意図的にかわすしかなかった悲劇。
 私はこのシナリオをプレイして、うろ覚えに、昔見た雪だるまの話を思い出した。

 ある時、人が作った出した雪だるまに意思が宿った。
 しかし、彼は人のために働く度、感謝されて暖炉に迎えられる度、人の好意とは反対にその身を細らせていく。
 そして、最後は火事に飛び込み人を救って消えてしまうのだ。
 最近(01.12/31放送分だったかな)『ドラえもん』でもドラダルマが出てきてジャイアンとスネ夫を助け、自分は沈んでしまう(中身がドラえもんだったというオチだったが)という話があった。
 人外のものが人と接する時、どこかで必ず無理が生じてしまうもの。
 無理の原因が人にあるならば、人外のものがたとえ満足して消えたとしても、それは果たしてお互いにとって本当によかったといえるのだろうかという問題を突き付けられているようだった。

 若葉の再生の希望が残るラストには、賛否があることだろう。
 若葉は、双葉に頼めばもう一度蘇ることが可能なこと意味するわけで、じゃあ祐介はどうするのか? という疑問。
 答えはプレイヤーが考えるしかないが、彼女はまた人になりたいと願うことだろう。

 だから、言いたいこと判りますが…残念ながら花にも夢や希望があるんです。
 解りましたか? 芦原さん!(津上調で)


飯野千草
 女生徒とともにやって来た教師。
 口癖の様に恋愛を否定する彼女は、事ある毎に祐介を挑発するような言動で弄ぶ。
 しかし、その行動は自分を教師として立たせておくための建前でしかなかった。
 そして、祐介を好きだと認めた彼女は立場を気にすることの無い自分になるため、彼のもとを去っていく。
 建前で押し込めた自分の本音を、素直に出そうという話。
 ゲームタイトルと同じネームを名乗って電波ジャックをするグリーングリーンは、このシナリオ以外、その正体について何も明かされることが無い。
 それは彼女の存在自体が問題ではなく、彼女の「学園生活を楽しんで、思いっきり恋しよう」という言動によってみんなが動くという事実の方が問題であって、彼女自身は単なるきっかけにしか過ぎないからだ。
 しかし、先生は彼女の言葉に真っ向から反発する。
 そして祐介がそれに反論し、グリーングリーンは放送で彼の意見を代弁する。
 祐介の「何で自分の考えと同じ事を言うのだろう」というセリフでなるほどと思ったら、その正体が実は先生だと判明する。
 プレイしていて「もしや」とも思わなかった私は、まんまと製作者の思惑に乗せられていた。
 グリーングリーンの正体は放送の内容だけで考えるなら、たとえばみどりが産んだ子供が彼女の話を聞いて育ち、祐介のいる時代にやってきて、みどりの言いたかった気持ちを伝えたのだと考えてもいいし、双葉が式神を使って素直になれない気持ちを放出したと考えてもいい。
 あるいは、本当に見ず知らず誰かが見事な放送ジャックをしていたとしてもよかった。
 先生はわざとグリーングリーンを否定することでカモフラージュしているが、それは、内に押し込めた本音を堂々と叫びたかったからだ。
 彼女も当は学園の中で自由にしたかったが、自分が経験した先生と生徒の苦い思い出がブレーキとなり、教える側であり大人である自分を演じるしかなかった。
 彼女の腕を組んで自分を抱え込むポーズは、建前を持って生徒と接する自分の本音を出さないための無意識的な意思の表れなのだろう。
 しかし、祐介のアプローチに大人を演じることが出来なくなってしまう。
 もちろんそれは、先生であることに気付かず対等の立場でナンパしてきたのに、その後もかたくなな態度を続ける祐介の姿に、昔の自分を重ねたから。
 このシナリオは唯一祐介が積極的で、キャラクターが立っている。
 そのため、彼は生徒と教師という立場やどこまで先生が本気で誘っているのかと悩み、年上への憧れに対するリアリティを持っている。
 その気持ちを受け入れ自分の壁を取り払った先生は、教師を辞め、彼の元からいなくなる。
 彼女は教師になって、その立場から教師と生徒という関係を否定する様になっていたが、心のどこかに憧れを残していた。
 それを、グリーングリーンを名乗って彼を受け入れることで、持ち続けていた憧れに終止符を打ち、憧れではない、自分が本当に祐介を好きである気持ちと、彼が自分を好いていてくれることを信じるために、見知らぬ場所で祐介を待ち続ける女になった。
 年を経てそれでも変わらない気持ちを確信した祐介は、聞こえた声を頼りに彼女の元へと走り出す。

 ラストに、彼女が語った本音をグリーングリーンとして締めくくる辺りは、プレイヤーに「やっぱりそうきたか!」と意図的に判らせる演出として、小憎らしいくらいの巧みさを感じる。


美南早苗
 試験入学してきた一年生。
 彼女は祐介と初めてあった時に、いきなり貧血を起こしてしまう。
 常に薬を服用している彼女は、それでも祐介と話をしていくたびに少しずつ明るくなっていく。
 子犬を助けたり、それを手伝ってくれた御礼にブルマー姿を見せるなど、次第に思いきった行動を取るようになった彼女は、ある日祐介と星を見ようとするが、雲にさえぎられてわずかに流れ星一つを見ることしか出来ず、その流れ星に「次は星空が見えるように」と願うのだった。
 試験入学期間も後わずかに迫ったある日、彼女は行方不明になってしまう。
 祐介はやっとのことで彼女を見つけ出すことが出来たが、そのとき彼は早苗から彼女の過酷な運命を聞かされることになる。
 そして…。
 叶えられなかった願いを祐介はどうすればいいのだろう?

 常に多くの薬を飲み、体育は見学しなければならないほど彼女はひ弱な状態で祐介の前に現れ、彼はそれとなく彼女と行動を共にするようになる。
 前半は祐介や、付きまとう天神に彼女の心も安らぎ表情が豊かになり、彼女が元気になっていく明るい話題が用意されているし、子犬の生死に関して祐介に強く詰め寄るところも、表情が豊かになっていく様子を見せている。
 彼女が真夜中に恥ずかしがりながら、ブルマー姿で来てくれたときには、プレイヤーもその積極さに祐介への好意を感じられるはずだ。
 そして、街では見ることが出来ない満天の星空を見たいと願う。
 それなら、最後は二人で星空を見ることが夏の思い出としてあるべき姿だと考えるのが当然だし、私もそう思っていた。

 しかし、結末を見誤ったという意味で、私はこのシナリオに謝らなければならない。
 最初の方に書いたとおり、私はこのゲームを『カナリア』と同類のゲームだと思って手を出している。
 後に書いたように、一人の悲劇と四人の希望的観測を持った女の子という構成は確かに間違っていないが、悲劇のヒロインを間違えていた。
 時間の彼方に去ってしまうみどりではなく、実は早苗こそが本当の悲劇のヒロインだった。
 ヒロイン一人の悲しい結末を予想していただけに、私の受けたショックは大きい。
 その後彼女は試験入学の終わり近くに、プレゼントを探しに森へ出かけ、行方不明になってしまう。
 そして祐介は、ようやく見つけた早苗の身体がぼろぼろであることを本人から聞かされる。
 ゲーム前半から、彼女には薬や身体に関するイベントが付きまとう。
 それは、本来なら入院していなければ先の長くない彼女が、一ヶ月の学園生活を望んだために自らに課した代償だ。
 強い薬を常に服用して学園生活を送ることは自らの命を縮める行為だが、事情を知らない祐介が普通に接してくれたことで、それまでの彼女の人生の中で一番幸せな時間となったに違いない。
 助け出すことは出来たが入学期間は既に終了してしまい、そのまま入院することになった彼女は、既に諦めを感じていた自分の死に対し、叶わない事を知りながら祐介の腕を掴み「死にたくない」と哀願する。
 そして祐介は、彼女の最後の望みを聞く。
 このシナリオで、早苗に奇跡を起こしてあげることはできなかったのだろうか?

 前半だけで見るなら、楽しい学園生活のおかげでいつのまにか病気が完治していたというパターンが使えそうだ。
 後半の行方不明騒ぎも、祐介に内緒で“草木を使役する”双葉の陰陽の力を使えば、もっと早く発見できて、病院に伏せることもなかったかもしれない。
 あるいは、若葉が祐介を救った(命懸けだったが)ように、早苗を救うことが出来たかもしれない。
 双葉の力を、ゲームのバランスを崩さない程度に利用できなかったのだろうか。
 千草先生にしても、このシナリオでは事情を知っていたようだから、早苗と一番親密な祐介にそれとなく忠告できただろう。
 なぜ早苗はそのあらゆる可能性を否定され、次に見ようと願った星空さえ見ることなく、死を以って祐介の「一夏」から消えねばならなかったのか?
 その理由が「一人だけ悲しいシナリオ」を入れたかったから、というのであれば、早苗は“病気で死んだ”のではなく、製作スタッフに“殺された”と言うことになる。
 みどりでも十分感動できたのに、そこから更に人が死ぬことのカタルシスを求めてどうするのか。

 「人が死んでお涙頂戴」は死をテーマにするとき以外は邪道だと、私は考える。
 死は基本的に人間の一生に必ずついて回るものだから、それを強調することは本能に強引に訴える反則技に思えるからだ。
 もちろんこのゲームは祐介の体験がテーマであり、女の子達は期間の終わりと共に彼の前からいなくなればいいので、死を扱う必要はどこにもない。
 だから早苗が生きていて、そのまま祐介の前から去っても問題はなかった。
 しかしこのゲームでは、みどり=時間の彼方、双葉=ノーマル、若葉=再生、千草先生=大人になるまで、という個別の去り方を作ったため、早苗は解り易い去り方として「死」を与えられてしまったのだ。
 それは、あまりに安易だ。

 それだけでなく、祐介の姿も情けない。
 とんでもないことに、このシナリオだけ彼は女の子=早苗に対し「好き」と言っていない。
 早苗は確実に中盤で祐介に好意を持っていたし、祐介もまたまんざらではなかった。
 死を待っている人間に対し、告白はただの気休めかもしれない。
 だから言わなかったのかもしれないが、それならもっと祐介を恋に対して積極的にさせておいて、事情を知らない段階で告白させればいい。
 また彼は対した時間もかけずにたどり着き、あっさり忍び込める病院に、早苗の今際の際までお見舞いにも行かない。
 彼女の最後の言葉を受け止める前に「最後の言葉は何だったのか」とはどういうことだ?
 プレゼント探しは、明らかに祐介のためだった。
 彼女のことを思うなら、うぬぼれでもいいから「好きと言ってくれたのかな?」ぐらい言って欲しい。
 そして、好きと言えなかった自分を後悔して欲しい。
 これでは早苗も浮かばれまい

 ゲーム中盤から伏線の張られていた、ED後にとどく時間指定の着信メッセージには彼女の希望と絶望が込められた、いわば遺言が入っている。
 それは祐介にのみならず、他のキャラをプレイしているであろうプレイヤーに対し、「私でも楽しんでいただけましたか?」というメッセージが込められているように見える。

 私事になるが、満天の星を見ることもなく告白されることもなく、思いも届かず再会する可能性すら奪われた彼女は、ただ一つ「死ぬ時は好きな人の傍で」という願いだけを叶えて、短い一生を終えた。
 その後半の展開を、ラストメッセージを繰り返し見る度に、シナリオの内容だけでなく、その外側でも振り回され続けた彼女の死に対する悔しさと悲しさがこみ上げてやまない。
 このシナリオは、製作上の思惑として泣かせることには確かに成功したが、彼女のことを思うと感動はしても納得のいかない、彼女が不憫でならないシナリオでもあった。
 最後にプレイしたシナリオだけに、彼女の印象と思い入れは特に深い。


 それぞれに違う「彼女達」の去り方は、祐介を通して様々な印象をプレイヤーに与え、みんな同じでつまらないということはない。
 個人的には早苗のシナリオだが問題も多かったので、やはりヒロイン・みどりのシナリオが支持されるのではないだろうか。

 CGはキャラデザの片倉真二氏の絵柄に、アニメ調のキャラに柔らかさを感じられていい感じ。
 それにより、Hシーンも控えめな感じがするが、氏の絵にはソフトな中に艶を感じさせるので、意外と「えっち」より「いやらしい」という感じがある。
 会話時のポーズも双葉は大げさに動かしてみたり、先生は指の周辺を細かく動かしてみたり等かなり気を使っている様で、見た目以上に多く用いられている。
 特に早苗は普段のポーズが控えめなだけに、僅かに見せる大きく体を使ったポーズが強調されてシナリオとあいまって印象深い。
 テキストは最初の方で述べた通り、シナリオ分岐以外で選んだ選択肢によってHシーン以降のセリフが変わり、一回のプレイで満足させない。
 たとえば先生のシナリオの選択肢で、「自分から話す」「黙っている」という選択肢を選ぶと、後のシーンでの彼女のセリフが「話しかけてくれて」か「黙っているから」に変化する。
 どちらでもクリアに影響はないが、キャラクタのベストな返答はプレイヤー自身の思い入れによって異なるはずなので、それを見つけるために複数回プレイする気にさせる。

 さらに、セリフにも気を使っていて聞くほどに味を感じる。
 みどりのクライマックスや、先生のラストシーン、早苗のセリフなど要所要所をきっちり演じていて上手い。
 女の子だけでなく男性陣も大したもので、特に田舎教師丸出しの轟先生はテキストの標準語を無視するかの如く、全て(どこのものかは知らないが)方言出しまくりで話し続けるという荒業? をやってのける。
 これは、セリフを飛ばしていたら絶対損をする楽しみだ。

 さて、問題も色々ある。
 一番の問題は、やはり、ゲーム期間の長さだ。
 ショートストーリーならまず問題にはならないが、30日強の日にちを過ごすこのゲームは、毎日起きて学園内で女の子と会話して、寮に戻って…を延々と繰り返す。
 朝夕の会話は、何もイベントの起こらない日のフォローやキャラの心情の確認をしているつもりだが、しゃべらせてみると実は結構長く、それを30回近く繰り返されるのは意外な苦痛だ。
 キャラ毎のルートが確定しても他人のイベントが出てくるし、何より不必要な日や、学園内での選択が飛ばせないのは煩わしい限り。

 そして、その中で動き回る祐介の情けなさ。
 基本的にこのゲームは祐介の体験をイメージしているため、行動的な女の子達の前でどうしても彼は受け身になってしまう。
 双葉いわく「サエない」祐介は、学園の環境を差し引いても、もてない男のスタイルを代表しているわけで、それは確かに共感を覚えることは出来る(私もモテないからなぁ)。
 しかし、だからこそゲームならではの「理想」を必要とする。
 それは、若葉のために病気を顧みず花を取りにいくことや、先生が待っているかどうか定かでない駅まで走っていくことや、早苗の願いを聞いてあげることで、表されている。
 だが、これらの行為は全て女の子達が望んだことを実行した結果で、女の子の気持ちに先んじての行動ではない。
 せっかくの体験なのだから、女の子を見てドキドキして、ともすれば片思いのまま終わるかもしれない一目ぼれを覚悟しながら、祐介が自ら進んで「好きだ、付き合ってくれ」と言って欲しかった(早苗のシナリオは特にそう思う)。
 自発的でない行為は、進んで行うことよりも往々にして多くの時間を費やすものだけに、一ヶ月という期間はプレイ時間としては長くても、主人公の気持ちを整理するのには短いというアンバランスな結果を生む。
 祐介も積極的、女の子も積極的、そのため二人の心は空回り。
 そこにグリーングリーンがアドバイスして、二人の仲を近づける。
 そんな、見てて解りやすく、かつ楽しげなパターンを作れていたら、もうワンランク上の評価をしていただろう。

 Hシーンより前にあるイベントCGは思った以上に少ないし、そのせいか、CG観賞モードが無い。
 セーブ個所が100あるからすごいなと思っていたが、つまりこれは自分で見たいシーンは何とかしろということだったのか? 
 聞くところによるとインターネットでCGギャラリーのダウンロードサービスをしているらしい
 フォローをした、という行為は認めたいが、しかし、ネット環境のない私には無意味
 人気もあるようだし、アペンドディスクにしてもよかったのではないだろうか?

 OP・EDのムービーファイルを、そのまま置いておくのはどうかと思う。
 OPはゲームへの導入だからともかく、EDはそれだけ見ても意味を成さないと言っても、それなりに苦労してようやく見れるものだから、フォルダから簡単に見られるままで置いて欲しくは無かった。
 ただ各キャラのEDムービーにはイベントのCGが使われているため、もしかしたらCGモードをつける代わりに見やすくしたのでは? というのは邪推か。
 音楽モードもシーン毎の曲も聴けなければ、エンディングの曲もムービーと同じ長さしかない。
 サントラには、きっとフルコーラスで彼女達の歌が載っているんだろうなぁ。

 とにかく、プレイ後のフォローに甘さが見られ、本編の制作に時間を取られて手が回らなかったと思わせる感じがする。
 ネットでの事後処理はよしとして、それでもつぎはぎなしでプレイヤーへの配慮を行えていたら、もっといい出来と感じられたはずだ。


(総評)
 時間はかかったが、十分に楽しめて面白かった。
 やはり、サブキャラクターが生きているせいだろう。
 ボーソー寸前のルームメイトの天神や、何気に妙な悟りを見せて祐介に助言する一番星、ジャージ姿にオヤジを漂わせる轟先生。
 出てくる男は皆一クセあるため、彼らに囲まれた祐介はどうしても無個性の、ただのいい人になってしまう。
 中でも異彩を放つのは、バッチグーこと、伊集院だ、
 彼は妙に豊富な情報量を持ち、頭の中はでかい乳とセックスの文字が舞い踊る。
 H雑誌を多数持ち、のぞきもやるし、いざというときには仲間を見捨てることさえ辞さない。
 好みの女の子達だけ集めて親睦会を開こうとしたり、それに懲りずに今度は肝試しに誘い出し、暗闇で抱き付こうと画策する。
 彼はクラスの女の子達からだいぶ嫌われていることだろうが、彼無くしてこのゲームは成り立たない。
 彼の欲望渦巻く行動力は、ただのものめずらしさだけで終わるかもしれない試験入学に波風を起こし、祐介の生活をかきまわし、女子と喧嘩を起こしてグリーングリーンの放送を誘発する。
 彼が側にいたから、祐介は物事に対して少し冷めた態度を取るようになったのかもしれない。
 つまり、彼の行動がゲームの方向性を決めると言ってもいい。
 そしてご褒美だろうか、彼は間違えて告白した相手とカップル第一号になり、更には祐介を差し置き童貞脱出に成功してしまう。
 彼は空回りすることなく、確実にゲームをかき回し、全てのシナリオに影響を与えろいいキャラクターだ。
 これだけのバイタリティーを持ったキャラがいるゲームが面白くないはずが無い。
 最初に面白いと思ったのは、当前の結論だった。

 キャラだけ見てfront wingの作品だと思ってしまってすいません、違いました。
 でも、キャラデザから、五人の女の子から、学園内の移動から、一人だけ悲劇のままの女の子というストーリー構成から、エンディングをそれぞれの女の子の声優が(たぶん)歌っていることから、何よりゲームの醸し出すさわやか系の雰囲気が似ているんだよね。
 「カナリア」の主なスタッフがエンドロールに見られるから、なるほど似てて当たり前。
 どういう事情でそうなったかは情報に疎い私では知るすべもないが、キャラクタイメージの定着は大変だと思う。

 主な有名メーカー「アリスソフト」や「KEY」、「ニトロプラス」や「ZONE」等は必ず主力の原画マンを抱えている。
 それは、キャラクターを見ればどのメーカーのゲームかが容易に判断できるということで、ブランドイメージと言ってもいい。
 front wingは次作「フーリガン」でキャラデザが変わっていた。
 つまり、これからも同一のキャラデザを使うのだから、front wingのイメージを払拭するためには、今後の作品に相当なインパクトを与え続けなければならないだろう。

 それだけに、次に出してくるソフトが楽しみだ。

(Mr.BOO)

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